【ゴミ拾い】と呼ばれ勇者パーティーを追放された俺…だがこのスキル、実はSSSランクの【万物拾得】だったらしい。

うはっきゅう

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第一章・覚醒 編

第10話:最強の掃除屋たち、不運を愛する男

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 アルトリアの街は、混沌の渦中にあった。
 東の森から溢れ出した魔物の群れ――スタンピード。
 オーク、ゴブリン、ウルフの混成部隊が、防壁を食い破らんと押し寄せていた。

「ひぃぃぃ! 逃げろぉぉぉ!」
「勇者様は!? 勇者パーティーは何をしてるんだ!」

 逃げ惑う市民たち。
 その視線の先、防壁の上では、無様な光景が繰り広げられていた。

「くそっ! なんで当たらないんだ! おいガイル、援護しろ!」
「無理だ! 魔力が切れた! リリア、お前の魔法で……!」
「やだ! 私の肌が汚れちゃうじゃない! なんで私が前衛に出なきゃいけないのよ!」

 勇者レオン率いる「光の剣」。
 彼らは完全にパニックに陥っていた。
 本来なら、彼らの装備とレベルがあれば、下級魔物の群れなど敵ではないはずだ。
 だが、連携はバラバラ、装備はメンテナンス不足、精神的にも余裕がない。
 何より――

「おい見ろよ……勇者様、足が震えてるぞ……」

 誰かが呟いたその言葉が、真実だった。
 今まで、エディという「縁の下の力持ち」に守られ、安全な勝ち戦しかしてこなかった彼らは、本当の意味での「死闘」を知らなかったのだ。

 防壁の一角が崩れ、オークの集団が雪崩れ込もうとした、その時。

「――どいてな、足手まとい共」

 冷徹な声と共に、戦場に暴風が吹き荒れた。

 ドォォォォォン!!

 防壁の裂け目に着地したのは、白銀の大盾を構えた狼少女。
 その盾が放つ衝撃波が、オークたちを吹き飛ばし、肉片へと変える。

「な、なんだ……!?」
 レオンが目を見開く。
 砂煙の向こうから、悠然と歩いてくる三つの人影。

 中央に立つのは、幻獣革の鎧を纏った男、エディ。
 右に、鉄壁の盾フェン。
 そして左には――

「……セ、セシリア……!?」

 レオンの声が裏返った。
 そこには、ボロボロの修道服ではなく、エディが【万物拾得オールゲッター】で現地調達(教会の倉庫から拝借)した、真新しい純白の法衣に身を包んだ聖女の姿があった。

「……レオンさん」
 セシリアが、冷ややかな瞳でかつての仲間を見下ろす。
「怪我をしているようですね」
「お、おお! そうだ! セシリア、早くヒールを! 足を挫いたんだ! 早く治せ!」

 レオンが這いつくばりながら手を伸ばす。
 だが、セシリアは動かなかった。

「……いいえ。貴方の傷は、自分で治してください。ポーションを買うお金くらい、まだ持っているでしょう?」
「は、はぁ!? 何を言って……俺は勇者だぞ!?」
「私はもう、貴方の道具ではありません。……私は、私の『居場所』を守るために、力を使います」

 セシリアが杖を掲げた。
 その穂先が向いたのは、レオンではなく、街に侵入しようとする魔物の群れ。

聖なる光よホーリー・レイ!」

 極太の光線が、夜空を焼き尽くし、数百の魔物を一撃で蒸発させた。
 圧倒的な火力。
 エディの【魔力譲渡マナ・ギフト】(魔石から抽出した魔力を供給)を受けた彼女の魔法は、以前とは桁違いの威力を発揮していた。

「す、すげぇ……!」
「あれが聖女様の力……!」
「勇者より強くねえか……?」

 市民たちの歓声が上がる。
 その中心で、俺はレオンの前に立った。

「……聞いたか、レオン。『勇者より強い』ってよ」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「ここは俺たちが片付ける。お前らは、隅っこで震えてな」

 そこからは、一方的な蹂躙だった。
 俺が戦場に散らばる武器や瓦礫を「拾い」、投擲し、魔物を粉砕する。
 フェンが全ての攻撃を防ぎ、セシリアが広範囲魔法で焼き払う。
 たった三人。
 だがその戦力は、一軍隊に匹敵していた。

 数時間後。
 スタンピードは、完全に鎮圧された。


 ◇ ◇ ◇



 街は、お祭り騒ぎだった。
 ギルドマスターのジークが、俺たちの功績を大々的に発表したからだ。
 俺たちは一躍、街の英雄となっていた。

 だが、そんな喧騒から離れた路地裏の酒場「ドワーフの溜息」に、俺たちの姿はあった。
 高級宿での祝杯もいいが、たまにはこういう汚い店で、安いエールを煽るのも悪くない。

「ぷはぁっ! 生き返るな!」
 俺がジョッキを空にすると、隣でフェンが心配そうにオレンジジュースを啜っている。
「エディさん、あまり飲みすぎないでくださいね。……それにしても、あの教会の人たち、凄く睨んでましたけど……」

「放っておけ。手出しはさせねえよ」
 事後処理の際、教会から派遣された司祭たちが、セシリアの引き渡しを要求してきた。
 ご丁寧に「ご実家がどうなっても構わないと?」という牽制付きで。

 セシリアは一瞬、顔を曇らせるも、
「――ええ。構いません。当家の借金も、元はと言えば父と母の過度な贅沢に端を発したもの……。後はご自分たちで、責任を取られるのがよろしいでしょう」
 と、毅然とした態度を崩さなかった。

 なおも食い下がってこようとする司祭たち。
 俺は「魔導機兵の残骸(証拠品)」をチラつかせ、「これを王都に送りつけてもいいんだぜ?」と脅し……いや、交渉した。
 奴らは顔を青くして退散していった。

(だが、妙だな……)
 俺は串焼きをかじりながら考える。
 なぜ教会は、あそこまでレオンに固執する?
 実力もない、人望もない。ただの「勇者の血筋」というだけの男だ。
 魔王討伐? 本気で奴にできると思っているなら、教会上層部は脳味噌が腐っている。
 ……あるいは、「レオンでなければならない理由」があるのか?

「――ヒック。うぃ~……そこの美女二人、俺と飲まないかぁ~?」

 俺の思考を遮るように、だらしない声がかかった。
 見れば、隣のテーブルに突っ伏していた男が、千鳥足でこちらに近づいてくるところだった。
 ボサボサの黒髪に、無精髭。
 ヨレヨレのローブは酒臭く、まさに「人生の敗北者」といった風体だ。

「……結構です。私たちは連れがいますから」
 セシリアが冷たくあしらう。
 だが、男はニタニタと笑いながら、フェンの肩に馴れ馴れしく手を伸ばした。

「つれないこと言うなよぉ~。俺、こう見えても寂しいんだぜぇ? 慰めてくれよぉ、わんちゃん」

 バシッ。
 男の手がフェンに触れる直前、俺がその手首を掴んだ。

「……おい。俺の連れに、気安く触るな」
 俺は少し力を込めた。
 普通なら、骨がきしむ痛みで悲鳴を上げるはずだ。
 だが。

「――おっ、痛ぇ痛ぇ。握力強いねぇ、兄ちゃん」
 男は、ヘラヘラと笑ったままだった。
 その瞳。
 濁った酒色の瞳の奥に、一瞬だけ、ゾッとするような「冷たい光」が見えた。

「……なんだ、お前」
「俺? 俺はリカルド。しがない魔法使いさ。……なぁ兄ちゃん、俺を『拾って』くれないか?」
「は?」
「見ての通り、俺は金もねぇ、家もねぇ、明日の酒代もねぇ『ゴミ』だ。あんた、噂の『ゴミ拾い』の英雄なんだろ? 俺みたいなゴミも、拾ってくれるんだろ?」

 リカルドと名乗った男は、挑発するように笑った。

『対象:人間(リカルド)』
『解析:???(干渉阻害により詳細不明)』
『状態:酩酊、呪詛汚染』

(……鑑定を弾いた?)
 俺の【万物拾得オールゲッター】が、解析できない?
 ただの酔っ払いじゃない。

「……断る。俺が拾うのは『使えるゴミ』だけだ。お前みたいな『面倒くさそうなゴミ』は、ごめんだな」
 俺はリカルドの手を振り払った。
「行くぞ、二人とも。酒が不味くなった」

 俺たちは席を立ち、店を出た。

 だが。
 ついてくる。
 リカルドが、へらへらと笑いながら、俺たちの後ろをずっとついてくるのだ。
 宿屋を変えても、路地を曲がっても、気づけば電柱の陰に立っている。

「……いい加減にしろよ、テメェ」
 人通りのない路地裏で、俺は振り返った。
 忍耐の限界だ。

「あ~ら、気づいちゃった? 運命かなぁ」
「運命なわけあるか。……失せろと言っている」
「冷たいなぁ。俺、あんたのこと気に入ったんだよ。強いし、面白いし、何より……俺と同じ匂いがする」

「……死にたいらしいな」
 俺は、空間収納アイテムボックスからオリハルコンの短剣を抜いた。
 実力行使に出る。
 フェンとセシリアには手出し無用と合図する。こんな酔っ払い、一瞬で〆てやる。

 俺は、地面を蹴った。
 【身体強化フィジカル・ブースト】全開。音速に迫る踏み込みで、リカルドの喉元に刃を突きつける――はずだった。

 ガクッ。
 一歩目を踏み出した瞬間、俺の体が鉛のように重くなった。

「なっ……!?」
 足がもつれ、俺は無様に地面に膝をついた。
 体に力が入らない。魔力が霧散していくような感覚。

『警告。状態異常を検知』
『詳細:全ステータス50%低下、魔力供給阻害、平衡感覚麻痺』

(デバフ……だと!? いつかけられた!?)

「おっと、危ない危ない」
 リカルドは、一歩も動かず、ニヤニヤと俺を見下ろしていた。
「喧嘩っ早いなぁ。俺の固有魔法【道連れミザリー・シェア】の範囲内だぜ? 俺に向けた殺気や害意は、全部『呪い』となって、あんたに返ってくる」

「……呪い返し、か……」
「ま、そんな可愛いもんじゃねぇけどな。俺は生まれた時から、周囲の『不幸』や『呪い』を引き寄せちまう体質でね。それを他人に押し付けないと、自分が死んじまうんだ」

 リカルドが、懐からスキットルを取り出し、あおった。

「親からも捨てられ、行く先々で『疫病神』扱い。誰も俺に近づかねぇ。近づけば、不幸になるからな。……どうだ? 正真正銘の『ゴミ』だろ?」

 その言葉には、自嘲と、深い絶望が滲んでいた。
 俺は、重い体を無理やり起こし、男を見た。

 こいつも、「捨てられた」側だ。
 自分の意思とは関係なく、生まれ持った理不尽な力のせいで、世界から拒絶された男。
 ……かつて、Fランクスキルだと蔑まれ、パーティーの連中に都合よく利用され、最後は捨てられた俺と、何が違う?

「……おい」
「あん?」
「もし……お前みたいな、クソみたいな人生を歩んでた奴がいたら、お前はどうする?」

 俺の問いに、リカルドはきょとんとして、それからニヤリと笑った。

「そりゃあ……友達になるしかねーわな。傷の舐め合いってやつだ」

「……違いない」
 俺は、短剣を収めた。
 すると、体の重みがスッと消えた。

「へぇ……殺気が消えた。あんた、変わってるな」
「俺たちは『銀の翼』……いや、まだ決めてなかったな。とにかく、エディだ」
 俺は、手を差し出した。
「乗ってやるよ、その『道連れ』。お前が抱えてる呪いごと、俺が拾ってやる」

 リカルドが、目を見開いた。
 そして、初めて、本心からの苦笑を浮かべ、俺の手を握り返した。

「……酔狂な野郎だ。よろしくな、大将。俺はリカルド。見ての通りの、ゴミクズだ」

『仲間【リカルド】が加入しました』
『【万物拾得】が反応。対象【リカルド】の呪詛干渉を無効化……成功。スキル【道連れミザリー・シェア】の制御権を一部共有します』

 こうして。
 最強の矛、最強の盾、最高の回復役に続き、最凶の「呪術師デバッファー」が加わった。



 ◇ ◇ ◇



 翌日。
 四人になった俺たちがギルドに顔を出すと、ジークが待っていたと言わんばかりに手招きした。

「エディ、いいタイミングだ。……お前たちに、通達がある」

 ジークが差し出した羊皮紙。
 そこには、金色の文字でこう書かれていた。

『特別昇格試験・Aランク』

「Aランク……?」
「ああ。今回のスタンピード鎮圧の功績、そしてオークジェネラル討伐の実績。文句なしだ。……それに、Aランクになれば、ある『権利』が得られる」

 ジークの声が低くなった。

「『魔王討伐遠征』への参加権だ」

 魔王。
 世界の敵にして、すべての魔物の頂点。
 本来なら勇者だけに許された聖域。だが、Aランク以上の冒険者にも、その挑戦権は開かれている。

「教会は、何としてもレオンに魔王を倒させたいらしい。裏で、国王陛下への工作も進んでいるという噂だ。……奴らが何を企んでいるのかは知らんが、ロクなことじゃないだろう」

 ジークの言葉に、俺の中で全てのピースが繋がった。
 レオンの実家、教会の癒着、国王の傀儡化疑惑。
 それら全てをひっくり返すには、どうすればいいか。

「……つまり、レオンたちより先に、俺たちが魔王を倒しちまえばいいってことだな?」

 俺が言うと、ジークは獰猛に笑った。
「痛快だな。世界を救ったのが勇者じゃなく、『捨てられたゴミたち』だったとしたら……奴らはどんな顔をするだろうな?」

 俺は振り返り、仲間たちを見た。
 フェンが、セシリアが、そして新入りのリカルドが、不敵に笑っている。

「決まりだな」

 俺は拳を鳴らした。

「ここまで来たら、どこまでも成り上がってやる。俺をゴミ扱いした奴ら、フェンを迫害した奴ら、セシリアを使い捨てた奴ら、リカルドを虐げてきた奴ら……。全員まとめて、国ごと『ゴミ掃除』してやる!」

 俺たちの戦いは、ここからが本番だ。
 目指すは魔王城。
 そしてその先にある、最高にスカッとする「ざまぁ」の結末へ。

 【ゴミ拾い】と呼ばれた俺たちの、世界を変える大掃除が、今始まる!

(第一部・完 → 新章・魔王討伐編へ続く!)
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