ナナ

るの

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朝の鐘が鳴り響く。街の人々は家族で朝食を食べてから、それぞれ自慢の品をもってご近所さんと交換し合う。
「あら素敵な色ね。見ているだけで酔っちゃいそうだわ」
「うふふ、夫が作ったの。今年一番のきれいな赤が出来上がったわ。どう?飲んでみます?」
「そんな、いいのかしら?貴重なものでしょう。あ、そうだわ。じゃあ私はこのソテーを差し上げます。息子のものをじっくり煮込んだの」
「いい香りだわ!いただけるかしら」
「ええもちろん。いい交換ができました」
「こちらこそありがとう」
賑わいをみせる街の真ん中。あちらではレバーと白い飲み物を。こちらではミートパイとミートローフを。今日の昼ごはんのために、かごを持ってあちらこちらと歩き回る。家族においしいご飯を食べてもらいたいからと。

ハテス家の奥さんもその一人だった。今日は娘のナナの誕生日。それも特別な誕生日。
自宅のドアを開けるとナナが母に抱きついた。

「ママ!おかえりなさい!」
「ただいま。あ、ちょっと、せっかくのおいしい料理が落ちちゃうわ」
「ごめんなさい」

慌てた様子で母から身を離す。ソワソワした目でナナは言った。

「今日はなんの日でしょうか!」
「ん~なんだったかなあ、忘れちゃったわ」

母はもったいぶって忘れたふりをする。真に受けたナナはプゥ、と頬を膨らませた。

「うそうそ。かわいいナナちゃんの誕生日」
「それも、8歳のね!!」

この街で8歳の誕生日は特別だった。

「そうよ、だから見て」

母は自慢げにかごの中をナナに見せた。

「わあ!!」
「あなたの肉に合いそうな食材ばかりを選んできたわ」
「どれもおいしそう!とくにこの飲み物!」
「ナナはお目が高いわ。さすがはシェフの娘」
「パパにいろいろ教わってるからね!」

自慢げにするナナを微笑ましく見つめたあと、母はエプロンをかけてキッチンにたった。しばらくするとキッチンに香ばしいかおりがたちこめる。我慢できなくなったナナは、母の背中をツンツンとつついた。

「なあに?」
「ママ、ひとくち食べたいなあ」
「だめよ、これからごちそうをつくるのに」
「おねがい!一本だけ!」

必死に両手を合わせるナナに根負けした母は、仕方ないわね、と包丁で自分の小指をサクッと切り落とした。

「え~小指~?」
「なに?ママの小指じゃ不満かしら?」
「少ないよォ。中指がいいなあ」
「これ以上ワガママ言わないの」

母はナナをたしなめながら、小指を油でカラッと揚げた。母の小指はすでに生え変わっている。小指の唐揚げをナナの口に放り込むと、「んん~」と幸せそうに表情をとろけさせた。

「やっぱりママの指は最高においしいね!」
「自慢じゃないけど、この街で一番おいしいって評判なのよ」
「パパの太ももとどっちがおいしい?」
「いい勝負ね。まあ、ママじゃない?」
「それは聞き捨てならないなあ」

少し遅めに起きてきた父が笑いながら反論した。

「パパの太ももはレストランでも一番人気なんだぞ」
「わたしの小指もね」
「じゃあ、どっちも一番だね!」

ナナがニッコリと笑う。それにつられて両親もくすくすと笑った。

この街では、8歳になると初めて自分の肉を食料として使用できる。そして誕生日にはその子の肉をメイン料理にすることが多い。ナナは自分の肉を両親に食べてもらえることがとても楽しみだった。

「ナナ、初めてのことだから、腕くらいにしときなさいな」
「はあい」

ナナは嬉しそうに腕を差し出し、母は大きな包丁を大きく振りかぶった。その瞬間大量の血が噴き出し、ナナはあまりの痛さに気を失った。

気が付くと夕方になっていた。腕はちゃんと生えていたが、まだズキズキと痛みを感じる。

「ナナ、目が覚めた」
「うん」
「びっくりしたのかしら」
「すごく痛かったの」
「痛かった…?」

母と父は不思議そうに目を合わせる。

「ママとパパは、痛くないの?」
「ええ」
「痛くないよ」
「なんでナナは痛かったの?」
「少し変わっているのね…ナナ、あなたの体に包丁を入れてはいけないわ」
「でも…」
「ナナ」

父がたしなめる。

「パパとママは、ナナが痛くて気を失うところはもう見たくないんだよ」
「・・・」
「だから、言うことを聞いてくれるかい?」
「わかった…」

泣きそうになりながら、ナナは頷く。せっかくママとパパを喜ばせられると思ったのに、迷惑をかけてしまった。
重い空気に耐え切れなくなった母が、パン、と手を叩いた。

「でもね、ナナ。ママね、ナナの腕で料理をしたのよ。頑張って作ったから、みんなで食べましょう?」

少女の表情はコロコロと変わる。泣きそうな顔をしていたかと思えば、今では星が落ちそうなほど目が輝いている。三人は仲睦まじくダイニングテーブルへ座って、ナナの肉を使ったメイン料理をほおばった。

「お」

「あら」

父と母が驚いた顔をする。ナナも自分の肉を口に入れた。

「おいしい!!」

「これは絶品だな。今まで食べてきたどの肉よりもおいしい」

「ええ、ほんとうに」

「ママ、パパ、ナナのおにく、さいこう?」

「間違いなく最高だ」

「ええ、絶品よ」

その晩、3人は素晴らしい晩餐を過ごした。娘の肉を食べながら団らんするこの時がずっと続けばいいと家族は思いながら大切に時間を過ごした。
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