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しおりを挟む急遽決まったディードリッヒの遠征。
時期的にゼットの関与を穿ったが……辺境で起きたミノタウロス族とケンタウロス族の争いは自然に勃発したものだった。
この遠征がゼットが仕組んだものでないとしても…………敵がこの機を狙ってくるのは確実だろう。
だからこそ数日間はレイが人前に出る必要がないよう調節したし、守りも強固に固めた。
充分に警戒していた………………筈、だった。
城の回廊を足早に歩いていたジェラルドは声をかけられるより早く振り返った。
「コンバンハ」
抑揚のない声が陰気に放たれる。
差し込む月の光に照らされたのは爬虫類の鱗を持つガリガリの男。
「イグナー」
ジェラルドがその名を呟いた瞬間、イグナーが腕を差し出す。
四方の闇から飛び出してきた影の攻撃をジェラルドは大きく後ろに飛んで避けた。
応戦している間、イグナーの詠唱には気づいていたが………攻撃の類ではなかったから目の前の敵を優先した。
その判断が過ちだとも知らずに。
耳鳴りのような甲高い音を立てて周囲を結界が取り囲む。
なんのつもりだ?と思ったところで不意に感じた違和感。
眩暈のようなそれに周囲に視線をやればほんの薄っすらと足元を白い靄のようなものが這い寄っていた。
倒れ伏した敵たちが喉を掻きむしり絶叫をあげる。
「毒かっ……!!」
張り巡らされた結界は密室を造り上げるためのもの。
強い毒にさえ耐性のあるイグナーは自らの配下たちをも巻き添えにして毒を散布したのだ。
瞬時に気づいたジェラルドは右手に魔力を込めて結界を力技で破壊し、暴風を巻き起こすと毒を散らした。
風が止む時にはイグナーは姿を消していた。
(やられた…………!)
内心で悪態をつきつつ、力の入らない体に鞭を打つ。
無様に壁に手を付きながらなんとか目的の部屋までたどり着いた時には半身が爛れたように青く変色していた。
「ジェラルド様?!」
扉を守っていた衛兵がその姿に驚きの声をあげる。
「レイ様はご無事、ですか?」
「は、特に異常は……」
異変がなかったことを告げつつも、別の者が室内に確認を取る。
「ジェラルド?!一体なにがっ……!!?」
「危険ですレイ様どうかお下がりください。誰かっ毒に詳しい者を!ララを呼べっ!!」
クロノスの手を振り払いレイはジェラルドへと駆け寄った。
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