追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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兄の呟き1-2

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羽目を外し過ぎている愚弟の教育について思考しているとマトモな弟のレイヤが入ってきた。

「兄上、リオの様子がおかしい」
「頭がおかしいよな」
「大好きなチョコケーキに反応しません。拗ねてもチョコケーキを渡せばいつも機嫌がすぐに治りましたよ」

レイヤの記憶のリオは幼子か?昔からレイヤはリオを可愛がり甲斐甲斐しく面倒をみていた。リオは迷惑そうにしていたのには気付いてない。リオを可愛い弟と言うのはレイヤだけだろう。

「それはいくつの時だ」
「ずっと変わりませんよ。レティからもよくチョコを贈られて喜んでました。今のリオは焦点が合いません。起きるとすぐに出ていこうとするので母上が拘束してます。それにビアード嬢を嫌っているのにレティの名前を時々呼ぶんですよ。言っていることも違和感が。リオのファンで美しい銀髪を持つのはレティだけなのに、銀髪を褒めてますし、」

リオのつまらない話もレイヤは最後まで笑顔で聞く。帰国すると婚約者になったレティシアに浮かれたリオの話を一番よく聞いていたのもレイヤだろう。
あのリオの話をきちんと聞くところがレイヤだよな。俺は恋人に会いたいと騒ぐリオの相手をする気が起きなかった。
可愛いくて、傍にいないといけない人。絵姿を見たが一切理解できず母上に任せた。
レイヤの話を聞きながらリオの様子を見に行こうとすると執事に声を掛けられた。門の前に置かれていたバスケット。明らかに怪しいものを処分しなかったのは中身を見て納得した。中身はバスケットいっぱいの赤茶色のチョコレートと汚い文字でレティシアのサインのあるカード。

「レティらしくありませんね」

レイヤが手袋をつけてカードを眺めている。
レティシアはいつもビアードの紋章が入ったカードや便箋を使う。届け物は紛失に警戒して使者は必ず顔見知りの家臣に渡す。そして受け取り主のサインをもらっている徹底ぶりだ。口上を述べられレティシアからの手紙を丁寧に渡すやりとりも何度も行われている。
明らかに警戒されるとわかる無礼で怪しい贈り方は選ばないだろう。うちよりも家格の低いビアード公爵令嬢は特に。カードの筆跡も違い紋章もないのでリオには渡さずに、研究所に分析を頼んだ。
赤茶色の甘い匂いのする異様に固いチョコレート。熱に解けることしかわからない。砕いたものを実験用の動物に食べさせると、最初は嫌がっても次第には自ら食べるようになっていく。
投与をやめ、しばらくすると暴れ出す。うちよりも研究が進んでいるルーンの力を借りるべきだろうか。
リオは毒でも飲まされたのか?





うちに帰ると叔父上と叔母上が訪問していると聞きリオの部屋に行くと叔父上は静かに寝顔を眺めていた。付き添っているはずの母上の姿もなく叔父上一人だけ。

「眠らせている。有害なものが体内にあるが魔力、いや体に沁み込みすぎて抜けない。自然に抜けるのを待つしかないが薬が抜けるまでは苦痛が続くだろう」
「命に別状はありますか?」
「目が覚めると錯乱するから自傷しないように抑えておくしかない。魔石を置いていくから食事代わりに吸収させてやりなさい。また来るよ。脳への作用だが、命に別状はないだろう」
「ありがとうございます。母上は?」
「無事だといいが…」

叔父上の窓の外を見る諦めている視線に嫌な予感がする。

「叔母上と一緒に乗りこんだんですか!?証拠品の押収は!?叔父上、リオをお願いします。行ってきます。瓦礫になる前に」

リオを任せて叔父上に任せて伯爵邸に飛ぶ。
ターナー伯爵家は穏やかそうな外見に反して物騒な性格をしている。
特に叔母上、ルーン公爵夫人は全てを物理で解決する。ルーン公爵夫人は社交ではなく護衛としての役回りを望まれる特殊な公爵夫人である。護衛を連れて行けない場所にはターナーの生んだ天才を連れていく。華奢で美しい公爵夫人が武術の天才とは知られていないのでバカを捕まえるのに重宝されている。そして野性の勘が鋭く間者を決して見逃さない。ビアード公爵よりも有能である。立場上、誰にも口に出さないが。そしてビアード公爵は叔母上を一方的にライバル視している。
ブローダ伯爵領に行くと、目の前には瓦礫の山。伯爵邸の形はない。すでに遅かった…。
眺めている濃紺を見つめて近付くと父上がいた。

「遅かったな」
「父上、どうして」
「ルーン公爵から呼ばれた。怪しい草や薬は押収し、伯爵達も拘束して王宮に送った。ローズ達は放っておこう。暴走したターナーは美しいけど関わってはいけない。陛下に頼んで記憶晒しの準備を整えたから事情もわかるだろう」

うっとりと空を見上げている父上の美しいの意味はわからない。母上と叔母上がどこにいるかわからない。辺りは風の魔力が支配していることだけ。聞き覚えのある声に目を凝らすとレイヤを見つけた。明るい笑顔で手を振るレイヤに手を振り返す。領民の避難誘導はレイヤが動いているのか。末弟と比べてできた弟だ。どこで育て方を間違えたんだろうか。

「放っておくってもう瓦礫の山ですよ?他に何をするんですか」
「世の中には知らない方が幸せなことがある。名残惜しいが私は王宮に行く。ここはレイヤに任せるよ。カナトはどうする?」
「リオを叔父上に任せてきたので、うちに戻ります。まさか母上まで…」

母上まで叔母上と一緒に破壊活動に参加しているとは思いたくなかった。
邸に帰ると叔父上に謝罪を受け、返す言葉がわからず曖昧に笑った。
宰相が苦労人と知っている人間はどれだけいるんだろうか。リオのバカの後始末に駆け回っていたレティシアの顔がよぎって二人は似ているかもしれない。愚弟が申し訳ない。


父上が陛下と取引をしてブローダ伯爵令嬢を記憶晒しにかけた。そしてブローダ伯爵夫人にも。
フラン王国では心に作用する薬の精製は違法。惚れ薬は精製してはいけない禁忌の薬の一つ。
ブローダ伯爵夫人は怪しい男から薬と製法を買い惚れ薬を作り常用していた。
倹約家の夫に不満を持つ伯爵夫人が伯爵や家臣達に常用し、伯爵家を牛耳っていた。
ブローダ伯爵家は昔は稀少な植物等を栽培し栄えていた一族。ブローダ伯爵が操られたため稀少な植物を育てる先導者がいなくなり名産が一切育たなくなった。ブローダ伯爵領民達は自立しており農作物を育てる技術は身につけていたため自の力で食いつないでいたのが唯一の救い。税を納めても王家に貢献しない家は貴族としてどんどん没落して上位貴族から下位貴族に転げ落ちた。
ブローダ伯爵夫人は金を得るために、効果の高い媚薬と偽り高値で販売。情事の際に飲ませるとお願いを何でも聞いてくれる薬は大人気。薬を使い影で愛人を飼い悠々自適な贅沢三昧な生活を送っていた。
伯爵をはじめ犠牲者達は魅了されている風には見えなかった。薬を飲むと思考能力が欠如し、言われるままに動くのに周囲は気付かない。誰にも気付かれずに人を操れるという恐ろしい効果の薬の存在を隠すことを陛下が望まれた。公には隠しても解毒薬の開発は進められるだろう。製法を売った怪しい男は見つかっていない。伯爵家が育てていた怪しい草は父上が押収したもの以外は消えた。
伯爵夫人は用法を守っていたため被害者達はリオほどの惨事は起きず、療養所に預けられている。


ブローダ伯爵令嬢は母親にそっくりで強欲だった。
ブローダ伯爵夫人は一時でもいいから恋を叶えたいという娘にしつこく懇願されて薬を渡した。伯爵令嬢は与えられた薬を用法通りに友人に飲ませて試した。反応にもの足りずどんどん薬を改良していた。改良された薬を友人に試し、薬欲しさに自分に従うようになった男を召し使いのように使い金や材料を手に入れ極秘で薬草の栽培も成功させていた。
伯爵夫人の薬に使われる材料に合せて体液、血液、髪など魔力に富んだものを混ぜていた。魔力に富んだものは体に馴染むと抜けにくく効果が強い。特にリオは魔力量が伯爵令嬢とは比べものにならないほど多く体に微量に流し込まれ蓄積していったものを排除するのは荒れる海に落とした真珠を船の上から目視で探すような作業。王国一の治癒魔導士の叔父上でもできないらしい。リオの体から汚染された魔力が抜け、新たな魔力に塗り替えられて伯爵令嬢の魔力を打ち消すのを待つしかないらしい。そして馴染まない魔力は体に毒であり、不快さに耐えきれず発狂しているという見立てである。

ブローダ伯爵令嬢は初恋を叶えるためにたっぷりと改良した惚れ薬を仕込んだ菓子をリオに食べさせた。効果が薄れると、レティシアの名前を呼ぶリオに会うたびに大量の薬入りのお菓子を食べさせ続けた。自分に夢中になり甘い言葉を囁くリオに溺れ、レティシアという敵がいると洗脳し自分を守ると言う姿にさらに…。
将来的にはリオの第二夫人に収まる予定だったらしい。愛人でないあたり頭が緩いのが伝わってくる。フラン王国貴族は一夫一妻。第二夫人を迎えるのは特例でありほとんどは愛人として迎え入れられる。
伯爵令嬢は幼稚な思考の持ち主で既成事実を作り婚姻を迫るのさえ思いつかなかったのか。一人娘だから婿をもらうべきなのに頭になかったのか。
大人しく隠れて恋人として過ごし、リオが婚姻してから子供を連れて愛人として迎えらえるように立ち振舞えば簡単だった。忠義のビアードもレティシアも夫の不祥事なら見捨てるようなことはしないだろう。ビアード公爵家に隠しても立場をわきまえる愛人ならうちも迎え入れた。

マール公爵家の子供の婚姻には当主夫妻と嫡男夫妻の同意が必須。
俺はリオの望みでも能力のない義妹は受け入れない。マールの害になるなら婿入りも許さない。利用価値のない伯爵家への婿入りも許さない。立場をわきまえるなら極秘の愛人として手元に置くのは許すけど、マールとしては無関係を貫く。
うちの別邸に飼うのは許しても正妻は別で娶らせ公爵子息としての義務は果たさせる。子供が優秀なら分家に養子。バカならマールの名前は決して名乗らせず平民として扱う。
リオの婿入りを許したのはレティシアが優秀だったから。当時問題児のレオ殿下とうまく付き合える存在はありがたく、評価が厳しいエレンが有能さを認めていたから。

記憶晒しには父上とエレンが同席した。
帰宅したエレンは二人っきりになると伯爵令嬢をバカな女と失笑。バカな女に騙された弟へは無言だった。
陛下はこの件は極秘で処理されることを望まれたがすでに伯爵邸が瓦礫の山なのに極秘で処理できるのだろうか。ブローダ伯爵領は王家預かりになっている。伯爵領民達は巻き込まれただけなので救援物資は惜しみなく送る手配はした。
伯爵夫人と伯爵令嬢は記憶晒しの後どうなったかは知らない。ターナーの秘密と父上が笑っているので聞くのはやめた。もう会うことはないだろう。帰ってこない母上も叔母上もリオを可愛がっているから。ターナーの守るものに手を出すのは自殺行為なのは有名である。
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