僕のスライムは世界最強~捕食チートで超成長しちゃいます~

空 水城

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第6章 肝試し大会編

第百十四話 「ホーンテッドパーティー」

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 昼間だというのに、そこは夜間のように薄暗かった。
 周囲に木々が密集しているせいだろう。
 さらにその上、誰が灯したかもわからない紫のランプがあちこちに置かれていることもあり、不気味さに拍車をかけている。
 ここがホーンテッドホーム。
 最近見つかったらしい新エリアだ。
 
 そこにはすでに大勢のテイマーたちが集っていて、同じ数の従魔たちも合わさって物凄い混雑を生んでいる。おそらく大会の参加者たちだろう。
 そして前方に見える正門の前には、全員を見渡すように視線を泳がす一人の女性が佇んでいた。
 司会者と思しき声を上げたのは彼女のようだ。
 ピンク色のショートヘアにきらきらくりくりした同色の瞳。
 顔は一見、同年代と思ってしまうほど幼いものだが、きっちりとした服装なので印象がだいぶ変わってくる。
 この大会の司会者さん? というかギルドの職員さんだろうか?
 彼女はこの場に似つかわしくないはきはきとした喋りで、なおも司会を続けていた。
 
 「ビビって逃げたら栄光は掴めない! それが今回行われる肝試し大会ホーンテッドパーティー! 悪魔種や死霊種のモンスターに恐れることなく立ち向かうことができるでしょうか!?」
 
 鮮やかなピンクの髪を振り乱しながら、全体に響くように大きな声を上げている。
 エリアの雰囲気もそうだが、さらにそれとはミスマッチな司会者のダブルパンチを受けて、僕は唖然としてしまった。
 目的地に着いた瞬間にこの景色。大会に間に合ったはいいものの、これにはさすがに硬直せざるを得ない。
 あのテンションはいったい何なのだろう?
 という疑問は僕だけのものではなかったようだ。
 
 「な、何なんでしょうあの人?」
 
 「さあ? この大会の司会進行ってことは、ギルドの職員さんとかじゃないの?」
 
 同じ疑念を抱くクロリアに対して、僕は面白くもない答えを返す。
 大会を取り仕切っているのはギルド本部なので、司会者を務めている人もその関係者だと思うけど。
 いつもクールビューティーなシャルムさんに受付をしてもらっているので、ギルド職員のイメージとはかなりかけ離れている。
 大きなイベント事で舞い上がっているから? いや、元々そういう性格の人なんだろうなぁ。
 さすがテイマーズストリートのギルド本部。職員の中にも特殊な人が混じっているようだ。
 
 「あんなに大きな声を出されると、不安を煽られているように感じます」
 
 「そ、そんなに無下にしなくても」
 
 エリアの正門前で意気揚々と司会を務める女性を見て、クロリアは忘れていた不安を蘇らせてしまったようだ。
 いつの間にか僕の後ろに回り込み、背中の裾を控えめに掴んでいる。
 ホーンテッドホームを実際に目にした恐怖もあるのだろう。ここは大人しく支柱になってあげようかな。
 そしてもしギルドで依頼を受ける時は、あのピンク髪の人は極力避けようと思う。
 なんて他愛のないことを考えていると、再び彼女の元気な声が聞こえてきた。
 
 「ではでは開催直前ということで、改めてルール説明に参りたいと思います!」
 
 色々言ってしまった後でなんだが、これはなかなかにありがたい。
 時間ぎりぎりに到着した僕らは、周りの参加者たちと違ってまだ何も聞いていないのだ。
 怯えるクロリアを背に、僕は司会者の声に耳を傾ける。
 
 「肝試し大会ホーンテッドパーティーのルールは超簡単! ホーンテッドホームと名付けられたこのエリアで、アイテムを採取してくるだけです! そこらに咲いている怪しげな花でも構いませんし、野生モンスターを討伐して魔石を持ち帰ってきても結構です! とにかくたくさん集めて係員の方までお持ちください!」
 
 自然と周りのテイマーたちも声を落とす。
 女性司会者はその静寂を貫くように、声高く続けた。
 
 「その際、アイテムの入手難易度に応じて仮想ゴルドを提供いたします! 仮想ゴルドは大会後に実物のゴルドと交換させていただきますのでご安心を!」
 
 次いで精一杯ホーンテッドホームの不気味な空気を吸い込むと、強調するように言い放った。
 
 「そして! これがこの大会の最大の特徴! 仮想ゴルド改め『ポイント』を一番多く獲得した方には、優勝賞金として三十万ゴルドが贈呈されます!」
 
 瞬間、『うおぉぉぉ!』という獰猛な叫びがそこらじゅうから打ち上がった。
 大会の開催を心待ちにする参加者たちだ。その主人の声に呼応して『ガオォォォ!』と多種多様な従魔の鳴き声も轟く。
 胸が熱くなるような喧騒なれど、僕は両手で耳を塞ぎながら景色を眺めていた。
 これ、オバケがいなくなるんじゃありませんか?
 そう思わざるを得ないほどの賑やかさだった。
 もちろんこんなことで死霊種のモンスターがいなくなるはずもなく、今頃エリアの中では野生モンスターが人の声を聞いて殺気立っていることだろう。
 オバケ大嫌いのクロリアからしてみればいい迷惑である。
 その上、大声を聞いて再び不安を煽られたようで、一層怯えた様子で体を小さくしていた。
 こんな調子で本当に大丈夫だろうか? と僕も不安に思っていると、不意にささやかな呟きが聞こえた気がした。
 
 「ただ一つ注意していただきたいのは怪我や事故は自己責任ということになりますので悪しからず」
 
 今までの元気さに身を隠すようにして、司会者の女性は早口で付け足していた。
 なんたる手法。もちろん、エリア探索をするのだからそれなりの覚悟を持ってきたけれど、そんな補足をされてしまったら否応なく不安は募ってきてしまう。
 しかし女性司会者はそれを悪びれる様子もなく、再び元気を取り戻して叫びを上げた。
 
 「さあさあ! ではでは! 参りましょう! 新エリア探索型イベント肝試し大会ホーンテッドパーティー! いよいよ開催でーーーすっ!!!」
 
 先ほどよりも強く、それでいて地面を伝って足裏まで響くほどの歓声を、冒険者のみんなは上げた。
 いよいよホーンテッドパーティー開幕である。
 痛く響く喧騒の中、僕はふむと顎に手を当ててルールのおさらいをした。
 エリアに入ってアイテムを取ってくる。ただそれだけ。
 ということは、手段も自由ということだ。
 怪我や事故は自己責任という項目はやや引っかかりを覚えるけど、ようはこの大会、僕たちが以前フローラフォレストで行なった花探しの延長みたいなものだ。
 特に気にすることもなくエリア探索をすればいい。
 脳内でおさらいを終えると、後ろのクロリアが騒いでいることに気が付く。
 
 「えっ? えっ? もう始まるんですか?」
 
 「みたいだねぇ」
 
 呑気に答える僕と違って、彼女はおろおろと目を泳がせていた。
 しかし無情なことに、肝試し大会の開催は待ってくれない。
 皆がエリアに駆け込む構えをとる中、僕も同じように出遅れまいと、『位置について、よ~い……』のポーズをとった。
 いつでも『ドンッ!』の準備はできている。
 その最中、後ろのパーティーメンバーに向けて一声掛けておいた。
 
 「行くよ、クロリ…………?」
 
 だが、寸前で気が付く。
 黒髪おさげの少女が、まるで動く意志がないと言うように体を縮こまらせて、僕の背中に貼り付いていることを。
 
 「…………ま、まだ……心の準備が……」
 
 「えっ?」
 
 疑問の声を上げたその瞬間、参加者の群れが一斉に走り出した。
 大小様々な従魔もいるせいで、足音が地響きを起こし、鳴き声が空気を震わせて、しばし壮絶な騒音が流れる。
 次第に遠ざかっていくライバルたちを見つめながら、僕は呆然と固まってしまった。
 やがて硬直を解くと、いまだに怯えた様子のクロリアを振り返り、苦笑しながら告げた。
 
 「……見事に出遅れちゃったね」
 
 彼女は申し訳なさそうに肩を落とす。
 
 「す、すいません」
 
 特に咎めるつもりはないんだけど、しかし困ったことになったなぁ。
 この大会での目標は、もちろん優勝。
 開幕数秒でその目標から遠ざかってしまうのは望むところではない。
 かといって怖がっているパーティーメンバーを、無理矢理引きずるわけにもいかないし……
 
 「……ま、僕たちはゆっくり行こうか」
 
 「……は、はい」
 
 肩をすくめて楽観的に言うと、彼女は謝意の籠った頷きを返した。
 僕たちは僕たちのペースで。
 優勝賞金は確かにほしいけれど、まずはパーティーメンバー全員が怪我をしないというのが大前提だ。
 無理をするなかれ。
 焦る気持ちを完全に排除して、すっかり遠くに行ってしまった参加者たちを眺めながら、僕はふと思った。
 
 「そういえば、冒険者試験の時もこんな感じだったっけ?」
 
 「えっ?」
 
 「僕たち、走るのが遅かったから、集団の最後尾に並んで森に入ったんだよね。その時とちょっと似てるなぁって」
 
 「そ、そう……ですね」
 
 クロリアは背中にしがみついたまま同意する。
 あのときの試験参加者と大会参加者の背中姿が、面白いほどに重なっているのだ。
 その時のことを思い出しながら、僕はクロリアに目を移し、再びふと思った。
 
 「ま、あのときほど仲良くはないけど……」
 
 「そ、それは――!」
 
 不意に零した愚痴に、彼女は大きな反応を見せる。
 僕の背中から離れ、何か言いたげな顔でこちらを見ていた。
 しかし上手い文句が浮かばず、ぱくぱくと口を開閉させている。
 すると彼女は、ふと気が付く。
 小さくしていた体が、怒りによって奮い立っていることを。
 怖さよりも、怒りの方が上回っていることを。
 震えは消え、怯えは治まり、自らの足でしっかりと地を踏んでいた。
 僕はふっと微笑むと、目をぱちくりとさせるクロリアに言った。
 
 「じゃ、行こっか」
 
 「……は、はい」
 
 ホーンテッドホームの正門に向かって歩き始めると、クロリアは問題なくついて来てくれた。
 何気なく放った愚痴のおかげで、幾分かは恐怖を取り払ってあげることができたらしい。
 しかし本番はこれから。どうなることやらわかったものではないけれど……
 
 さあ、肝試し大会ホーンテッドパーティーの始まりである。
 
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