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平民のギラン
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このままではこの国が終わる。どうしたものかと考えて、やっぱり答えは一つしかなかった。
(私がストーリーを進めること…)
だが私は、[ヒロイン]、リリアーナ・エーデルではない。[悪役令嬢]のアリアンヌ・レーナードなのだ。
本来ヒロインと真逆の位置にある悪役令嬢が、ヒロインになれるのだろうか。
「…はぁ…」
だがしかし、ここでぐだぐだ考えて立ち止まっている暇がないのも事実。昔(前世)の偉い人も言っていた。為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、と。ならばそろそろ腹を決めねばなるまい。
(そうと決まれば…)
ぐっ、と拳を握りしめ、エド兄様の部屋へと突撃する。勢いをつけるため助走をつけ、バンっという音と共に開け放たれた扉の向こうには、読書中だったのだろう。膝の上で分厚い本を開きながら、その端正なお顔の目と口をぽかんと開けてこちらを向く、エド兄様がいた。
「エドにいさま!」
「え、え、どうしたの、アリア」
ただならぬ様子の私にすっかり戸惑っているエド兄様の姿に、畳み掛けるなら今だ、と確信した私は、小走りでエド兄様の側まで向かい、ずずいっと顔を近付けて言い放った。
「まちにまいりましょう!なかまをあつめるのです!」
たっぷり五秒の間の後に、エド兄様が漸く放った言葉は、たったの一文字だった。
「…は?」
あれから三日後。はじめは断固として拒否していたものの、結局私にとても甘いエド兄様は今こうして私に付き合い、共に街を歩いていた。
「で?」
「はい?」
いかにも不機嫌です、というように後ろを歩くエド兄様が、不意に言葉をかけてくる。
「はい?じゃなくて!なんで僕達はこんな店もなにもない住宅街を歩いてる訳?」
「もう、なんどもせつめいしたでしょう?わたくしたちはギランをむかえにきたのです!」
「僕だって、反対だって何度も言ったのに!アリアは僕だけじゃ不満なわけ!?」
「そういうわけではありませんが、ギランはとてもあたまがよくてじゅうなんなんです。いろいろとアドバイスがほしくて…」
伊達に平民の身で学園に特待生として入ったわけではない。ちゃらんぽらんなフリをしていた物の、他の生徒の様に家庭教師がついていた訳でもないのに常に最高峰の教育をされていた殿下とトップ争いをしていたのだから、その実力は折り紙つきだ。
それに、ギランは幼い頃から様々な仕事をして沢山の経験を積んでいた為かとても広い視野を持っている。確かに腹を決めたものの、未だ不安が残る将来のイベント攻略について何かしら意見が貰えるかもしれない。
だが、エド兄様はそれが不満らしい。アレク様はそういうことなら、と割とあっさりと承諾してくれたのだが(微妙に苦々しい顔をしていたのは見なかったことにする)、我が兄上様はどうにもそうはならなかった。
「えっと、おうとのホーレンのあたりだから…、このあたりでまちがいない、はず!です!」
「筈って…、というかアリア、ホーレンはそれなりに広い訳だけど、ここからはどうやって探すつもりなの?」
「それはもちろん、ひとにきくのです!」
「あっそ、僕は手伝わないからね!」
それから一時間、二時間と経って、一向に集まらない情報とそれに比例するようにしょぼくれる私と上機嫌になっていくエド兄様。
最終的には私を抱き上げたり撫でたりしながら、意気揚々と帰りの時間を告げるエド兄様と、沈んだ表情でお兄様にされるがままな私という図ができていた。
「アリア、アリア、可愛いアリアっ!もう充分だよねっ?帰るよねっ?」
「も、もうすこしだけ…」
「だぁめっ」
「…うぅ…」
もう少しだけ、というお願いも、可愛い顔をしたエド兄様に駄目という言葉で一刀両断されてしまい、泣く泣く帰ろうとしたその時。
「っ、リリアーナ…!!」
信じられないという様な声色でリリアーナを呼ぶ、探し人が現れた。
(私がストーリーを進めること…)
だが私は、[ヒロイン]、リリアーナ・エーデルではない。[悪役令嬢]のアリアンヌ・レーナードなのだ。
本来ヒロインと真逆の位置にある悪役令嬢が、ヒロインになれるのだろうか。
「…はぁ…」
だがしかし、ここでぐだぐだ考えて立ち止まっている暇がないのも事実。昔(前世)の偉い人も言っていた。為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、と。ならばそろそろ腹を決めねばなるまい。
(そうと決まれば…)
ぐっ、と拳を握りしめ、エド兄様の部屋へと突撃する。勢いをつけるため助走をつけ、バンっという音と共に開け放たれた扉の向こうには、読書中だったのだろう。膝の上で分厚い本を開きながら、その端正なお顔の目と口をぽかんと開けてこちらを向く、エド兄様がいた。
「エドにいさま!」
「え、え、どうしたの、アリア」
ただならぬ様子の私にすっかり戸惑っているエド兄様の姿に、畳み掛けるなら今だ、と確信した私は、小走りでエド兄様の側まで向かい、ずずいっと顔を近付けて言い放った。
「まちにまいりましょう!なかまをあつめるのです!」
たっぷり五秒の間の後に、エド兄様が漸く放った言葉は、たったの一文字だった。
「…は?」
あれから三日後。はじめは断固として拒否していたものの、結局私にとても甘いエド兄様は今こうして私に付き合い、共に街を歩いていた。
「で?」
「はい?」
いかにも不機嫌です、というように後ろを歩くエド兄様が、不意に言葉をかけてくる。
「はい?じゃなくて!なんで僕達はこんな店もなにもない住宅街を歩いてる訳?」
「もう、なんどもせつめいしたでしょう?わたくしたちはギランをむかえにきたのです!」
「僕だって、反対だって何度も言ったのに!アリアは僕だけじゃ不満なわけ!?」
「そういうわけではありませんが、ギランはとてもあたまがよくてじゅうなんなんです。いろいろとアドバイスがほしくて…」
伊達に平民の身で学園に特待生として入ったわけではない。ちゃらんぽらんなフリをしていた物の、他の生徒の様に家庭教師がついていた訳でもないのに常に最高峰の教育をされていた殿下とトップ争いをしていたのだから、その実力は折り紙つきだ。
それに、ギランは幼い頃から様々な仕事をして沢山の経験を積んでいた為かとても広い視野を持っている。確かに腹を決めたものの、未だ不安が残る将来のイベント攻略について何かしら意見が貰えるかもしれない。
だが、エド兄様はそれが不満らしい。アレク様はそういうことなら、と割とあっさりと承諾してくれたのだが(微妙に苦々しい顔をしていたのは見なかったことにする)、我が兄上様はどうにもそうはならなかった。
「えっと、おうとのホーレンのあたりだから…、このあたりでまちがいない、はず!です!」
「筈って…、というかアリア、ホーレンはそれなりに広い訳だけど、ここからはどうやって探すつもりなの?」
「それはもちろん、ひとにきくのです!」
「あっそ、僕は手伝わないからね!」
それから一時間、二時間と経って、一向に集まらない情報とそれに比例するようにしょぼくれる私と上機嫌になっていくエド兄様。
最終的には私を抱き上げたり撫でたりしながら、意気揚々と帰りの時間を告げるエド兄様と、沈んだ表情でお兄様にされるがままな私という図ができていた。
「アリア、アリア、可愛いアリアっ!もう充分だよねっ?帰るよねっ?」
「も、もうすこしだけ…」
「だぁめっ」
「…うぅ…」
もう少しだけ、というお願いも、可愛い顔をしたエド兄様に駄目という言葉で一刀両断されてしまい、泣く泣く帰ろうとしたその時。
「っ、リリアーナ…!!」
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