甘くなるかは作り手次第

夕鈴

文字の大きさ
1 / 2

前編

しおりを挟む
エクレア・マストは人生で一番大事な日に婚約者の言葉に怒りに襲われていた。
次第に呆れが勝る。
エクレアの目の前では成人した誇り高き貴族のはずの青年が膝を折り、懇願している。

「どうか婚約を破棄してほしい。私はもう耐えられない」

エクレアはこの日のために必死に準備をしていた。
エクレアにとっては人生で一番大切な祝宴。
父をはじめマスト伯爵家の騎士達の功績が認められ、ようやく伯爵から侯爵に登りつめた。
亡き祖父の願いであり一族の悲願を祝う場である。

「君には何も非はない。全ては私が悪いんだ。どうか解放してほしい。君と婚約して10年で歩み寄る努力も精一杯したが、無理なんだ。私は」

エクレアの目の前の端正な容姿と甘い声で自分に酔いながら、周囲の視線を集め被害者のように振舞う青年の名はタンダ・スローは20歳。
スロー伯爵譲りの爽やかな顔立ちと言葉を巧みに操り令嬢や貴婦人を虜にする社交界の貴公子の一人。

婚約者のタンダの懇願を眉一つ動かさず、冷たく見つめるエクレアに批難、同情、喜び、様々な視線を向けられている。
エクレアは両当主のすがるような視線を受け、天然の愚かなタンダを宥めて祝いの場の空気を乱さないようにするのが最善だとわかっていた。
扇をパサリと開き、顔を隠すエクレアに悪魔が囁く。
エクレアはタンダよりも身分が高くなり、斬っても咎められない。
残念ながらエクレアの手元にあるのは護身用の短剣と火薬なので、美しく斬れず、邸を破壊するのは避けたいと悪魔の囁きを棄却する。
エクレアが冷たい視線でタンダを見つめ、考え込んでいるうちにタンダの演説はさらに白熱する。
自身がいかにエクレアのために尽くし、努力しそれでも心が通じないと。
爽やかな笑みと正反対の弱った時にだけ見せる庇護欲をそそる甘さを含んだ可愛らしい笑みを浮かべたタンダにエクレアの纏う空気がさらに冷たくなる。いつもならこの笑みを見て助けるが、エクレアは呆れ過ぎて体が動かなかった。

「それに私はどうしても受け入れられない。外見とは正反対の名をどんなに」
「兄上、いい加減にしてください。長くて、くどいです。兄上の一番のお気に入りのエクレアに相応しくない話はもう聞き飽きました。チョコレートのような漆黒の髪ではなく金髪を持ち、甘美な甘さのカケラもなく食欲を注がれない蒼い瞳、こんがりと焼けた生地とは正反対の白い肌。何より、エクレアと同じ名前なのに甘さのかけらもない外見と性格が生理的嫌悪に襲われるのは誰もが知ることです」

愛らしいスロー伯爵夫人ゆずりの可愛らしい容姿で純真無垢な笑みを浮かべて兄の性癖を暴露する美少年の名はバレイル・スロー。

「本題に入りましょう。僕は甘い物が好きではないので、エクレアの容姿が全く名前に合っていなくても気にしません。というわけで、婚約者を交換しましょう。僕の婚約者候補は兄上好みの甘い砂糖菓子のような令嬢がたくさんいます。甘くて可愛らしい笑みを浮かべ、つい食欲を注がれ」

社交界で人気が高く令嬢受けする容姿を持つ名門スロー伯爵家の子息達。
兄は弟に伸ばされる手を取りゆっくりと立ち上がる。少女のような容姿を持つバレイルと爽やかな容姿のタンダの姿は絵になり、うっとり見惚れる貴婦人もいる。
当事者で突っ込み属性のエクレアは突っ込む気力がない。
兄達が腹を抱えて笑っているのを見つけ、美しい眉を一瞬吊り上げ茶番を終わらせるために動き出す。
あとで兄に制裁することを心に決め、扇子をパキンと折る。
綺麗に2つに分け、見目麗しいスロー伯爵子息達の額を目指して投げる。
扇子はスロー伯爵子息達の額に直撃する。
勢いよく倒れる婚約者達から視線を逸らし、観客と化した貴族に向き直り優雅に礼をする。
「エクレア様、素敵です!!」とうっとりとした声を上げる令嬢達にエクレアは爽やかに微笑む。

「祝いの場にふさわしくない話題を申し訳ありません。興醒めする余興はここで終わりにし、我が家自慢の舞を披露しましょう。お兄様、よろしくて?」

エクレアの刺すような冷たい視線を受けた兄達は寒気に襲われ笑いが止まる。
顔を見合わせ、頷き壁に飾られる宝剣を手に持ち、舞台に上がる。
エクレアは気絶しているバカな二人を外に捨てるように家臣に命じ、兄が剣舞を披露し会場の雰囲気を変えた様子にほっと息を吐く。そして婚約破棄騒動など何もなかったように振舞い、偉大な父達の祝いの席を盛り上げる。
エクレアの采配で宴は無事に終わり侯爵家の新しい一歩を踏み出した。

****

エクレア・マストは三人兄妹の末っ子である。
兄達は父譲りの精悍な顔立ちで騎士として王宮に仕官している。
タンダやバレイルほどではないが令嬢達にも人気はあるが、エクレアは兄の欠点を知っていた。
兄の野太い声が聞こえ目を醒ましたエクレアは夜着の上から上着を羽織り訓練場に向かい目を吊り上げて、兄を睨む。

「お兄様、うるさい!!迷惑。叫ぶなら山奥でお願いします」
「それだと遅刻をしてしまう。遅刻は駄目だとお前は怒るだろう?」
「遅刻はいけませんよ。でも夜明けから雄たけびは迷惑です。どうしても叫びたいなら湖の中でおねがいします」
「声が出ない」
「あら?物語の騎士様はどんな場所でも声を届かせると。修行が足りないのでは?」
「なんと!?我が妹は賢いな!!兄は誇らしい!!いいことを教えてくれて感謝する」

エクレアの兄達は脳筋で武術に夢中である。
家のことよりも強くなることを優先するため社交もせず、内務もできない。
そのため末妹のエクレアが跡取り娘。
婿を取り、兄の手綱を握る役目を担っていく。
バカな婚約者に嫌気がさし、兄に子供を作ってもらって養子に迎えようかと思い始めたが武術にしか興味のない兄に嫁いで子供を作ってくれる令嬢がいるか自信がなかった。
兄が妻や家族よりも武術を優先するのは目に見えていた。エクレアは湖に飛び込んだ兄を見ながら長いため息をつく。
エクレアの周囲はバカな男ばかりで、碌な男がいなかった。
すでにエクレアにとって大事な日に粗相をした婚約者には、宴が終わった後に酔った父にサインをもらい婚約破棄の書類を伯爵家に送りエクレアの将来設計から消えている。


***

エクレアは伯爵令嬢から侯爵令嬢になり顔を出す夜会が増えた。
タンダと婚約破棄したためエスコート役はいなくても問題はない。
主催の侯爵夫妻に挨拶を終えるといつも令嬢に囲まれているバレイルが鬼気迫る勢いで近づいてきた。
エクレアはバレイルに用はないので挨拶もせず、通り過ぎようとすると腕を掴まれる。爵位が上がりバレイルよりもエクレアのほうが身分が高くなったが亡き母の友人の息子なので腕を掴むという不敬は一度だけは見逃そうと足を止める。

「エクレア、どういうこと!?うちとの婚約破棄なんて」
「ごきげんよう。私は受け入れただけですよ。慰謝料はいりません。今後うちの敷居はまたがないでください。無関係ですから」
「僕と婚約するって」
「ありえませんよ。大事な日を壊した婿なんてごめんです。それにバレイル様は私が嫌いでしょう?もう吹っ切れました。さようなら」
「そんなこと一言も言っていないよ」
「どうか相思相愛のご令嬢を探してください」
「兄上を愛しているの?」
「どうでしょう。私の心は私だけのもの。ダンスも踊りたくありませんので、どうぞご令嬢のもとに」

エクレアは茫然とするバレイルの手を振り解き、視線を向けずに立ち去り「エクレア様!!」と近付く令嬢達と談笑する。
エクレアは男には人気がないが女には大人気である。
産まれてくる性別を間違えたとため息を飲み込みながら、誰か兄に嫁いでくれる奇特な令嬢がいないかと愛らしい令嬢を見ながら中性的な美しい微笑みで社交に励む。エクレアの婚約破棄は噂になっているが、同情的な視線はない。
令嬢達は貴公子のようなエクレアが誰のものにもなって欲しくない。
エクレアは令嬢達に人気があるため男が近寄って来ないことに気付かない。
そうしてもう一つの理由も。
そのためエクレアの傍には脳筋の兄と婚約者のタンダとバレイルしかいなかった。



エクレアは邸に帰ると、何も言わずにお茶を用意してくれた細目の執事のクオンに力なく微笑む。

「私が生まれる性別を間違った」
「お嬢様は魅力的な方ですよ」
「身内とクオンだけよ」
「お疲れ様でした。ゆっくりお休みください。兄君達は休んでおります」
「ありがとう」

エクレアにとって同世代でまともな男はクオンだけだった。
椅子に座り束ねていた髪を解き、お茶に口をつける。
好みのお茶に緊張が抜け、荒んだ心が癒されたエクレアの無防備な笑みを見たのはクオンだけだった。

****

エクレアは婚約破棄してからタンダとの面会を拒否していた。
面会を拒否してもマスト侯爵邸を訪問するタンダに門前払いを命じていた。連日の訪問と面会依頼にあまりにしつこいのでタンダの面会を受けいれた。

「ごきげんよう。手短にお願いします」
「婚約の件だが」
「すでに破棄の手続きはすんでおります。どうぞ甘いお菓子のような婚約者を探してください。慰謝料もいりません」
「バレイルはエクレアを好いている。どうかうちとの婚約を考え直して」
「伯爵にも了承を得ましたわ。戯言を聞きたくありません。タンダ様、元婚約者として忠告します。貴方の妄想癖たいがいになさいませ。そして現実をきちんと見てください。ではお気をつけてお帰りください」
「え?」
「婚約者ではない貴方に使う時間はありません。では」

エクレアはタンダの縋るような視線も甘えるような笑みも無視して客室から出て行く。
エクレアにとってタンダは困ったことがあればいつも相談にくる情けない男だった。
外見だけは美しいタンダを追いかける令嬢を追い払ったのも、天然な言動を勘違いされ男に襲われそうになったのを助けたのもエクレアである。
タンダの父親は無口で不愛想である。
父親そっくりの外見を持つタンダに母親が夫から言われたい言葉を教えた。そのためタンダは口説き文句を普通の言葉と認識して育っていた。タンダの生い立ちを知らなくてもエクレアは婚約者だから大事にしてきた。
婚約者でないなら大事にする理由はない。
エクレアは騎士ではないので騎士道精神はない。そしてエクレアにとって大事な日を壊したことは生涯許さないと決めていた。

エクレアにとってバレイルはいつも悪口ばかりを口にする男。
エクレアは脳筋でも人を傷つける言葉を使わない兄達を好ましく想っている。
正直すぎて貴族としては役に立たなくても、臣下を大事にして妹や弱きを全力で守ろうとする姿は尊敬している。だから煩わしいことを引き受け、兄に守ってもらいながらできることをしようと決めていた。
幼馴染でもタンダとバレイルはエクレアの大事な日を壊したので全ての情はなくなった。

「兄上、お帰りなさい。エクレアは?」
「駄目だよ。相手にされない」
「どうして父上は兄上を婚約者に指名したんだろう。僕は」

エクレアは婚約破棄の本当の理由を知らない。
タンダは弟の初恋を叶えるために身を引いた。
タンダにとってエクレアはどんなことも話せる友人。
甘いお菓子のような令嬢のほうが好みだが、エクレアとのほどよい距離感を気に入っていた。
公の場で婚約破棄された令嬢に想いを寄せる騎士が求婚し結ばれる小説をエクレアが読んでいるのを知っていたので、同じ舞台を再現しようとしていた。
タンダもバレイルもエクレアの逆鱗に触れたことには気づいていない。
そしてバレイルの恋慕はエクレアの兄以外は誰も気づいていないことも。
ずっと令嬢にちやほやされて過ごしてきたタンダとバレイルは令嬢の許容範囲の広さを勘違いしていることも。
婚約破棄してからはタンダ達は父親から侯爵邸に出入りを禁止されていた。
エクレアの兄達は妹を溺愛している。
婚約破棄騒動は妹がバカな婚約者から解放されると笑いが止まらなかったが冷静になったら大事な妹を貶められたことに気付きキレた。タンダ達を斬ろうとして死体の処理が面倒だからやめてほしいとエクレアに全力で止められ断念した。

兄達は妹を守れない弱い婚約者を認めていなかった。
特に男に襲われ妹に助け出される軟弱な義弟はごめんだった。
スロウ伯爵家とマスト伯爵家の縁談は家の利はなかった。
スロウ伯爵夫人とマスト伯爵夫人は夫よりも身分の高い家の生まれで権力を使い強引に嫁いだ経歴の持ち主。仲の良い夫人達は幼い頃からお互いの子供が生まれたら婚姻させ、家族になろうという子供にとって迷惑な理由で婚約を結んだ。両伯爵が報告を聞いた時にはほぼ外堀が埋められ、書類にサインをするだけだった。
マスト伯爵夫人が亡くなり、爵位も伯爵家から侯爵家に上がったマスト家には婚約を継続する理由がなかった。エクレアの用意した婚約破棄の書類をスロウ伯爵家に届けたのはエクレアの兄。婚約破棄に気乗りしないスロウ伯爵夫妻を侯爵家の力を使い脅迫説得し、婚約破棄の成立とともに両家との付き合いも切った。そしてマスト侯爵家によるスロウ伯爵家の門前払いが始まった。

エクレアの兄は実は脳筋ではない。
小さい頃からパタパタと後を付いてくるくる妹が可愛らしく嫁に出したくない兄達は頭を悩ませていた。自分達に資質がなければ妹が後継に指名される。可愛い妹に頼まれて仕事に行き、労われるのは至福だと気付いてからは決断は早かった。エクレアが兄にとって愛らしい顔で諫める姿を見るのさえ至福の時間だった。
キリっとした顔から愛らしく笑う顔に豹変するのを見れるのは兄の特権だと思っている。
本気で怒らせると存在を無視させるのでさじ加減が重要だが。
兄達は可愛い妹のためならいくらでも願いを叶えてやりたい。
ただエクレアには伝えていないため、エクレアは過剰な愛をかけられているとは気づかない。
エクレアに近づいていいのは兄に勝てるものと公言されているのはエクレアだけが知らない。
そしてエクレアは兄が脳筋のバカだと本気で思っていた。兄達は脳筋は王宮務めなどできないと気付かない抜けている妹を溺愛している。

婚約破棄してもエクレアの日常は変わらなかった。
兄のバカを止め、令嬢に囲まれるバレイルに付き纏われ魔が差したエクレアは同じ背丈の華奢なクオンを見つめる。
雑務が得意で優しく気が利き、細身で平凡な顔立ちで令嬢を侍らかせない。
これは好条件では?とエクレアの脳内の悪魔が囁く。


「クオン、私と子供を作らない?」
「お嬢様!?」
「私、血とかどうでもいい。婚姻してなんて言わない。跡取りが必要なの。お兄様達には期待してない。可愛げのない私では駄目?」
「私はお嬢様達に拾われなければ」
「貴方のお母様を罪人とは思えない。ねぇ、駄目かしら?」
「私はお嬢様に幸せに」
「それなら婚姻してくれる?私が息をつけるのはクオンの前だけ。貴方のお茶が好きなの。戦えなくても構わない。傍で休ませてくればいい。脳筋もバカも女好きもごめんよ。クオン、厄介な荷物しか持たない私に小さい命を授けてくれない?」
「お嬢様は魅力的です。美しくお顔にお優しい性格、お転婆な所も愛らしい」
「クオンの言う通り魅力的ならクオンを誘惑できる?物語の騎士のように私を手に入れるためならどんな苦難も耐えられる?」
「私はお嬢様のお願いには敵いません。お嬢様が本気で望んでいただけるなら2年お側を離れる許しを下さい」
「きちんと戻ってくる?」
「はい。どんな立場でも、私がお仕えするのはお嬢様だけです」
「頑張るわ。私が疲れる前に必ず帰ってきなさい。命令よ」
「かしこまりました」


そしてクオンは姿を消した。
エクレアの日常は変わらない。兄の手綱を握り、お騒がせな元婚約者兄弟をあしらい、令嬢達に騒がれる。
ふと疲れたときに、恋しい紅茶がないだけである。

「適齢期だろう?いき遅れになる前に」
「お気遣い不要です。どうか私の視界に入らないでください。婚姻せずとも」
「独り身の女性は惨めだ。僕なら君を誰よりも」
「どうぞ、ご令嬢達のもとに。私達の縁は切れました。花の命は短いのでそちらのお花が萎れる前に失礼しますわ」

赤い薔薇の花束を持ったバレイルに呼ばれる声は無視して喧噪の中に進んでいく。令嬢達と談笑し、ワインで喉を潤す。タンダが令嬢に囲まれ縋るように視線を向けても気付かないフリをする。庇護欲を刺激する笑みを浮かべてもエクレアは気にしない。
出会って10年経っても分かり合えないのはお互いさまである。令嬢に既成事実を作られ婚姻を迫られても自業自得。エクレアは常に気をつけるように話してもタンダは変わらなかった。服を脱がされ、押し倒されても襲われた事実に気付かない。タンダの目の前に広がる優しい世界が壊れ厳しい現実を知っても関係ない。笑顔は気持ちがなくても向けられる。毒を含む甘い言葉をそのまま受け取るのはいかに愚かなことかもわからない。エクレアの話を聞かないのは兄弟そっくりと自分の将来設計から消した元幼馴染に一瞬視線を向け、もう一人の幼馴染を思い浮かべる。細目の執事が姿を消してもうすぐ2年。どんなお願いも叶えてくれる幼馴染の笑みを思い浮かべつられて微笑むエクレアに令嬢達の頬が染まった。


書類を眺めていたエクレアは懐かしい香りに顔を上げる。身長が伸びたが見覚えのある細目の執事に出されたお茶に口をつけふわりと微笑む。エクレアにとっての一番お気に入りのお茶を淹れられるのは一人だけ。

「おかえりなさい。ねぇ、クオン、私の癒やしは貴方だけ」
「一生お側にいます。父に認めさせました。お嬢様が望んでくださるなら婿入り致します。お嬢様のお荷物は私が背負ってもよろしいですか?」
「そこに貴方の幸せはある?」
「私の幸せはお嬢様とともに」

エクレアはとろけるような甘い笑みを浮かべてクオンの首に腕を回す。
亡くなった母親、家にいない父親、置いて行く兄達。隣にいつもいてくれるのはクオンだった。兄に置いて行かれ拗ねるエクレアに美味しいお茶とお菓子を用意してくれるのも、眠るまで手を握っていてくれるのも。エクレアを悩ませない癒しをくれるのはクオンだけ。これはどんなに時が経っても変わらないことだった。

後日、エクレアの婚姻が発表された。クオンを側から離したくないエクレアの希望で婚約ではなく婚姻だった。婿入りしてもクオンの立ち位置は変わらず、常にエクレアに付き添い世話をする。

エクレアを溺愛する兄達は妹に脅されて婚姻を認める。幼い頃からクオンを知っている兄達はどんな条件も全てそつなくこなす万能執事ができないことが見つからなかった。
タンダは砂糖菓子のように甘く蕩けるような笑みを見せる元婚約者に絶句する。クオンの前のエクレアは別人で元婚約者が可愛らしく魅力的な令嬢だったとようやく気付いた。
バレイルは伏兵に怒りに震える。
女の子が甘く砂糖菓子のようになるかは相手次第。
砂糖菓子のような装いで心の中は真っ黒の令嬢も。甘さの欠片もない装いで愛しい人の前では砂糖菓子のような甘さを見せる令嬢も。
タンダは砂糖菓子のような令嬢と婚姻してから現実を知る。そしてバレイルも世界の広さを認識する。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど

くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。 貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

それは立派な『不正行為』だ!

恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。 ※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。

処理中です...