佐々木玲人と富田涼太の薄いお話。

春待ち木陰

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 授業中であるにも関わらず、教室内の一角からは、

「ん……あ……。んん……ッ」

 控えめながら確かな喘ぎ声が聞こえてきていた。

 声の主は佐々木玲人あきと。性別は男だ。身長は183センチで体重は120キロ。筋肉隆々のマッチョマンではなく、誰が何処からどう見ても立派なおデブちゃんであった。そのスリーサイズは120・120・120。上からでも下からでも真ん中からでも同じ数値だ。

「なんかエロい声が出てんぞ、玲人くん。みんな勉強中なのに。聞こえちゃうぜ?」

 玲人の腹を揉みながら腰肉に指を這わせながら耳に息を吹き掛けながら囁いたのは富田涼太。こちらの性別も男。身長は156センチで体重は50キロを切っていた。小柄ながら運動神経は抜群でオマケに地声が大きく、なんだか「元気」が服を着て遊んでいるような男の子だった。

 三週間前の席替えより、玲人と涼太は席が隣同士となっていた。この授業が始まる直前に「教科書、忘れた。玲人くん、見せて」と近付いてきた涼太は、授業が始まるなり、玲人の豊満な肉体に身を寄せてその腹に手を伸ばした。左手でシャツの裾をめくると右の手を中に差し入れてきた。

「や……富田君。授業中は……んッ」

 蚊の鳴くような声で玲人は抗議したが当然、

「あー? なんだって? 聞こえねえぞ―?」

 涼太は聞き入れない。手の動きを止めない、指の動きを止めない。揉みしだく。

「んん……ッ。ん……ッ」

 玲人は奥歯を噛んで堪らえようとするが、その隙間から喘ぎ声は漏れ出てしまっていた。

「玲人くんはかわいいなあ。それで我慢してるつもりなのかよ。『あんあん』聞こえてんぞ? もっと我慢しないと。バレちまうぜ? みんな真面目に授業を受けてるのに玲人くんが一人だけエロい事してるって。バレんぞ? バレんぞ? 良いのか? 嫌なら頑張れ。ほら。黙れ。しーッ」

 嫌がる玲人の肉体を楽しげに弄ぶ涼太だったが二人は別に恋人同士というわけではなかった。特別に仲の良い親友同士というわけでもない。ただのクラスメートだ。

 涼太が玲人にちょっかいを掛けるようになったのは今から三週間前、席替えで偶然に隣同士となってからだった。最初こそ、

「おー。でっけえなあ。人間じゃねえみたいだ」

 と玲人の見た目を言葉でイジる程度だったがその内、

「ぶよんぶよんだなー。ヤバ。きもちいーかも。あったけえし」

 涼太は玲人の体に触ってくるようになった。勝手に。断りもなく。唐突に。

 覚悟も用意も何も無い状態で不意に腹やら胸やら尻やらを触られてしまった玲人はそのたびに、

「あははははッ!」

 と大笑いをしてしまっていた。非常にくすぐったかったのだ。こしょばゆかった。

 自分勝手な涼太はTPO――時と場所と場面を全くわきまえずに玲人の体に触れる為、玲人は他の友達と喋っている最中、昼飯を食べる最中、全校集会の最中と笑ってはいけないシーンで不意に大笑いをさせられては怒られたりや、ひんしゅくを買ってしまったりとしていた。

 玲人は「このままではいけない」と大笑いを堪らえようとした。涼太に触れられてくすぐったいと感じる気持ちを「くすぐったくなんかない」と、こしょばゆい感覚を「こしょばゆくなんかない」と無理矢理に考えるようにしてみたところ、その刺激は本当にくすぐったくもこしょばゆくもなくなったのだった――がしかし何故か玲人の中では別の回路が繋がってしまったようで。以降は涼太に触られるたび、

「――あんッ!?」

 大笑いの代わりに喘ぎ声が漏れるようになってしまった。……正直、性的に気持ち良く感じるようになってしまったのだった。

 玲人の喘ぎ声を聞いた涼太は「うわッ!?」と引くどころか、ニヤリと笑った。

 そして。以前にも増して涼太は玲人の肉体に触るようになってしまった。頻度もそうだし、触り始めてから飽きて終えるまでの時間も長くなった。執拗になった。触り方のバリエーションも増えた。

 授業中という最悪な状況で肉体に触れてくるようにも……は最初からか。富田涼太には始めから遠慮も配慮も何も無かった。涼太は自分の欲望に正直に佐々木玲人の肉体を貪り続けていた。もにもに、むにむに、ぶよんぶよん。

「んッ。……あ、強いから。んん……ッ」

「あー? なんだ。もっと強くしてほしいのか? おいおい。大丈夫かー。でっけえ声が出て、みんなに聞かれちまうんじゃねえのかー?」

 玲人の喘ぎ声もそうなのだが、本人はこそこそと囁いているつもりの涼太の声もまた実は大きめのボリュームであった。涼太は元々の地声が大きいのだ。多少、抑えたくらいでは殆ど抑え切れていなかった。

 当事者の玲人と涼太を除いた教室内の四十人弱、全員が、涼太の「みんなに聞かれちまうんじゃねえのかー?」という発言に対して、

(……聞こえてんだよッ!)

 と各々、心の中で力一杯に突っ込んでいた。

「ほんじゃま。リクエストにお応えてして、と。ぎゅーッ!」

「違ッ……痛、ああ……ッ」

「おおっと。声がでけえって、玲人くん。我慢しろ、我慢。みんなに気付かれちまうだろ」などと涼太は言っていたが、もうすでに、

(気付いてるっつってんだろ。……言えねーけど。)

(むしろ何で富田は俺らに気付かれてないと思えるんだよ。)

(毎日毎日毎日……飽きもせず、いちゃこきやがって。気付くに決まってんだろ。)

 手遅れも手遅れであった。


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