僕のスライムは世界最強~捕食チートで超成長しちゃいます~

空 水城

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第6章 肝試し大会編

第百十五話 「弱点」

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 満を持して開幕した肝試し大会ホーンテッドパーティー
 総勢数百名の参加者たちは、それぞれ自らの足の向くままにエリアに散り散りになっていった。
 まだ明確な地図はおろか、大雑把な地形すら把握できていないので、みんなどこに向かっていいのかわからないのだ。
 それは僕たちも同じ。
 勘だけを頼りに薄闇の広がるエリアを散策し、僅かながらもアイテムを採取していく。
 やがて僕たちは、一匹の野生モンスターと出くわすことになった。
 
 「ヒョオオオオオ」
 
 女性の息遣いにも似た鳴き声を上げる、白装束をまとった人型のモンスター。
 長い黒髪が血の気の失せた顔をほとんど覆い、素顔までは窺えない。
 手には薄っすらと透き通るガラス細工のような大鎌を持ち、威嚇するように空をバツ字に切っている。
 何よりも特徴的なのは、地を踏みしめているはずの”足”がないことだ。
 ふらふらと頼りなく浮遊し、この世の者ならざる風貌をしている。
 これが死霊種のモンスター。ホーンテッドホームに住む本場の幽霊型モンスターだ。
 さすがに僕も、そんな姿でゆらゆらと近づいて来られたら背筋に感じるものがある。
 しかし冒険者たるもの、野生モンスターに臆してはいけないと思い、ぐっと身構えた。
 野生モンスターである以上、倒せない相手ではないのだ。
 それに対策だって考えてきている。
 
 「クロリア、ミュウ、回復の準備!」
 
 それを実行しようと、後方のパートナーに向けて叫ぶ。
 だが……
 
 「……」
 
 一向に返事が返って来ることはなかった。
 すでに臨戦態勢に入っているライムと共に、くるりと後ろを振り返ると……
 遥か後方にある、エリアのインテリアの一つとなっている墓石の裏から、がたがたと震える黒マントが覗いていた。
 つい数瞬前まで、僕の背中に貼り付いていたというのに。
 案の定と言うか、予想通りと言うか……
 いざ幽霊モンスターを前にして、やはり怖くなってしまったらしい。
 こうなるんじゃないかとは思っていたけど、ここはクロリアとミュウに頑張ってもらわないと。
 
 「だ、大丈夫だよクロリア! こいつ、動きは鈍いから、すぐに近づいてくることはないと思うよ! それに僕たちが前に出るし……」
 
 「…………うぅ」
 
 ひょこっと墓石の裏から、『本当ですかぁ?』と言いたげに顔を覗かせる。
 するとその瞬間、怯えるクロリアを脅かすようにして幽霊モンスターが鳴いた。
 
 「ヒョオオオオオ!」
 
 「むむむ、無理です無理です!」
 
 「……」
 
 ……無理ですかぁ、そうですかぁ。
 で済む話ではなく、墓石の裏に引っ込んでしまったクロリアを見ながら、僕は嘆息した。
 本来なら、嫌がる彼女を無理矢理戦いに加えるわけにはいかないのだが。
 目の前にいる女性型の幽霊モンスター――まだ名前などは判明していない――は、なぜか物理的な攻撃が一切効かないらしいのだ。
 斬撃、打撃が無効となると、おのずと手段は限られてくる。
 そこで有効となるのが魔法による攻撃だが、しかし僕らのスライムパーティーは攻撃的な魔法手段を持ち合わせていない。
 ミュウの回復・支援魔法が唯一使用できる魔法ではあるが、筋力や素早さを強化したところでやはり攻撃は物理的になる。
 ここまで考えた時点で、僕らは幽霊討伐を断念すべきではないかとも思ったが、何やらこいつらは熱に弱いらしいという情報も耳にした。
 となれば、ライムの【分裂爆弾】が使えるようになる。
 【分裂爆弾】を使うということは【分裂】を使うということになり→【分裂】を使うということはライムの体力が半分になるということでもあり→体力が半分になるならクロリアとミュウに回復魔法を使っていただきたいのだが→以下略。
 とにかくこいつを倒すためにはクロリアたちの協力が不可欠なのだ。
 おそらく一撃だけでは熱量が足りないと思うので、できれば分裂体を三体ほどは用意したい。
 こんなことになるのなら、あらかじめ【分裂】と【ヒール】の併用で分裂ライムを大量(八体)生産しておくんだった。
 今さらながらの後悔に歯噛みしていると、のろのろと浮遊していた幽霊がようやくライムのもとにたどり着いた。
 
 「ヒャア!」
 
 ガラスのような鎌を大振りに薙ぐ。
 移動速度とは打って変わり、なかなかに素早い鎌捌きであった。
 物理的な攻撃が一切効かないのに反し、相手の鎌だけはこちらを的確に切り裂いてくる。
 そんな不条理に対してライムは……
 
 「キュルル!」
 
 ぴょんと跳ねて、軽々と斬撃を回避した。
 続く二撃、三撃もぴょんぴょん飛んで余裕も持って躱していく。
 確かに厄介な相手ではあるが、攻撃は至って直線的だ。
 今のライムなら小一時間でも避け続けることができるだろう。 
 あれならしばらくは持つ。
 けど……
 
 「キュルッ!」
 
 鎌を掻い潜ったライムは、ちょっとお試しするような感じで体当たりを決行した。
 武器を振り抜いた体勢で固まる幽霊は、水色の砲弾をモロに受ける。
 しかし……
 スカッ、と擬音が聞こえるほど見事に、ライムは幽霊の体を通過してしまった。
 腹から背中にかけてスポンッと抜けた相棒を眺め、僕は眉を寄せる。
 物理的な攻撃が効かないのは確かみたいだ。
 相手の攻撃を避け続けることは可能だが、それと同じようにこちらの攻撃も通用しないのでは一向に勝負がつかない。
 
 「…………こうなったら」
 
 僕は覚悟を決めて、相棒を呼ぶ。
 
 「ライム!」
 
 「……キュル?」
 
 不思議そうな顔でこちらを向いたライムは、鎌の攻撃を飛び越えながら僕の足元まで戻ってきた。
 頭に疑問符を浮かべて、きょとんとこちらを見上げてくる。
 
 「【分裂】だよ、ライム」
 
 「……キュルキュル」
 
 少し考える素振りを見せたが、ライムは素直に僕の『主の声オーダー』に応じてくれた。
 ぽよんと心地よい音を奏でながら、ライムの体からもう一匹のライムが飛び出してくる。
 今度は二匹同時に不思議そうな顔で見上げられて、僕は分裂体の方に右手を差し伸べた。
 
 「分裂ライム、【膨張】だ」
 
 「キュルルゥ」
 
 どうやら手を出した時点で察してくれたようで、分裂ライムは僕の右手に乗っかり、空気を吸い込み始めた。
 ぷくぷくと膨らんでいく姿を目にして、一つ頷くと、次いで視線を持ち上げて死霊種のモンスターに向き直る。
 だが……
 
 「あれ?」
 
 ……いない。
 どこに行ったのだろうかと、足元のライムと共に視線を泳がしていると、不意に遠方から声が上がった。
 
 「ルゥ君後ろ!」
 
 「――ッ!?」
 
 すかさず振り返ると、そこには鎌を振りかぶる幽霊がいた。
 ぎょっと目を見張り、驚いたように飛び退る。
 するとすぐ目の前を、左から右に流れるようにして刃が通過していった。
 前髪がちょっと切れた。
 
 「あ……っぶなぁ!」
 
 右手の分裂ライムを落とさぬよう、器用に後退する。
 同じくついて来た本体のライムに、僕は『主の声オーダー』を掛けた。
 
 「ライム、あいつを引き付けるんだ!」
 
 「キュルキュル!」
 
 相棒は打てば響く答えを返し、地面を弾んで幽霊の前に立った。
 分裂後の疲労した体に鞭を打つようで悪いが、今はこれしかできない。
 それにライムなら、半減した体力でも問題なく幽霊型モンスターの相手ができるはずだ。
 しばし敵を揺さぶるようにして、ライムは幽霊の周りをうろちょろした。
 その間、僕の右手の上では分裂ライムが膨らみ続けている。
 今のライムでも引き付けるだけならそこまで負担にはならないと思うけど。
 しかし無茶をさせている事実が頭の片隅で引っ掛かり、予定より少し早く僕は声を上げた。
 
 「下がれっ!」
 
 「キュルル!」
 
 ぴょんっと力強く地面を弾んで後退するライム。
 それと入れ替わるようにして、僕は分裂ライムを放り投げた。
 右手から抛られたそれは、水色の放物線を描いて死霊種のモンスターに迫る。
 大きさは、通常サイズの二倍ほど。
 これなら……
 
 「【自爆遊戯デッドリーボム】!」
 
 「キュルルルゥ!」
 
 可愛らしい声と共に、膨張した分裂ライムから眩い閃光が放たれる。
 瞬間、耳をつんざくような爆音と、顔を覆いたくなるほどの熱風が前方から吹き荒れた。
 衝撃で土埃が舞い、地面は余波を受けて僅かに震えている。
 幽霊モンスターがいた場所は、きっちりと熱気に満たされてしまった。
  
 「キャアアアアア!」
 
 その中から、女性の悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。
 まるで業火の中、今までの過ちを悔やむようにして断末魔を上げる虚しい女性のようだった。
 思わず僕は、ごくりと息を呑む。
 するとその瞬間、土煙の中で微かに光が散る光景を捉えた。
 それと同時に悲鳴が止んだところを鑑みると、どうやら奴を無事に倒せたようだ。
 やがて煙が晴れ、その中心に薄青色の魔石を見つけると、僕は勝利を確信した。
 深々と息を吐きながらそれを拾い、最後に健闘してくれた相棒のもとまで歩み寄る。
 
 「お疲れ様、ライム」
 
 「キュルキュル!」
 
 抱き上げて頭を撫でると、ライムは嬉しそうな声で鳴いた。
 思ったよりも元気そう。
 分裂後の疲労はほとんど窺えない。
 これまで幾度も【分裂】を使用してきたので、一回くらい使ってももう問題はないようだ。
 だからといって無理をさせる気はないけど。
 相棒の確かな成長を喜び、「えらいぞぉ」なんて言いながらライムを撫でていると、不意に後方から足音がした。
 振り向くとそこには、申し訳なさそうに顔を伏せるクロリアがいた。
 彼女は胸に抱えたミュウに目を落としながら、ぼそっと告げる。
 
 「……す、すいません」
 
 「あっ、えっと……」
 
 何に対して謝っているのかは、言われずともわかった。
 僕は大層へこむパーティーメンバーに向けて、多少狼狽えながら返す。
 
 「ま、まあ、苦手なモンスターを実際に前にしたら無理ないよ。それにあの時、後ろから声かけてくれただけでもすごい助かったし。ていうかあのモンスターが消滅するときなんか、僕でも若干引いちゃったし」
 
 「……」
 
 慰めの言葉は、むしろ彼女の肩をますます落とすものとなってしまった。
 これは相当こたえてるなぁ。
 戦いに参加できなかったことももちろんなのだろうが、何より実際に死霊種のモンスターを目の当たりにした衝撃が深く突き刺さっているのだ。
 僕は別段、苦手なモンスターとかはいないのでその感覚はわかりかねるけど。
 だからこそ慎重にならなければいけない。そう思った僕は建設的な提案を出した。
 
 「今日はもう、帰ろっか」
 
 「……」
 
 するとクロリアは、何か言いたげな顔を僅かに上げた。
 が、すぐに伏せてしまう。
 そして”ごめんなさい”と言うように、ぽつりと答えた。
 
 「……す、すいません」
 
 しょんぼりとするクロリアを見上げて、従魔のミュウも顔を曇らせてしまった。
 まあ、まだ初日だし、仕方がないこともあるのだ。
 クロリアの怯えをそのままにしてエリアを探索するわけにもいかないし、それに焦る必要もない。
 また明日来て、少しずつ頑張ってもらおう。
 こうして僕たちは、大会が開始してからほんの僅かで、エリアに背を向けることとなった。
 
 明日辺りは、館まで行きたいところだ。
 
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