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4-15 深い闇に呑み込まれ
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***
「アアァアアア!」
ピンデは怒号を上げながら、自身を取り巻く黒い渦から槍を生成していく。
魔技の威力は、負の感情の強さに比例する。だから、人の中に潜む悪魔は、その人物の目を背きたくなる過去を無理やり掘り下げ、負の感情を爆発させていく。
今、ピンデの中に潜む悪魔は、終の夜の二人によって一瞬にして滅ぼされたペシャルの姿を何度も何度も見せつけている。
「――ッ!」
不条理に対する怒りが、ピンデの闘争心を燃やし続ける。けれど、魔技を作り上げるためには、ピンデにとって好条件ばかりではない。トラウマを見せ続けられることも、負の感情を保ち続けることも、精神を摩耗し、摺り切り、そして闇に蝕まれていく。
しかし、魔技を作り上げるための犠牲など、復讐を遂げるためにならいくらでも我慢出来よう。
ピンデは荒々しい息を上げながら、出来上がったばかりの槍を、
「ウオオォオオオォオオォ! 魔技・ウェルテクスランサーッ!」
怒りをぶつけるように、目の前にいるクルムではなくダイバースの町に向かって穿たせた。満身創痍で、攻撃も通ることのないクルムのことを、ピンデは眼中になかった。それよりも、内から溢れる破壊の衝動に身を任せる。
驚異的な威力を伴った槍が建物を瓦礫へと変えようと、螺旋を描きながら建物に迫っていく。
ペシャルの拠点が崩れた時の鬱憤を晴らせると確信するピンデは、恍惚とした表情へと歪めた。
そして、まさに魔技が一つの建物へと到達しようとした瞬間、
「――!?」
一発の銃声が、雨音を割って響く。
そして、銃声の余韻が消えた頃には、かき消されていたのはピンデが放った魔技だった。魔技は建物の直前で黒い霧となって霧散し、雨空の中に溶け込んでいく。
魔技が阻まれるとは想像すらしていなかったピンデは、殺意に満ちた眼差しを銃声が聞こえた方角に向けた。
「キ、貴様ァ……ッ!」
「これ以上好きにはさせませんよ」
そこには当然、闇夜を照らすような黄色い銃を構えるクルムの姿があった。
全身傷だらけで満身創痍のはずなのに、クルムからは弱っている雰囲気を微塵にも感じさせない。今発した言葉を、本当に有言実行してしまいそうだ。
その往生際の悪いクルムの姿が、ピンデにとって無性に腹が立つ。何故居場所を奪われたこちら側が、邪魔をされなければならないのか。
――頭を冷やせ。ただのまぐれだ。お前ならもっとやれる。
しかし、怒りのあまり我を忘れるピンデの頭の中に囁くような声が響き渡った。ピンデにしか聞こえない囁きに、ピンデは唆され、息を深く吐いては冷静さを取り戻す。
「ハッ、その通りだ……。たった一回止めただけでいい気になるなよ」
そう、まだピンデは一度だけ魔技を防がれただけだ。何もピンデの体に攻撃を受けた訳ではない。手負いのクルムに出来ることは、この程度が限界だとピンデは高を括る。
「誰も俺を邪魔することは出来ねェ! そこまで戯言を吠えるっていうなら、こいつも止めてみせるんだなァ!」
「……っ、多い!」
先ほどまでは魔技を一発ずつしか放っていなかったのに、ピンデは同時に四つの渦を槍へと変化させていた。一つ一つの槍が、禍々しく、鋭く尖っている。
突然のピンデの攻撃方法の変化に、戦いを見守っていたリッカ達は声を上げた。
いくらクルムでも、四つの魔技を一度に対処するのは難しいだろう。
ピンデは勝ち誇ったように狂笑を浮かべ、
「まァ、所詮無理な話だろうがな! 魔技・ウェルテクスランサァァアァァア!」
声を張り上げたのと同時、魔技は家々を破壊するために四方に射抜かれた。
「ハァ、ハァ、ハッ、ヒャハハ!」
一度に四つも魔技を繰り出したことに息を荒げていたが、すぐに勝利を確信したようにピンデは高笑いを上げ始めた。魔技は音を切るように素早く、建物を蹂躙しに向かっている。
しかし、狂笑を浮かべていたピンデの顔の隣を、勢いよく風が横切っていく。
「――ッ!?」
ピンデは笑いを止め、今まさに横を過ぎていった何かに顔を向ける。
見れば、ピンデの背後の建物を狙った魔技に――、つまりクルムと一番距離の遠い魔技を弾丸が追いかけていた。そして、建物に魔技が到達するよりも早く弾丸は命中し、黒い槍は相殺された。
「ッ、だがなァ、まだ三つも残って――」
一発止められるのは予想の範囲内だ。すぐにピンデは立て直そうとする。
しかし、ピンデが言い切る前に、クルムは自身の体を回転させ、左、後ろ、右と順に照射する。すると、見事に建物一つ傷付けることなく槍を消滅させた。
ちょうど一回転したクルムはピンデに銃口を向けて、
「言ったはずです。もうこれ以上好きにさせません、と」
「ちィィィッ」
ピンデは明らかな怒りを込めて大きな舌打ちを奏でた。まるで自分の思い通りに事が進まないことに癇癪を立てる子供のようだ。
黒い渦に囲まれるピンデは、殺意に満ちた眼差しをクルムに向けた。
しかし、クルムは平然と受け流し、ピンデを見通すように見る。否、クルムの瞳に映っているのは、ピンデを苦しめている悪魔だ。
「そろそろピンデさんから離れて頂きます」
「――」
一時、確かな静寂が訪れた。空気が完全に変わる瞬間、傍から見ても何か異変が起ころうとしていると気付けるほどだ。その発生源となっているのが、ピンデだった。
先ほどまであんなに荒立っていたはずなのに、今のピンデは目を閉じ、何かの余韻に浸っているかのように大人しくなっている。
しかし、その見た目とは一転、ピンデの内側は混沌としていた。
――やはり人間に任せるのは、見るに堪えねェ。俺によこせ。
この時、ピンデの中に僅かに留まっていたピンデの精神が、悪魔によって更なる深淵へと押し込められていた。ピンデは必死に抗うも、当然負の感情を抱いたピンデには成す術はなかった。言うなれば、元々黒い絵に、更に黒色の絵の具を塗るようなものだ。抵抗しても意味がない。ただただ暗い闇の中に落ちていくしかなかった。
そして、ピンデはゆっくりと目を開くと、
「嫌だね。これはもう悪魔の体だ。ほら、見ろよ」
ピンデの体を乗っ取っている悪魔は、何かを主張するように大きく腕を広げた。その仕草に、クルムは銃を持つ手を無言で強く握り締める。
ピンデが何かを示したいということは、遠くにいるリッカ達にも伝わっていた。
しかし、悪魔の態度が何を意図しているのかよく分からない。だから、どうしてクルムが悔しそうに銃を握り締めているのか分からなかった。リッカとシンク、そしてオッドは、ピンデの体に何が起こっているのか注意深くまじまじと見つめる。
「あ! あいつ、怪我がなくなってるぞ!」
最初に異変に気が付いて声を上げたのは、シンクだった。
シンクの声に、リッカとオッドもピンデの体を見てみると、確かに先ほどペイリスによって受けたはずの傷が癒えていた。
「そう、小僧の言う通りだ。この黒い渦には悪魔の力が籠っていてな……、人間を傷付ける武器にもなれば、人間を癒す薬ともなるのさ」
ピンデはうっとりとした表情で、自身の周囲に張っている黒い渦に触れながら言う。
普通の人間なら、当然体に出来た傷が瞬く間に勝手に癒えることなどあり得ない。時間をかけて、人間の構造通りに自然の流れに委ねながら治していくものだ。しかし、悪魔人となった人間は、悪魔の力を利用することで不可能を可能にする。
しかし、体の傷が癒え痛みがなくなるからと言って、それが正しいかと言えば否だ。悪魔の力を使う分、その人間の精神は更に悪魔に蝕まれていく。そうすれば、いつしかその体は悪魔のものとなり、元の人間の心は押し込められ、閉じ込められ、消える。まさに今のピンデのように、だ。
甘美な言葉で誘惑し、使えば不釣り合いな代償しか与えない。それが悪魔のやり口だ。
「お前も使うか、クルム・アーレント。その傷だらけの体も、悪魔に委ねれば癒えるぞ?」
「そんなものに頼ると思いますか?」
「ハッ、予想通りの言葉だ」
悪魔はピンデの体を使って、クルムを馬鹿にするような笑みを浮かべる。そして、身体の調子を確かめるように首を鳴らし、腕を回すと、
「さて、と。だいぶ、この体も動くようになって来た。やっぱ破壊行為ってのは自分の手でやらねェとなァ!」
そう狂笑を浮かべ、ピンデの体を囲んでいた黒い渦を掴んだ。そのまま、黒い渦を自身の右胸に当てる。すると、黒い渦がピンデの体の中に入っていき、不自然な脈動を見せた。そして、ピンデの全身から黒い渦が再び漏れ出し、ピンデの全身を卵のように丸く覆い始めた。
「な、何が起こってるの?」
遠目に見ていたリッカは、思わず声を漏らすも、その疑問に答えられる人間はリッカの近くにはいない。シンクも、オッドも、ゆっくりと首を振るだけだ。
ただ分かることは一つ。人間を逸脱した行為が、ピンデの体で起こっているということだ。
「――ッ!」
しかし、まるでこの先何が起こるかを予想しているかのように、クルムは切羽詰まった表情でピンデに向けて弾丸を放つ。だが、その弾丸もピンデを覆う渦に呑み込まれ、悪魔が起こす行動に影響を与えることは出来ない。
黒い卵のような形態になった渦は、やがて収束し、人の形へと姿を変える。
まるで卵から生まれた雛のように姿を現したピンデは、黒く禍々しい鎧に全身が包まれていた。
「アアァアアア!」
ピンデは怒号を上げながら、自身を取り巻く黒い渦から槍を生成していく。
魔技の威力は、負の感情の強さに比例する。だから、人の中に潜む悪魔は、その人物の目を背きたくなる過去を無理やり掘り下げ、負の感情を爆発させていく。
今、ピンデの中に潜む悪魔は、終の夜の二人によって一瞬にして滅ぼされたペシャルの姿を何度も何度も見せつけている。
「――ッ!」
不条理に対する怒りが、ピンデの闘争心を燃やし続ける。けれど、魔技を作り上げるためには、ピンデにとって好条件ばかりではない。トラウマを見せ続けられることも、負の感情を保ち続けることも、精神を摩耗し、摺り切り、そして闇に蝕まれていく。
しかし、魔技を作り上げるための犠牲など、復讐を遂げるためにならいくらでも我慢出来よう。
ピンデは荒々しい息を上げながら、出来上がったばかりの槍を、
「ウオオォオオオォオオォ! 魔技・ウェルテクスランサーッ!」
怒りをぶつけるように、目の前にいるクルムではなくダイバースの町に向かって穿たせた。満身創痍で、攻撃も通ることのないクルムのことを、ピンデは眼中になかった。それよりも、内から溢れる破壊の衝動に身を任せる。
驚異的な威力を伴った槍が建物を瓦礫へと変えようと、螺旋を描きながら建物に迫っていく。
ペシャルの拠点が崩れた時の鬱憤を晴らせると確信するピンデは、恍惚とした表情へと歪めた。
そして、まさに魔技が一つの建物へと到達しようとした瞬間、
「――!?」
一発の銃声が、雨音を割って響く。
そして、銃声の余韻が消えた頃には、かき消されていたのはピンデが放った魔技だった。魔技は建物の直前で黒い霧となって霧散し、雨空の中に溶け込んでいく。
魔技が阻まれるとは想像すらしていなかったピンデは、殺意に満ちた眼差しを銃声が聞こえた方角に向けた。
「キ、貴様ァ……ッ!」
「これ以上好きにはさせませんよ」
そこには当然、闇夜を照らすような黄色い銃を構えるクルムの姿があった。
全身傷だらけで満身創痍のはずなのに、クルムからは弱っている雰囲気を微塵にも感じさせない。今発した言葉を、本当に有言実行してしまいそうだ。
その往生際の悪いクルムの姿が、ピンデにとって無性に腹が立つ。何故居場所を奪われたこちら側が、邪魔をされなければならないのか。
――頭を冷やせ。ただのまぐれだ。お前ならもっとやれる。
しかし、怒りのあまり我を忘れるピンデの頭の中に囁くような声が響き渡った。ピンデにしか聞こえない囁きに、ピンデは唆され、息を深く吐いては冷静さを取り戻す。
「ハッ、その通りだ……。たった一回止めただけでいい気になるなよ」
そう、まだピンデは一度だけ魔技を防がれただけだ。何もピンデの体に攻撃を受けた訳ではない。手負いのクルムに出来ることは、この程度が限界だとピンデは高を括る。
「誰も俺を邪魔することは出来ねェ! そこまで戯言を吠えるっていうなら、こいつも止めてみせるんだなァ!」
「……っ、多い!」
先ほどまでは魔技を一発ずつしか放っていなかったのに、ピンデは同時に四つの渦を槍へと変化させていた。一つ一つの槍が、禍々しく、鋭く尖っている。
突然のピンデの攻撃方法の変化に、戦いを見守っていたリッカ達は声を上げた。
いくらクルムでも、四つの魔技を一度に対処するのは難しいだろう。
ピンデは勝ち誇ったように狂笑を浮かべ、
「まァ、所詮無理な話だろうがな! 魔技・ウェルテクスランサァァアァァア!」
声を張り上げたのと同時、魔技は家々を破壊するために四方に射抜かれた。
「ハァ、ハァ、ハッ、ヒャハハ!」
一度に四つも魔技を繰り出したことに息を荒げていたが、すぐに勝利を確信したようにピンデは高笑いを上げ始めた。魔技は音を切るように素早く、建物を蹂躙しに向かっている。
しかし、狂笑を浮かべていたピンデの顔の隣を、勢いよく風が横切っていく。
「――ッ!?」
ピンデは笑いを止め、今まさに横を過ぎていった何かに顔を向ける。
見れば、ピンデの背後の建物を狙った魔技に――、つまりクルムと一番距離の遠い魔技を弾丸が追いかけていた。そして、建物に魔技が到達するよりも早く弾丸は命中し、黒い槍は相殺された。
「ッ、だがなァ、まだ三つも残って――」
一発止められるのは予想の範囲内だ。すぐにピンデは立て直そうとする。
しかし、ピンデが言い切る前に、クルムは自身の体を回転させ、左、後ろ、右と順に照射する。すると、見事に建物一つ傷付けることなく槍を消滅させた。
ちょうど一回転したクルムはピンデに銃口を向けて、
「言ったはずです。もうこれ以上好きにさせません、と」
「ちィィィッ」
ピンデは明らかな怒りを込めて大きな舌打ちを奏でた。まるで自分の思い通りに事が進まないことに癇癪を立てる子供のようだ。
黒い渦に囲まれるピンデは、殺意に満ちた眼差しをクルムに向けた。
しかし、クルムは平然と受け流し、ピンデを見通すように見る。否、クルムの瞳に映っているのは、ピンデを苦しめている悪魔だ。
「そろそろピンデさんから離れて頂きます」
「――」
一時、確かな静寂が訪れた。空気が完全に変わる瞬間、傍から見ても何か異変が起ころうとしていると気付けるほどだ。その発生源となっているのが、ピンデだった。
先ほどまであんなに荒立っていたはずなのに、今のピンデは目を閉じ、何かの余韻に浸っているかのように大人しくなっている。
しかし、その見た目とは一転、ピンデの内側は混沌としていた。
――やはり人間に任せるのは、見るに堪えねェ。俺によこせ。
この時、ピンデの中に僅かに留まっていたピンデの精神が、悪魔によって更なる深淵へと押し込められていた。ピンデは必死に抗うも、当然負の感情を抱いたピンデには成す術はなかった。言うなれば、元々黒い絵に、更に黒色の絵の具を塗るようなものだ。抵抗しても意味がない。ただただ暗い闇の中に落ちていくしかなかった。
そして、ピンデはゆっくりと目を開くと、
「嫌だね。これはもう悪魔の体だ。ほら、見ろよ」
ピンデの体を乗っ取っている悪魔は、何かを主張するように大きく腕を広げた。その仕草に、クルムは銃を持つ手を無言で強く握り締める。
ピンデが何かを示したいということは、遠くにいるリッカ達にも伝わっていた。
しかし、悪魔の態度が何を意図しているのかよく分からない。だから、どうしてクルムが悔しそうに銃を握り締めているのか分からなかった。リッカとシンク、そしてオッドは、ピンデの体に何が起こっているのか注意深くまじまじと見つめる。
「あ! あいつ、怪我がなくなってるぞ!」
最初に異変に気が付いて声を上げたのは、シンクだった。
シンクの声に、リッカとオッドもピンデの体を見てみると、確かに先ほどペイリスによって受けたはずの傷が癒えていた。
「そう、小僧の言う通りだ。この黒い渦には悪魔の力が籠っていてな……、人間を傷付ける武器にもなれば、人間を癒す薬ともなるのさ」
ピンデはうっとりとした表情で、自身の周囲に張っている黒い渦に触れながら言う。
普通の人間なら、当然体に出来た傷が瞬く間に勝手に癒えることなどあり得ない。時間をかけて、人間の構造通りに自然の流れに委ねながら治していくものだ。しかし、悪魔人となった人間は、悪魔の力を利用することで不可能を可能にする。
しかし、体の傷が癒え痛みがなくなるからと言って、それが正しいかと言えば否だ。悪魔の力を使う分、その人間の精神は更に悪魔に蝕まれていく。そうすれば、いつしかその体は悪魔のものとなり、元の人間の心は押し込められ、閉じ込められ、消える。まさに今のピンデのように、だ。
甘美な言葉で誘惑し、使えば不釣り合いな代償しか与えない。それが悪魔のやり口だ。
「お前も使うか、クルム・アーレント。その傷だらけの体も、悪魔に委ねれば癒えるぞ?」
「そんなものに頼ると思いますか?」
「ハッ、予想通りの言葉だ」
悪魔はピンデの体を使って、クルムを馬鹿にするような笑みを浮かべる。そして、身体の調子を確かめるように首を鳴らし、腕を回すと、
「さて、と。だいぶ、この体も動くようになって来た。やっぱ破壊行為ってのは自分の手でやらねェとなァ!」
そう狂笑を浮かべ、ピンデの体を囲んでいた黒い渦を掴んだ。そのまま、黒い渦を自身の右胸に当てる。すると、黒い渦がピンデの体の中に入っていき、不自然な脈動を見せた。そして、ピンデの全身から黒い渦が再び漏れ出し、ピンデの全身を卵のように丸く覆い始めた。
「な、何が起こってるの?」
遠目に見ていたリッカは、思わず声を漏らすも、その疑問に答えられる人間はリッカの近くにはいない。シンクも、オッドも、ゆっくりと首を振るだけだ。
ただ分かることは一つ。人間を逸脱した行為が、ピンデの体で起こっているということだ。
「――ッ!」
しかし、まるでこの先何が起こるかを予想しているかのように、クルムは切羽詰まった表情でピンデに向けて弾丸を放つ。だが、その弾丸もピンデを覆う渦に呑み込まれ、悪魔が起こす行動に影響を与えることは出来ない。
黒い卵のような形態になった渦は、やがて収束し、人の形へと姿を変える。
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