聖なるじゃがいもと聖女のなり損ない~中年教師、芋と塩と砂糖で魔王(と相棒)の胃袋を掴む~

うはっきゅう

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第2話:祝福の砂糖と、追放(という名の任務)

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「ぷっはー! おいひい……じゃなかった、美味しいですわ!」

 クレーターのど真ん中。聖都を半壊させた張本人、ソアラは、聖なるじゃがいも(塩味)をぺろりと平らげ、満足げにため息をついた。
 その顔は、聖女というより、日曜の昼下がりにオヤツを食った小学生だ。
 荒れ狂う魔力は、完全に沈黙していた。

「……」
「……」

 周囲を取り囲んでいた騎士団の面々、そして逃げ惑っていた市民たち。
 全員が、ポカン、とした顔で俺たちを見ている。

「お、おさまった……」
「あの『聖都の厄災』ソアラ様が……たった一本のふかし芋で……?」
「あの男、何者だ……? 伝説の『芋使い(ポテトマスター)』か?」

 変なあだ名つけんじゃねえ!

 俺が内心でツッコミを入れていると、ススだらけの騎士団の中から、ひときわデカい鎧を着た、ヒゲモジャのオッサンが歩み出てきた。
 その目、完全に据わってる。教師時代に何度も見た「問題児の保護者(こっちが説教される側)」の目だ。

「……貴様。何者だ」

 ドスの利いた声。威圧感(プレッシャー)がヤバい。
 ソアラが「ひっ!」と俺の後ろに隠れた。お前、さっきまで都市を消し飛ばす勢いだったろ。

「あー……俺は佐藤。佐藤健太郎。通りすがりの……」
「ふざけるな! ソアラ様の魔力暴走を、芋で止めた。尋常ではない! 貴様、魔王軍のスパイか!?」

「待て待て待て! 違う! 俺は被害者だ! あのアホ女神に『魔王を倒せ』って送り込まれた勇者(仮)だ!」
「女神様をアホ呼ばわりだと!? やはり貴様、不敬罪で……!」

「お待ちください、団長!」

 緊迫する空気の中、ソアラが俺の服の裾をぎゅっと掴んで、震えながら前に出た。

「こ、この方は、わたくしの恩人です! わたくしが……その……お腹が、すいて……力が、その……」
「またか! ソアラ様! あなたはどれだけこの聖都に損害を出せば気が済むのですか!」
「ひぃぃぃ!」

 団長の説教(物理的な圧)が強すぎて、ソアラが再び涙目になる。
 まずい。さっき芋を食ったばかりだが、今度は『恐怖』と『ストレス』だ。

 ソアラの周囲が、またバチバチと音を立て始める。

「「「うわあああ! また来るぞ!」」」

 騎士団が盾を構える! 市民が逃げる! 阿鼻叫喚のアンコールだ!

「ああもう! やめろヒゲ! 説教で追い詰めるから暴走するんだろ! この子はデリケートなんだよ!」
「なんだと!? 貴様、平民のクセにこの私に……」
「うるさい! 俺は元教師だ! お前らみたいな『大人の都合』で子供を追い詰める奴が一番嫌いなんだよ!」

 俺は懐から、最後の切り札、『祝福の砂糖』の小袋を取り出した。
 だが、どうする? このまま食わせるか? いや、もっと効果的な方法があるはずだ。
『祝福』の名を冠した砂糖だぞ。ただ甘いだけじゃないはずだ。

「団長! 教皇様がお呼びです! ソアラ様と、その謎の男も連れてこい、と!」

 ナイスタイミング! 伝令の騎士!
 ヒゲ団長は「むう……」と不満そうだったが、教皇の命令には逆らえないらしい。

「……連れて行け。少しでも怪しい動きをしたら、斬り捨てろ」
「だから俺は勇者(仮)だっての!」

 こうして俺は、聖都を破壊した少女(ソアラ)と、芋でそれを止めた不審者(俺)として、聖都の中枢、大神殿に連行されることになった。

 ---

 大神殿は、外見こそ無事だったが、中はひどい有様だった。
 ソアラの暴走(スーパーノヴァ)の余波で、ステンドグラスは割れ、シャンデリアは傾ぎ、高そうな壺が粉々になっている。

「おお……またおやりになられましたな、ソアラ様……」

 玉座(?)で頭を抱えていたのは、枯れ木のように痩せた老人だった。金ピカの、やたらと偉そうな法衣を着ている。こいつが教皇か。

「申し訳、ありま……ひっく……うう……」
 ソアラはガチ泣きだ。もう魔力云々の前に、ただの泣き虫だ。

 教皇は、疲れた目で俺を見た。
「……そなたが、芋の男か」
「芋の男って言うな! 佐藤だ!」
「佐藤殿。団長から報告は受けた。そなた、あのソアラ様の暴走を鎮めたそうだな。いったい、いかなる魔法を?」

「魔法じゃねえ。芋だ」
「……芋」

 教皇が絶望的な顔で天を仰いだ。
 俺は構わず続けた。

「あんたら、この子に何してんだ? こんなデリケートな時期の女子を、一人で追い詰めて。そりゃ魔力も暴走するだろ。教師(俺)の目から見れば、こいつはただの『情緒不安定な、腹ペコの女子生徒』だぞ」

「女子生徒、だと……?」
 教皇と、周囲の神官たちがざわめく。

「ソアラ様は、百年ぶりに降臨なされた『聖女』! その膨大な魔力で、魔王軍を殲気滅殺する、我ら人類の『希望』であり『最終兵器』であらせられるのだぞ!」

「兵器ねえ……」

 俺はソアラを見た。当の本人は「兵器……わたくしが……」と、顔面蒼白でガタガタ震えている。プレッシャーで潰れかけてる。

「……もういい」
 俺は、この茶番に付き合うのをやめた。

「教皇さんよ。こいつが兵器だってんなら、メンテが必要だろ。こいつのメンテ、俺がやる」
「なに?」
「見ての通り、この子は『空腹』と『ストレス』で暴発する。なら、腹を満たして、ストレスを取り除けば、暴発しねえんだろ? 単純な話だ」

「そ、そんな単純な……! 我々はあらゆる魔力制御の訓練を……!」
「それがダメだったんだろ!」

 俺が声を張り上げた、その時だった。

「ひ……あ……うああ……」

 ソアラだ。
『兵器』『厄災』『ダメ聖女』。
 大人たちの視線と、重圧と、自己嫌悪。
 ついに、彼女の精神が限界(リミット)を超えた。

 ゴオオオオオオオオオオ!!

「「「なっ!?」」」

 今までの暴発とはレベルが違う。
 大神殿そのものが揺れている。空間が、魔力で飽和して歪んでいく。

「いかん! 制御室! 総員、魔力障壁を展開! 聖都が、聖都が消滅するぞ!」
「ダメです! 予測魔力量、計測不能(オーバーフロー)! 制御不能です!」

 神官たちが叫ぶ。
 ソアラの体から、黄金色の魔力が嵐のように吹き荒れる。
 もう涙も出ていない。虚ろな目で、ただただ魔力を放出し続けている。

「うう……もう、いや……わたくし……消えたい……」

 これは、ただの暴走じゃない。
『自爆』だ。

「おい! ソアラ! しっかりしろ!」
「近寄るな、佐藤殿! 死ぬぞ!」

 騎士団長が俺を止めようとするが、遅い!
 このままじゃ全員お陀仏だ!

 教師の仕事ってのはな、生徒が道を踏み外しそうになった時、物理で引き戻すことだ!

 俺は嵐の中心に突っ込むと、懐から『祝福の砂糖』を取り出し、近くにあった『聖水』(たぶん)のカップに、全部ぶち込んだ!

 ジャララララララ!(砂糖が溶ける音)

『祝福の砂糖』は、一瞬で聖水に溶け込み、淡い虹色に輝いた。
 なんだこれ、超うまそう。

「ソアラ! 口を開けろ!」
「……え?」
「いいから開けろ! これは『業務命令』だ!」

 俺は、無理やりソアラの口に、虹色の砂糖水を流し込んだ。

「んぐっ!? んぐぐぐ……!?」

 ソアラが、目を白黒させながら、それを飲み干す。

 そして、

 ピタッ。

 嵐が、止まった。

 いや、違う。止まったんじゃない。
 ソアラの体内に、荒れ狂っていた魔力が、スウウウウウウ……と吸い込まれていく。
 まるで、乾いたスポンジが水を吸うみたいに。

「あ……」

 ソアラが、へにゃり、と座り込んだ。
 その表情は、今までに見たことがないほど、穏やかで、とろけきっていた。

「あま…………あまーーーーい……ですわ……」

 頬をバラ色に染め、恍惚とした表情で、ソアラが呟く。

「なんだか……頭の中が、幸せで……いっぱいに……魔力とか、もう、どうでもいいですわ……すぴー……」

「寝たァァァァ!?」

 まさかの即落ち(睡眠)!

 教皇も騎士団長も、神官たちも、全員、あんぐりと口を開けている。
 そりゃそうだ。聖都を消滅させかけた魔力嵐が、砂糖水一杯で解決(睡眠)したんだから。

 俺は、ハア、と息をついた。
 やっと理解したぞ、女神(アホ)。

『聖なるじゃがいも』は、空腹(肉体)を満たす。
『奇跡の塩』は、味を調え、活力を与える(たぶん)。
 そして、『祝福の砂糖』は、ストレス(精神)を癒し、安定させる。

 こいつらは、聖剣でも魔剣でもない。
 ソアラ専用の、『精神安定剤(オヤツ)』だったんだ!

「……佐藤、殿」

 教皇が、震える声で俺を呼んだ。

「あんた……あんたは、神だ。いや、神(女神)が遣わした、真の『調教師』だ」
「人使い(飼育員)みたいに言うな!」
「おお……! これぞ神の導き! ソアラ様を制御できる唯一無二の存在!」

 教皇は、ガバッと立ち上がると、高らかに宣言した。

「聞いたか! 諸君! 我々の希望は潰えていなかった!」
「「「おおお!」」」

「勇者(仮)佐藤健太郎よ! そして『聖女(いま寝てる)』ソアラよ!」

 なんか嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感がする。

「そなたたち二人に、魔王討伐の勅命(という名の丸投げ)を授ける!」

「やっぱりかあああああ!!」

「ソアラ様がここにいては、聖都がいくらあっても足らん! もとい、魔王の脅威にさらされている民草を救う時が来たのだ!」
「あの、俺、まだレベル1とかだと思うんですけど!」
「問題ない! ソアラ様の魔力は魔王すら凌駕する! そなたが、その砂糖と芋で、うまく『管理』しろ!」
「管理!? ペットか!」

「さあ、行け! 勇者よ! 旅立つのだ! すぐにだ!」
「え、今から!?」
「荷物は用意させた!」

 騎士たちが、デカい麻袋を二つ、俺の足元に放り投げた。
 中身は、言わなくてもわかる。

 じゃがいも、じゃがいも、じゃがいも。
 そして、塩と砂糖。

「食料(弾薬)は十分だ! これで魔王の城まで持つだろう!」
「いや、持つか! 栄養偏るわ!」

「問答無用! 門まで送って差し上げろ!」

「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」

「待て! 待ってくれ! 俺は教師だぞ! 冒険者じゃねえ! せめて宿屋に一泊……!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
「ソアラが寝てる! 起きるまで待て!」
「ワッショイ! ワッショイ!」

 俺の悲痛な叫びは、聖都の大人たちの歓喜(厄介払い)のワッショイにかき消された。

 こうして俺は、聖都の正門から、文字通り『放り出された』。
 スヤスヤと幸せそうに眠るソアラを背負い(おんぶし)、大量のイモと調味料を抱えて。

「……魔王、ねえ」

 俺は荒野に立ち尽くし、遠くに見える(であろう)魔王城の方向を睨んだ。
(待ってろよ、魔王! お前を倒す前に、俺はこの子の機嫌(と血糖値)を管理しなきゃならねえんだ!)
(俺の異世界教師(兼ベビーシッター兼料理人)生活、ハードモードで開幕である!)
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