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1.早桃夫人の依頼
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月島志帆の祖母は、丘の上にある平屋の古民家で宅配便を営んでいる。
ただし、普通の宅配便ではない。
「今日の依頼、神様から2件、妖から1件。人間は0件ね」
「はーい」
志帆は顧客名簿を整理しながら、気の抜けた返事をした。
父方の祖母の家に居候中の志帆は、大学生の傍らアルバイトをしている。
ここは、かくりよと現世を繋ぐ宅配便。
祖母―月島時子が営むこの仕事の依頼人は、人間に限らない。
「志帆、留守番お願いね」
「任せとき。配達は翠さん?」
「ええ」
祖母が出ていくのと入れ替わるように、黒髪の青年がひょいと顔を出した。
「志帆さん、出来た?」
青と緑が混ざった不思議な瞳をもつ彼は、人の形をしているが付喪神だ。
月島宅配便の配達担当である。彼は何の付喪神なのか、何故ここで働いているのかも、未だ志帆には教えてくれない。
「うん。今日も人外案件多めだよ」
「いつものことですね」
軽く笑って、翠は荷物を受け取ると姿を消した。
本当に、どんな仕組みで消えているのかは分からない。
志帆が一人になってしばらくした頃、引き戸が静かに叩かれた。
「ごめんください」
現れたのは、上品な老婦人だった。
髪はきれいにまとめられ、背筋も伸びているが、顔色はあまり良くない。
「いらっしゃいませ。届け物ですか?」
「ええ。父に荷物を届けたくて」
老婦人は早桃と名乗った。
「では、届け先の住所、出現場所、もしくは地図をお願いします」
志帆は、紙とペンを差し出す。しかし、早桃は困ったように視線を彷徨わせた。
「それが、分からないの」
「え?」
早桃の父である、妖の花嵐は、春屋敷に住んでいるという。
だが春屋敷は、現れる場所が定まらず、春屋敷の住人からの招待がなければ辿り着けない。
早桃は孤児で、幼い頃に妖である父と人間の母に養子として迎えられたのだという。
しかし、母親の葬式以来、父の花嵐には一度も会ってないと早桃は教えてくれた。
「もう、私の寿命は長くありませんの。もって半年ほど」
早桃は、とある病により余命は半年。遺品整理の中で、譲り受けた母の形見をどうするべきか悩み、父に返そうと思い立ったのだという。
「でも、連絡も取れず、招待もないのだとどうしようもないのでは?」
「裏門の鍵なら持っているわ」
早桃が差し出した鍵は、銀細工のように美しかった。
「私の母、春宮桜子の親類である貴方なら縁があるから。きっと春屋敷に辿り着けると思うの」
春宮桜子。その名は、祖母から聞いたことがある。志帆の曽祖父と、春宮桜子という女性は兄妹だったとか。
「私は基本、受付担当ですので。ご期待に応えられるかは分かりません」
「それなら、それでいいの。無理を言ってごめんなさいね」
早桃が帰った後、どうしたものかと考える。
この手の依頼は、断れない。いや、断りたくない。
「私は賛成よ。いい経験にもなると思うわ」
どこまで話を聞いていたのか、祖母と翠がお茶菓子を差し入れてくれた。
「2人での仕事なんて久しぶりじゃないですか?」
翠も乗り気である。もう行く気になっているようだ。
「そうだね」
志帆は鍵を握り、小さく息を吐いた。
「やれるだけのことはやってみようか」
こうして志帆は、翠と共に招かれぬ“春屋敷”を訪ねることとなった。
ただし、普通の宅配便ではない。
「今日の依頼、神様から2件、妖から1件。人間は0件ね」
「はーい」
志帆は顧客名簿を整理しながら、気の抜けた返事をした。
父方の祖母の家に居候中の志帆は、大学生の傍らアルバイトをしている。
ここは、かくりよと現世を繋ぐ宅配便。
祖母―月島時子が営むこの仕事の依頼人は、人間に限らない。
「志帆、留守番お願いね」
「任せとき。配達は翠さん?」
「ええ」
祖母が出ていくのと入れ替わるように、黒髪の青年がひょいと顔を出した。
「志帆さん、出来た?」
青と緑が混ざった不思議な瞳をもつ彼は、人の形をしているが付喪神だ。
月島宅配便の配達担当である。彼は何の付喪神なのか、何故ここで働いているのかも、未だ志帆には教えてくれない。
「うん。今日も人外案件多めだよ」
「いつものことですね」
軽く笑って、翠は荷物を受け取ると姿を消した。
本当に、どんな仕組みで消えているのかは分からない。
志帆が一人になってしばらくした頃、引き戸が静かに叩かれた。
「ごめんください」
現れたのは、上品な老婦人だった。
髪はきれいにまとめられ、背筋も伸びているが、顔色はあまり良くない。
「いらっしゃいませ。届け物ですか?」
「ええ。父に荷物を届けたくて」
老婦人は早桃と名乗った。
「では、届け先の住所、出現場所、もしくは地図をお願いします」
志帆は、紙とペンを差し出す。しかし、早桃は困ったように視線を彷徨わせた。
「それが、分からないの」
「え?」
早桃の父である、妖の花嵐は、春屋敷に住んでいるという。
だが春屋敷は、現れる場所が定まらず、春屋敷の住人からの招待がなければ辿り着けない。
早桃は孤児で、幼い頃に妖である父と人間の母に養子として迎えられたのだという。
しかし、母親の葬式以来、父の花嵐には一度も会ってないと早桃は教えてくれた。
「もう、私の寿命は長くありませんの。もって半年ほど」
早桃は、とある病により余命は半年。遺品整理の中で、譲り受けた母の形見をどうするべきか悩み、父に返そうと思い立ったのだという。
「でも、連絡も取れず、招待もないのだとどうしようもないのでは?」
「裏門の鍵なら持っているわ」
早桃が差し出した鍵は、銀細工のように美しかった。
「私の母、春宮桜子の親類である貴方なら縁があるから。きっと春屋敷に辿り着けると思うの」
春宮桜子。その名は、祖母から聞いたことがある。志帆の曽祖父と、春宮桜子という女性は兄妹だったとか。
「私は基本、受付担当ですので。ご期待に応えられるかは分かりません」
「それなら、それでいいの。無理を言ってごめんなさいね」
早桃が帰った後、どうしたものかと考える。
この手の依頼は、断れない。いや、断りたくない。
「私は賛成よ。いい経験にもなると思うわ」
どこまで話を聞いていたのか、祖母と翠がお茶菓子を差し入れてくれた。
「2人での仕事なんて久しぶりじゃないですか?」
翠も乗り気である。もう行く気になっているようだ。
「そうだね」
志帆は鍵を握り、小さく息を吐いた。
「やれるだけのことはやってみようか」
こうして志帆は、翠と共に招かれぬ“春屋敷”を訪ねることとなった。
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