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しおりを挟む「京子ちゃんは、はじめからスズちゃんを人間として見ていた」と優花は言った。
「全部、分かってたのよね。だから簡単にキスしたりしなかったのよね」
「何の話?」と京子は苦笑いを浮かべる。
「私がスズとキスをしないのは。なんとなく。うざかったから。それだけよ」
「……そっかあ」と優花はまた何か一人で勝手に納得していた。
話題を変えたいという思いもあって。京子は尋ねた。
「優花はスズの事が嫌い? になった? 急に」
「え? ううん。そんな事ないわよ。好きよ。何? どうして?」
優花からの「どうして?」には答えずに京子は質問を重ねる。
「スズとのキスは悪い事?」
「悪い事……ではないと思うけど」
「じゃあ。何で優花はスズとのキスを拒否したの?」
京子も見ていた。あの日の拒否は「本気の拒否」だった。「やだー」とか「いまはキスしてる場合じゃないでしょー」といった感じではなかった。
だからこそ、優花の拒否はクラスの女子達に伝播したのだ。
「あれは……」
「あれは?」
「……恥ずかしくなったのよ」
「今更?」と京子は驚きを通り越して呆れてしまった。
「そうなんだけど。急に。恥ずかしくなったの」
「何で」
「それこそ本当に今更の話なんだけど。スズちゃんて別に犬や猫じゃなくてちゃんとした人間なんだよねって思ったら。意識したら。急に恥ずかしくなっちゃって」
「ふーん」
「いままでのキスも含めて全部、全部、スズちゃんには見透かされてるみたいな気がしてきちゃって」
言っている優花の顔は赤かった。耳まで赤い。思い返すのも恥ずかしいらしい。
正直、京子には良く分からない感覚ではあったが、
「良いんじゃない?」
テキトウに頷いてあげた。
「恥ずかしげも無くちゅっちゅするよりもずっとまともな感情だと思うけど」
優花ならばきっとまた自分で納得が出来るカタチに勝手に解釈してくれるだろう。
「そう……なのかな」
「それくらい重みのあるものが本来の――ちゃんとしたキスなんじゃないの?」
「……そっかあ」
数拍の間を置いて。優花の顔色が安定した事を確認した京子は、
「急に優花がスズのキスを拒否したせいで、真似っ子ちゃん達がスズから距離を取り始めてるから。深刻な状況に陥る前にスズも含めた皆の誤解をといてあげたら?」
優しくしてあげた事に対するバランスを取るみたいに意地悪な事を言う。
「ええ? 何で皆が。スズちゃんも? そんなの。どうしよう。どうしたらそんな事ないよってスズちゃんにも皆にも分かってもらえるかな」
「どうしたらって。言われなくても分かるでしょ。『答え』は決まってるじゃない」
「ちゅ」と唇に押し当てられた感触に、
「あれ?」
とスズは違和感を覚える。
この感触は確かに唇だ。でも。京子ちゃんの唇じゃない。この感触をスズは知っていた。
「優花ちゃん?」
スズはまぶたを開けながら呟いた。やっぱりだ。スズの黒い瞳には優花の赤い顔が映っていた。
「……うん」と優花は恥ずかしそうに頷いた。
可愛らしい照れ笑い顔だった。普段の桧山優花よりも少しだけ幼く見えた。
スズは、
「京子ちゃん……?」
その隣でこちらを見ていた伊藤京子に視線を送る。京子は、
「いつもの気軽なちゅっちゅじゃない、ちゃんとしたキスはもしかして初めてだったかしら。だとしたら大成功ね。初めてキスをされたスズがどんな顔をするのか、見てみたかったのよ」
にやりと満足げな笑みを浮かべていた。
「……京子ちゃんて」
前から思っていた事だけれど。改めてスズは思った。
京子ちゃんて――本当にあまのじゃく。
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