英雄の弾丸

葉泉 大和

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3-15 リッカvsアンガス

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 ***

「世界政府、だと……。お前みたいな女が……?」

 アンガスは立ち上がりながら言った。リッカはアンガスの言葉に反応せず、沈黙を保っている。

 頭の中に蠢いた思考を振り払うようにアンガスは首を左右に振ると、ティルダの方に向いた。ボスであるティルダに判断を仰ぐようだ。ティルダは悪質な笑みを崩すことはなく、親指を首元に近づけた。そして、そのまま真横に動かした。

 アンガスはティルダの仕草を見て口角を上げると、

「只の女だと思って正直興が乗らなかったが――、面白い。世界政府の人間をこの手でやることが出来るなんて、そう簡単にねーからなァ!」

 自らの懐からリッカに向けて何かを投げ出した。

「まずは小手調べだ! さぁ、どうする!?」

 アンガスが投げ出した物は、手榴弾だった。今にも火花を散らし、爆発しそうである。

「――」

 しかし、アンガスが遠距離からの攻撃を主流とすることは、バルット荒地での邂逅を通してリッカには読めていた。

 だから、リッカは動じることなく冷静に状況を分析し、鞭を握る手を強めると、

「やぁ!」

 鞭を振り、手榴弾を誰もいない方角に向けて弾いた。それにより手榴弾は爆発してしまうが、もちろん爆発による被害は誰にも及ばない。

「ハハッ、いいぜェ! まずは及第点だ! だが、次は同じようにはいかねぇぞ!」

 そう言うと、アンガスは三つ同時に手榴弾を投げつけた。縦一線になってリッカを襲う。

 リッカは鞭を強く握り直すと、どう切り抜けるか考え始めた。
 このまま逃げるという選択はリッカにはない。リッカが手榴弾に対して何もしなければ、後ろにいるクルムにそのまま手榴弾が向かってしまう。出来ることなら、クルムに負担は掛けたくないのがリッカの心境だった。
 三つ同時に迫り来る手榴弾を、リッカは鞭を使ってアンガスに返すことにした。

 リッカは大きく鞭を振りかぶると、そのまま腕を力強く下ろしつける。すると、鞭が風を切る音を伴いながら、先頭の手榴弾に届く――、

「同じようにはいかねぇって言っただろ!」

 届く直前、アンガスの怒号と共に、リッカの前に手榴弾とは違う何かが別の軌道から飛んで来た。その軌道はリッカの横腹を狙ったもので、どこか鋭く光っている。

 そして、その存在に気付いた時には、すでに遅かった。

「っつ!」

 リッカの服に一つの細い線が出来上がっていて、そこから赤い色が滲み始めている。ナイフで切られたようだと、傷を見てようやく理解することが出来た。

 アンガスの新たな攻撃に気を取られ動きを鈍くしてしまった、その一瞬。

 手榴弾が熱を発し始め、膨張をしていた。

 リッカは鞭を器用に操り、一つの手榴弾だけ弾くことに成功したが、残りの二つは処理することが出来ず、爆発を起こしてしまった。

「――ッ!」

 リッカの体は爆風に当てられ、後ろへと持っていかれてしまった。受け身を取ろうとするも、勢いを殺しきることが出来ず、リッカは床を何回転もするような形になった。その途中、手にしていた鞭を離してしまう。

「……う、うぅ」
「ハハハ! ざまーねぇな! お寝んねの時間にはまだまだ早ェぞ!」

 そんなリッカを嘲笑うように、アンガスは手榴弾を投げる手を止めなかった。手榴弾は容赦なく、倒れるリッカに近づいていく。

「――ッ!」

 リッカは手榴弾が音を上げて迫り来るのに気が付くと、痛む体を無理やり叩き起こし、鞭が転がっている場所まで走り抜けた。手榴弾はリッカの背後で轟音を伴って爆ぜた。

「そんな簡単に行かせるかよッ!」

 鞭を回収しに走っているリッカを、アンガスは容認することはしない。アンガスは手榴弾を連続で投げつけた。

 落ちている鞭とリッカの間に、四つの手榴弾が等間隔に投げられた。

 その事実を確認しながら、リッカは足を止めず、構わず鞭に向かって走り始めた。
 リッカが踵を返すならば、確かに爆発を免れることが出来るかもしれないが、そうすれば唯一の武器である鞭は無事では済まないだろう。鞭がなくなったら、リッカにはアンガスに対抗する術がなくなってしまう。

 鞭までの距離が自分の背丈ほどにまで近づくと、リッカは思い切り鞭に向かって跳び込んだ。そして、そのまま華麗に鞭を掴むと、地面に手を着き、反動を使って回転する。体勢を整えてから走るよりも、勢いを利用して距離を開ける方が時間の無駄が少なく、効率的だった。

 実際、リッカが鞭を掴んで数秒後、背中越しに手榴弾の爆ぜる音が聞こえた。熱風がリッカの体にまで届く。

 しかし、先ほどの攻撃に比べると、被害はゼロに等しいものだ。

 リッカは立ち上がると、鞭を構え直し、アンガスに攻撃を仕掛けに行った。

「ちィ! だが、鞭を手にしたところでお前が不利な状況は変わらねェ!」

 アンガスはリッカを近づけさせないように、ナイフを投げつけた。

「――それはどうかしら!」

 リッカは難なくナイフを鞭で弾き返した。

 アンガスの顔が驚きに包まれるも、すぐに立て直し、再びナイフを投げた。今度はナイフを四本投げ、それぞれ動きを変えた。
 しかし、リッカはナイフの特徴的な動きも冷静に捉え、鞭を振り、その返し手で四本すべてのナイフを防いだ。

「何ッ!?」

 リッカがナイフを全部防ぐとは予想していなかったのだろう、アンガスは思わず声を上げた。

 そして、咄嗟にアンガスは懐から手榴弾を掴み、投げようとした。しかし、その手は途中で止まる。

 リッカは狙い通りと言わんばかりにニッコリと笑みを浮かべると、

「この距離なら、投げられないと思った!」

 そう。リッカとアンガスの距離は限りなく近づいていた。それこそ、アンガスが手榴弾を投げれば、互いにその影響を受け合うぐらいの距離だ。

 今までリッカに近づくことをせず、遠距離からでしか攻撃を仕掛けなかったアンガスには、打つ手はないはずだ。

 勝利を確信したリッカは、

「これで――、終わりよ!」

 今までの中で一番速く、強く、鞭を振るった。鞭は容赦なく、アンガスの首元に迫っていた。

 この鞭が当たれば、アンガスは立つこともままならなくなり、気を失うはずだ。

「――リッカさん!」

 しかし、そんなリッカの耳に、クルムの声が貫くように入った。その声は、リッカの勝利を称えるような声音ではなく、むしろ逆の――リッカを案ずるような、そんな声だった。

 そして、クルムの心配を裏付けるように、

「俺が遠距離攻撃しか出来ないとでも思ってるのか?」

 リッカの耳に、別の声が目の前から聞こえてきた。

 アンガスの声が響き渡ると、リッカの目の前にナイフがいきなり飛び込んできた。否、飛び込んだのではなく、アンガスがナイフを押し付けに来たのだ。そして、その速さはリッカの鞭がアンガスに届くよりも、僅かに上だ。

「――っ」

 リッカは鞭を振る手を急停止、その場でバックステップを取ると、瞳を狙っていたアンガスのナイフを何とか躱した。その際、髪が何本かナイフによって切られてしまったが、目を抉られるより良い。

 しかし、リッカが一息吐くのは、まだまだ早かった。

「その場所は俺の独壇場だ!」

 アンガスは持っていたナイフを投げ、それに加えて、懐から取り出した手榴弾を投げつけた。
 リッカはバックステップで距離を開きながら、鞭を使って、ナイフと手榴弾を弾いた。

「ちッ!」

 攻撃を塞がれたことにアンガスは舌打ちをすると、ひとまず攻撃の手を止めた。同じように攻撃を繰り返したとしても、リッカに対応されてしまうことに気付いたのだろう。

 そして、一定の距離を保つと、リッカとアンガスは互いに出方を探り合うような膠着状態に陥った。
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