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5-08 研究の結実
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「それからボクは、エスタくんの依頼に従って、悪魔を可視化するための機械を作り上げたんだ。結果、エスタくんは大喜び。ボクに多大な報酬と、必ずボクの道具を使ってダオレイスを平和にすると約束して、去って行ったよ」
長い過去話に一段落を付けたパルマは、ふぅと溜め息を吐いて、コーヒーを口にした。
リッカもシンクも、パルマが一息吐いたのと同時、集中力を緩めて飲み物を飲んだ。パルマの話に惹き込まれていて、喉がものすごく渇いていたようだ。クルムだけは、組んだ手を解かずに、何か考え事をしているように動かない。
コーヒーを一口飲んだリッカは、黒いコーヒーにうっすらと映り込む自分の顔を眺めながら、今しがた聞いたパルマの話を頭の中でまとめる。
ダイバースで出会った終の夜の一人であるガルフ・セロノスが身に着けていたゴーグルこそが、パルマの研究成果の賜物だ。
エスタの依頼通り、パルマは終の夜に加入したメンバーの誰もが悪魔と戦えるように、誰も開発したこともない道具を、見事一人で作り上げてしまったのだ。その偉業は、まさに天才と表現する他ないだろう。
パルマの話によって、パルマと終の夜との関係性、どうして悪魔を可視化するための道具が生み出されたのかが分かった。
それでも、リッカの中にいくつかの疑問が生じていた。
「……パルマさんはエスタ・ノトリアスの言葉によって、本当に悪魔の存在を信じたんですか?」
その内の一つの疑問が、リッカの意思とは別に口から漏れ出ると、パルマはカップを唇から離して、リッカを見つめた。
「ん、どういう意味だい?」
「え。えっと、ですね」
改めて、深く問い詰められると、リッカは自分が何を聞きたかったのか分からなくなった。自分の頭の中で彷徨っている言葉の断片を何とか形にしようと、必死に順序立てて声に出していく。
「その、今の話で、パルマさんが悪魔を可視化出来る機械を作ったことは分かりました。でも、研究者として、悪魔という単語は非科学的だと思います。だから、その、パルマさんが信じるようになったきっかけはどこにあったんだろうと思って……」
「あー、なるほどね。悪魔の基準値を決める機械はたくさん出回っているけど、その基準を決めたのは開発者――つまりボクだ。ボクの気分次第で、いくらでもでっちあげることは可能だ、とリッカちゃんは言いたいんだね?」
的確にリッカの内心を読み解いたパルマに、リッカは狼狽してしまう。
「いえ、そこまでは……」
「いやいや、遠慮なんてしなくていいよ。ボク自身も、開発者の立場じゃなかったら信じていなかったと思うし。アッハッハ」
本当ならば、研究の賜物を愚弄されたと怒ってもいいはずなのに、パルマは上機嫌にも笑みを浮かべていた。
「一応開発者として言わせてもらうけど、終の夜が使用しているゴーグルでは、ちゃんと悪魔の力量を可視化出来るように作らせてもらったよ。あの時にエスタくんが置いていった長身の子が、どうも悪魔のことを視認出来る目を持っていたようでね。随分と彼には役立ってもらったよ。実際のところ、キミの目から見てもゴーグルの機能は遜色はなかっただろう、クルムくん?」
「ええ。パルマ博士が開発したゴーグルは、範囲内において微弱なものから強大なものまで正確に悪魔の存在を捉えることが出来て、人の手でここまでの物が作れるのかと、初めて見た時は驚きました」
同意を求められたクルムは、ハッキリと頷いた。
悪魔の存在を、その目で確認することが出来る力を持ったクルムが、ここまで言うのだ。パルマが作ったゴーグルは、優れものだということだ。
クルムのお世辞抜きの賛辞に、パルマは惜しみなく自慢げに胸を張る。
「アッハッハ、そうだろう! ま、天才であるボクだからこそ、完成させることが出来たと言っても過言ではないね! 終の夜の連中は、一生ボクに足を向けて寝ることは出来ないはずさ!」
調子を取り戻したパルマは、流暢で軽快な口調で語る。
しかし、その声に割って入るように――、
「……終の夜だけではありませんよ」
クルムが真剣な声音で言った。パルマは高笑いを止めて、クルムのことを見つめる。パルマと目が合ったクルムは、丁寧に頭を下げた。
「パルマ博士のおかげで、終の夜を始め、多くの人が助かるようになりました。パルマ博士には本当に頭を上げることは出来ません」
「や、やめてくれたまえ、クルムくん。改まって言うことでもないだろう……」
パルマは顔を真っ赤にさせながら、大きく手を横に振る。
いざ本気で丁重な態度をもって感謝を示されると、意外にもパルマは照れる傾向にあるようだ。
クルムが頭を上げたことを確認すると、仕切り直すようにパルマは咳払いを一つ挟んだ。
「それに、だ。これは誰のためでもなく、ボク自身がやりたかったことでもあるんだよ。この目で悪魔人を観察している内に、悪魔人も悪魔の被害者なんだということを痛感してね。悪魔人と過ごした一週間は、見ているこっちが同情してしまうほど、苦しんでいた。まるで、体の内にある臓器が直接焼かれているような、この世のものとは思えないほどの苦痛に耐え続けるような表情を浮かべていたんだ。そして悪魔によって苦しみを受けた挙句、人々からは誤解を受けて、非情な扱いを受けてしまうなんてあまりにも酷な話だろう。ボクには無下に放っておくなんて真似は出来なかった。だから、ボクの作った機械が、悪魔人の助けにでもなればいいと思って、終の夜に渡したんだ。でもね――」
言葉を区切ったパルマは、天井を見上げた。その瞳はどこか寂し気で、パルマには似つかない表情だった。
「結果は、ボクの願いとは異なる形になったんだ」
「それからボクは、エスタくんの依頼に従って、悪魔を可視化するための機械を作り上げたんだ。結果、エスタくんは大喜び。ボクに多大な報酬と、必ずボクの道具を使ってダオレイスを平和にすると約束して、去って行ったよ」
長い過去話に一段落を付けたパルマは、ふぅと溜め息を吐いて、コーヒーを口にした。
リッカもシンクも、パルマが一息吐いたのと同時、集中力を緩めて飲み物を飲んだ。パルマの話に惹き込まれていて、喉がものすごく渇いていたようだ。クルムだけは、組んだ手を解かずに、何か考え事をしているように動かない。
コーヒーを一口飲んだリッカは、黒いコーヒーにうっすらと映り込む自分の顔を眺めながら、今しがた聞いたパルマの話を頭の中でまとめる。
ダイバースで出会った終の夜の一人であるガルフ・セロノスが身に着けていたゴーグルこそが、パルマの研究成果の賜物だ。
エスタの依頼通り、パルマは終の夜に加入したメンバーの誰もが悪魔と戦えるように、誰も開発したこともない道具を、見事一人で作り上げてしまったのだ。その偉業は、まさに天才と表現する他ないだろう。
パルマの話によって、パルマと終の夜との関係性、どうして悪魔を可視化するための道具が生み出されたのかが分かった。
それでも、リッカの中にいくつかの疑問が生じていた。
「……パルマさんはエスタ・ノトリアスの言葉によって、本当に悪魔の存在を信じたんですか?」
その内の一つの疑問が、リッカの意思とは別に口から漏れ出ると、パルマはカップを唇から離して、リッカを見つめた。
「ん、どういう意味だい?」
「え。えっと、ですね」
改めて、深く問い詰められると、リッカは自分が何を聞きたかったのか分からなくなった。自分の頭の中で彷徨っている言葉の断片を何とか形にしようと、必死に順序立てて声に出していく。
「その、今の話で、パルマさんが悪魔を可視化出来る機械を作ったことは分かりました。でも、研究者として、悪魔という単語は非科学的だと思います。だから、その、パルマさんが信じるようになったきっかけはどこにあったんだろうと思って……」
「あー、なるほどね。悪魔の基準値を決める機械はたくさん出回っているけど、その基準を決めたのは開発者――つまりボクだ。ボクの気分次第で、いくらでもでっちあげることは可能だ、とリッカちゃんは言いたいんだね?」
的確にリッカの内心を読み解いたパルマに、リッカは狼狽してしまう。
「いえ、そこまでは……」
「いやいや、遠慮なんてしなくていいよ。ボク自身も、開発者の立場じゃなかったら信じていなかったと思うし。アッハッハ」
本当ならば、研究の賜物を愚弄されたと怒ってもいいはずなのに、パルマは上機嫌にも笑みを浮かべていた。
「一応開発者として言わせてもらうけど、終の夜が使用しているゴーグルでは、ちゃんと悪魔の力量を可視化出来るように作らせてもらったよ。あの時にエスタくんが置いていった長身の子が、どうも悪魔のことを視認出来る目を持っていたようでね。随分と彼には役立ってもらったよ。実際のところ、キミの目から見てもゴーグルの機能は遜色はなかっただろう、クルムくん?」
「ええ。パルマ博士が開発したゴーグルは、範囲内において微弱なものから強大なものまで正確に悪魔の存在を捉えることが出来て、人の手でここまでの物が作れるのかと、初めて見た時は驚きました」
同意を求められたクルムは、ハッキリと頷いた。
悪魔の存在を、その目で確認することが出来る力を持ったクルムが、ここまで言うのだ。パルマが作ったゴーグルは、優れものだということだ。
クルムのお世辞抜きの賛辞に、パルマは惜しみなく自慢げに胸を張る。
「アッハッハ、そうだろう! ま、天才であるボクだからこそ、完成させることが出来たと言っても過言ではないね! 終の夜の連中は、一生ボクに足を向けて寝ることは出来ないはずさ!」
調子を取り戻したパルマは、流暢で軽快な口調で語る。
しかし、その声に割って入るように――、
「……終の夜だけではありませんよ」
クルムが真剣な声音で言った。パルマは高笑いを止めて、クルムのことを見つめる。パルマと目が合ったクルムは、丁寧に頭を下げた。
「パルマ博士のおかげで、終の夜を始め、多くの人が助かるようになりました。パルマ博士には本当に頭を上げることは出来ません」
「や、やめてくれたまえ、クルムくん。改まって言うことでもないだろう……」
パルマは顔を真っ赤にさせながら、大きく手を横に振る。
いざ本気で丁重な態度をもって感謝を示されると、意外にもパルマは照れる傾向にあるようだ。
クルムが頭を上げたことを確認すると、仕切り直すようにパルマは咳払いを一つ挟んだ。
「それに、だ。これは誰のためでもなく、ボク自身がやりたかったことでもあるんだよ。この目で悪魔人を観察している内に、悪魔人も悪魔の被害者なんだということを痛感してね。悪魔人と過ごした一週間は、見ているこっちが同情してしまうほど、苦しんでいた。まるで、体の内にある臓器が直接焼かれているような、この世のものとは思えないほどの苦痛に耐え続けるような表情を浮かべていたんだ。そして悪魔によって苦しみを受けた挙句、人々からは誤解を受けて、非情な扱いを受けてしまうなんてあまりにも酷な話だろう。ボクには無下に放っておくなんて真似は出来なかった。だから、ボクの作った機械が、悪魔人の助けにでもなればいいと思って、終の夜に渡したんだ。でもね――」
言葉を区切ったパルマは、天井を見上げた。その瞳はどこか寂し気で、パルマには似つかない表情だった。
「結果は、ボクの願いとは異なる形になったんだ」
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