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第一章・覚醒 編
第10話:最強の掃除屋たち、不運を愛する男
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アルトリアの街は、混沌の渦中にあった。
東の森から溢れ出した魔物の群れ――スタンピード。
オーク、ゴブリン、ウルフの混成部隊が、防壁を食い破らんと押し寄せていた。
「ひぃぃぃ! 逃げろぉぉぉ!」
「勇者様は!? 勇者パーティーは何をしてるんだ!」
逃げ惑う市民たち。
その視線の先、防壁の上では、無様な光景が繰り広げられていた。
「くそっ! なんで当たらないんだ! おいガイル、援護しろ!」
「無理だ! 魔力が切れた! リリア、お前の魔法で……!」
「やだ! 私の肌が汚れちゃうじゃない! なんで私が前衛に出なきゃいけないのよ!」
勇者レオン率いる「光の剣」。
彼らは完全にパニックに陥っていた。
本来なら、彼らの装備とレベルがあれば、下級魔物の群れなど敵ではないはずだ。
だが、連携はバラバラ、装備はメンテナンス不足、精神的にも余裕がない。
何より――
「おい見ろよ……勇者様、足が震えてるぞ……」
誰かが呟いたその言葉が、真実だった。
今まで、エディという「縁の下の力持ち」に守られ、安全な勝ち戦しかしてこなかった彼らは、本当の意味での「死闘」を知らなかったのだ。
防壁の一角が崩れ、オークの集団が雪崩れ込もうとした、その時。
「――どいてな、足手まとい共」
冷徹な声と共に、戦場に暴風が吹き荒れた。
ドォォォォォン!!
防壁の裂け目に着地したのは、白銀の大盾を構えた狼少女。
その盾が放つ衝撃波が、オークたちを吹き飛ばし、肉片へと変える。
「な、なんだ……!?」
レオンが目を見開く。
砂煙の向こうから、悠然と歩いてくる三つの人影。
中央に立つのは、幻獣革の鎧を纏った男、エディ。
右に、鉄壁の盾フェン。
そして左には――
「……セ、セシリア……!?」
レオンの声が裏返った。
そこには、ボロボロの修道服ではなく、エディが【万物拾得】で現地調達(教会の倉庫から拝借)した、真新しい純白の法衣に身を包んだ聖女の姿があった。
「……レオンさん」
セシリアが、冷ややかな瞳でかつての仲間を見下ろす。
「怪我をしているようですね」
「お、おお! そうだ! セシリア、早くヒールを! 足を挫いたんだ! 早く治せ!」
レオンが這いつくばりながら手を伸ばす。
だが、セシリアは動かなかった。
「……いいえ。貴方の傷は、自分で治してください。ポーションを買うお金くらい、まだ持っているでしょう?」
「は、はぁ!? 何を言って……俺は勇者だぞ!?」
「私はもう、貴方の道具ではありません。……私は、私の『居場所』を守るために、力を使います」
セシリアが杖を掲げた。
その穂先が向いたのは、レオンではなく、街に侵入しようとする魔物の群れ。
「聖なる光よ!」
極太の光線が、夜空を焼き尽くし、数百の魔物を一撃で蒸発させた。
圧倒的な火力。
エディの【魔力譲渡】(魔石から抽出した魔力を供給)を受けた彼女の魔法は、以前とは桁違いの威力を発揮していた。
「す、すげぇ……!」
「あれが聖女様の力……!」
「勇者より強くねえか……?」
市民たちの歓声が上がる。
その中心で、俺はレオンの前に立った。
「……聞いたか、レオン。『勇者より強い』ってよ」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「ここは俺たちが片付ける。お前らは、隅っこで震えてな」
そこからは、一方的な蹂躙だった。
俺が戦場に散らばる武器や瓦礫を「拾い」、投擲し、魔物を粉砕する。
フェンが全ての攻撃を防ぎ、セシリアが広範囲魔法で焼き払う。
たった三人。
だがその戦力は、一軍隊に匹敵していた。
数時間後。
スタンピードは、完全に鎮圧された。
◇ ◇ ◇
街は、お祭り騒ぎだった。
ギルドマスターのジークが、俺たちの功績を大々的に発表したからだ。
俺たちは一躍、街の英雄となっていた。
だが、そんな喧騒から離れた路地裏の酒場「ドワーフの溜息」に、俺たちの姿はあった。
高級宿での祝杯もいいが、たまにはこういう汚い店で、安いエールを煽るのも悪くない。
「ぷはぁっ! 生き返るな!」
俺がジョッキを空にすると、隣でフェンが心配そうにオレンジジュースを啜っている。
「エディさん、あまり飲みすぎないでくださいね。……それにしても、あの教会の人たち、凄く睨んでましたけど……」
「放っておけ。手出しはさせねえよ」
事後処理の際、教会から派遣された司祭たちが、セシリアの引き渡しを要求してきた。
ご丁寧に「ご実家がどうなっても構わないと?」という牽制付きで。
セシリアは一瞬、顔を曇らせるも、
「――ええ。構いません。当家の借金も、元はと言えば父と母の過度な贅沢に端を発したもの……。後はご自分たちで、責任を取られるのがよろしいでしょう」
と、毅然とした態度を崩さなかった。
なおも食い下がってこようとする司祭たち。
俺は「魔導機兵の残骸(証拠品)」をチラつかせ、「これを王都に送りつけてもいいんだぜ?」と脅し……いや、交渉した。
奴らは顔を青くして退散していった。
(だが、妙だな……)
俺は串焼きをかじりながら考える。
なぜ教会は、あそこまでレオンに固執する?
実力もない、人望もない。ただの「勇者の血筋」というだけの男だ。
魔王討伐? 本気で奴にできると思っているなら、教会上層部は脳味噌が腐っている。
……あるいは、「レオンでなければならない理由」があるのか?
「――ヒック。うぃ~……そこの美女二人、俺と飲まないかぁ~?」
俺の思考を遮るように、だらしない声がかかった。
見れば、隣のテーブルに突っ伏していた男が、千鳥足でこちらに近づいてくるところだった。
ボサボサの黒髪に、無精髭。
ヨレヨレのローブは酒臭く、まさに「人生の敗北者」といった風体だ。
「……結構です。私たちは連れがいますから」
セシリアが冷たくあしらう。
だが、男はニタニタと笑いながら、フェンの肩に馴れ馴れしく手を伸ばした。
「つれないこと言うなよぉ~。俺、こう見えても寂しいんだぜぇ? 慰めてくれよぉ、わんちゃん」
バシッ。
男の手がフェンに触れる直前、俺がその手首を掴んだ。
「……おい。俺の連れに、気安く触るな」
俺は少し力を込めた。
普通なら、骨がきしむ痛みで悲鳴を上げるはずだ。
だが。
「――おっ、痛ぇ痛ぇ。握力強いねぇ、兄ちゃん」
男は、ヘラヘラと笑ったままだった。
その瞳。
濁った酒色の瞳の奥に、一瞬だけ、ゾッとするような「冷たい光」が見えた。
「……なんだ、お前」
「俺? 俺はリカルド。しがない魔法使いさ。……なぁ兄ちゃん、俺を『拾って』くれないか?」
「は?」
「見ての通り、俺は金もねぇ、家もねぇ、明日の酒代もねぇ『ゴミ』だ。あんた、噂の『ゴミ拾い』の英雄なんだろ? 俺みたいなゴミも、拾ってくれるんだろ?」
リカルドと名乗った男は、挑発するように笑った。
『対象:人間(リカルド)』
『解析:???(干渉阻害により詳細不明)』
『状態:酩酊、呪詛汚染』
(……鑑定を弾いた?)
俺の【万物拾得】が、解析できない?
ただの酔っ払いじゃない。
「……断る。俺が拾うのは『使えるゴミ』だけだ。お前みたいな『面倒くさそうなゴミ』は、ごめんだな」
俺はリカルドの手を振り払った。
「行くぞ、二人とも。酒が不味くなった」
俺たちは席を立ち、店を出た。
だが。
ついてくる。
リカルドが、へらへらと笑いながら、俺たちの後ろをずっとついてくるのだ。
宿屋を変えても、路地を曲がっても、気づけば電柱の陰に立っている。
「……いい加減にしろよ、テメェ」
人通りのない路地裏で、俺は振り返った。
忍耐の限界だ。
「あ~ら、気づいちゃった? 運命かなぁ」
「運命なわけあるか。……失せろと言っている」
「冷たいなぁ。俺、あんたのこと気に入ったんだよ。強いし、面白いし、何より……俺と同じ匂いがする」
「……死にたいらしいな」
俺は、空間収納からオリハルコンの短剣を抜いた。
実力行使に出る。
フェンとセシリアには手出し無用と合図する。こんな酔っ払い、一瞬で〆てやる。
俺は、地面を蹴った。
【身体強化】全開。音速に迫る踏み込みで、リカルドの喉元に刃を突きつける――はずだった。
ガクッ。
一歩目を踏み出した瞬間、俺の体が鉛のように重くなった。
「なっ……!?」
足がもつれ、俺は無様に地面に膝をついた。
体に力が入らない。魔力が霧散していくような感覚。
『警告。状態異常を検知』
『詳細:全ステータス50%低下、魔力供給阻害、平衡感覚麻痺』
(デバフ……だと!? いつかけられた!?)
「おっと、危ない危ない」
リカルドは、一歩も動かず、ニヤニヤと俺を見下ろしていた。
「喧嘩っ早いなぁ。俺の固有魔法【道連れ】の範囲内だぜ? 俺に向けた殺気や害意は、全部『呪い』となって、あんたに返ってくる」
「……呪い返し、か……」
「ま、そんな可愛いもんじゃねぇけどな。俺は生まれた時から、周囲の『不幸』や『呪い』を引き寄せちまう体質でね。それを他人に押し付けないと、自分が死んじまうんだ」
リカルドが、懐からスキットルを取り出し、あおった。
「親からも捨てられ、行く先々で『疫病神』扱い。誰も俺に近づかねぇ。近づけば、不幸になるからな。……どうだ? 正真正銘の『ゴミ』だろ?」
その言葉には、自嘲と、深い絶望が滲んでいた。
俺は、重い体を無理やり起こし、男を見た。
こいつも、「捨てられた」側だ。
自分の意思とは関係なく、生まれ持った理不尽な力のせいで、世界から拒絶された男。
……かつて、Fランクスキルだと蔑まれ、パーティーの連中に都合よく利用され、最後は捨てられた俺と、何が違う?
「……おい」
「あん?」
「もし……お前みたいな、クソみたいな人生を歩んでた奴がいたら、お前はどうする?」
俺の問いに、リカルドはきょとんとして、それからニヤリと笑った。
「そりゃあ……友達になるしかねーわな。傷の舐め合いってやつだ」
「……違いない」
俺は、短剣を収めた。
すると、体の重みがスッと消えた。
「へぇ……殺気が消えた。あんた、変わってるな」
「俺たちは『銀の翼』……いや、まだ決めてなかったな。とにかく、エディだ」
俺は、手を差し出した。
「乗ってやるよ、その『道連れ』。お前が抱えてる呪いごと、俺が拾ってやる」
リカルドが、目を見開いた。
そして、初めて、本心からの苦笑を浮かべ、俺の手を握り返した。
「……酔狂な野郎だ。よろしくな、大将。俺はリカルド。見ての通りの、ゴミクズだ」
『仲間【リカルド】が加入しました』
『【万物拾得】が反応。対象【リカルド】の呪詛干渉を無効化……成功。スキル【道連れ】の制御権を一部共有します』
こうして。
最強の矛、最強の盾、最高の回復役に続き、最凶の「呪術師」が加わった。
◇ ◇ ◇
翌日。
四人になった俺たちがギルドに顔を出すと、ジークが待っていたと言わんばかりに手招きした。
「エディ、いいタイミングだ。……お前たちに、通達がある」
ジークが差し出した羊皮紙。
そこには、金色の文字でこう書かれていた。
『特別昇格試験・Aランク』
「Aランク……?」
「ああ。今回のスタンピード鎮圧の功績、そしてオークジェネラル討伐の実績。文句なしだ。……それに、Aランクになれば、ある『権利』が得られる」
ジークの声が低くなった。
「『魔王討伐遠征』への参加権だ」
魔王。
世界の敵にして、すべての魔物の頂点。
本来なら勇者だけに許された聖域。だが、Aランク以上の冒険者にも、その挑戦権は開かれている。
「教会は、何としてもレオンに魔王を倒させたいらしい。裏で、国王陛下への工作も進んでいるという噂だ。……奴らが何を企んでいるのかは知らんが、ロクなことじゃないだろう」
ジークの言葉に、俺の中で全てのピースが繋がった。
レオンの実家、教会の癒着、国王の傀儡化疑惑。
それら全てをひっくり返すには、どうすればいいか。
「……つまり、レオンたちより先に、俺たちが魔王を倒しちまえばいいってことだな?」
俺が言うと、ジークは獰猛に笑った。
「痛快だな。世界を救ったのが勇者じゃなく、『捨てられたゴミたち』だったとしたら……奴らはどんな顔をするだろうな?」
俺は振り返り、仲間たちを見た。
フェンが、セシリアが、そして新入りのリカルドが、不敵に笑っている。
「決まりだな」
俺は拳を鳴らした。
「ここまで来たら、どこまでも成り上がってやる。俺をゴミ扱いした奴ら、フェンを迫害した奴ら、セシリアを使い捨てた奴ら、リカルドを虐げてきた奴ら……。全員まとめて、国ごと『ゴミ掃除』してやる!」
俺たちの戦いは、ここからが本番だ。
目指すは魔王城。
そしてその先にある、最高にスカッとする「ざまぁ」の結末へ。
【ゴミ拾い】と呼ばれた俺たちの、世界を変える大掃除が、今始まる!
(第一部・完 → 新章・魔王討伐編へ続く!)
東の森から溢れ出した魔物の群れ――スタンピード。
オーク、ゴブリン、ウルフの混成部隊が、防壁を食い破らんと押し寄せていた。
「ひぃぃぃ! 逃げろぉぉぉ!」
「勇者様は!? 勇者パーティーは何をしてるんだ!」
逃げ惑う市民たち。
その視線の先、防壁の上では、無様な光景が繰り広げられていた。
「くそっ! なんで当たらないんだ! おいガイル、援護しろ!」
「無理だ! 魔力が切れた! リリア、お前の魔法で……!」
「やだ! 私の肌が汚れちゃうじゃない! なんで私が前衛に出なきゃいけないのよ!」
勇者レオン率いる「光の剣」。
彼らは完全にパニックに陥っていた。
本来なら、彼らの装備とレベルがあれば、下級魔物の群れなど敵ではないはずだ。
だが、連携はバラバラ、装備はメンテナンス不足、精神的にも余裕がない。
何より――
「おい見ろよ……勇者様、足が震えてるぞ……」
誰かが呟いたその言葉が、真実だった。
今まで、エディという「縁の下の力持ち」に守られ、安全な勝ち戦しかしてこなかった彼らは、本当の意味での「死闘」を知らなかったのだ。
防壁の一角が崩れ、オークの集団が雪崩れ込もうとした、その時。
「――どいてな、足手まとい共」
冷徹な声と共に、戦場に暴風が吹き荒れた。
ドォォォォォン!!
防壁の裂け目に着地したのは、白銀の大盾を構えた狼少女。
その盾が放つ衝撃波が、オークたちを吹き飛ばし、肉片へと変える。
「な、なんだ……!?」
レオンが目を見開く。
砂煙の向こうから、悠然と歩いてくる三つの人影。
中央に立つのは、幻獣革の鎧を纏った男、エディ。
右に、鉄壁の盾フェン。
そして左には――
「……セ、セシリア……!?」
レオンの声が裏返った。
そこには、ボロボロの修道服ではなく、エディが【万物拾得】で現地調達(教会の倉庫から拝借)した、真新しい純白の法衣に身を包んだ聖女の姿があった。
「……レオンさん」
セシリアが、冷ややかな瞳でかつての仲間を見下ろす。
「怪我をしているようですね」
「お、おお! そうだ! セシリア、早くヒールを! 足を挫いたんだ! 早く治せ!」
レオンが這いつくばりながら手を伸ばす。
だが、セシリアは動かなかった。
「……いいえ。貴方の傷は、自分で治してください。ポーションを買うお金くらい、まだ持っているでしょう?」
「は、はぁ!? 何を言って……俺は勇者だぞ!?」
「私はもう、貴方の道具ではありません。……私は、私の『居場所』を守るために、力を使います」
セシリアが杖を掲げた。
その穂先が向いたのは、レオンではなく、街に侵入しようとする魔物の群れ。
「聖なる光よ!」
極太の光線が、夜空を焼き尽くし、数百の魔物を一撃で蒸発させた。
圧倒的な火力。
エディの【魔力譲渡】(魔石から抽出した魔力を供給)を受けた彼女の魔法は、以前とは桁違いの威力を発揮していた。
「す、すげぇ……!」
「あれが聖女様の力……!」
「勇者より強くねえか……?」
市民たちの歓声が上がる。
その中心で、俺はレオンの前に立った。
「……聞いたか、レオン。『勇者より強い』ってよ」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「ここは俺たちが片付ける。お前らは、隅っこで震えてな」
そこからは、一方的な蹂躙だった。
俺が戦場に散らばる武器や瓦礫を「拾い」、投擲し、魔物を粉砕する。
フェンが全ての攻撃を防ぎ、セシリアが広範囲魔法で焼き払う。
たった三人。
だがその戦力は、一軍隊に匹敵していた。
数時間後。
スタンピードは、完全に鎮圧された。
◇ ◇ ◇
街は、お祭り騒ぎだった。
ギルドマスターのジークが、俺たちの功績を大々的に発表したからだ。
俺たちは一躍、街の英雄となっていた。
だが、そんな喧騒から離れた路地裏の酒場「ドワーフの溜息」に、俺たちの姿はあった。
高級宿での祝杯もいいが、たまにはこういう汚い店で、安いエールを煽るのも悪くない。
「ぷはぁっ! 生き返るな!」
俺がジョッキを空にすると、隣でフェンが心配そうにオレンジジュースを啜っている。
「エディさん、あまり飲みすぎないでくださいね。……それにしても、あの教会の人たち、凄く睨んでましたけど……」
「放っておけ。手出しはさせねえよ」
事後処理の際、教会から派遣された司祭たちが、セシリアの引き渡しを要求してきた。
ご丁寧に「ご実家がどうなっても構わないと?」という牽制付きで。
セシリアは一瞬、顔を曇らせるも、
「――ええ。構いません。当家の借金も、元はと言えば父と母の過度な贅沢に端を発したもの……。後はご自分たちで、責任を取られるのがよろしいでしょう」
と、毅然とした態度を崩さなかった。
なおも食い下がってこようとする司祭たち。
俺は「魔導機兵の残骸(証拠品)」をチラつかせ、「これを王都に送りつけてもいいんだぜ?」と脅し……いや、交渉した。
奴らは顔を青くして退散していった。
(だが、妙だな……)
俺は串焼きをかじりながら考える。
なぜ教会は、あそこまでレオンに固執する?
実力もない、人望もない。ただの「勇者の血筋」というだけの男だ。
魔王討伐? 本気で奴にできると思っているなら、教会上層部は脳味噌が腐っている。
……あるいは、「レオンでなければならない理由」があるのか?
「――ヒック。うぃ~……そこの美女二人、俺と飲まないかぁ~?」
俺の思考を遮るように、だらしない声がかかった。
見れば、隣のテーブルに突っ伏していた男が、千鳥足でこちらに近づいてくるところだった。
ボサボサの黒髪に、無精髭。
ヨレヨレのローブは酒臭く、まさに「人生の敗北者」といった風体だ。
「……結構です。私たちは連れがいますから」
セシリアが冷たくあしらう。
だが、男はニタニタと笑いながら、フェンの肩に馴れ馴れしく手を伸ばした。
「つれないこと言うなよぉ~。俺、こう見えても寂しいんだぜぇ? 慰めてくれよぉ、わんちゃん」
バシッ。
男の手がフェンに触れる直前、俺がその手首を掴んだ。
「……おい。俺の連れに、気安く触るな」
俺は少し力を込めた。
普通なら、骨がきしむ痛みで悲鳴を上げるはずだ。
だが。
「――おっ、痛ぇ痛ぇ。握力強いねぇ、兄ちゃん」
男は、ヘラヘラと笑ったままだった。
その瞳。
濁った酒色の瞳の奥に、一瞬だけ、ゾッとするような「冷たい光」が見えた。
「……なんだ、お前」
「俺? 俺はリカルド。しがない魔法使いさ。……なぁ兄ちゃん、俺を『拾って』くれないか?」
「は?」
「見ての通り、俺は金もねぇ、家もねぇ、明日の酒代もねぇ『ゴミ』だ。あんた、噂の『ゴミ拾い』の英雄なんだろ? 俺みたいなゴミも、拾ってくれるんだろ?」
リカルドと名乗った男は、挑発するように笑った。
『対象:人間(リカルド)』
『解析:???(干渉阻害により詳細不明)』
『状態:酩酊、呪詛汚染』
(……鑑定を弾いた?)
俺の【万物拾得】が、解析できない?
ただの酔っ払いじゃない。
「……断る。俺が拾うのは『使えるゴミ』だけだ。お前みたいな『面倒くさそうなゴミ』は、ごめんだな」
俺はリカルドの手を振り払った。
「行くぞ、二人とも。酒が不味くなった」
俺たちは席を立ち、店を出た。
だが。
ついてくる。
リカルドが、へらへらと笑いながら、俺たちの後ろをずっとついてくるのだ。
宿屋を変えても、路地を曲がっても、気づけば電柱の陰に立っている。
「……いい加減にしろよ、テメェ」
人通りのない路地裏で、俺は振り返った。
忍耐の限界だ。
「あ~ら、気づいちゃった? 運命かなぁ」
「運命なわけあるか。……失せろと言っている」
「冷たいなぁ。俺、あんたのこと気に入ったんだよ。強いし、面白いし、何より……俺と同じ匂いがする」
「……死にたいらしいな」
俺は、空間収納からオリハルコンの短剣を抜いた。
実力行使に出る。
フェンとセシリアには手出し無用と合図する。こんな酔っ払い、一瞬で〆てやる。
俺は、地面を蹴った。
【身体強化】全開。音速に迫る踏み込みで、リカルドの喉元に刃を突きつける――はずだった。
ガクッ。
一歩目を踏み出した瞬間、俺の体が鉛のように重くなった。
「なっ……!?」
足がもつれ、俺は無様に地面に膝をついた。
体に力が入らない。魔力が霧散していくような感覚。
『警告。状態異常を検知』
『詳細:全ステータス50%低下、魔力供給阻害、平衡感覚麻痺』
(デバフ……だと!? いつかけられた!?)
「おっと、危ない危ない」
リカルドは、一歩も動かず、ニヤニヤと俺を見下ろしていた。
「喧嘩っ早いなぁ。俺の固有魔法【道連れ】の範囲内だぜ? 俺に向けた殺気や害意は、全部『呪い』となって、あんたに返ってくる」
「……呪い返し、か……」
「ま、そんな可愛いもんじゃねぇけどな。俺は生まれた時から、周囲の『不幸』や『呪い』を引き寄せちまう体質でね。それを他人に押し付けないと、自分が死んじまうんだ」
リカルドが、懐からスキットルを取り出し、あおった。
「親からも捨てられ、行く先々で『疫病神』扱い。誰も俺に近づかねぇ。近づけば、不幸になるからな。……どうだ? 正真正銘の『ゴミ』だろ?」
その言葉には、自嘲と、深い絶望が滲んでいた。
俺は、重い体を無理やり起こし、男を見た。
こいつも、「捨てられた」側だ。
自分の意思とは関係なく、生まれ持った理不尽な力のせいで、世界から拒絶された男。
……かつて、Fランクスキルだと蔑まれ、パーティーの連中に都合よく利用され、最後は捨てられた俺と、何が違う?
「……おい」
「あん?」
「もし……お前みたいな、クソみたいな人生を歩んでた奴がいたら、お前はどうする?」
俺の問いに、リカルドはきょとんとして、それからニヤリと笑った。
「そりゃあ……友達になるしかねーわな。傷の舐め合いってやつだ」
「……違いない」
俺は、短剣を収めた。
すると、体の重みがスッと消えた。
「へぇ……殺気が消えた。あんた、変わってるな」
「俺たちは『銀の翼』……いや、まだ決めてなかったな。とにかく、エディだ」
俺は、手を差し出した。
「乗ってやるよ、その『道連れ』。お前が抱えてる呪いごと、俺が拾ってやる」
リカルドが、目を見開いた。
そして、初めて、本心からの苦笑を浮かべ、俺の手を握り返した。
「……酔狂な野郎だ。よろしくな、大将。俺はリカルド。見ての通りの、ゴミクズだ」
『仲間【リカルド】が加入しました』
『【万物拾得】が反応。対象【リカルド】の呪詛干渉を無効化……成功。スキル【道連れ】の制御権を一部共有します』
こうして。
最強の矛、最強の盾、最高の回復役に続き、最凶の「呪術師」が加わった。
◇ ◇ ◇
翌日。
四人になった俺たちがギルドに顔を出すと、ジークが待っていたと言わんばかりに手招きした。
「エディ、いいタイミングだ。……お前たちに、通達がある」
ジークが差し出した羊皮紙。
そこには、金色の文字でこう書かれていた。
『特別昇格試験・Aランク』
「Aランク……?」
「ああ。今回のスタンピード鎮圧の功績、そしてオークジェネラル討伐の実績。文句なしだ。……それに、Aランクになれば、ある『権利』が得られる」
ジークの声が低くなった。
「『魔王討伐遠征』への参加権だ」
魔王。
世界の敵にして、すべての魔物の頂点。
本来なら勇者だけに許された聖域。だが、Aランク以上の冒険者にも、その挑戦権は開かれている。
「教会は、何としてもレオンに魔王を倒させたいらしい。裏で、国王陛下への工作も進んでいるという噂だ。……奴らが何を企んでいるのかは知らんが、ロクなことじゃないだろう」
ジークの言葉に、俺の中で全てのピースが繋がった。
レオンの実家、教会の癒着、国王の傀儡化疑惑。
それら全てをひっくり返すには、どうすればいいか。
「……つまり、レオンたちより先に、俺たちが魔王を倒しちまえばいいってことだな?」
俺が言うと、ジークは獰猛に笑った。
「痛快だな。世界を救ったのが勇者じゃなく、『捨てられたゴミたち』だったとしたら……奴らはどんな顔をするだろうな?」
俺は振り返り、仲間たちを見た。
フェンが、セシリアが、そして新入りのリカルドが、不敵に笑っている。
「決まりだな」
俺は拳を鳴らした。
「ここまで来たら、どこまでも成り上がってやる。俺をゴミ扱いした奴ら、フェンを迫害した奴ら、セシリアを使い捨てた奴ら、リカルドを虐げてきた奴ら……。全員まとめて、国ごと『ゴミ掃除』してやる!」
俺たちの戦いは、ここからが本番だ。
目指すは魔王城。
そしてその先にある、最高にスカッとする「ざまぁ」の結末へ。
【ゴミ拾い】と呼ばれた俺たちの、世界を変える大掃除が、今始まる!
(第一部・完 → 新章・魔王討伐編へ続く!)
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
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まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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