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しおりを挟む「ゼットッ!!!」
ひび割れた声でイグナーが叫ぶ。
その声には隠しきれない焦りが含まれていた。
「協力シナサイ!!このままでは勝ち目ハありまセン!」
「……あ、ああ!」
グッと目を閉じ、拳を握りしめたゼットも覚悟を決めたように叫んだ。
降りかかる拳の雨。炎と雷。
それらがレイを足止めする間に先程までよりさらなる陰鬱な声が低く響く。
もはや不気味な呟きのようにしか聞こえないイグナーのそれが止んだ時、ゼットの口からは言葉に表せぬような咆哮が迸った。
頭を抱えて喉が裂けんばかりに叫ぶ彼の全身の筋肉は限界まで膨張し、その姿を一回り以上大きく見せた。
だらりと涎を垂らす口、血走った赤い瞳はどんよりと濁り、そこに正気の色はない。
「……洗脳かっ!」
ゼットの瞳を見たジェラルドが叫ぶ。
咆哮を止め、すぅっと息を吸い込んだゼットが再び大きく口を開いた。
人の喉からでは決して発することのできない音が鳴り響く。長く途切れないそれに呼応するように結界内のオーガたちが同じように頭を押さえ苦しみだした。
「まさか……共鳴?」
「どうなっている?!」
様子の可笑しいオーガたちに結界内の魔族たちが騒ぎ出す。
城に被害を及ばさないようドーム状に覆われた結界は辺り一面を覆っている。
結界の外への被害は出ないが……ドーム内に居る自分たちは例外だ。
それまで高見の見物を決め込んでいた魔族たちが慌ててオーガたちから身を離す。
騒然とする結界の中、オーガたちの叫びが響き渡った。
「……厄介だな」
眉を潜めてレイは呟いた。
正気を失った彼らは見境を失っており、ジェラルドをはじめ周囲の魔族も戦闘態勢に入ってはいるが……いかんせん数が多いうえにこれだけの魔族が乱闘になれば被害は小さくない。
暴れるオーガたちが統領であるゼットの叫びに従っているのだとしたら…………。
ひらりと地面を蹴ったレイはゼットに飛びつくとその首を掴んだ。
そのままガブリと牙を立てる。
ジュルジュルと血を啜る音が淫らに響いた。
埋めていた首筋から顔を上げれば、ポカンとした間抜け面が目の前にあった。
腕で雑に口を拭い、空を仰いだレイはそしてそのまま細い喉から言い表せぬ声を響かせる。
我に返ったオーガたちがやはりポカンとした表情でレイを見つめていた。
「……一体ナニがっ?」
なにが起きたのか理解できない表情でイグナーが呟いた。
そしてそれは周囲の魔族たちも同じだろう。
「オーガの支配権を奪い取っただけだ」
事も無げにレイが告げる。
「支配権を……?!」
「まさか、能力を奪い取ることが……?」
「ならば……先程の魔術も……?」
バンバンバンバンッ!!!
口々に零す驚きの声をかき消すように激しく爆音が響いた。
誰もが音の出所を見上げると………ドーム状の結界の上空にはブチ切れ遊ばしている吸血鬼の姿があった。
漆黒のコウモリの羽を広げた美貌の吸血鬼・パパんことディードリッヒは力技で結界を破ろうと攻撃魔術を繰り出している。あと蹴りも。
「あれ?早くない」
驚きに思わず素で呟いてしまったレイは慌てて口を押える。
皆の視線はディードリッヒに集中していたために運よく気づかれてはいなかった。
ブチ切れている元・魔王の迫力に慌てて術者たちが結界を解こうとするのを見て、レイは一瞬だけ考えたあとで彼らを止めた。
ちょうどいい機会だし……。
うん、と自己完結して一つ頷いたレイは上空へ向かって声をあげた。
「父上!離れて頂けますか?」
自分を見上げる淡く赤みを帯びた瞳。
その瞳を見たディートリッヒは瞬時に愛息子の意図を悟り、その場から大きく飛び上がる。
上空高くから文字通り “見下ろす” 彼の唇は、これから起こる出来事に、そしてそれを目の当たりにする彼らの反応に大きく吊り上がっていた。
小さく何事か呟き、細い腕がツィと横へと振るわれる。
長い睫毛が震え、閉ざされた瞳が開けばその瞳には炎の赤が宿っていた。
そしてその瞬間、生み出された炎が内側から結界を攻撃した。
通常の炎とは異なる、黒き炎は勢いを増し、舐めるように結界を侵食していき………………やがて強固な結界が崩れた。
幾人もの結界の遣い手たちが造り上げた絶対に崩れぬ筈の結界、そのあまりにもあっけない崩壊に誰もが声と表情を失う中……レイの後方に立つジェラルドと上空のディートリッヒだけが隠しきれぬ笑みを浮かべていた。
愉悦の表情を湛えた二人が見つめる先はたった一人。
気が弱くて闘うことが苦手な……そのくせ誰よりも強い魔族の王にして、唯一自分たちが傅く相手。
炎の残り火が消えると共に、熱が冷めるように瞳の色も戻ったレイはこの場の全視線が自分に向いていることに内心で怯みつつ、なんとか気力を振り絞り魔王モードをキープする。
「す、すでに気づいた者もいるだろうが、僕は相手の能力を奪うことができる」
出だしでちょっと噛みそうになったが、平静を装いなんとか平坦な声音で告げた。
そう、レイは吸血によって相手の能力を奪うことができる。
…………もっとも、その効果は半日ほどだが。
なお、奪うといっても自分も使えるようになるだけなので、対象者も変わらず能力を使うことができるし、奪い取った能力の効果は魔力量に比例する。
なのでレイはゼットの能力値を上回りオーガの支配権を奪い取れたのだ。
「先程の闘いで僕が氷魔術ばかりを使用したのはジェラルドの得意属性だからだ。なぜ僕がわざわざ彼の魔術を使用したか、その理由がわかるか?」
冷たく傲慢な感じをイメージしてレイはゼットに顎で問いかけた。
「い、いいえ」
すっかり大人しくなった彼にフンと鼻を鳴らし、軽く手を掲げる。
「僕が得意とする攻撃は大きく二つ。一つはお前たちも見ただろう?全てを焼き尽くす黒炎だ。そしてもう一つも手加減が出来るような代物じゃないからだ」
黒炎と黒い茨。
片や物理的な対象に限らず魔術までをも焼き尽くす、灼熱をも超えた黒き炎。
片や意思を持ったように襲い掛かり、生命力を吸い取る黒き茨。
高確率で相手を死に至らしめる、あまりにも凶悪で無慈悲な力…………それこそがレイが闘いを忌避する理由の一つだった。
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