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4話
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デューク・バートンウッドは罪人である。
デューク自身、その意識をしっかりと持っていた。
デュークは14。姉のレラジエとは年子だった。最初レラジエを産んだ母は、ひどい中傷を受けた。呪われた女であると。
それを退けたくて早急に作った子供がデュークだった。茶色の髪に茶色の目。極めて普通な色に生まれたデュークを、母は大層喜んだ。
それでも、母は姉を愛していなかったわけではなかった。
出来るだけ外に出さないように育てていたけど、それは姉を守るためだった。少なくとも、母は心からそう思っていた。
母もまた、今はなき国の王女だった。父が王子であった頃に、同盟のために嫁いできた。
もっとも、母の国は小国で、この国の王朝が変わる躍動の時期を見計らって征服されてしまったけど。国は滅びて、王族も滅びて、生き残った家族は母の兄である叔父だけだった。
叔父は、ちょうどその時大使としてこの国に留まっていた。当時の王子夫婦を大使館に匿ったのも叔父だ。
叔父は祖国では5番目の王子で、しかも妾胎だった。早々に継承権を放棄して臣籍に降った。父王に可愛がられていたから、守る意味でも大使としてこの国に送られたのだ。
祖国が滅びてから、叔父はここで爵位を得て、ある令嬢を妻に迎えた。元の王子であった頃の名を捨てて、ヒューバートと名を改めた。姓はハーバー。ハーバー子爵となったのである。
やがて叔父は妻を迎えた。マリアという名の男爵令嬢だった。
デュークとレラジエの両親が死んでからは、二人は後見人として同じ屋敷に留まった。
ヒューバートはそこまででもなかったが、マリアはレラジエを酷く毛嫌いし、軽蔑していた。
生まれも、下位とはいえこの国の貴族。この国は、周りの国よりも特に差別の強いところがある。
マリアは何かあるたび、レラジエを見ながら「おお恐ろしい!」と叫んだ。決して直接的には言おうとはしなかった。身分で言ったら、レラジエの方が高いからだ。
義務として出席しなければいけない社交会がある。年に一度や二度程度だが、もちろんレラジエもそこに出なければならなかった。
王太子の婚約者が欠席など、到底承知されたものではないからだ。
レラジエの味方は、弟のデュークと、婚約者であるウォルターだけだった。
ウォルターは、母に止められ外に出られないレラジエのため、何度も何度もレラジエと手紙のやりとりをしていた。
幸いというか何というか、ウォルターは父であるジョン王によく似ていた。現実主義なところがだ。
レラジエの不吉なんて馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばして、たまにはお忍びで屋敷に来たことだってあった。
でも、結局レラジエは、ウォルターにもデュークにも裏切られて捨てられた。
行く当てなんて、きっとないだろう。頼れる親戚もいない。
ヒューバートはレラジエを勘当する手伝いをすることに少しためらったようだけど、結局はマリアの言いなりだ。マリアを愛しているからだ。言ってしまえば、レラジエは愛していないのだ。ただ、妹の娘だったから罪悪感を覚えただけ。
「たった二人の家族ですよ、姉上」
かつてデュークは、そう言ってレラジエの手を取った。いつも心細そうで、どこか弱々しい姉の手を引くのは、いつだってデュークの仕事だった。
「僕が守って差し上げます。おば上にだって負けませんよ!」
それで、レラジエはパチパチと目を瞬いて、「…まぁ」と微笑んだのだ。
「それでは、貴方はわたくしの騎士様ね。心強いわ、デューク」
「はい!」
あんなに儚く笑う人を、デュークは国王の前で糾弾し、大罪人に仕立て上げたのだ。
王家に対する詐欺罪。それでも主犯は母ということになったから、レラジエは貴族位の剥奪で済まされたけど。
公爵家はレラジエを勘当するように命じられ、それに従った。
あの人は今頃、きっと一人で泣いているのだろう。
不吉だ悪魔だと囁かれていたけれど、本当は誰よりも優しくって、弱い人だった。
──────────
人物整理
レラジエ…元バートンウッド。現在は姓はない。
グレイ…レラジエの奴隷
シスとリトル…レラジエの奴隷。姉弟。
デューク…レラジエの弟。成人とともにバートンウッド公爵になる予定。
ヒューバート・ハーバー…レラジエとデュークの叔父
マリア・ハーバー…ヒューバートの妻
ウォルター…王太子。レラジエの元婚約者。レラジエに対し情はあったが恋と愛はミライアに捧げている。
ミライア…身分は平民。しかし血筋が確かなのでそのうちバートンウッドに養子に入る。ラシードの婚約者内定中。
デューク自身、その意識をしっかりと持っていた。
デュークは14。姉のレラジエとは年子だった。最初レラジエを産んだ母は、ひどい中傷を受けた。呪われた女であると。
それを退けたくて早急に作った子供がデュークだった。茶色の髪に茶色の目。極めて普通な色に生まれたデュークを、母は大層喜んだ。
それでも、母は姉を愛していなかったわけではなかった。
出来るだけ外に出さないように育てていたけど、それは姉を守るためだった。少なくとも、母は心からそう思っていた。
母もまた、今はなき国の王女だった。父が王子であった頃に、同盟のために嫁いできた。
もっとも、母の国は小国で、この国の王朝が変わる躍動の時期を見計らって征服されてしまったけど。国は滅びて、王族も滅びて、生き残った家族は母の兄である叔父だけだった。
叔父は、ちょうどその時大使としてこの国に留まっていた。当時の王子夫婦を大使館に匿ったのも叔父だ。
叔父は祖国では5番目の王子で、しかも妾胎だった。早々に継承権を放棄して臣籍に降った。父王に可愛がられていたから、守る意味でも大使としてこの国に送られたのだ。
祖国が滅びてから、叔父はここで爵位を得て、ある令嬢を妻に迎えた。元の王子であった頃の名を捨てて、ヒューバートと名を改めた。姓はハーバー。ハーバー子爵となったのである。
やがて叔父は妻を迎えた。マリアという名の男爵令嬢だった。
デュークとレラジエの両親が死んでからは、二人は後見人として同じ屋敷に留まった。
ヒューバートはそこまででもなかったが、マリアはレラジエを酷く毛嫌いし、軽蔑していた。
生まれも、下位とはいえこの国の貴族。この国は、周りの国よりも特に差別の強いところがある。
マリアは何かあるたび、レラジエを見ながら「おお恐ろしい!」と叫んだ。決して直接的には言おうとはしなかった。身分で言ったら、レラジエの方が高いからだ。
義務として出席しなければいけない社交会がある。年に一度や二度程度だが、もちろんレラジエもそこに出なければならなかった。
王太子の婚約者が欠席など、到底承知されたものではないからだ。
レラジエの味方は、弟のデュークと、婚約者であるウォルターだけだった。
ウォルターは、母に止められ外に出られないレラジエのため、何度も何度もレラジエと手紙のやりとりをしていた。
幸いというか何というか、ウォルターは父であるジョン王によく似ていた。現実主義なところがだ。
レラジエの不吉なんて馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばして、たまにはお忍びで屋敷に来たことだってあった。
でも、結局レラジエは、ウォルターにもデュークにも裏切られて捨てられた。
行く当てなんて、きっとないだろう。頼れる親戚もいない。
ヒューバートはレラジエを勘当する手伝いをすることに少しためらったようだけど、結局はマリアの言いなりだ。マリアを愛しているからだ。言ってしまえば、レラジエは愛していないのだ。ただ、妹の娘だったから罪悪感を覚えただけ。
「たった二人の家族ですよ、姉上」
かつてデュークは、そう言ってレラジエの手を取った。いつも心細そうで、どこか弱々しい姉の手を引くのは、いつだってデュークの仕事だった。
「僕が守って差し上げます。おば上にだって負けませんよ!」
それで、レラジエはパチパチと目を瞬いて、「…まぁ」と微笑んだのだ。
「それでは、貴方はわたくしの騎士様ね。心強いわ、デューク」
「はい!」
あんなに儚く笑う人を、デュークは国王の前で糾弾し、大罪人に仕立て上げたのだ。
王家に対する詐欺罪。それでも主犯は母ということになったから、レラジエは貴族位の剥奪で済まされたけど。
公爵家はレラジエを勘当するように命じられ、それに従った。
あの人は今頃、きっと一人で泣いているのだろう。
不吉だ悪魔だと囁かれていたけれど、本当は誰よりも優しくって、弱い人だった。
──────────
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レラジエ…元バートンウッド。現在は姓はない。
グレイ…レラジエの奴隷
シスとリトル…レラジエの奴隷。姉弟。
デューク…レラジエの弟。成人とともにバートンウッド公爵になる予定。
ヒューバート・ハーバー…レラジエとデュークの叔父
マリア・ハーバー…ヒューバートの妻
ウォルター…王太子。レラジエの元婚約者。レラジエに対し情はあったが恋と愛はミライアに捧げている。
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