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第9話 帰国
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天幕にいたセインは魔力の波動を感じて、剣を持ち視線を向けた。
視線の先に隣国のレオナルド王太子がイリアナを抱えて転移していた。
セインは状況を飲み込めないまま、レオナルドからイリアナを受け取り寝台に寝かせた。
レオナルドがここにいるのを知られるのはまずいため、セインは天幕を結界で覆った。
「シュナイダー王国が落ちたよ」
「そうですか」
「指導者を失った国はどうなるか」
「新しい指導者を立てればいずれうまく回るでしょう」
「セインはどうする?」
「裁判に従います」
「私の駒になるのは?」
「家族と領民の保護が条件でした。ただ指導者を失った国を放置していくわけにはいきません」
「私が手配しよう。優秀な参謀に国を回させよう」
「国が落ち着いたら王太子殿下の手を取りましょう。イリアナはどうしますか?」
「彼女は私の臣下にするよ。約束は守った。臣下と婚姻させて手元に置く。後宮に入れると連れ出せなくなるから」
セインの亡き友人が望まない道ばかり選ぶイリアナの頬が濡れていることに気付き指で拭った。
「わかりました。国が落ち着くまでお待ちください」
レオナルドはセインの答えに満足して転移魔法で消えて行った。
「国の安寧とアルと俺の無事を約束して、悪魔の手を取ったんだろう。バカ。あいつが一番願ったのはリアの幸せだってわかるだろうに。リア」
セインはぐっすり眠るイナリアの寝顔を見て、大きなため息を溢した。
「殿下!!」
イリアナが叫んで飛び起きた。
「リア、起きたか」
「兄様?」
「国が落ちた。引き上げる。帰って当主の判断を仰がねばいけない」
「わかりました。兵を集めます」
動揺せず、飛び出していくイリアナをセインは静かに見送った。
イリアナが集めた兵達に国が落ちたことを話すと落胆した。
「民により国が落ち、これからどうなるかはわからない。だが俺達の目指すものは変わらないだろう?」
セインが不敵に笑うと落胆した兵達の目に光が宿る。
希望や誇りを持ち、若さゆえの青臭さを持つ兵達には相応しい言葉を紡げば、士気が上がる。
信頼するセインの言葉に鼓舞され、兵達は顔を上げる。
陣を払って各々が家に帰った。
名門貴族ばかりの軍なので各家で話し合い、これからのことを決めなければいけないことは同じだった。
セインはシカク公爵邸に帰る前にラーナ侯爵邸へ立ち寄った。
ラーナ侯爵夫人がイリアナに駆け寄って抱きしめた。
「イリア、無事で良かったわ。本当に」
「お母様、ただいま帰りました。お父様とアルは?」
「アルは無事よ。ただ父様は」
言葉を濁す母親にイリアナが目を伏せ、背中に手を回した。
「そう。お父様はお役目を果たしたんですね」
「リア!! セイン!!」
騒ぎに気づいたアベルトが自室から降りてきた。
「セイン、リアをありがとう」
「悪い」
「セイン、俺の部屋に来て」
セインの顔を見たアベルトは抱き合うイリアナ達を横目に見て、移動を促す。
セインは鋭い従弟に苦笑いした。
「セイン、何があったの」
「イリアナは隣国の王太子に目をつけられた」
「そう。見つかったか」
「悪い」
「セインの所為じゃない。きっとリアが決めたんでしょ?俺達を守れるならって」
「止められなかった」
「リアが選んだなら仕方ないよ。セインは俺達のことは気にしなくていいから、幸せを選んでよ」
「は?」
「リアだけでなく、セインもでしょ?風の魔導士を欲しがらない権力者はいないよ」
「そこまでわかってるのか」
「簡単なことだよ。セインも解放されるべきだ。第二王子殿下はもういない。俺達を守る必要なんてない。逃げてもいい。好きに生きればいいんだよ」
「アル?」
「第二王子殿下はセインにリアを守ることなんて願ってないよ。殿下はセインの幸せも願ってる。俺達は勝手にやるよ。王はいなくなった。これからは自由なんだ。国の未来なんて気にしなくていい。セインは一人で逃げていいんだよ」
「お前」
「俺は領民の保護さえ確約されればラーナ侯爵家は滅んでもいいと思う。貴族のいないことを民が望むなら従うまで」
「侯爵はお前が継いだか」
「父上が亡くなったから、務めは果たすよ。謀はリアより俺の方が得意だし、新たな時代には俺の方が適任でしょ?あと、リアの忠誠なんて捨てていいから。そんなものセインが背負う必要ない。ラーナ侯爵として俺が許す」
武門貴族の大事にする忠誠を捨てろと話すアベルトにセインは驚く。
華奢な体でも、強い瞳で見つめるアベルトには威厳があった。
事態を把握し、未来を見据えているアベルトを見て、セインは肩の力を抜いた。
たくましく成長していた従弟の屈託ない笑みを見てセインの心が軽くなった気がした。
視線の先に隣国のレオナルド王太子がイリアナを抱えて転移していた。
セインは状況を飲み込めないまま、レオナルドからイリアナを受け取り寝台に寝かせた。
レオナルドがここにいるのを知られるのはまずいため、セインは天幕を結界で覆った。
「シュナイダー王国が落ちたよ」
「そうですか」
「指導者を失った国はどうなるか」
「新しい指導者を立てればいずれうまく回るでしょう」
「セインはどうする?」
「裁判に従います」
「私の駒になるのは?」
「家族と領民の保護が条件でした。ただ指導者を失った国を放置していくわけにはいきません」
「私が手配しよう。優秀な参謀に国を回させよう」
「国が落ち着いたら王太子殿下の手を取りましょう。イリアナはどうしますか?」
「彼女は私の臣下にするよ。約束は守った。臣下と婚姻させて手元に置く。後宮に入れると連れ出せなくなるから」
セインの亡き友人が望まない道ばかり選ぶイリアナの頬が濡れていることに気付き指で拭った。
「わかりました。国が落ち着くまでお待ちください」
レオナルドはセインの答えに満足して転移魔法で消えて行った。
「国の安寧とアルと俺の無事を約束して、悪魔の手を取ったんだろう。バカ。あいつが一番願ったのはリアの幸せだってわかるだろうに。リア」
セインはぐっすり眠るイナリアの寝顔を見て、大きなため息を溢した。
「殿下!!」
イリアナが叫んで飛び起きた。
「リア、起きたか」
「兄様?」
「国が落ちた。引き上げる。帰って当主の判断を仰がねばいけない」
「わかりました。兵を集めます」
動揺せず、飛び出していくイリアナをセインは静かに見送った。
イリアナが集めた兵達に国が落ちたことを話すと落胆した。
「民により国が落ち、これからどうなるかはわからない。だが俺達の目指すものは変わらないだろう?」
セインが不敵に笑うと落胆した兵達の目に光が宿る。
希望や誇りを持ち、若さゆえの青臭さを持つ兵達には相応しい言葉を紡げば、士気が上がる。
信頼するセインの言葉に鼓舞され、兵達は顔を上げる。
陣を払って各々が家に帰った。
名門貴族ばかりの軍なので各家で話し合い、これからのことを決めなければいけないことは同じだった。
セインはシカク公爵邸に帰る前にラーナ侯爵邸へ立ち寄った。
ラーナ侯爵夫人がイリアナに駆け寄って抱きしめた。
「イリア、無事で良かったわ。本当に」
「お母様、ただいま帰りました。お父様とアルは?」
「アルは無事よ。ただ父様は」
言葉を濁す母親にイリアナが目を伏せ、背中に手を回した。
「そう。お父様はお役目を果たしたんですね」
「リア!! セイン!!」
騒ぎに気づいたアベルトが自室から降りてきた。
「セイン、リアをありがとう」
「悪い」
「セイン、俺の部屋に来て」
セインの顔を見たアベルトは抱き合うイリアナ達を横目に見て、移動を促す。
セインは鋭い従弟に苦笑いした。
「セイン、何があったの」
「イリアナは隣国の王太子に目をつけられた」
「そう。見つかったか」
「悪い」
「セインの所為じゃない。きっとリアが決めたんでしょ?俺達を守れるならって」
「止められなかった」
「リアが選んだなら仕方ないよ。セインは俺達のことは気にしなくていいから、幸せを選んでよ」
「は?」
「リアだけでなく、セインもでしょ?風の魔導士を欲しがらない権力者はいないよ」
「そこまでわかってるのか」
「簡単なことだよ。セインも解放されるべきだ。第二王子殿下はもういない。俺達を守る必要なんてない。逃げてもいい。好きに生きればいいんだよ」
「アル?」
「第二王子殿下はセインにリアを守ることなんて願ってないよ。殿下はセインの幸せも願ってる。俺達は勝手にやるよ。王はいなくなった。これからは自由なんだ。国の未来なんて気にしなくていい。セインは一人で逃げていいんだよ」
「お前」
「俺は領民の保護さえ確約されればラーナ侯爵家は滅んでもいいと思う。貴族のいないことを民が望むなら従うまで」
「侯爵はお前が継いだか」
「父上が亡くなったから、務めは果たすよ。謀はリアより俺の方が得意だし、新たな時代には俺の方が適任でしょ?あと、リアの忠誠なんて捨てていいから。そんなものセインが背負う必要ない。ラーナ侯爵として俺が許す」
武門貴族の大事にする忠誠を捨てろと話すアベルトにセインは驚く。
華奢な体でも、強い瞳で見つめるアベルトには威厳があった。
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