謂れのない罪に問われ追放された元公爵令嬢は、もう誰も信じられないので奴隷を買うことにした

くぅ

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3話

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森と近く、街の中心部からは程よく離れたところだった。立地的には十分だ。井戸も畑も揃っている。

レラジエは後ろに立つ不動産屋をチラリと見た。
不動産屋は少し肩を強張らせてから、「建ってからさほど時間も経っていません」と言った。

「元はある商会の創設者が、引退を機に建てた別荘でした。最期の時もここで迎えたとのことです。ただ、中々丈夫な作りをしていますからなぁ。お値段が…」
「構わないわ。契約書をちょうだい」
「ええ!それはもう!」

ニヤニヤとしながら不動産屋が紙を一枚取り出した。レラジエはそれに片眉を上げて、「控えは?」と不機嫌に言った。

「えー…と、ひかえ、控えですね、もちろん有りますとも!」
「そう。良かったわ。後からまた請求されたりしたら大変」
「な、何を適当なことを!」

しかしレラジエに睨まれて、不動産屋は仕方ない風に引き下がった。契約書にお互いのサインを書いて、レラジエがようやく宝石を渡すと、不動産屋はどこか悔しげにそれを受け取った。
その時受け取ったという証拠に一筆書かせる。横領されて、レラジエが未払いという扱いを受けない為の保険だった。

「で、では、お買い上げありがとうございます…」

今度はもう悔しい様子を隠そうともしなかった。睨まれて、不動産屋の手は握りすぎてブルブルと震えていた。
それでも自分の業績になるんだから、もっと喜べばいいのに。
ハァと軽くため息を吐いて、レラジエは屋敷の中に入っていった。家具はもう揃っていた。家具付きの物件だったのだ。
後ろについてきた奴隷達を、振り返るようにして見据えた。そのまま椅子に座る。

「さて、それじゃあ貴方達の名前を決めましょうか」

奴隷には名前がない。人間だった時の名前は、奴隷になる時剥奪されてしまうからだ。新しい名前は主人が決める。

「そこの兄弟は…それぞれ、シスとリトルでいいわ。姉の方がシス。小さい方がリトルね。…返事は?」
「は、はい、ありがとうございます」

シスは返事をしたけれど、リトルの方はだんまりのままだ。シスが軽く小突いたりして催促しても、中々リトルは従わない。
レラジエは、けれどそれを今は放っておくことにした。だって従わせるだけなら後からいくらでもできる。命令だ、と言えば奴隷は従わざるを得ない。だって、彼らはもう『ひと』の区分にはないのだから。家畜と同じ。

レラジエはさっさと二人から目を離した。シスの方がホッと息を吐く。
灰色の男がレラジエを見つめた。金色の瞳と、レラジエの赤色がかち合った。真っ直ぐな目だ。レラジエよりも、ずっと。

「…グレイよ。お前はグレイ。わかったら返事をして」
「はい、ご主人様」

レラジエは、途端に惨めな気持ちになった。
綺麗な瞳。金色の瞳。レラジエとは違う。忌み嫌われることのない瞳。なんて綺麗。なんて、羨ましい。
ただでさえ不安定だった。無理もない。今日追い出されたばかりなのだ。たった、15歳の少女が。
強がっているけれど、国に家族に捨てられた。貴族だからあからさまには向けられなかった差別を、直接受けた。
奴隷の前で、奴隷にされた人間の前で思うことではないかもしれない。だけど今レラジエが抱える『辛い』という気持ちは、確かにここにあるものだ。

「……いいわ。今日はもう、休みなさい。適当な部屋を使えば良い」

レラジエに、リトルが犯行的な目を向けた。同じタイミングで、リトルの腹がキュルキュルと鳴る。
辛いだろう。見たところ13くらいか。成長期だ。
だけど、レラジエはそれをわざと無視して、「はやく!」と怒鳴った。

「命令を使われたいの!?」

ビクリとシスが怯えた。使われたことがあるのだろう。
命令をされると、奴隷の身に軽く稲妻が走る。そして勝手に身体が動くのだ。ひどく痛みを伴うと聞いた。
リトルがそれでも反抗的であるのは、使われたことがないのだろう。
グレイはわからない。ただ軽く頭を下げて、「ありがとうございます」と言って従った。

リトルは結局、シスに連れられて部屋を探し出した。
レラジエは一人になったそこで、そのうちヒクヒクと嗚咽を溢しながら泣き出した。

レラジエの黒髪と似合わない、淡い色のドレス。後見人の叔父夫婦が、格好だけでも見苦しくないようにと選んだドレス。
そのドレスに、ポタポタと雫が落ちていった。




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