かくりよの宅配便〜春屋敷の招かれざる客〜

松林ナオ

文字の大きさ
2 / 5

1.早桃夫人の依頼

しおりを挟む
月島志帆の祖母は、丘の上にある平屋の古民家で宅配便を営んでいる。
 
ただし、普通の宅配便ではない。

「今日の依頼、神様から2件、妖から1件。人間は0件ね」

「はーい」

志帆は顧客名簿を整理しながら、気の抜けた返事をした。

父方の祖母の家に居候中の志帆は、大学生の傍らアルバイトをしている。

ここは、かくりよと現世を繋ぐ宅配便。

祖母―月島時子が営むこの仕事の依頼人は、人間に限らない。


「志帆、留守番お願いね」

「任せとき。配達は翠さん?」

「ええ」


 祖母が出ていくのと入れ替わるように、黒髪の青年がひょいと顔を出した。


「志帆さん、出来た?」


青と緑が混ざった不思議な瞳をもつ彼は、人の形をしているが付喪神だ。

月島宅配便の配達担当である。彼は何の付喪神なのか、何故ここで働いているのかも、未だ志帆には教えてくれない。


「うん。今日も人外案件多めだよ」

「いつものことですね」


軽く笑って、翠は荷物を受け取ると姿を消した。

本当に、どんな仕組みで消えているのかは分からない。

志帆が一人になってしばらくした頃、引き戸が静かに叩かれた。


「ごめんください」


現れたのは、上品な老婦人だった。

髪はきれいにまとめられ、背筋も伸びているが、顔色はあまり良くない。


「いらっしゃいませ。届け物ですか?」

「ええ。父に荷物を届けたくて」


老婦人は早桃と名乗った。


「では、届け先の住所、出現場所、もしくは地図をお願いします」

志帆は、紙とペンを差し出す。しかし、早桃は困ったように視線を彷徨わせた。


「それが、分からないの」

「え?」


早桃の父である、妖の花嵐は、春屋敷に住んでいるという。

だが春屋敷は、現れる場所が定まらず、春屋敷の住人からの招待がなければ辿り着けない。

早桃は孤児で、幼い頃に妖である父と人間の母に養子として迎えられたのだという。

しかし、母親の葬式以来、父の花嵐には一度も会ってないと早桃は教えてくれた。


「もう、私の寿命は長くありませんの。もって半年ほど」


早桃は、とある病により余命は半年。遺品整理の中で、譲り受けた母の形見をどうするべきか悩み、父に返そうと思い立ったのだという。


「でも、連絡も取れず、招待もないのだとどうしようもないのでは?」

「裏門の鍵なら持っているわ」


早桃が差し出した鍵は、銀細工のように美しかった。


「私の母、春宮桜子の親類である貴方なら縁があるから。きっと春屋敷に辿り着けると思うの」


春宮桜子。その名は、祖母から聞いたことがある。志帆の曽祖父と、春宮桜子という女性は兄妹だったとか。


「私は基本、受付担当ですので。ご期待に応えられるかは分かりません」

「それなら、それでいいの。無理を言ってごめんなさいね」


早桃が帰った後、どうしたものかと考える。

この手の依頼は、断れない。いや、断りたくない。


「私は賛成よ。いい経験にもなると思うわ」


どこまで話を聞いていたのか、祖母と翠がお茶菓子を差し入れてくれた。


「2人での仕事なんて久しぶりじゃないですか?」


翠も乗り気である。もう行く気になっているようだ。


「そうだね」


 志帆は鍵を握り、小さく息を吐いた。


「やれるだけのことはやってみようか」


こうして志帆は、翠と共に招かれぬ“春屋敷”を訪ねることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...