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異世界転移・アルフェナ王国編
6話
しおりを挟む王城に仕える騎士の殆どは貴族出身だが、その大体が三男や四男である。
勿論、代々騎士団を治める立場にいる貴族の場合は問答無用で跡取りが騎士となるがそれはさておき。
彼ら、騎士という職業に就く者達は、驚くほどに女性とは縁のない生活を送っていた。
何故ならば、まず出会う時間がない。有事の際には国を守る職にある彼らは、日々を訓練に明け暮れた。勿論彼らはそれについて誇りを持っているため不満などがあるわけでもない。けれど、それでも彼らだって一度くらいはあたたかな家庭を夢見たことはある。愛しい妻と愛らしい我が子に囲まれて夕食を取る情景など、なんど脳裏に浮かばせたかわからない。けれど、世の女性たちはとても現実的であり、跡取りではなくいつ死んでもおかしくない職業に就く者に近づこうとする人間は全くと言っていいほどいなかった。たまにお?とうとう自分にも春が来たか?と思えば相手はまさかの女装をした恋愛対象は同性な男ということも、まぁあった。
と、ここまで長々と話して、つまりなにが言いたかったかというと。彼らは全然、全くというほど女慣れしていなかったのである。
そしてそこに絶世の美女が現れ、その上で笑顔でもって騎士達を応援したらどうなるか。
男を誘うように波打つ髪、涼しげな目元に赤く色付いた唇、何より女の象徴である胸がかなり大きく腰は細い。全体的にとても色っぽくて高嶺の花そのものなのに、可憐に明るく訓練でへとへとになった騎士達を労い挨拶をしてくれるというギャップ。
騎士達は、そんな男の夢や希望をめいいっぱい詰め込んだような美女に、それはもうめろっめろになった。
お上からかなりの雷をふらされたことも、美女も言葉を交わせた代償だと思えばとても安いことだと笑顔でそれを乗り切った。それを説教係が気味悪がって早めに切り上げれば、今度は瞬く間にこれはあの美女が何か口を聞かせてくれたに違いないという噂が出回った。
哀れな男共は幸せな気分で美女の言葉を忠実に守り、食堂ではかなりの量の食事を掻き込み、いつも以上に訓練に身を入れて、素振りの一振り一振りに魂を込めるが如く打ち込んだ。
訓練場は、美女と遭遇できた者とできなかった者との温度差で異様な空気に包まれた。
そんな中、火に油を注ぐが如くあの薔薇のような美女が訓練場に訪れたのだから。
その結果は、誰もが手に取るようにわかることだろう。
「まぁ!本当に下で見学をしてもよろしいのですか?」
驚いたように口元に手をやり、それから嬉しげに少しだけ口元を綻ばせ顔を赤らめた。驚いたことに、【演技】スキルのおかげか顔色から鼓動の速さまで思いのままなのだ。
「それは勿論っ!それにお恥ずかしい話、奴らはどうにもその方がやる気が上がるというのです」
「嬉しいです、騎士様方の素敵なところを、こんなに間近で見られるなんて…!私の世界には、騎士様はいらっしゃいませんでしかから」
「そ、そうですか…!」
てれてれと視線を彷徨わせる目の前の男性こそ、この騎士団の団長を務めるルートヴィヒ君だ。
歳は見た感じ十代後半と若い。それでいて黒目黒髪の、涼しげな雰囲気の美青年であった。
「皆様、とても真面目に素振りされているんですね。素敵です」
「真面目しか取り柄のない者ばかりですが、お気に召してくださったのなら何よりです。ですが、これから打ち込みの訓練もありますから。その…そちらには私も参加する予定ですので、よろしければ」
「まぁ、ルートヴィヒ団長様も?きっととてもお強いのでしょうね。今から楽しみです」
私のそれにパァ、と顔を輝かせて、丁寧に礼をしてから素振りをする騎士達のところに戻るルートヴィヒさんに、ひらひらと片手を振って見送った。
それからこっそりと、背後に控えてくれていたメアリーがルートヴィヒさんについて教えてくれる。
「ルートヴィヒ・グルーバー様。代々有能な騎士を輩出してきたこと、そして国王陛下への忠実な剣であることで有名なグルーバー公爵家がご長男です。歳は17で天才と名高く、14歳でこの第二騎士団の団長にまで上り詰めました。その端正な顔立ちも相まって年頃の女性にはかなりの人気がありますが、同時にとても冷酷であることも知られていますので、実際に声をかけられることは少ないのだとか」
「そうなの?とても冷酷な方には見えなかったけど…」
「それは、まぁ、かの天才も所詮は人の子だったということでしょう」
メアリーのそれに、もう一度そう、と返す。
もう一度ルートヴィヒ君の方に目を向けた。確かに、指導をする姿は先程とはまるで別人のような印象を受ける。
へぇー、と意外に思いながら彼を見つめていると、ふと脳内に突然明確なイメージが流れてきた。
【合わせて50人以上を魅了しました。スキル:魅了がLv.2になりました。スキル適応範囲が広がりました】
【合わせて50人以上を欺きました。スキル:演技がLv.2になりました。スキル練度が上がりました】
【第二騎士団団長、ルートヴィヒ・グルーバーが状態異常:美しき初恋になりました。スキル:清涼がLv.2になりました。スキル練度が上がりました】
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