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第七話「宰相フランネル」PART2
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帝国軍を進駐させ、移民を送り込み、完全に領土化する手もあったのだが、帝国本土よりも広く、広大に過ぎる荒れ果てた国土と周辺国との利害調整などもあり、結局断念せざるを得なかったのだ。
フランネルとしては、初めからこうなるのが目に見えていた。
だからこそ……バランティに対する殲滅戦争を思い留まるように再三説得したのだが……。
獣人はスライム化した人間を呆気なく看破してしまう……それ故、ガズマイヤーは獣人を必要以上に危険視、地上からの絶滅を望み……その無謀な試みは案の定失敗した……。
彼自身、獣人王を討ち取り、国民を皆殺しにすればいいと単純に考えていたようだったが、そんなに簡単に済む話ではなかった。
もちろん、相当数の獣人を殺し、奴隷に落としたものも数多くいたのだが。
相当数が森や山岳地域へと逃げ込み、もしくは各国へ潜伏し帝国への反抗を続けていた。
共存や恭順などは論外……その程度には獣人共の感情は帝国への怨嗟に満ちていた。
これはむしろ、当然の結果……地上からの絶滅を目論んだのは帝国側なのだ……相手も当然ながら帝国を地上から消すか、自分たちが絶滅するか……とことんまで争うつもりなのだろう。
ガズマイヤー直卒による獣人達の残党狩りも何度となく行われたのだが……バランティの深淵の如く深い森や峻険な山々を含む広大な国土に阻まれて、その試みはことごとく失敗していた。
焦土化して、田畑に塩をまいたりしたのも失敗で、草木も生えない不毛の土地が続くような有様では、現地調達など論外の状況となり、長蛇の列となった補給線を獣人のゲリラに狙われたりといいようにやられ……。
挙句の果てに、獣人共の誘いに乗って、深入りした結果……炎龍の棲む山に踏み込み、その怒りを買い……一個師団が文字通り全滅、ガズマイヤー本人も焼き殺されかけ……命からがら逃げ帰って来る羽目になった。
さすがに、これはあまりに酷い結果で、それっきりガズマイヤーは前線に出るとは言い出さなくなり、もはや、討伐軍すら出さなくなってしまった。
要はすっかり恐れを成してしまったと言う訳だった。
その結果が広大な無法地帯の誕生と終わりの見えないテロとの戦い……と言う訳なのだから、全く持って始末に負えなかった。
いずれにせよ、現状を鑑みるとやはりあれが躓きの始まりだったとフランネルは痛感していた。
今や、バランティア近辺だけではなく、他の国でも問題が多発していた。
勇者を名乗る者によって、唐突に統一された東方の海洋国家ラスフィール。
恐ろしく強力な未知のテクノロジーを用いた艦隊により、100余隻もの規模を誇った帝国外洋艦隊があっさり壊滅……艦隊の母港もそれを擁する城塞都市ダロンも見せしめとばかりに、徹底的に破壊……焼き尽くされてしまった。
元々、帝国自体は内陸部に位置しており、ダロンは飛び地の租借地と言う扱いだったのだが。
帝国の外洋進出の拠点は、完全に失われてしまった……帝国艦隊の再建には恐らく年単位の時間が必要だった。
ラスフィールについては、海の向こうの島国と言う立地条件に加え、鎖国状態なのでスライムによる浸透も監視網の設置も出来ず、はっきり言って打つ手がなかった。
……沿岸諸国はその侵略の手がいつ伸びてくるか戦々恐々としながらも、一部の沿岸都市では勝手にラスフィールと貿易を始めたり、もはや制御不能の状態になりつつあった。
現状の救いとしては、ラスフィール自体は、制海権を掌握して以降は内陸部に興味はないとばかりに、一切手を出してこない事だった。
海洋国家と言うのは得てしてそう言うものだから、帝国側としては艦隊の再建準備を進めながら、ラスフィールとの交渉を持つべく、水面下でその道を探りつつ、沿岸諸国との協力体制を維持するに務める……そんな所だった。
帝国に比肩する大国の一つ、ファルマル法国も教皇とその側近をスライム化する事で、無力化出来ていたと思ったら、クーデターが勃発。
教皇派と反教皇派とで、国内を二分しての内乱の真っ最中……今のところ、帝国の支援を受けている教皇派が有利のようなのだが、まったくもって予断は許せない。
その原因がそもそも、スライム化した教皇が祈りの力を使えないと暴露されてしまった事にあるから。
対処方法としては、もはや現教皇を退陣させるしかないのだが、後継者問題で揉めるのが目に見えていた……後継者次第では、法国が完全に敵に回ってしまう……そうなると帝国も一挙に危うくなる。
こちらも現状としては、趨勢を見守るしか無かった。
帝国領土内も、あちこちで一揆やクーデター未遂が相次いでおり、平穏無事とはいい難い状況。
特に貧しい農村などでは、再三の保護の告知を無視して、農作物への食害対策としてスライムが狩られ、監視網が行き届かず一揆の事前鎮圧も出来なくなってしまい、年々対処が難しくなっていた。
シンプルに税率でも下げれば済むのだが、ガズマイヤーがそれを許さない。
フランネルの忠告に従い、税率を下げた結果、領地運営に問題が生じたということで配下のスライムから直訴され、呆気なく元の木阿弥となってしまったのだ。
長い目で見れば、現状のほうが問題なのだが……スライム共は人並みの知能を持っても、どうにも機械的で短絡的な傾向がある上に、その首魁たるガズマイヤーは言うまでもなく愚かだった。
現状、問題のあるスライムの領主を密かに排除して、まともな人間の領主にすげ替えつつあるのだが、これも遅々として進んでいない。
衛星国家群も特にオルメキア周辺が不透明になりつつある。
完全に敵対国となったオルメキア国内の監視網が壊滅した事もあるが、隣国にあたる衛星国家のルメリア共和国でも監視網にあちこちほころびが出来つつあった。
どうも女神の使徒と聖光教会過激派の一派が潜入して、様々な工作を仕掛けているようだった。
これまでは上手くやってきたが……どうやら、あちこちで綻びが出来つつあるとフランネルも実感する。
その綻びの原因を突き詰めていくと、ガズマイヤーの行き過ぎた予防攻撃とスライム共の無能さ故にと言う結論に辿り着いてしまうのだが。
今はまだ、その時ではなかった。
フランネルとしては、初めからこうなるのが目に見えていた。
だからこそ……バランティに対する殲滅戦争を思い留まるように再三説得したのだが……。
獣人はスライム化した人間を呆気なく看破してしまう……それ故、ガズマイヤーは獣人を必要以上に危険視、地上からの絶滅を望み……その無謀な試みは案の定失敗した……。
彼自身、獣人王を討ち取り、国民を皆殺しにすればいいと単純に考えていたようだったが、そんなに簡単に済む話ではなかった。
もちろん、相当数の獣人を殺し、奴隷に落としたものも数多くいたのだが。
相当数が森や山岳地域へと逃げ込み、もしくは各国へ潜伏し帝国への反抗を続けていた。
共存や恭順などは論外……その程度には獣人共の感情は帝国への怨嗟に満ちていた。
これはむしろ、当然の結果……地上からの絶滅を目論んだのは帝国側なのだ……相手も当然ながら帝国を地上から消すか、自分たちが絶滅するか……とことんまで争うつもりなのだろう。
ガズマイヤー直卒による獣人達の残党狩りも何度となく行われたのだが……バランティの深淵の如く深い森や峻険な山々を含む広大な国土に阻まれて、その試みはことごとく失敗していた。
焦土化して、田畑に塩をまいたりしたのも失敗で、草木も生えない不毛の土地が続くような有様では、現地調達など論外の状況となり、長蛇の列となった補給線を獣人のゲリラに狙われたりといいようにやられ……。
挙句の果てに、獣人共の誘いに乗って、深入りした結果……炎龍の棲む山に踏み込み、その怒りを買い……一個師団が文字通り全滅、ガズマイヤー本人も焼き殺されかけ……命からがら逃げ帰って来る羽目になった。
さすがに、これはあまりに酷い結果で、それっきりガズマイヤーは前線に出るとは言い出さなくなり、もはや、討伐軍すら出さなくなってしまった。
要はすっかり恐れを成してしまったと言う訳だった。
その結果が広大な無法地帯の誕生と終わりの見えないテロとの戦い……と言う訳なのだから、全く持って始末に負えなかった。
いずれにせよ、現状を鑑みるとやはりあれが躓きの始まりだったとフランネルは痛感していた。
今や、バランティア近辺だけではなく、他の国でも問題が多発していた。
勇者を名乗る者によって、唐突に統一された東方の海洋国家ラスフィール。
恐ろしく強力な未知のテクノロジーを用いた艦隊により、100余隻もの規模を誇った帝国外洋艦隊があっさり壊滅……艦隊の母港もそれを擁する城塞都市ダロンも見せしめとばかりに、徹底的に破壊……焼き尽くされてしまった。
元々、帝国自体は内陸部に位置しており、ダロンは飛び地の租借地と言う扱いだったのだが。
帝国の外洋進出の拠点は、完全に失われてしまった……帝国艦隊の再建には恐らく年単位の時間が必要だった。
ラスフィールについては、海の向こうの島国と言う立地条件に加え、鎖国状態なのでスライムによる浸透も監視網の設置も出来ず、はっきり言って打つ手がなかった。
……沿岸諸国はその侵略の手がいつ伸びてくるか戦々恐々としながらも、一部の沿岸都市では勝手にラスフィールと貿易を始めたり、もはや制御不能の状態になりつつあった。
現状の救いとしては、ラスフィール自体は、制海権を掌握して以降は内陸部に興味はないとばかりに、一切手を出してこない事だった。
海洋国家と言うのは得てしてそう言うものだから、帝国側としては艦隊の再建準備を進めながら、ラスフィールとの交渉を持つべく、水面下でその道を探りつつ、沿岸諸国との協力体制を維持するに務める……そんな所だった。
帝国に比肩する大国の一つ、ファルマル法国も教皇とその側近をスライム化する事で、無力化出来ていたと思ったら、クーデターが勃発。
教皇派と反教皇派とで、国内を二分しての内乱の真っ最中……今のところ、帝国の支援を受けている教皇派が有利のようなのだが、まったくもって予断は許せない。
その原因がそもそも、スライム化した教皇が祈りの力を使えないと暴露されてしまった事にあるから。
対処方法としては、もはや現教皇を退陣させるしかないのだが、後継者問題で揉めるのが目に見えていた……後継者次第では、法国が完全に敵に回ってしまう……そうなると帝国も一挙に危うくなる。
こちらも現状としては、趨勢を見守るしか無かった。
帝国領土内も、あちこちで一揆やクーデター未遂が相次いでおり、平穏無事とはいい難い状況。
特に貧しい農村などでは、再三の保護の告知を無視して、農作物への食害対策としてスライムが狩られ、監視網が行き届かず一揆の事前鎮圧も出来なくなってしまい、年々対処が難しくなっていた。
シンプルに税率でも下げれば済むのだが、ガズマイヤーがそれを許さない。
フランネルの忠告に従い、税率を下げた結果、領地運営に問題が生じたということで配下のスライムから直訴され、呆気なく元の木阿弥となってしまったのだ。
長い目で見れば、現状のほうが問題なのだが……スライム共は人並みの知能を持っても、どうにも機械的で短絡的な傾向がある上に、その首魁たるガズマイヤーは言うまでもなく愚かだった。
現状、問題のあるスライムの領主を密かに排除して、まともな人間の領主にすげ替えつつあるのだが、これも遅々として進んでいない。
衛星国家群も特にオルメキア周辺が不透明になりつつある。
完全に敵対国となったオルメキア国内の監視網が壊滅した事もあるが、隣国にあたる衛星国家のルメリア共和国でも監視網にあちこちほころびが出来つつあった。
どうも女神の使徒と聖光教会過激派の一派が潜入して、様々な工作を仕掛けているようだった。
これまでは上手くやってきたが……どうやら、あちこちで綻びが出来つつあるとフランネルも実感する。
その綻びの原因を突き詰めていくと、ガズマイヤーの行き過ぎた予防攻撃とスライム共の無能さ故にと言う結論に辿り着いてしまうのだが。
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