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1日目 

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ジリリリリ……

目覚ましの音が鳴り響き、青葉健一は目を覚ました。

「……夢か……?」

ふざけた夢だ、先生にキスされた上にトラックに引かれるなんて。

「はっ、欲求不満か?」

運動でもすべきかと思いながら起き上がると、見覚えのある画面が出てきた。


『青葉健一(18) 身長174㎝ 体重63kg 中の上 3』


「おいおい、まじか。」

まだ寝惚けてるのかと目を擦るも画面は消えない。

予知夢にでも目覚めたのかと思っていると文章が変わった。

『母さんに呼ばれたので、朝食を食べる。』

「健一、ご飯よー。」

文字が出るのと同時に母さんの声が聞こえた。



「なぁ、母さん。これ見える?」

「これって何?あら、まだパジャマだったの?遅刻するわよ。」

「わ、わかってるよ」

一言一句覚えてる訳ではないが、夢と違う会話。

母親が同じ会話をしなかった事で健一は安心した。


「しっかし、一体何なんだこれ。」


『学校に向かった。』

玄関を出る数秒前にまた文字が変わる。


「こんな表示出たって、そりゃ学校に行くしかないだろ。」

画面には慣れてる気がしたが、景色と違和感を感じながら健一は学校へ向かった。


学校に向かう曲がり角で、また文字が変わった。


『右に曲がる→女の人にぶつかり、
       運命的な出会いを迎える

 左に曲がる→幼馴染みの智文と合流する』


「右に曲がってみるか……」

夢では左に曲がって智文と合流してたが、先ほどの母親との会話も変わったことから健一は右に曲がろうとした。

しかし、夢と同様、嫌な予感がして足が進まない。

「俺はもしかしたら右に曲がったことがあるのか……?」

ふと、女の人に出会い頭で刺された記憶が脳裏をよぎる。


健一がどちらにも曲がれず立ち止まっていると、左の曲がり角から智文がやってきた。


それと同時に選択肢が消えて、表示が変わる。

『荻野智文(18) 身長182㎝ 体重68kg 子犬系男子』

「おはよー、健一!どうしたの、顔真っ青だよ?」

「と、智文……」

「何かあっちが騒がしいね、どうしたんだろ?」

「何にもないさ!ほら、早く行かないと遅刻するぞ!」

健一は智文を引っ張り、左の曲がり角を走って曲がった。

右の曲がり角を曲がった先では、包丁を持った女の人が通行人を襲っていた。


学校に着くと、また文字が変わった。
選択肢を逃しても、特に新たに選択肢が出ることはなかった。

次の選択肢は健一にとって苦々しい記憶の選択肢だ。


『眠いので保健室に行く→好感度アップイベント
 教室に行く→智文の好感度アップイベント』

「……」

選択肢の答えは知っている。あのキスの感触が蘇るようだった。


「健一、やっぱり顔色悪いよ。保健室行く?」

「ほ、保健室なんて行くわけねぇだろ!早く教室行く。」

「えぇ、大丈夫?無理しないようにね。」


キスの感触を振り切るように口を手で拭い、健一は教室へと向かった。

『智文の好感度が5上がりました。』

選択肢から表示が変わった。


授業中も表示は消えないし、変わらない。
目の前にずっと智文の好感度が上がったと表示されている。

「おかしくなりそうだな……」

画面見たくなく、健一は机に伏せて眠ることにした。


授業が終わり、昼休みになるとようやく表示が選択肢に変わる。

『食堂に行く→好感度アップイベント
 教室で食べる→好感度アップイベント』

「一緒なのかよ。でも保健室の件もあるしな……」

好感度アップイベントはてっきり女の子との出会いと思っていたが、そう甘いものではなさそうだ。

「まぁ、弁当ないし、食堂で食べるしかないよな……」


警戒しながら食堂の入口で中を見ていると、後ろから声をかけられた。

「健一……中、入らないの……?」

「うわっ、何だ岳か。びっくりさせるなよ。」

健一が振り返り、文句を言うのと同時に画面の文字も変わった。

『根倉岳(18) 身長168㎝ 体重56g ヤンデレ』

「おまっ……彼女を大切にしろよ……」

岳に彼女が出来た話は少し前に聞いていた。
見た目は俺の方が良い気がするんだが……と不満にもなっていたが。

「何の話……?」

「いや、何でもねぇよ。食おうぜ。」

岳の表示から画面の文字は変わらない。
もしかしたら朝の様に何も起きない可能性もあるかと思い、健一は日替わり定食を食べる事にした。

「食後の飴……いる?」

「おー、サンキュー。」

岳から貰った飴をなめながら、食堂から出て岳と別れて中庭に向かう。

いつもなら適当なグループに入って軽く運動をするが、そんな気分でもなくベンチに座って空を眺めた。

「何もなかったな…」

ある意味拍子抜けだが、気にしすぎてもしょうがないのかもしれない。
もう一眠りするかと健一は目を閉じようとしたが、体が熱くなっているのに気づいた。

「ハァ……ハァ……そんな暑くねぇのに……」

気にしすぎた知恵熱かと思っていると、また選択肢が出てきた。

『保健室に行く→星野の好感度アップ
 このまま横になる→岳の好感度アップ』

「これは……保健室はアウトだろ……」

またキスされるかもしれない。そう思い健一はベンチに横になった。

「良かった、薬……効いてくれて……」

気づいたら岳が健一の頭の方に立っていた。

「あぁ……?ハァ……ハァ……薬って……」

健一は起き上がろうとするが、岳が上から乗り掛かってきた。

「可愛いなぁ……ほら、シャツが汗ばんで……ココ……」

「ひゃっ……おまっ……どこ触って……」

岳を振り落とそうとするも上手く力が入らない、健一の抵抗も空しくキスをされる。

「あっ……ん……」

「健一が悪いんだよ……色んなやつに愛想振り撒いて……」

「はぁ?……お前……何言って……」

第一こいつ彼女いるじゃねぇか。

「だからさ……俺だけ見てよ……」

そういいながら岳は健一の乳首を強くつねった。

「痛っ!や、やめてくれ……頼む……」

「その目……誘ってるよね……いいよね……」

「よ、よくねぇ!」

反動をつけてベンチから転がり落ちて、フラつきながらも健一は岳から逃げることに成功した。

『岳の好感度が10上がりました。』

「うるせーよ!んで……上がんだよ……」

昼休みの終わるチャイムがなった。
それと同時に画面の文字がまた変わった。

『教室に戻る。』

「こんな……状態で……戻れるか……」

一旦落ち着こうとトイレに向かおうとすると、上から植木鉢が落ちてきた。
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