13 / 19
13
しおりを挟む翌日、予定になく姿を現した魔王の存在に魔族たちは驚いた。
なんせ此度の魔王は必要最低限しか公の場に出ない。
なかでも驚いたのはゼットとイグナーだ。
守りを固め籠城するだろう魔王の元へ攻め込む計画を立てていたのにその相手がむざむざと姿を現したのだから。
「イグナー、それからゼット。この僕に喧嘩を売ったからにはそれなりの覚悟はできているんだろうな?」
突然の発言に魔族たちは何事かと顔を見合わせる。
その中にはヴォルフやルノアの姿もあった。
まだ包帯が痛々しいルノアの姿が目に入り、レイは微かに眉を顰めるもそれに気づいたものはほぼ居なかった。
騒めく魔族たちにジェラルドが昨夜イグナーに襲撃されたことを話せば、ますます場は騒然とした。
あまりにもダメージを受けていないジェラルドの姿にイグナーは細い眉を怪訝そうに跳ね上げる。
その一方でゼットは舌なめずりしながら拳を掌に打ち込んだ。
イグナーの襲撃に彼は関与していないが、弁明をする気もないようだ。
「魔王サマよぉ!オレはアンタの実力を疑ってる!!他の奴らだってそういう連中はいるだろうさ。なぁ、その疑惑を晴らす為にもオレと勝負しちゃあくれねぇか?!オイ!!」
「いいだろう」
あっさりと申し出を受けた魔王に激震が走った。
挑発したゼットも意外だったようで……イグナーのようになにか卑怯な手でも使うつもりかと警戒を滲ます。
「城に被害を出す気はない。場所を変えるぞ」
そうして移ったのは闘技場だった。
大勢の野次馬たちの中から結界術が得意な数名に一帯に強固な結界を張らせる。
例えオーガの一族が揃って暴れようと破れぬほどの結界だ。
ぽっかりと開いた空間にレイだけが歩み出れば薄笑いを浮かべたゼットがジェラルドへと顔を向ける。
「オイオイ、魔王サマだけかぁ?そっちの頼りになる副官サマはどぉした?」
「必要ない」
淡々と答えたレイはまるで軽い準備運動のように適当に手首を回す。
「そもそも貴様らは彼らが怖いのだろう?だからこそわざわざ父が居ない隙を狙い、闇討ちなんて卑劣な手段を使ったんだろうに」
大衆の前で卑劣呼ばわりされたゼットとイグナーの顔が引き攣る。
その変化を見つつ、レイは冷ややかな口調でなおも続ける。
クールな魔王モードのレイはほとんど表情を変えないし、口調も淡々としている。
それは偏に色々とボロを出さないように表情も口数も最低限に抑えているだけなのだが…………端から見ると違う見方ができてしまう。
つまりは…… “冷徹” そうとか、 “無感動” とか、
あるいは…… 相手を “見下して” “小馬鹿にして” いるようにとか。
「安心しろ、貴様らの相手は僕だけだ。もっとも……そちらは何人だろうと構わない」
「っざっけんな!」
明らかな侮蔑にゼットの怒りが爆発した。
本人割と無自覚の挑発が大ヒットである。
筋肉質な体が怒りで大きく膨れ上がる。赤く血走った眼をしたゼットは完全に本気を出す気だ。
一方でイグナーは困惑していた。
魔王を実力の見合わぬ弱者だと判断したからこそ彼は今回動いた。
だが当の魔王があまりにも平然としていることに驚いているのだ。
もしや判断を誤ったのか…………背に汗を垂らしつつ焦るも、もはや彼に引く道などなかった。
足音荒く進み出るゼットと、躊躇いながらもそのあとに続くイグナー。
開始の合図と共にゼットが躍り出た。
まずは挨拶代わりと振り下ろされた拳を最低限の動きで避ける。重い拳は地面を穿ち、クレーターのように周囲を凹ませた。
巨体に似合わぬ俊敏な動きで猛攻をかけるゼットをひらりと躱す。
ゼットの背後ではイグナーが低く陰鬱な呪文を唱えていた。
バチバチと輝く雷の矢が30本ほど頭上を包囲した。
中央目掛けて一斉に放たれる矢。
その数と、味方であるはずのゼットの存在などお構いなしに放たれたそれに周囲の魔族たちが思わず声をあげる。
だが……その矢は一本たりとも目標へはたどり着かなかった。
ゼットの攻撃をなんなく躱しながらレイが軽く指を払っただけで全て空中で撃ち落とされたからだ。
「なっ!」
驚愕の声をあげたのはイグナーだけではなかった。
雷の矢自体を阻むのはそう難しくない。けれど30本ものそれを無詠唱で、しかも氷の矢を持って一瞬で相殺するのは正しく神業だ。
なにせ一本一本の矢を、矢で持って撃ち落としたのだ。
威力も精度も推して知るべし、である。
「灼熱の烈火!」
爆裂の叫びにより凄まじい火柱が突き上げた。
ゼットの唇がニィィと獰猛な笑みを刻んだ。
腕力にモノをいわせた力技ばかり得意と思われがちなオーガだが、その統領ともなるゼットは攻撃系に関しては魔術にも秀でる。
並みの者なら打ち上げることしかできない巨大な火柱を操ることすら可能だ。
勝利を確信したゼットはその拳ごと火柱を打ち出した。
無防備な体を烈火が包み込む…………と思われた瞬間、玲瓏な声が響いた。
「氷の障壁」
「!!?」
氷の壁に炎はあっさりと阻まれた。
ガラスのように立ちはだかる氷の壁。
先と異なり短縮詠唱を唱えたのは余裕がなかったからではない。
そう誰もが理解した。
理解、させられた。
本来、レイが生み出した氷の障壁は氷属性の下級魔術だ。炎の上級魔術である灼熱の烈火を阻むのならもっと相応しい魔術がある。
それなのにあえてレイは下級魔術でゼットの全力を阻んで見せたのだ。
もはや誰の目にも実力の差は歴然だった。
「さて、そろそろお遊びは終わりでいいか?」
キラキラと砕けながら消失する氷の壁の向こうでレイはつまらなそうに首を傾げた。
丹精込めて造り上げられた人形のように美しい顔はどこまでも涼しいままだった。
25
あなたにおすすめの小説
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
勇者のママは今日も魔王様と
蛮野晩
BL
『私が魔王に愛される方法は二つ。一つ目は勇者を魔王の望む子どもに育てること。二つ目は魔王に抱かれること』
人間のブレイラは魔王ハウストから勇者の卵を渡される。
卵が孵化して勇者イスラが誕生したことでブレイラの運命が大きく変わった。
孤児だったブレイラは不器用ながらも勇者のママとしてハウストと一緒に勇者イスラを育てだす。
今まで孤独に生きてきたブレイラだったがハウストに恋心を抱き、彼に一生懸命尽くしてイスラを育てる。
しかしハウストには魔王としての目的があり、ブレイラの想いが届くことはない。
恋を知らずに育ったブレイラにとってハウストは初恋で、どうすれば彼に振り向いてもらえるのか分からなかったのだ。そこでブレイラがとった方法は二つ。一つ目は、勇者イスラをハウストの望む子どもに育てること。二つ目は、ハウストに抱かれることだった……。
表紙イラスト@阿部十四さん
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?
北川晶
BL
BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。
乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。
子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ?
本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる