傷心令嬢の鬼ごっこ

夕鈴

文字の大きさ
28 / 30

第24話前編 野外訓練

しおりを挟む
イリアナは第二騎士団の遠征での野営訓練に何度か参加したため、流れは理解していた。
初めての両騎士団合同の野営訓練のため、留守にする間はセインにアマルのことを頼んだ。
セインは快く受け入れた。

「アマルはセイン兄様にはよく懐いているのよねぇ。お父さんに憧れる年頃かしらね」
「イリア?」
「なんでもないわ。行ってくるね」

家を出たイリアナは気が重い。


「嫌な予感しかしない……」

それでも2泊3日の両騎士団合同訓練に向かうために足を進めた。
イリアナの嫌な予感は当たった。
共同訓練のためイリアナのテントは第一騎士団の女性騎士3人と同じだった。
野営地につき、座って休憩を始めた女性騎士の危機感と志の低さになぜ騎士を目指しているのかイリアナは不思議に思ったが、聞くほどの興味はないので、話しかけなかった。
イリアナは簡易テントを立てる場所を確認し、黙々とテントを建て始めた。
手際よく作業するイリアナに一人の女性騎士が近付き、作業に加わった。
作業に加わった女性騎士は、イリアナに話しかけたことのない騎士だった。
テントを建てるのも訓練の一環なので、イリアナは驚きながらも、話しかけずに作業を進めた。
参加せず、テントを設営できずに困るのは自分達なので、イリアナはわざわざ教えてあげるほど親切でもなく、二人の女性騎士が困ってもどうでもよかった。

テントが完成し、イリアナが道具を片付けていると休憩をしていた女性騎士の二人がテントの中に入った。
片づけを終えたイリアナがテントの中に入ると、二人の女性騎士が嫌そうな顔で睨む。

「あら?新人は外でいいんじゃない?」
「わかりました。失礼しました」

イリアナの反応に驚いた顔をした二人と物言いたげな一人の様子を気にせず、テントを出ていく。
穏便に同じテントで過ごすためには、頭を下げて説得すれば簡単だったが、心が壊れても、矜持はあるイリアナは頭を下げるなんて、演技でも嫌だった。
イリアナは荷物の置き場にちょうどよさげな木を探してるとヒューゴに肩を叩かれた。

「ラーナ、何してんの?」
「荷物置き場を探しに」
「は?」
「あのテントに荷物を置いたら捨てられるのが目に見えてる」
「なんで第二騎士団のお前が第一騎士団のテントに振り分けられたんだろうな」
「子供でも女だからでしょ?戦場に出たら性別なんて関係ないのに、まぁどうでもいいか」
「荷物を貸せよ。うちのテントで預かるよ」
「罰則」
「そんな罰則はないから安心しろよ。あと2回でペナルティだもんな」
「出勤前にトイレ掃除なんて絶対に嫌」

3回遅刻すると早朝の2週間トイレ掃除当番の罰則が設けられていた。
イリアナは早起きが苦手で、トイレ掃除するなら一秒でも長く、ベッドで寝ていたい人間である。
一度、ジオラルドの所為で遅刻をしているのであと2回でアウトだった。


イリアナの嫌そうな顔に笑うヒューゴの手がイリアナの荷物に伸びた。イリアナは手を拒まず、受け入れた。

「荷物?場所はあるから気にしなくていいよ」
「気にせず、いつでもおいで」

ヒューゴのテントに連れていかれたイリアナは笑顔で了承する騎士達にお礼を言うと頭をポンと叩かれた。






一日目は特に問題もなく終わり、イリアナは夜は木の上に登り、眠った。
眩しい朝日が起こしてくれるため、イリアナにとって木の上は丁度いい場所だった。
二日目の訓練は、食事を狩りをして手に入れる自給自足の訓練だった。
同じテントの仲間と隊を組み、協力して取り組むべきだが、山も森もイリアナにとっては危険な場所ではないので、動く様子のない女性騎士達に声を掛けることはしなかった。

「関わるの面倒だし、役に立たないからいいや。食事はいらないけど、訓練だから、狩りはしないとなぁ。昼間の狩りが訓練って、簡単すぎる。ううん、どうでもいいや」

遠征先は昼間は肉食獣が眠っているので、安全な場所だった。
夜の森は危険が増すが、獣避けのテントを使っているので、イリアナにとっては安全な野営地だった。
イリアナは視界に入った鳥に短剣を投げて、仕留め、テキパキと捌く。
火を起こし、串刺しにした鶏肉を焼く。
鳥を焼く香ばしい匂いに女性騎士達が近づいてきた。

「私達の分は?」
「自給自足ですからご自分で」
「新人のくせに生意気ね」
「苦情は隊長に」
「もういいわ。せっかく話しかけてあげたのに」

相手にするのも面倒なイリアナは「話しかけてほしいと思ってません」とは言わず、無言で焼けた鶏肉を頬張った。

「やっぱり余るよね。処理するか」


串刺しにした肉を食べ終わったイリアナは残りの肉を見て、調理を再開した。

「殺菌作用のある薬草が生えているから、これで包んで蒸し焼きにすれば日持ちする。遠征中に食べきれなかったら、持って帰ればいいか」

イリアナは残りの肉を全て、薬草と香草と共に葉で巻いて焼いた。
調理を終えた肉をヒューゴ達のテントに荷物と共に置いたイリアナは女性騎士の一人がいないことに気付く。
夜の森の危険を知っているイリアナは念のため、女性騎士に声を掛けた。

「もう一人はどうしたんですか?」
「あの子は狩りにいったわよ」
「一人で行かせたんですか?」
「貴方だって一人で行くじゃない」

イリアナの目の前にいる女性騎士は女性としては大柄だが、筋肉が少なく、強そうには見えなかった。
一緒にテントを建てていた女性騎士はさらに華奢で細く、テントを建てる手際も悪く野営に慣れているように見えなかった。

「森や山に不慣れな者が単独行動する危険も知らないんですね…。弱いならせめて、群れるくらいしないと死ぬってわからないのか」

集団行動を放棄しているイリアナは言えた義理ではないが、隊で動かなければならない理由がわかっていない女性騎士達に心底呆れた。
女性騎士達は上官以外の前で動くことはなく、だらだら過ごしていたのをイリアナは知っていたので、バカにした顔を隠すのをやめた。
イリアナのバカにした視線に女性騎士達の眉が釣り上がった。

「騎士に向いてないですよ。さっさと結婚して引退したほうがいいんじゃないですか?」
「あんたね」
「忠告してあげる優しさに感謝とか迷惑なんで、しなくていいですよ」

イリアナは文句を言っている女性騎士達を残し、周囲を見渡した。
空には綺麗な夕焼けが広がっていた。


「夜になる前に見つけないと危ない。ラン、探してくれる?」

イリアナの言葉にランが飛んでいく。

「誰かに声をかけたほうが、うん。やめよう。絶対に面倒、そういえば」

どちらの騎士団に報告しても、厄介なことが起こると結論を出したイリアナは荷物を確認した。

「さっさと見つけて、戻ってくればいいものね」

イリアナはポケットの中身を確認し、一人で行くことに決めると、ランが戻って来た。

「いたけど、近くに獣がいるわよ」
「ありがとう。案内して」

ランに続いてイリアナは走る。
すでに獣が動き出しているため、急がないとまずい状況だった。
イリアナはうずくまり、足を抱えている女性騎士を見つけた。

「足を見せてください」

女性騎士が動かないのでイリアナは無理やり足を伸ばして傷を見た。
水筒の水で傷口を洗い、鋭い爪で裂かれた傷跡を見てイリアナは嫌な予感に襲われた。

「オオカミに襲われました?」

さらに顔が青くなり震える女性騎士を見てイリアナは確信した。

「簡単に殺せるのに、見逃したってことは、囮にして人間をおびき出すつもりか。
ここのオオカミは群れで狩りをするから、血の匂いで追ってくるか……。隠れてもすぐに見つかるから無駄、それなら」

イリアナが一人なら群れのオオカミが相手でも問題なかったが、負傷者を守りながらだと荷が重かった。
イリアナは空に向かってポケットに入れてあった閃光球を投げた。
あたり一面が眩しくなり、落ちてきて光を失った球を拾ってポケットにいれた。

「ラーナ家門の救援信号を見るのは久しぶりだなぁ。ラン、薄い霧を」


イリアナはランに頼んで、視界が悪くなるように周りを薄い霧で覆う。
嗅覚が優れたオオカミには気休めにしかならないけれど、備えは多い方が安全とイリアナはできることを思案する。
女性騎士の前に座り、傷の手当てを再開し、包帯を巻く。
魔法に集中しているときに襲われたら終わりのため、治癒魔法は使わず手当てを終えたイリアナは荷物から非常食を出し、女性騎士に渡す。

「吐いてもいいから、食べてください。体力と気力をしっかり持ってください」

イリアナの拒否を許さないという強い態度に負けた女性騎士は食べはじめた。

「どうして」
「見捨てるのは騎士道精神に反します」
「私、貴方に」
「興味ないので謝罪はいりません。木には登れますか?」
「え?」

申し訳ない顔をする女性騎士の言葉をイリアナは遮った。
木の上の避難が一番安全だったが、足を怪我した女性騎士には無理と気づいたイリアナは木の陰に連れていき座らせた。

「ここを絶対に動かないでください。戦わなくていいので、静かにして、ここから動かないでください。動き回られたら迷惑です。できますか?」

イリアナは無理なら気絶させようと思っていた。
頷く女性騎士を背に庇い、武器を手に持ったイリアナは周囲を見渡した。

「そろそろ狩りの時間のはじまり」

イリアナの呟きは風の音共に消え、誰にも拾われることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

リフェルトの花に誓う

おきょう
恋愛
次期女王であるロザリアには、何をどうやったって好きになれない幼馴染がいる。 その犬猿の仲である意地悪な男の子セインは、隣国の王子様だ。 会うたびに喧嘩ばかりなのに、外堀を埋められ、気付いた時には彼との婚約が決まっていた。 強引すぎる婚約に納得できないロザリアは……? ※他サイトで掲載したものの改稿版です

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

あなたが遺した花の名は

きまま
恋愛
——どうか、お幸せに。 ※拙い文章です。読みにくい箇所があるかもしれません。 ※作者都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...