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5話
しおりを挟むレラジエが起きた時には、もう昼に近かった。
着替えがないからドレスのまま寝てしまって、疲れが取れた気は全くしない。
レラジエはそのまま部屋を出ると、そこで見つけたシスに言って奴隷を一つの部屋に集合させた。
「まずリトル、あなたにはキッチンを預かってもらうわ。食費にはこれを」
おはようの一言もないまま話し始めたレラジエに、最初睨んでいたリトルが金貨を一枚出した途端、目を瞬かせた。自分にそれだけの大金を預けられるというのがピンとこないのだろう。
「返事は?」
「…」
「そう。嫌な買い物をしたものね。なら私も、あなたを信じられるように力を尽くさなくては」
ふわりとレラジエが微笑んだ。しかし、その目にはやはり温かみはない。
制圧するための微笑みだった。人を使うためのものだ。やがて王妃となるとされていたから、そういう教育は充分に受けていた。王妃が容姿を理由に侍女から蔑ろにされてはいけないからだ。時には鞭の使い方まで覚えていた。
「【命令】よ、リトル。私に危害を加えるためのものを買うことや、食材、資金の横領は許さないわ。…ええ、そうね。水一滴飲むときにも私の許可を得てからでないとだめ。そういうことにしておきましょう」
にっこり。顔の前で手を合わせてそう言ったレラジエに、リトルが絶句した。シスはカタカタと震えていた。
もはやリトルは、レラジエの許可がなくては生きることすらできない。命令に反することをリトルがしようとした途端、強烈な痛みとともに身体が動かなくなる。
咄嗟に口答えしようとするリトルを、シスがうしろから覆い被さって防いだ。
レラジエはそれに軽く目をやってから、何事もないように次にシスに言葉を向けた。
びくりとシスが怯える。
「シス、あなたはこの家の家事をなさい。掃除、洗濯、あとは畑かしら。人手が足りなければ誰を使ってもいいわ」
「は、はい、ありがとうございます…」
「リトルの監督も任せます。リトルの罰はあなたが受けるし、どうしてもダメだった時はあなたがリトルを捨ててくるのよ」
「っふざけんな!なんで姉ちゃんが!」
「リトル、ねぇリトル。あなた、自分の立場をわかっていて?奴隷。お前は家畜と同じなのよ」
「だれが!」
「かわいそうに。きっとご両親に大切に育てられたのね。奴隷がどんなものかも教えられなかったのかしら。…ああ、それとも、そんなことすら教えてもらえないほどほっとかれていた?ただ働くことばかりを要求された?」
カアッとリトルの顔が赤くなる。図星だったらしい。
レラジエは表情を変えないまま、「そうね、」と話した。
「無知は罪だけれど、だからといって一律に罰するのも違うわね。予定を変更します。今日の分のリトルの仕事は、シス、あなたがなさい。ついでに、服や必要なものも何点か見繕って。グレイはシスの護衛につきなさい」
「はい、ご主人様」
「リトル、お前が今何になったのか、私が教えてあげるわ」
そう言って、レラジエは嫌がるリトルの手を無理に引っ張った。
抵抗されたけど、レラジエがひと言「【命令】よ」と言うだけでリトルはその場に痙攣しながら崩れ落ちて、自我がないみたいにユラユラとレラジエの後ろをついていった。
青褪めるシスの隣。グレイはどこか一歩引いた目でそれらを見ていた。
奴隷なんて汚らしいから触れたくもない。
そういう人間の方が多いのに。もしくは、憂さ晴らしに殴られるだけ殴られるか。
いうことを聞かないなら捨てられてもおかしくない。
女だから、幼い少年の容姿をしているから。需要があるからといって、身売りをさせられることだって珍しくはないのに。
シスもリトルもまだ子供だから、知らないんだろう。
グレイは顔を正面に向けてシスを見ないまま、「行くぞ」とひと言言った。
びくりと怯えるシスは、自分が一体どれだけ恵まれているか知らないのだろう。まともな仕事を貰える奴隷ほど幸せなものはないというのに。
奴隷を痛めつけた主人の方があんなに痛ましい顔をするなんて、聞いたこともない。
まるでレラジエの方が怯えた子供みたいだと思った。
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