傷心令嬢の鬼ごっこ

夕鈴

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第17話 被災救助

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イリアナは婚活中である。
昼食の時間にイナリアは食堂でエミリオを見つけたので、笑顔を作って近づいた。

「エミリオ様、お隣よろしいですか?」
「どうぞ」

エミリオは笑顔で了承し、イリアナは嬉しそうに笑いながら隣に座った。
エミリオの隣に座ったイリアナは非常事態に気付いた。
食材を残すと罰則があり、いつもイリアナの食べきれないものを食べてくれるヒューゴがいなかった。
エミリオは隣で顔を青くしているイリアナの様子に苦笑する。
イリアナが少食なのは第二騎士団内では常識だった。

「ラーナ、食べれない分は俺の皿に移していいよ」
「申し訳ありません」
「気にしないで」

エミリオの好感度を上げたいが、背に腹は代えられないイリアナはエミリオの言葉に甘えるしかなかった。
他人の手を借り、気遣われるなど、淑女として減点である。
落ち込む気持ちを隠してイリアナは笑顔で食事をしながら、エミリオに話しかける。


「エミリオ様、もしもの質問をしていいですか?」
「いいよ」
「お母様の選んだ方が孤児を弟として保護していたらどう思いますか?」
「孤児か。母上が孤児を保護した令嬢を許すとは思えないけど」
「エミリオ様はです。お母様ではなく」
「家が納得すれば構わないよ」
「らしい答えですね。エミリオ様はどんなご令嬢がお好きですか?」
「裏表がないといいな。思惑だらけの貴族社会だけど、うちの中くらいは疑いとは無縁の、家族水入らずで、ありのままで過ごしたい」

イリアナはエミリオの言葉にショックを隠せなかった。
イリアナは自分の外面と素の性格が違いすぎるため、エミリオの好みから外れていることに消沈した。
突然落ち込んだイリアナにエミリオは驚く。



「ラーナ?なんで落ち込んでるの?」
「いえ、私の計画が……。お気になさらず。そろそろ午後の業務にあたらないといけませんね」
「ラーナ?」

失意のイリアナはエミリオに礼をして立ち去ることにした。
食器を片付けたイリアナはレオナルドと目が合った。
イリアナの失敗を嘲笑いに来たのかとイリアナは思ったが、違っていた。

「イリアナ、礼はいらないから一緒に来て」

レオナルドはイリアナの腕を掴み、転移魔法が発動した。

「土砂崩れで村が飲み込まれた。私は救助の指示を出すから」
「回復ですね」
「頼むよ」

イリアナは午後の業務が気になったが気にすることをやめ、やるべきことをやることにした。
負傷者が多い場所に行き、イリアナは治癒魔法を歌にのせて歌った。
魔力は無尽蔵ではないため、魔力消費が激しい広範囲魔法は1日4回と決めていた。
魔道士は必要な時に魔力がないという状況を作らないように、計画的に魔法を使うものである。
「むやみに魔法を使わない」と魔法が使えるようになったイリアナに教え、治癒魔法よりも医療処置を覚えるように教育したのはセインである。
イリアナは医療道具を持って、負傷者の手当に回る。
重傷者のみに治癒魔法を使用し、他の負傷者にはてきぱきと応急処置をしていく。

「イリアナ」

セインの声が聞こえた気がしてイリアナは顔をあげた。

「なんで?」
「転移魔法で連れてこられた」
「あの男……半年の猶予が」
「バカ、話は後だ。むやみに魔法を使うな。助けられない者は仕方ない。魔法は歌だけだ。回数制限は絶対に守れよ」
「はい。セイン兄様お気をつけて」
「誰に言ってる」

懐かしい勝気な笑みを浮かべたセインをイリアナは見送った。
レオナルドとセインに救出された、負傷者がどんどん寝かされていく。
イリアナには魔法を控えるように話すセインは風魔法で瓦礫を飛ばしている。

「むやみに魔法を使わないって口癖のセイン兄様は自分はどうなのよ」

余裕な顔をして負傷者を救出しているが、ずっと魔法を使い休まず動入れいるセインのことが心配なイリアナは人目のない場所に移動した。
イリアナは人目を避けた木陰に隠れて、セインにも届くように治癒魔法を乗せた歌を歌う。


歌い終わるとイリアナは足の力が抜け、座りこんだ。


「力が……。魔力を使いすぎ、でも休んでいる状況じゃないから、頑張らないと」

イリアナは木に手をついて、ゆっくりと立ち上がる。
ゆっくりと歩いていたが、傷病者を見つけて足を速めた。

「やっと一段落」

応急処置が一段落し、イリアナが周囲を見渡すと真っ暗だった。


「セイン兄様がいない。暗いのに戻ってこないなんておかしい。
夜は危険だから、動くことを好まないあの兄様が…。まさか!?」

イリアナはランに命じた。

「ラン、セイン兄様の居場所探せる?」

しばらくするとランが戻ってきた。
ランに案内された先には、新たな土砂崩れに巻き込まれたセインとレオナルド達がいた。


「セイン兄様、兄様」

イリアナは駆け寄り、声を掛けるが反応がないセインの頭から血が流れていた。
イリアナはセインに治癒魔法をかけると、血が止まり、傷口が閉じ、寝息が聞こえた。

「魔力を消耗しすぎているけど、大丈夫ね。良かった。セイン兄様」

木が足に刺さり、倒れているレオナルドに近付いた。
真っ青な顔のレオナルドに声を掛けるが反応はない。

「レオ様」

出血多量のレオナルドをイリアナは放置するという誘惑に襲われた。

「見殺しにするのは、憎い男と一緒か。それは嫌」

イリアナはレオナルドの足に刺さっている木を抜くと同時に魔法をかけようとするが、魔力が足りなかった。

「魔法が駄目か。このままだとレオ様は……なら、あれが一番早い。殿下も私が魔法を使うことを快く思っていなかったから、敢えて隠したんだよね。でも、殿下がいない世界に長生きしても仕方ないからいいか」

第二王子が隠していた魔導書に綴られた魔法の一つ。
治癒魔導士の血には治癒効果があり、血を媒介にすれば魔力が足らなくても治癒魔法を発動させる方法が綴られたいた。
イリアナは指を噛み切り、流れる血をレオナルドの傷口に垂らす。
傷口が光り、イリアナが手をあてて念じると傷は塞がり、真っ青だったレオナルドの顔に赤みが戻った。

「レオ様はもう大丈夫」

「助けてくれ!!誰か!!」

助けを求める声が響いていた。
イリアナは体力と治癒力向上の一曲を歌っているとイリアナの意識が朦朧としてきた。
イリアナは体中の魔力を絞り出し、気合で一曲歌い終えるとともに意識を手放した。

***

イリアナは目を覚ますとベッドにいた。

「起きたか」
「セイン兄様」
「魔力を使いすぎだ」

イリアナは苦笑するセインよりもセインの首もとにかけてある紐が気になり手を伸ばして引っ張った。
イリアナと同じペンダントをセインはつけていた。

「やっぱり。あの男……。一年の猶予って、しっかり印を持たせてる」

「怒るなよ」
「約束が違う」
「単純なお前は王太子殿下にはかなわないよ。あの方は俺さえも敵うか怪しい」

苦笑するセインの顔を見て、イリアナはレオナルドを助けたことを後悔した。

「今日は休め。魔法が必要な時は頼むから、勝手に使うなよ」
「待って、兄様、ちゃんと休んで」
「俺は大丈夫だ」

現場の指揮を任されているセインはイリアナの心配そうな顔に気付かないフリをして立ち去った。
魔力切れで体に力が入らないイリアナは大人しく眠ることにした。
翌日、イリアナの体は起き上がれる程度に回復した。
治療しながら時々歌を歌って気付くと2週間が過ぎていた。
レオナルドが再び現れた。

「イリアナ、もう引き上げよう」
「レオ様、セイン様のこと」
「猶予はあげたけど、印をつけないとは約束してない」

レオナルドに文句を言おうとするイリアナの肩にセインが手を置いた。

「リア、やめろ。俺は納得しているから」
「セイン様」
「それより、王太子殿下に話があるんだろう」

イリアナはセインにザビ国での生活のことを聞かれ話していた。
セインは話しを聞いてため息を吐き、イリアナの一番の悩みに対して提案をした。
イリアナは頼りになる従兄の提案に感動し、初めて活路を見出した。

「恐れながらレオ様、お願いがあります」
「適えるかはわからないけど、何かな?」
「私の婚姻なんですが成人まで猶予をいただけませんか?15歳の私はまだ未成年。それに婚約者を失ったばかりなのに、神の教えに逆らって結婚するなんて」
「私達とは祈りを捧げる神が違うか」
「信仰は自由です。改宗する気はございません。私は定例通り18歳での婚姻を望みます。母国の皆様もきっと祝福してくださると思います」
「セイン?」
「彼女は昔から信心深いもので。教会への慈善活動も趣味でしたから」
「慈悲深い王太子殿下は改宗を求めませんよね?」
「わかったよ。セインは優秀だ。ただ17歳までに婚約し18歳で婚姻」
「かしこまりました」

勝利を確信したイリアナはレオナルドの笑顔に嫌な予感がした。

「そのかわり」
「はい。来月には殿下のお傍にあがりましょう」
「セイン兄様!?」
「屋敷も使用人も用意するので、身一つで構わない」
「何人か忠臣の同行をお願いしたく」
「いいよ。セインにも手駒は必要だよね」
「イリアナ、口出し無用だ。お前の忠誠は俺に捧げたんだろ?」
「はい。セイン様の心のままに」
「じゃあセイン楽しみにしてるよ。またね。イリアナ、送ってあげるよ」
「レオ様、私は兵達と帰りますわ」
「イリアナ?」

レオナルドの笑顔に押し負けてイリアナは差し出された手を取った。
目を開けるとレオナルドの執務室にいた。

「イリアナ、騎士団長には伝えておく。3日休みを与える。今回の働きに特別手当も与えよう」
「王太子殿下のお役に立てて光栄です。失礼します」

レオナルドの側近の目があるのでイリアナは態度に気をつけないといけなかった。
敬意をこめているフリをして優雅に立ち去る。
婚活の猶予が残り6か月から1年半に伸びたので、余裕ができたのはイリアナにとってありがたかった。

イリアナは王宮から帰路につくために歩いていると、ジオラルドを見つけたので礼をとって道を譲った。
自分より爵位の高い人間には礼をして道をあけるのがマナーである。
王宮では下位の者から声をかけることも許されない。


「リア」
「ごきげんよう。ジオラルド様」
「あのさ、」
「失礼しますね」

言い淀むジオラルドに笑顔で挨拶をして立ち去った。
イリアナにはジオラルドと関わっているところを見られれば面倒事に巻き込まれる確信があった。
アマルを一人にしているのが心配だったので急いで帰るためにイリアナは足をすすめた。
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