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5-24 迫る決断
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***
窮地に陥っていたリッカ達だったが、クルムが参戦したことにより、最悪な状況を免れることが出来た。
予想だにしていなかった闖入者の登場に、ベルディは憤怒を隠し切れないようで、血管が浮き出るほどに拳を握り締めていた。
「――」
颯爽と戦場に現れたクルムだったが、パルマの旧研究所から急いで来たのだろう、肩で息をしていた。
しかし、クルムはすぐに息を整えると、
「遅くなってしまい、すみませんでした」
リッカとシンク、そしてパルマに対して頭を下げた。
「パルマ博士、ご無事ですか?」
火柱の牢獄から解放されたパルマに、クルムは顔だけ向けて訊ねる。
「もちろんさ。クルムくんが来てくれたから、なーんともないよ」
言葉通り、何事もなかったかのようにケロッとしているパルマの姿に、クルムはひとまず安堵の息を漏らした。
とは言え、クルムの中で反省すべき点はたくさんある。
クルムが遅くなってしまった理由は、パルマの休息を思ってのことが主だった。丸一日、武器の開発をしたパルマの苦労を少しでも和らげようと、久方ぶりに訪れたデムテンの町を見て回っていた。だが、今回はそれが裏目に出て、パルマ達を窮地に追いやる形になってしまった。
けれど、不思議なのは、ノスチェスとベルディについてパルマの研究所に戻るまでクルムの目が認識しなかったことだ。
もし、旧研究所にいながらも感知することが出来ていたならば、クルムは一刻も早く駆けつけていた。
否、正確に表現するならば、クルムの目の異変は現在も続いていた。ベルディに憑いている悪魔は認識出来るのに、ノスチェスからは何も反応を感じられなかった。リッカのエインセルと同じ現象が、クルムの目にも起こっていた。
ノスチェス・ラーバスを見極めるように眺めていると、クルムの視線とノスチェスの視線が重なった。ノスチェスもクルムのことを観察していたのだろう。
「――ほう、ここでクルム・アーレントが出て来ますか。……面白い」
誰の耳にも届かないような囁く声で、自身の思いを言葉にする。その口元は、まるで玩具を見つけたかのように、歪み上がっていた。
遠目から眺めただけにも関わらず、瞬時にノスチェスから危険性を見出したが、クルムはふっとノスチェスから視線を逸らした。
疑問は尽きないが、今は現状把握の方が優先だ。
「パルマ博士、今はどのような状況ですか?」
「見ての通り、悪魔人がボクを狙って襲って来た。体格のいい悪魔人――ベルディ・パイロンは、一度リッカちゃんによって戦闘不能にしたはずだが、隣にいるノスチェス・ラーバスによって、何故か再び立ち上がって、今に至っているんだ」
「……リッカが」
ベルディが攻撃の手を止めている隙に、リッカはクルム達の方へと歩んでいるところだった。クルムが旧研究所に向かっていた僅かな間で、リッカの顔つきは別人のように変わっていた。
「リッカ、ここまで本当にありがとうございました。周りに被害が及ばなかったのも、リッカのおかげです。これからは僕に任せて、ゆっくり休んでください」
「……うん、お言葉に甘えさせてもらうわ」
リッカは素直に頷いた。慣れない戦いに、リッカは自分が想像していたより体力も気力も、何倍も消費していた。仮にクルムが一緒に戦おうと持ちかけても、今のリッカでは力になることは難しいことは明らかだった。
「クルム。もう見抜いているかもしれないけど、ベルディは木片を爆弾に変える魔技を二種類使うわ。一つは真っ直ぐに投げ飛ばすもの、もう一つは時限爆弾のように爆発させるの。気を付けて」
だから、リッカは今までの戦いで得た情報を、簡易的ながらもクルムに伝えた。体は満足に動かないとしても、せめてクルムの助けになりたかった。
リッカの助言を、クルムは真剣な表情で受け止める。
「助かります」
「あと、ベルディの隣にいる男――ノスチェス・ラーバス。……彼は危険だわ」
「はい、痛いほどに感じていますよ」
クルムの悪魔を見極める目に異常を来しているのには、ノスチェスが関与していることは明らかだ。今までに出会った類のない人物であることは、十分に分かっていた。
しかし――、否、だからこそ、
「必ずここで二人を止めてみせます」
クルムのやることは変わらない。自身の力をもって、悪魔の手によって苦しむ人を救うだけだ。
「クルム――」
「ところで、パルマ博士」
リッカの問いかけは、クルムが声を出したことで遮られてしまった。決意したクルムの表情がどこか憂いが漂っているように感じたのだが、すでにいつも通りに戻っているところだった。リッカの考えすぎだっただろうかと、これ以上問いかけることはしなかった。
「この状況でお聞きすることではないかもしれませんが、旧研究所から取って来た資料は――」
「あぁ、ありがとう。預かっておくよ」
クルムは旧研究所から運び出した一冊の資料をパルマに渡した。しかし、パルマはすぐに懐にしまい、資料に目を通す素振りを見せなかった。
パルマの興味は資料よりも別のものに注がれているようで、実際に「それよりさ」と話題を切り返し、
「先ほど渡した小包には、キミから依頼された弾丸の試作品が入っている。まだまだ未完成で改良の余地しかないけど――、覚悟は出来ているんだね?」
覚悟について深く言及することはなかったが、パルマの訊ねたいことは察することが出来た。
パルマが作った弾丸を使えば、クルムの戦い方は変わる。今まで相手を傷つけることを良しとしなかったところから百八十度転じ、相手に傷を負わせてしまうのだ。
だけど、悪魔人の実力も高まっていることから、これまで通りの戦いはもう出来ない。
優しいクルムが本当に引き金を引くことが出来るのか――、パルマはそのことを危惧している。
クルムはパルマから受け取った小包を開き、作り立ての弾丸を躊躇うことなく黄色い銃に籠めた。
あえて言葉にせずとも、これがクルムの答えだった。
「よし、じゃあこの戦いをもとに更に弾丸を作り込んでいくから、遠慮なく頼むよ」
「はい」
そして弾丸を装填し終えたクルムは、一歩一歩と前に進み出た。
クルムに対応するように、ベルディも動き始めた。ベルディの顔色には、先ほどの動揺の色は見受けられなかった。むしろ、クルム達が話していた時間は、ベルディに冷静さと残虐さを取り戻させた。
「無駄な作戦会議は終わったかァ! 今更一人現れようが、今の俺様の前じゃ何も変わらねェ!」
「――ベルディ」
勇み戦場に赴こうとするベルディの耳に、凍てつくような声が響き、ベルディは本能的に足を止め振り返った。
視線の先にいるノスチェスは真顔でいて、何を考えているか分からない。ベルディは己の意志とは関係なく、自然と息を呑んだ。
どこか蠱惑的で妖艶さを感じさせるノスチェスの唇が、ゆっくりと動く。
「彼、クルム・アーレントを倒すことが出来たら、あなたに更なる力を与えることを約束しましょう」
「……ハ、ハハッ! その約束忘れるなよォ!」
ノスチェスから醸し出される異彩な雰囲気に肩肘を張っていたベルディだったが、ノスチェスが持ちかけた提案を理解するや否や、ベルディの気分は最高潮までに上がった。
今でさえも気分がいいというのに、これ以上になったらどうなるのか――、想像するだけで笑みが止まらない。
「今の話、聞こえていたかァ! 俺様はお前を潰して褒美を貰わないといけなくなった。やって来て早々で悪いが、お前の出番は終了だァ!」
両者、戦場の真ん中まで着くと、見計らったようにその場に留まった。
お互いにいる位置は、互いの間合いを意識された適切な距離だった。どちらかが動き出せば、戦いは容赦なく始まるだろう。
「僕はなるべく戦いたくはありません。なので、不利益しかないものに縋るのはやめてください」
「ハハッ、この力のどこが不利益なんだよ。気に食わないものは壊せるんだ……、最ッ高の力だぜェ! たとえば――」
言葉を区切ると、ベルディは大きく振りかぶり、
「――こんな風にな!」
手に握っていた木片を投げつけた。
魔技・シューティングバーハにより爆弾と化した木片が、クルムを躊躇なく襲う。
話し合いも平行線のまま、いきなり戦いの火蓋が切って落とされた。
「クルムッ!」
唐突な攻撃が迫っているにも関わらず、無防備に立ち尽くすクルムに対し、リッカは叫んでいた。先ほど魔技を浴びたリッカが、この場において一番その威力を分かっている。しかも、ベルディはノスチェスによって、力を与えられたばかりだ。いくらクルムとは言え、今のベルディの魔技をまともに受ければ、ただでは済まないのは明らかだった。
「――」
魔技がクルムの腕三本分くらいまでに近づいて来て、ようやくクルムは顔を上げた。その表情には、先ほどリッカが見た憂いは一切ない。
クルムはそのまま銃を構えると、引き金を引いた。銃から弾丸が放たれ、真っ直ぐに魔技と衝突する。大きな爆発が生じ、その場に留まることが困難なほどの爆風が舞った。
「はッ、思ったよりもやるじゃねェか!」
ベルディは爆風から身を守るように、腕を交差させてその場に踏みとどまった。
前方は砂煙に覆われて、クルムの動きは読めない。しかし、条件はベルディもクルムも一緒だ。
この煙が治まった時が、互いにとっての勝負所となるはずだ。
一刻も速く動くため、視界を邪魔する風を断ち切るように、ベルディは大きく腕を振るった。
「だが、その程度の実力じゃァ――」
「こっちですよ」
前を向いていたベルディの意識外から、声が聞こえた。ベルディは声が聞こえた方角に顔を向ける。
そこには、銃を構えるクルムがいた。
「――なにッ!?」
煙が空気に溶け、視界が晴れ渡る。先ほどまでいた場所に、当然ながらクルムの姿はない。
クルムは爆発に乗じて、先手の行動を取っていたのだ。
しかし、指一本動かせばベルディに攻撃を与えることが出来る直面で、クルムはほんの僅か逡巡する。
「――」
クルムの本来の願いは、誰も傷付けずにこの世界が平和になることだった。勿論、誰もという言葉の中には、敵対しているはずの悪魔人も含まれている。
ただし、今やその願いを最後まで持ち続けることは、難しい局面に陥ってしまっていた。
悪魔人の実力が高まっていること、終の夜の影響が強くなっていること――、様々な要因が絡み合って、クルムのやり方を貫くほどの猶予はなくなってしまったのだ。
だから、多少傷付けたとしても、クルムは悪魔人から悪魔を追い払うため、パルマの腕を頼りにした。
現在、クルムの銃は光っていなかった。つまりそれは、パルマが作った弾丸を直接撃ち込み、ベルディを傷つけるということだ。
いよいよクルムの信条を覆さなければならない時が来た。この指を動かせば、もう後には退けなくなる。
しかし――、
「この負の連鎖に終止符を打つためなら、僕は――」
クルムの覚悟は、すでに出来上がっていた。
引き金に掛けていた指に、力を籠める。
――それが誰の命も失わない次善の方法だと信じて。
「引き金を引くことに躊躇わないっ!」
パルマが作り上げた試作品を、迷うことなくベルディに向けて撃ち込んだ。
一発の銃声が、空に甲高く響いた。
窮地に陥っていたリッカ達だったが、クルムが参戦したことにより、最悪な状況を免れることが出来た。
予想だにしていなかった闖入者の登場に、ベルディは憤怒を隠し切れないようで、血管が浮き出るほどに拳を握り締めていた。
「――」
颯爽と戦場に現れたクルムだったが、パルマの旧研究所から急いで来たのだろう、肩で息をしていた。
しかし、クルムはすぐに息を整えると、
「遅くなってしまい、すみませんでした」
リッカとシンク、そしてパルマに対して頭を下げた。
「パルマ博士、ご無事ですか?」
火柱の牢獄から解放されたパルマに、クルムは顔だけ向けて訊ねる。
「もちろんさ。クルムくんが来てくれたから、なーんともないよ」
言葉通り、何事もなかったかのようにケロッとしているパルマの姿に、クルムはひとまず安堵の息を漏らした。
とは言え、クルムの中で反省すべき点はたくさんある。
クルムが遅くなってしまった理由は、パルマの休息を思ってのことが主だった。丸一日、武器の開発をしたパルマの苦労を少しでも和らげようと、久方ぶりに訪れたデムテンの町を見て回っていた。だが、今回はそれが裏目に出て、パルマ達を窮地に追いやる形になってしまった。
けれど、不思議なのは、ノスチェスとベルディについてパルマの研究所に戻るまでクルムの目が認識しなかったことだ。
もし、旧研究所にいながらも感知することが出来ていたならば、クルムは一刻も早く駆けつけていた。
否、正確に表現するならば、クルムの目の異変は現在も続いていた。ベルディに憑いている悪魔は認識出来るのに、ノスチェスからは何も反応を感じられなかった。リッカのエインセルと同じ現象が、クルムの目にも起こっていた。
ノスチェス・ラーバスを見極めるように眺めていると、クルムの視線とノスチェスの視線が重なった。ノスチェスもクルムのことを観察していたのだろう。
「――ほう、ここでクルム・アーレントが出て来ますか。……面白い」
誰の耳にも届かないような囁く声で、自身の思いを言葉にする。その口元は、まるで玩具を見つけたかのように、歪み上がっていた。
遠目から眺めただけにも関わらず、瞬時にノスチェスから危険性を見出したが、クルムはふっとノスチェスから視線を逸らした。
疑問は尽きないが、今は現状把握の方が優先だ。
「パルマ博士、今はどのような状況ですか?」
「見ての通り、悪魔人がボクを狙って襲って来た。体格のいい悪魔人――ベルディ・パイロンは、一度リッカちゃんによって戦闘不能にしたはずだが、隣にいるノスチェス・ラーバスによって、何故か再び立ち上がって、今に至っているんだ」
「……リッカが」
ベルディが攻撃の手を止めている隙に、リッカはクルム達の方へと歩んでいるところだった。クルムが旧研究所に向かっていた僅かな間で、リッカの顔つきは別人のように変わっていた。
「リッカ、ここまで本当にありがとうございました。周りに被害が及ばなかったのも、リッカのおかげです。これからは僕に任せて、ゆっくり休んでください」
「……うん、お言葉に甘えさせてもらうわ」
リッカは素直に頷いた。慣れない戦いに、リッカは自分が想像していたより体力も気力も、何倍も消費していた。仮にクルムが一緒に戦おうと持ちかけても、今のリッカでは力になることは難しいことは明らかだった。
「クルム。もう見抜いているかもしれないけど、ベルディは木片を爆弾に変える魔技を二種類使うわ。一つは真っ直ぐに投げ飛ばすもの、もう一つは時限爆弾のように爆発させるの。気を付けて」
だから、リッカは今までの戦いで得た情報を、簡易的ながらもクルムに伝えた。体は満足に動かないとしても、せめてクルムの助けになりたかった。
リッカの助言を、クルムは真剣な表情で受け止める。
「助かります」
「あと、ベルディの隣にいる男――ノスチェス・ラーバス。……彼は危険だわ」
「はい、痛いほどに感じていますよ」
クルムの悪魔を見極める目に異常を来しているのには、ノスチェスが関与していることは明らかだ。今までに出会った類のない人物であることは、十分に分かっていた。
しかし――、否、だからこそ、
「必ずここで二人を止めてみせます」
クルムのやることは変わらない。自身の力をもって、悪魔の手によって苦しむ人を救うだけだ。
「クルム――」
「ところで、パルマ博士」
リッカの問いかけは、クルムが声を出したことで遮られてしまった。決意したクルムの表情がどこか憂いが漂っているように感じたのだが、すでにいつも通りに戻っているところだった。リッカの考えすぎだっただろうかと、これ以上問いかけることはしなかった。
「この状況でお聞きすることではないかもしれませんが、旧研究所から取って来た資料は――」
「あぁ、ありがとう。預かっておくよ」
クルムは旧研究所から運び出した一冊の資料をパルマに渡した。しかし、パルマはすぐに懐にしまい、資料に目を通す素振りを見せなかった。
パルマの興味は資料よりも別のものに注がれているようで、実際に「それよりさ」と話題を切り返し、
「先ほど渡した小包には、キミから依頼された弾丸の試作品が入っている。まだまだ未完成で改良の余地しかないけど――、覚悟は出来ているんだね?」
覚悟について深く言及することはなかったが、パルマの訊ねたいことは察することが出来た。
パルマが作った弾丸を使えば、クルムの戦い方は変わる。今まで相手を傷つけることを良しとしなかったところから百八十度転じ、相手に傷を負わせてしまうのだ。
だけど、悪魔人の実力も高まっていることから、これまで通りの戦いはもう出来ない。
優しいクルムが本当に引き金を引くことが出来るのか――、パルマはそのことを危惧している。
クルムはパルマから受け取った小包を開き、作り立ての弾丸を躊躇うことなく黄色い銃に籠めた。
あえて言葉にせずとも、これがクルムの答えだった。
「よし、じゃあこの戦いをもとに更に弾丸を作り込んでいくから、遠慮なく頼むよ」
「はい」
そして弾丸を装填し終えたクルムは、一歩一歩と前に進み出た。
クルムに対応するように、ベルディも動き始めた。ベルディの顔色には、先ほどの動揺の色は見受けられなかった。むしろ、クルム達が話していた時間は、ベルディに冷静さと残虐さを取り戻させた。
「無駄な作戦会議は終わったかァ! 今更一人現れようが、今の俺様の前じゃ何も変わらねェ!」
「――ベルディ」
勇み戦場に赴こうとするベルディの耳に、凍てつくような声が響き、ベルディは本能的に足を止め振り返った。
視線の先にいるノスチェスは真顔でいて、何を考えているか分からない。ベルディは己の意志とは関係なく、自然と息を呑んだ。
どこか蠱惑的で妖艶さを感じさせるノスチェスの唇が、ゆっくりと動く。
「彼、クルム・アーレントを倒すことが出来たら、あなたに更なる力を与えることを約束しましょう」
「……ハ、ハハッ! その約束忘れるなよォ!」
ノスチェスから醸し出される異彩な雰囲気に肩肘を張っていたベルディだったが、ノスチェスが持ちかけた提案を理解するや否や、ベルディの気分は最高潮までに上がった。
今でさえも気分がいいというのに、これ以上になったらどうなるのか――、想像するだけで笑みが止まらない。
「今の話、聞こえていたかァ! 俺様はお前を潰して褒美を貰わないといけなくなった。やって来て早々で悪いが、お前の出番は終了だァ!」
両者、戦場の真ん中まで着くと、見計らったようにその場に留まった。
お互いにいる位置は、互いの間合いを意識された適切な距離だった。どちらかが動き出せば、戦いは容赦なく始まるだろう。
「僕はなるべく戦いたくはありません。なので、不利益しかないものに縋るのはやめてください」
「ハハッ、この力のどこが不利益なんだよ。気に食わないものは壊せるんだ……、最ッ高の力だぜェ! たとえば――」
言葉を区切ると、ベルディは大きく振りかぶり、
「――こんな風にな!」
手に握っていた木片を投げつけた。
魔技・シューティングバーハにより爆弾と化した木片が、クルムを躊躇なく襲う。
話し合いも平行線のまま、いきなり戦いの火蓋が切って落とされた。
「クルムッ!」
唐突な攻撃が迫っているにも関わらず、無防備に立ち尽くすクルムに対し、リッカは叫んでいた。先ほど魔技を浴びたリッカが、この場において一番その威力を分かっている。しかも、ベルディはノスチェスによって、力を与えられたばかりだ。いくらクルムとは言え、今のベルディの魔技をまともに受ければ、ただでは済まないのは明らかだった。
「――」
魔技がクルムの腕三本分くらいまでに近づいて来て、ようやくクルムは顔を上げた。その表情には、先ほどリッカが見た憂いは一切ない。
クルムはそのまま銃を構えると、引き金を引いた。銃から弾丸が放たれ、真っ直ぐに魔技と衝突する。大きな爆発が生じ、その場に留まることが困難なほどの爆風が舞った。
「はッ、思ったよりもやるじゃねェか!」
ベルディは爆風から身を守るように、腕を交差させてその場に踏みとどまった。
前方は砂煙に覆われて、クルムの動きは読めない。しかし、条件はベルディもクルムも一緒だ。
この煙が治まった時が、互いにとっての勝負所となるはずだ。
一刻も速く動くため、視界を邪魔する風を断ち切るように、ベルディは大きく腕を振るった。
「だが、その程度の実力じゃァ――」
「こっちですよ」
前を向いていたベルディの意識外から、声が聞こえた。ベルディは声が聞こえた方角に顔を向ける。
そこには、銃を構えるクルムがいた。
「――なにッ!?」
煙が空気に溶け、視界が晴れ渡る。先ほどまでいた場所に、当然ながらクルムの姿はない。
クルムは爆発に乗じて、先手の行動を取っていたのだ。
しかし、指一本動かせばベルディに攻撃を与えることが出来る直面で、クルムはほんの僅か逡巡する。
「――」
クルムの本来の願いは、誰も傷付けずにこの世界が平和になることだった。勿論、誰もという言葉の中には、敵対しているはずの悪魔人も含まれている。
ただし、今やその願いを最後まで持ち続けることは、難しい局面に陥ってしまっていた。
悪魔人の実力が高まっていること、終の夜の影響が強くなっていること――、様々な要因が絡み合って、クルムのやり方を貫くほどの猶予はなくなってしまったのだ。
だから、多少傷付けたとしても、クルムは悪魔人から悪魔を追い払うため、パルマの腕を頼りにした。
現在、クルムの銃は光っていなかった。つまりそれは、パルマが作った弾丸を直接撃ち込み、ベルディを傷つけるということだ。
いよいよクルムの信条を覆さなければならない時が来た。この指を動かせば、もう後には退けなくなる。
しかし――、
「この負の連鎖に終止符を打つためなら、僕は――」
クルムの覚悟は、すでに出来上がっていた。
引き金に掛けていた指に、力を籠める。
――それが誰の命も失わない次善の方法だと信じて。
「引き金を引くことに躊躇わないっ!」
パルマが作り上げた試作品を、迷うことなくベルディに向けて撃ち込んだ。
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