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17話 高速道路に潜むモノ
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「いやー、温泉って面白いな」
「だな。まさか、滝湯なんてものまであるとは思わなかったしな」
「そうだね。僕も聞いてびっくりしたよ」
温泉を満喫した僕らは、帰りの車の中で語らっていた。
「みんな温泉を楽しんだみたいね。お肌もこの卵みたいにつるつるになってるわよ」
そう言って、コウキ君のお母さんが温泉卵を僕らに差し出してきた。
「「ありがとうございます」」
僕らは黒い殻を向いたあとに、塩を振りかけて卵にかぶりつく。硫黄の香りとともに半熟の黄身が口の中へと広がる。
「半熟が一番うまいわ」
「そうだな」
「そうだね。ラーメンに入っている半熟も凄く美味しいもんね」
コウキくんの感想に皆で同調していると、コウキ君のお父さんが何かを思いついたような表情を見せた。
「ラーメンか。お昼はどこかのサービスエリアに寄って、ラーメンでも食べようか。最近のドライブスルーは、うまいんだよなぁ」
「おお、ラーメンだってよ。たのしみだな」
「ラーメンか。最近のサービスエリアって色々な味があるから迷うことになりそうだ」
「ラーメンだけじゃなくて、他の料理もすごいもんね。家族と前に行った時なんて三十分くらい迷ちゃったよ」
「確かに色々あるもんな。だけど、流石に三十分は迷いすぎだろ」
コウキくんがツッコミを入れてきた。だけど、コウキ君のお父さんが息子の言動を指摘する。
「いや、コウキ、お前……。それ以上に食べ始めるまでに時間がかかる人を忘れてるだろ?」
「あっ! そうだった!」
コウキ君が助手席に座る人を見つめた。
「ドーナッツもいいわね。他にもアイスと……チャーハンもあったらそれも食べようかしら」
どうやら、コウキ君のお母さんは僕以上に食べ始めるまでに時間がかかるらしい。ただ、聞いてる感じだと、食べ物を買いすぎてのことのようだった。
あんなに瘦せているのに食べれるのかなと思っていると、コウキくんが察したように声を漏らす。
「うちの母さん、ああ見えて大食らいなんだよ」
「そうだったんだね」
「お前のおばさん、いろんな店の特盛制覇してたんもんな」
佐々木君が追加情報を提示してきた。
「すごいね。賞金とかもらえそう」
「実際、もらってたらしいぞ」
「そうだったんだね」
僕らは、コウキ君のお母さんをそれぞれ異なる視線で見つめた。
時刻は間もなくお昼時。僕らの乗る車は、他の車がほどんど走っていないお陰で、順調に目的地へと近づいていた。
「もうそろそろ着きそう?」
コウキ君が尋ねるが返答はなかった。どうしたんだろうと思い、コウキ君のお父さんをミラー越しに見てみる。そこで僕は異変に気づいた。何か得体のしれないものが僕らの車を追いかけていたのだ。
姿は人間に近いけど大きさは二倍ほどもあり、そいつの顔はぶきみなほどの薄ら笑いを浮かべていた。
「なあ、後ろになんか見えないか?」
コウキ君のお父さんが緊張した面持ちで告げてきた。だけど、皆は口を揃えて何も見えないと返した。
「そ、そんな、じゃああれは一体何なんだ。俺だけにしか見えないのか」
コウキ君のお父さんにしか見えないらしく、声に怯えが出始めてしまった。
後ろにいる奴は初めて見るタイプだったけど、どうやら恐怖心をあおって事故をおこさせる怪異らしい。なので、コウキくんのお父さんの恐怖を取り除いてあげることにする。
「おじさん、ずっと運転してくれているから疲れたんじゃないかな。僕のお父さんも疲れてくると、見えないはずのものが見えてくるってよく言ってるよ」
「見えないもの? じゃあ、あれは疲れから幻覚を見ているのか」
「そうじゃないかな。僕のお父さんの場合は、雲が布団に見えてくるとか言ってたよ」
「布団か。確かに疲れた時は寝るに限るもんな」
コウキ君のお父さんが笑い出して、皆も一斉に笑い出す。とりあえずは何とか持ち直せたようだ。あとはサービスエリアまで持ってくれればいいけどと思いながら、後ろを振り返る。後ろでは、怪異が覗き込むようにして僕らの車に接近していた。と、そこへ一台のバイクが接近してくる。
「どうしたんだよ、マル。急に後ろを見つめたりなんかしてさ」
「いや、僕たちの車以外走っていないから珍しいと思ってね」
「そうなのか」
佐々木君の問いを適当にごまかして観察していると、バイクに乗る男はヘルメットを外しながら訴えかけ始めた。
「ハァハァ、風が心地いいですね」
口元を観察すると、そう言っているように思えた。話しかけられている怪異は、動揺しながらもバイクに乗る男を見つめた。そして、振り払うようにこちらへと加速してくる。
負けじと、バイク男もアクセルを握り加速する。タイヤ……ではなく、足が更なる速度へと上っていく。
振り払ったはずの男が真横についていることに、怪異は動揺を隠せなかった。薄ら笑いをしていた顔は今はなく、ただただ怯えた顔がそこにはあった。
うん。そりゃそうなるよね。バイクの着ぐるみを体に付けた挙句に、アクセルをふかす動作をして、加速してくるヘンタイさんを見てしまったら……ね。
「ちょっと疲れすぎたのかな。変なのがまた増えたみたいだ。――お、もうすぐだな」
コウキ君のお父さんも見てしまったらしい。僕らがサービスエリアに入るために左へ寄り始めると、ヘンタイさんたちは横を通り過ぎて行く。
「食べたら少し仮眠を取ってみるよ」
コウキ君のお父さんが通り過ぎていく者たちを横目にしながら言った。
「あなた、大丈夫なの?」
コウキ君のお母さんが心配する一方で、怪異はヘンタイさんから逃げていた。そして、二体の異形たちは、フルマラソンの選手も顔負けの速度で高速道路を駆け抜けていく。
----------------------------------------------------------
【次回予告】
「ねえ、おじいちゃん。ひなまつりってどんなお祭りなの?」
「女の子が元気に成長できますようにと祈る行事なんだよ。それと雛人形は厄除けとしての意味があって、悪いものを代わりに引き受けてくれるんだよ」
「じゃあ、怖いお化けとかも出ないんだね」
「ああ、もちろんだよ」
次回 18話『ひなまつり』
孤独な叫びがあなたの街にも聞こえてくるかもしれない。
「だな。まさか、滝湯なんてものまであるとは思わなかったしな」
「そうだね。僕も聞いてびっくりしたよ」
温泉を満喫した僕らは、帰りの車の中で語らっていた。
「みんな温泉を楽しんだみたいね。お肌もこの卵みたいにつるつるになってるわよ」
そう言って、コウキ君のお母さんが温泉卵を僕らに差し出してきた。
「「ありがとうございます」」
僕らは黒い殻を向いたあとに、塩を振りかけて卵にかぶりつく。硫黄の香りとともに半熟の黄身が口の中へと広がる。
「半熟が一番うまいわ」
「そうだな」
「そうだね。ラーメンに入っている半熟も凄く美味しいもんね」
コウキくんの感想に皆で同調していると、コウキ君のお父さんが何かを思いついたような表情を見せた。
「ラーメンか。お昼はどこかのサービスエリアに寄って、ラーメンでも食べようか。最近のドライブスルーは、うまいんだよなぁ」
「おお、ラーメンだってよ。たのしみだな」
「ラーメンか。最近のサービスエリアって色々な味があるから迷うことになりそうだ」
「ラーメンだけじゃなくて、他の料理もすごいもんね。家族と前に行った時なんて三十分くらい迷ちゃったよ」
「確かに色々あるもんな。だけど、流石に三十分は迷いすぎだろ」
コウキくんがツッコミを入れてきた。だけど、コウキ君のお父さんが息子の言動を指摘する。
「いや、コウキ、お前……。それ以上に食べ始めるまでに時間がかかる人を忘れてるだろ?」
「あっ! そうだった!」
コウキ君が助手席に座る人を見つめた。
「ドーナッツもいいわね。他にもアイスと……チャーハンもあったらそれも食べようかしら」
どうやら、コウキ君のお母さんは僕以上に食べ始めるまでに時間がかかるらしい。ただ、聞いてる感じだと、食べ物を買いすぎてのことのようだった。
あんなに瘦せているのに食べれるのかなと思っていると、コウキくんが察したように声を漏らす。
「うちの母さん、ああ見えて大食らいなんだよ」
「そうだったんだね」
「お前のおばさん、いろんな店の特盛制覇してたんもんな」
佐々木君が追加情報を提示してきた。
「すごいね。賞金とかもらえそう」
「実際、もらってたらしいぞ」
「そうだったんだね」
僕らは、コウキ君のお母さんをそれぞれ異なる視線で見つめた。
時刻は間もなくお昼時。僕らの乗る車は、他の車がほどんど走っていないお陰で、順調に目的地へと近づいていた。
「もうそろそろ着きそう?」
コウキ君が尋ねるが返答はなかった。どうしたんだろうと思い、コウキ君のお父さんをミラー越しに見てみる。そこで僕は異変に気づいた。何か得体のしれないものが僕らの車を追いかけていたのだ。
姿は人間に近いけど大きさは二倍ほどもあり、そいつの顔はぶきみなほどの薄ら笑いを浮かべていた。
「なあ、後ろになんか見えないか?」
コウキ君のお父さんが緊張した面持ちで告げてきた。だけど、皆は口を揃えて何も見えないと返した。
「そ、そんな、じゃああれは一体何なんだ。俺だけにしか見えないのか」
コウキ君のお父さんにしか見えないらしく、声に怯えが出始めてしまった。
後ろにいる奴は初めて見るタイプだったけど、どうやら恐怖心をあおって事故をおこさせる怪異らしい。なので、コウキくんのお父さんの恐怖を取り除いてあげることにする。
「おじさん、ずっと運転してくれているから疲れたんじゃないかな。僕のお父さんも疲れてくると、見えないはずのものが見えてくるってよく言ってるよ」
「見えないもの? じゃあ、あれは疲れから幻覚を見ているのか」
「そうじゃないかな。僕のお父さんの場合は、雲が布団に見えてくるとか言ってたよ」
「布団か。確かに疲れた時は寝るに限るもんな」
コウキ君のお父さんが笑い出して、皆も一斉に笑い出す。とりあえずは何とか持ち直せたようだ。あとはサービスエリアまで持ってくれればいいけどと思いながら、後ろを振り返る。後ろでは、怪異が覗き込むようにして僕らの車に接近していた。と、そこへ一台のバイクが接近してくる。
「どうしたんだよ、マル。急に後ろを見つめたりなんかしてさ」
「いや、僕たちの車以外走っていないから珍しいと思ってね」
「そうなのか」
佐々木君の問いを適当にごまかして観察していると、バイクに乗る男はヘルメットを外しながら訴えかけ始めた。
「ハァハァ、風が心地いいですね」
口元を観察すると、そう言っているように思えた。話しかけられている怪異は、動揺しながらもバイクに乗る男を見つめた。そして、振り払うようにこちらへと加速してくる。
負けじと、バイク男もアクセルを握り加速する。タイヤ……ではなく、足が更なる速度へと上っていく。
振り払ったはずの男が真横についていることに、怪異は動揺を隠せなかった。薄ら笑いをしていた顔は今はなく、ただただ怯えた顔がそこにはあった。
うん。そりゃそうなるよね。バイクの着ぐるみを体に付けた挙句に、アクセルをふかす動作をして、加速してくるヘンタイさんを見てしまったら……ね。
「ちょっと疲れすぎたのかな。変なのがまた増えたみたいだ。――お、もうすぐだな」
コウキ君のお父さんも見てしまったらしい。僕らがサービスエリアに入るために左へ寄り始めると、ヘンタイさんたちは横を通り過ぎて行く。
「食べたら少し仮眠を取ってみるよ」
コウキ君のお父さんが通り過ぎていく者たちを横目にしながら言った。
「あなた、大丈夫なの?」
コウキ君のお母さんが心配する一方で、怪異はヘンタイさんから逃げていた。そして、二体の異形たちは、フルマラソンの選手も顔負けの速度で高速道路を駆け抜けていく。
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【次回予告】
「ねえ、おじいちゃん。ひなまつりってどんなお祭りなの?」
「女の子が元気に成長できますようにと祈る行事なんだよ。それと雛人形は厄除けとしての意味があって、悪いものを代わりに引き受けてくれるんだよ」
「じゃあ、怖いお化けとかも出ないんだね」
「ああ、もちろんだよ」
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孤独な叫びがあなたの街にも聞こえてくるかもしれない。
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