追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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兄の苦労日記34

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リオ・マールは妹に付き纏っていた。
すぐに妹に手を出す様子は不愉快だったが妹が許していたから目を瞑った。
妹のために手を尽くしているのも知っていた。家のためではなく、妹のために生きてそうな男だが、婿入りするために強くなろうとする姿や妹の無茶を止めようと駆け回る姿を見て、不本意だが認めていた。
女好きの見境なしでも、最近は妹以外の女を傍に置いていないから変わったのかと思っていた。

令嬢に腕を抱かれ親しそうに話す姿を見るに妹は遊ばれたようだ。自分に素っ気ない妹を落としたかっただけか。最近は妹も絆されマールに素の笑顔を向け、傍にいるのも嫌がらなくなったのに。
婚約者になってからは妹なりにマールに尽くしていた。多忙な妹はマールの女遊びは見て見ぬふりをしている。
最近はシオン嬢と一緒に魔導具の研究に夢中である。
妹が要望を伝え、材料を用意しシオン嬢が作る。怪しいシオン嬢とも楽しそうに過ごしているのでまぁいい。マールと比べればよっぽどマシだ。

マールは執心の伯爵令嬢とずっと共に過ごしている。マールの参加しないマール公爵家の夜会に参加している妹に納得がいかない。マールの女遊びの尻拭いに駆け回っている姿も。

「おやめください。立場を思い出してください。淑女として相応しくない行為ですわ。お二人にも家の名に恥じない礼儀を――」

マールの執心の伯爵令嬢に手を出そうとするマールのファンを止めている。マールのファンを追いかけて、マールに見つからないように手を回している。
妹はマールには何も言わずに避け、俺が口を挟むのを望まないから静観している。

「エイベル、明日は夜会に付き合ってくれませんか?」
「わかったよ。用意は任せる」
「ありがとうございます。お任せください」

俺には気付かせるなと周囲に言っても無理がある。今まではマールがエスコートしていたから頼まれることはなかった。頷くと能天気に笑っている頭を撫でる。
マールが生徒会室に入ってきた。いつも妹につきまとい隣にいた男が話しかけることはない。妹は気にせず能天気に会議の準備を始めたので手伝うか。
会議が終わると、資料を抱えて妹はすぐに生徒会室から出ていく。マールには視線も送らず、マールは妹の背中をじっと見ていたがしばらくして出て行った。


「ビアード様が私に」

廊下でマールの腕の中で妹にマールに近づくなと言われたと泣き出す伯爵令嬢も慰めるマールも見慣れた。

「ごめん。俺が守りきれなくて」
「いいの。認めてもらえるように頑張る」

見つめ合う二人が目障りだ。妹は許してるから、マール公爵家に認められてくれよ。
レオ様に肩を叩かれて首を振られた。
リール嬢からも口を出すなと言われていた。二人の邪魔を妹が望まないからと。
廊下でやめてほしいが、マールなら仕方ないか。妹も人目を気にしないマールに絡まれていた。伯爵令嬢は妹なら撃退できるだろうがマールが手を回したら話は変わる。
妹を消そうかと話すマールを嬉しそうな笑顔で諌める伯爵令嬢。レオ様が止めなければ問い詰めたい。念のため妹に近づけさせないように手を回すか。侍従に妹の傍に潜んで護衛を命じた。マールと妹が戦えば危険なのは力と体力のない妹のほうだ。魔法なら負けない。だが持久戦に弱い。そして追いかけられればディーネがいても風に捕まるだろう。水中なら誰にも捕まらないが地上は風に有利すぎる。
生徒会の帰りにソートを見つけて一戦付き合ってもらうと、集中できずに負けた。発散しないと妹を弄んだ男を斬りたくて堪らなかった。妹をビアード公爵令嬢に相応しくないという男が妹の婚約者とは認めたくない。俺の妹がビアード公爵令嬢としてあるために努力しているのをわからない男に託せるか。


***


昼休みに資料を持って妹が訪ねてきた。

「エイベル見てください!!雨を予測できる魔導具が完成しました」

水の魔導士は雨の気配がわかると言われているが実際にわかるやつは少ない。母上も水属性だがわからず、うちで雨を感知できるのは妹だけだ。嬉しそうに使い方を話す妹の頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。あの時、婚約を本気で反対しておけば変わったんだろうか。自分から抵抗せずに大人しく付いていったことは頭を抱えるが攫われたのは妹の所為ではない。救出に動いてくれた恩義に報いるための婚約。うちで責任を全部引き受けるから破棄していいと言えば、どうなったんだろう…。
この婚約はマールの希望が強い。三男だから執心の伯爵令嬢とも婚姻できるだろう。せめて婚約を解消してから次にいってほしかった。

「エイベル様、口出さないで。介入すればレティシアの立場が悪くなる」
「余計なことするなよ」
「同じ言葉を返すわ。レティシアはエイベル様が気付かないことを願ってる。これ以上余計な悩みを増やさないで。バカなんだから」

突然現れたルメラは言いたいことだけ言って妹に絡みに行った。クロード殿下と話している妹の腰に抱きつくな。不敬だ。クロード殿下が最近は妹と親しい。魔導具の資料を興味深そうに見る殿下に笑顔で解説している。楽しそうに話す二人はルメラを気にしない。警戒していたルメラよりもマールのほうが害悪だったか。
ルメラもマールの過去の女の一人だから、わかるのかもしれない。確かにマール達の件はルメラの時と似ている。妹が二人に別れろと騒いでいるという噂は俺の耳にも入っている。妹の冷めた態度に、まともな人間は信じていない。マールのファン達にバカな嫌がらせはやめろと必死に止めている妹。マールの第二夫人になりたいと妹に迫るマールの恋人。うちは第二夫人も愛人も認めていない。婚約破棄して二人で結ばれればいい。もしもビアード公爵令嬢の排除に動くなら受けて立つから正々堂々仕掛ければいい。序列の高いマール公爵家とはいえ妹が築き上げたものはそう簡単には崩せない。武門貴族筆頭公爵令嬢に手を出すなら俺が斬る。


「眉間の皺が取れなくなりますよ」
「うるさい」
「レティシア、授業に遅れる」
「いけません。ありがとうございます」

フィルとステラが妹を迎えにきた。ソートに宥めるように肩を叩かれる。

「王家は干渉しない。好きにすればいい」
「ありがとうございます」

クロード殿下の言葉は二人の婚約についてだろう。両家が納得するなら王家は動かない。婚約を祝福したのは気にしなくていいと。いずれマール公爵家から婚約解消の話があるだろうか。

***

友人が教室に飛び込んできた。

「レティシアがいない。リオにマール公爵からの帰省要請を伝えにきて殺気を向けられて動揺してたから様子を見に行ったら登校してなかった。フィルには伝えてない」

マール公爵家はどこまで妹を使うんだ。妹は殺気を受ける訓練はしていない。妹が殺気を受けるならすぐに護衛が動いて遠ざける。魔物の敵意と人の殺気は違う。
フィルに言えないほど動揺したのか。殺気に怯えたなんて意地っ張りだから認めないか。殺気を向ける男を斬りたい。

「任される。感謝する」
「リオの態度がレティシアに相応しくないって荒れ始めてる」
「干渉不要。危害を加えられるときだけ保護してほしい。レティシアは俺の介入も嫌がっている。知られないように協力を令嬢に願っても無理があるだろう……。斬るなら俺の獲物だ。渡すかよ」
「落ち着け。了解。伝えとく」
「助かる」

妹を慕う奴らが動き出したら面倒だ。
おさめるように動くのは俺達で非難は妹に向かうだろう。あいつなら妹の願いという言葉を使ってうまく動いてくれるだろう。

「授業はごまかすから行ってこいよ。泳いでるかもしれない」

背中を叩くソートの言葉に甘えて教室を出る。この事態を知れば妹が一番動いてほしくない二人が絶対に動く。俺が見つけるのが一番妹の望む穏便だ。
ストームに探させるとやはり池の中だった。

「主、レティ眠ってて起きない」
「ストーム、潜るから頼む」
「わかった」

ストームに風の膜で覆ってもらい潜ると膝を抱えてぐっすりと眠っていた。
結界も魔法も使わず、無防備に眠る姿に頭を抱えたくなる。なんで息できるんだろう……。
抱きかかえて陸に上がり魔法で服を乾かし起こすと不思議そうな顔で見られている。
情緒不安定な妹は一人で水場に近づかないように言い聞かせている。
治癒魔法が効かずに亡くなる民が出ると水の中に入っていく。放っておくとずっと水の中から出てこない。水魔導士は水に同調し過ぎると水に溶けて消えると言われ、妹ならうっかりやりかねないので、いつも言い聞かせていた。

「エイベル、危ないから水の中には入ってこないでください」

睨むバカに頭が痛くなった。

「安全に水の中に入る方法もある。お前の魔石を使えば問題ないだろう」

張り付けた笑みを浮かべた妹は落ち込んでいる。
淡々と話す言葉に甘やかすか。
授業をサボり、殿下に怒られる覚悟を決めた。
妹を抱きかかえて、空を飛ぶと張り付けた笑みが消え目を輝かせて下を眺めている。飛ぶのが好きな妹は落ち込んでいるときは空の散歩が一番だ。
腹を抱えて笑い出した妹を見てもう大丈夫だろう。

「食事に行くか」
「食堂に行きたいです」
「注文できるのか?」
「いつもフィルが持ってきてくれるんですがきっと大丈夫です。見ていたので注文方法はわかります」

食堂は人が凄い。妹が押しつぶされたり絡まれないか心配してフィルが世話をやいているんだろう。フィルは妹とステラには甘いから。

「弁当じゃないのか?」
「食堂で蜂蜜が食べられるのです。期間限定なので、食堂に通ってます」

目を輝かせる妹を連れて食堂に行くと授業が終わったばかりなので生徒はまだ少ない。
蜂蜜のケーキとクッキーと紅茶を注文した妹を見てため息をついた。
幸せそうに食べる妹を眺めながら、隙を見て嫌がる口に肉を詰め込む。
もう大丈夫そうだな。
食堂に期間限定メニューを入れる案を出し、蜂蜜を食べられるようにした私情まみれの男。
正当な理由もなく斬るわけにはいかない。殺気だけだと理由が足りない。決闘でも申し込んでくれれば斬れるのに。あれが妹の婚約者と思うと不愉快で堪らない。好意でつけられたおまけのチョコレートは隣に座る生徒に渡した。チョコレートを見ると不愉快な男の顔が浮かんだが食べ物に罪がないのはわかっている。妹の口にも入れたくなかった。
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