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第二章・王都清掃 編
第11話:昇格試験と、仕組まれた悪意
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アルトリアの街から北へ馬車で半日。
荒涼とした岩場に囲まれた「試練の谷」。そこが、今回のAランク昇格試験の会場だった。
「うぇ……気持ち悪ぃ……。揺らすなよ、吐くぞ……」
馬車の荷台で、死にそうな顔をして呻いているのは、新入りのリカルドだ。
二日酔いである。
昨晩、「祝杯だ!」と言って、俺の財布で高い酒を浴びるほど飲んだ結果がこれだ。
「……本当に、こんな人を仲間にしてよかったんでしょうか」
フェンがジト目で俺を見てくる。
「戦力としては申し分ない……はずだ。たぶん」
「エディさん、『たぶん』って言いました? いま『たぶん』って!」
俺は苦笑しながら、隣のセシリアを見た。
彼女は、久しぶりの遠出に少し緊張しているようだが、その表情は明るい。
真っ白な法衣が、荒野の砂埃で汚れないよう、微弱な結界を張っているあたり、さすが元聖女だ。
「でも、楽しみですね。Aランクになれば、魔王討伐への参加資格が得られる……。そうすれば、教会の横暴も止められます」
「ああ。そのためにも、この試験、絶対に落ちるわけにはいかねえ」
今回の試験に参加するパーティーは、俺たちを含めて5組。
いずれも、各地で名を馳せたBランク上位の実力者たちだ。
だが、会場に到着した俺たちに向けられた視線は、好奇心と――明確な「敵意」を含んでいた。
「おい見ろよ、『ゴミ拾い』のパーティーだ」
「勇者様を追い出された落ちこぼれが集まったって噂だぜ?」
「あんな華奢な嬢ちゃんたち連れて、ピクニック気分かよ」
囁き声が聞こえてくる。
どうやら、勇者レオン側の流した「エディは無能で追放された」というデマを、まだ信じている連中もいるらしい。
スタンピードでの活躍も、「運が良かっただけ」とか「勇者様が弱らせていたおかげ」とか、都合よく解釈されているようだ。
「……ふん。雑音がうるせぇな」
リカルドが、急にシャキッと起き上がり、濁った瞳で周囲を睨みつけた。
その瞬間、ドロッとした不快な魔力が周囲に拡散する。
「ひっ……!?」
「な、なんだ今の寒気は……」
嘲笑していた冒険者たちが、一斉に顔を青くして口を閉ざす。
さすが、【道連れ】の使い手。ただ睨んだだけで、周囲の「運気」を下げやがったな?
「リカルド、やりすぎだ。試験前に失格になりたいのか」
「へいへい。……お、お出ましだぜ、大将」
リカルドの視線の先。
試験会場の中央に設置された演台に、数人の男たちが現れた。
ギルドの職員たち。そして、その中央に立つ、やたらと豪華な鎧を着込んだ男。
(……あいつは、ギルドの人間じゃねえな)
俺の【万物拾得】が、即座に反応する。
『対象:ガリウス・フォン・アイゼン』
『所属:王立騎士団・第三部隊長(兼・教会騎士)』
『装備:聖銀の騎士剣、守護の指輪(呪い付き)』
「……教会騎士だと?」
俺は眉をひそめた。
Aランク試験の試験官は、通常ならギルドのSランク冒険者が務めるはずだ。
なぜ、国と教会の息がかかった騎士が出てくる?
「注目!!」
ガリウスが大声を張り上げた。
「今回の試験官を務める、王立騎士団のガリウスだ! 我が国にとって重要な戦力となるAランク冒険者を選抜するため、特別に私が派遣された!」
ガリウスの視線が、俺たちを――いや、明確に俺とセシリアを捉え、ニヤリと歪んだ。
「今回の試験内容はシンプルだ。『実技』のみ! この谷に放たれた『試験用魔獣』を討伐し、その証を持ち帰ること。ただし……」
ガリウスは言葉を切ると、指を鳴らした。
すると、谷の奥から、地響きと共に巨大な檻が運ばれてきた。
中に入っているのは――
「グルルルルルッ……!」
体長十メートルを超える、真っ赤な体毛の巨獣。
二本の長い牙と、燃え盛るような鬣。
「火炎魔獅子……!?」
他の受験者たちがどよめく。
「お、おい! あれはAランク相当の魔物だぞ!?」
「俺たちだけで倒せるわけねえ!」
「静粛に!」
ガリウスが一喝する。
「Aランクを目指すならば、この程度の魔物、単独パーティーで狩れて当然だ! ……だが、安心していい。今回は『特別ルール』を適用する」
ガリウスは、俺たちの方を見ながら言った。
「各パーティー、順番にこの魔獣と戦ってもらう。制限時間は10分。討伐できれば合格、できなければ失格。……そして、最初の挑戦者は、話題の『新星』にお願いしようか」
その指が、ビシッと俺たちを指した。
「エディ率いる『銀の翼(仮)』! 前へ出ろ!」
会場が静まり返る。
誰もが思ったはずだ。
「これは処刑だ」と。
他のパーティーが戦って情報を得ることもできず、一番手で、あの凶暴な魔獣と戦わされる。
しかも、檻の中のマンティコアは、なぜか異常なほど興奮しており、その目は血走っていた。
『解析:マンティコアに投与された薬物を検知』
『詳細:狂化薬(教会製)』
(……なるほどな。そういうことかよ)
俺はため息をついた。
教会の差し金。俺たちをここで「事故死」に見せかけて始末する気だ。
マンティコアは強化され、俺たちは準備もなしに放り込まれる。
「……エディさん」
セシリアが不安そうに俺の袖を掴む。
「あの魔獣、魔力の波長がおかしいです。普通の状態じゃありません」
「ああ、知ってる。……だが、好都合だ」
俺はニヤリと笑い、仲間たちを振り返った。
「フェン、リカルド、セシリア。……作戦会議だ」
「へ? 会議って、もう始まりますよ?」
「5秒で終わる。『いつも通りやれ』。以上だ」
「「「……はぁ?」」」
呆気にとられる3人を残し、俺はガリウスの前に進み出た。
「受けて立つぜ、試験官殿。……準備運動にはちょうどいい」
「フン、減らず口を……。死んで後悔するがいい!」
ガリウスが合図を送ると、檻の扉が開かれた。
GAAAAAAAAAAAAAAッ!!
解放されたマンティコアが、咆哮と共に飛び出してくる。
その速度は、通常の個体の倍以上。
一直線に俺たちに狙いを定め、炎を纏った爪を振り下ろしてきた。
「死んだな」「あいつら、終わった」
周囲の冒険者たちが目を覆う。
だが。
「――重力枷」
ドォォォォンッ……!
突如、マンティコアの動きが止まった。
いや、見えない鎖に繋がれたように、その巨体が地面にめり込んだのだ。
「……うぇっ、頭いてぇ。……おいワンちゃん、俺が抑えてるうちに頼むわ」
後方で、リカルドがこめかみを押さえながら杖を振っていた。
彼の固有魔法による、超強力なデバフ。
強化されたマンティコアのステータスを、無理やり半減させたのだ。
「ワンちゃんじゃありません! フェンです! ……いきます! 白狼の城壁・反転!」
フェンが前に飛び出し、マンティコアが放った火炎ブレスを、盾で受け止める――のではなく、そのまま弾き返した。
倍の威力になった自分自身の炎を浴び、マンティコアが悲鳴を上げる。
「な、なにっ……!?」
高みの見物を決め込んでいたガリウスが、身を乗り出した。
「馬鹿な! あのマンティコアは強化されているはず……!」
「よそ見してる暇あんのかよ、試験官?」
「ッ!?」
ガリウスが気づいた時には、俺はもう、マンティコアの背後に回っていた。
いや、正確には――マンティコアの「上」だ。
俺は、暴れる魔獣の背中に飛び乗り、その剛毛の中に埋もれていた「あるモノ」を引き抜いた。
「やっぱりな。こんなもん埋め込んでやがったか」
俺の手に握られていたのは、禍々しい紫色の杭。
【制御魔杭】。
魔獣を強制的に暴走させる、禁忌のアーティファクトだ。
『所有権:放棄済み(ガリウス)』
『拾得対象:制御魔杭』
『スキル抽出:【狂乱付与】』
「いただきだ。……そして、これで終わりだッ!」
俺は「拾った」ばかりの【狂乱付与】を、逆にマンティコアの精神に叩き込んだ。
ただし、「暴走」させるんじゃない。
「恐怖」で狂わせるんだ。
Gyaaaa……!?
マンティコアが、情けない悲鳴を上げて縮こまる。
俺が放つ、SSSランク相当の「格」のプレッシャー。
それに加えて、リカルドの「呪い」と、フェンの「鉄壁」を見せつけられ、魔獣の戦意は完全にポッキリと折れていた。
「セシリア、トドメだ! 派手なやつを頼む!」
「はいっ! ……天上の裁き!!」
ズガァァァァァァァァンッ!!
雲が割れ、極太の光の柱がマンティコアを貫いた。
断末魔を上げる暇もなく、Aランク魔獣は光の粒子となって消滅した。
戦闘時間、わずか30秒。
静寂。
圧倒的な静寂が、谷を包み込んだ。
他の受験者たちは、口をパクパクさせて腰を抜かしている。
そして、ガリウスは――
「ば、馬鹿な……ありえん……! 強化個体を、無傷で……しかも秒殺だと……!?」
顔面蒼白で、ガタガタと震えていた。
俺は、消滅したマンティコアのドロップアイテム(最高級の毛皮と魔石)を当然のように空間収納に放り込み、ガリウスの方へ歩み寄った。
「おい、試験官殿」
「ひっ……!」
俺は、さっき引き抜いた「紫色の杭」を、チャリ……と彼の足元に投げ捨てた。
「落とし物だぞ。……大事な『商売道具』なんだろ?」
「き、貴様……それをどこで……!」
ガリウスの顔が引きつる。
これが公になれば、騎士団の面汚しどころか、大罪だ。
「今回のところは、黙っておいてやるよ。……ただし」
俺は、凍りつくような笑みを浮かべ、ガリウスの耳元で囁いた。
「合格だよな? ……まさか、今のを見て『不合格』なんて言わねえよな?」
「あ……あぁ……ご、合格……合格だぁぁぁッ!!」
ガリウスの絶叫が、谷にこだました。
◇ ◇ ◇
こうして。
俺たち「銀の翼(仮)」は、前代未聞の最短記録と、試験官の心胆を寒からしめるパフォーマンスで、見事にAランク昇格を果たした。
だが、これは宣戦布告だ。
俺たちを陥れようとした教会。そして、その犬であるガリウス。
俺たちの力を見せつけ、恐怖を植え付けてやった。
「さあ、次は王都だ」
帰り道、馬車に揺られながら(リカルドはまた酔っているが)、俺は王都の方角を見据えた。
Aランクになった俺たちには、王都への入域許可と、魔王討伐隊への参加資格が与えられる。
そこには、俺たちを捨てた元凶たちが待っているはずだ。
「待ってろよ、レオン。そして教会の腐った連中」
俺の手には、新しい力が握られている。
Aランクへの昇格と共に、【万物拾得】のレベルが上がり、新たな機能が解放されていたのだ。
『機能解放:概念拾得』
『詳細:形のない「事象」「権利」「地位」を拾得可能になります』
(……ハッ。とんでもねえチートになりやがったな)
これを使えば、奴らの「地位」や「名誉」すらも、ゴミとして拾ってしまえるかもしれない。
俺の復讐劇は、ここからさらに加速する。
目指すは王都。
そして、魔王の首。
全部まとめて、俺がいただいてやる。
荒涼とした岩場に囲まれた「試練の谷」。そこが、今回のAランク昇格試験の会場だった。
「うぇ……気持ち悪ぃ……。揺らすなよ、吐くぞ……」
馬車の荷台で、死にそうな顔をして呻いているのは、新入りのリカルドだ。
二日酔いである。
昨晩、「祝杯だ!」と言って、俺の財布で高い酒を浴びるほど飲んだ結果がこれだ。
「……本当に、こんな人を仲間にしてよかったんでしょうか」
フェンがジト目で俺を見てくる。
「戦力としては申し分ない……はずだ。たぶん」
「エディさん、『たぶん』って言いました? いま『たぶん』って!」
俺は苦笑しながら、隣のセシリアを見た。
彼女は、久しぶりの遠出に少し緊張しているようだが、その表情は明るい。
真っ白な法衣が、荒野の砂埃で汚れないよう、微弱な結界を張っているあたり、さすが元聖女だ。
「でも、楽しみですね。Aランクになれば、魔王討伐への参加資格が得られる……。そうすれば、教会の横暴も止められます」
「ああ。そのためにも、この試験、絶対に落ちるわけにはいかねえ」
今回の試験に参加するパーティーは、俺たちを含めて5組。
いずれも、各地で名を馳せたBランク上位の実力者たちだ。
だが、会場に到着した俺たちに向けられた視線は、好奇心と――明確な「敵意」を含んでいた。
「おい見ろよ、『ゴミ拾い』のパーティーだ」
「勇者様を追い出された落ちこぼれが集まったって噂だぜ?」
「あんな華奢な嬢ちゃんたち連れて、ピクニック気分かよ」
囁き声が聞こえてくる。
どうやら、勇者レオン側の流した「エディは無能で追放された」というデマを、まだ信じている連中もいるらしい。
スタンピードでの活躍も、「運が良かっただけ」とか「勇者様が弱らせていたおかげ」とか、都合よく解釈されているようだ。
「……ふん。雑音がうるせぇな」
リカルドが、急にシャキッと起き上がり、濁った瞳で周囲を睨みつけた。
その瞬間、ドロッとした不快な魔力が周囲に拡散する。
「ひっ……!?」
「な、なんだ今の寒気は……」
嘲笑していた冒険者たちが、一斉に顔を青くして口を閉ざす。
さすが、【道連れ】の使い手。ただ睨んだだけで、周囲の「運気」を下げやがったな?
「リカルド、やりすぎだ。試験前に失格になりたいのか」
「へいへい。……お、お出ましだぜ、大将」
リカルドの視線の先。
試験会場の中央に設置された演台に、数人の男たちが現れた。
ギルドの職員たち。そして、その中央に立つ、やたらと豪華な鎧を着込んだ男。
(……あいつは、ギルドの人間じゃねえな)
俺の【万物拾得】が、即座に反応する。
『対象:ガリウス・フォン・アイゼン』
『所属:王立騎士団・第三部隊長(兼・教会騎士)』
『装備:聖銀の騎士剣、守護の指輪(呪い付き)』
「……教会騎士だと?」
俺は眉をひそめた。
Aランク試験の試験官は、通常ならギルドのSランク冒険者が務めるはずだ。
なぜ、国と教会の息がかかった騎士が出てくる?
「注目!!」
ガリウスが大声を張り上げた。
「今回の試験官を務める、王立騎士団のガリウスだ! 我が国にとって重要な戦力となるAランク冒険者を選抜するため、特別に私が派遣された!」
ガリウスの視線が、俺たちを――いや、明確に俺とセシリアを捉え、ニヤリと歪んだ。
「今回の試験内容はシンプルだ。『実技』のみ! この谷に放たれた『試験用魔獣』を討伐し、その証を持ち帰ること。ただし……」
ガリウスは言葉を切ると、指を鳴らした。
すると、谷の奥から、地響きと共に巨大な檻が運ばれてきた。
中に入っているのは――
「グルルルルルッ……!」
体長十メートルを超える、真っ赤な体毛の巨獣。
二本の長い牙と、燃え盛るような鬣。
「火炎魔獅子……!?」
他の受験者たちがどよめく。
「お、おい! あれはAランク相当の魔物だぞ!?」
「俺たちだけで倒せるわけねえ!」
「静粛に!」
ガリウスが一喝する。
「Aランクを目指すならば、この程度の魔物、単独パーティーで狩れて当然だ! ……だが、安心していい。今回は『特別ルール』を適用する」
ガリウスは、俺たちの方を見ながら言った。
「各パーティー、順番にこの魔獣と戦ってもらう。制限時間は10分。討伐できれば合格、できなければ失格。……そして、最初の挑戦者は、話題の『新星』にお願いしようか」
その指が、ビシッと俺たちを指した。
「エディ率いる『銀の翼(仮)』! 前へ出ろ!」
会場が静まり返る。
誰もが思ったはずだ。
「これは処刑だ」と。
他のパーティーが戦って情報を得ることもできず、一番手で、あの凶暴な魔獣と戦わされる。
しかも、檻の中のマンティコアは、なぜか異常なほど興奮しており、その目は血走っていた。
『解析:マンティコアに投与された薬物を検知』
『詳細:狂化薬(教会製)』
(……なるほどな。そういうことかよ)
俺はため息をついた。
教会の差し金。俺たちをここで「事故死」に見せかけて始末する気だ。
マンティコアは強化され、俺たちは準備もなしに放り込まれる。
「……エディさん」
セシリアが不安そうに俺の袖を掴む。
「あの魔獣、魔力の波長がおかしいです。普通の状態じゃありません」
「ああ、知ってる。……だが、好都合だ」
俺はニヤリと笑い、仲間たちを振り返った。
「フェン、リカルド、セシリア。……作戦会議だ」
「へ? 会議って、もう始まりますよ?」
「5秒で終わる。『いつも通りやれ』。以上だ」
「「「……はぁ?」」」
呆気にとられる3人を残し、俺はガリウスの前に進み出た。
「受けて立つぜ、試験官殿。……準備運動にはちょうどいい」
「フン、減らず口を……。死んで後悔するがいい!」
ガリウスが合図を送ると、檻の扉が開かれた。
GAAAAAAAAAAAAAAッ!!
解放されたマンティコアが、咆哮と共に飛び出してくる。
その速度は、通常の個体の倍以上。
一直線に俺たちに狙いを定め、炎を纏った爪を振り下ろしてきた。
「死んだな」「あいつら、終わった」
周囲の冒険者たちが目を覆う。
だが。
「――重力枷」
ドォォォォンッ……!
突如、マンティコアの動きが止まった。
いや、見えない鎖に繋がれたように、その巨体が地面にめり込んだのだ。
「……うぇっ、頭いてぇ。……おいワンちゃん、俺が抑えてるうちに頼むわ」
後方で、リカルドがこめかみを押さえながら杖を振っていた。
彼の固有魔法による、超強力なデバフ。
強化されたマンティコアのステータスを、無理やり半減させたのだ。
「ワンちゃんじゃありません! フェンです! ……いきます! 白狼の城壁・反転!」
フェンが前に飛び出し、マンティコアが放った火炎ブレスを、盾で受け止める――のではなく、そのまま弾き返した。
倍の威力になった自分自身の炎を浴び、マンティコアが悲鳴を上げる。
「な、なにっ……!?」
高みの見物を決め込んでいたガリウスが、身を乗り出した。
「馬鹿な! あのマンティコアは強化されているはず……!」
「よそ見してる暇あんのかよ、試験官?」
「ッ!?」
ガリウスが気づいた時には、俺はもう、マンティコアの背後に回っていた。
いや、正確には――マンティコアの「上」だ。
俺は、暴れる魔獣の背中に飛び乗り、その剛毛の中に埋もれていた「あるモノ」を引き抜いた。
「やっぱりな。こんなもん埋め込んでやがったか」
俺の手に握られていたのは、禍々しい紫色の杭。
【制御魔杭】。
魔獣を強制的に暴走させる、禁忌のアーティファクトだ。
『所有権:放棄済み(ガリウス)』
『拾得対象:制御魔杭』
『スキル抽出:【狂乱付与】』
「いただきだ。……そして、これで終わりだッ!」
俺は「拾った」ばかりの【狂乱付与】を、逆にマンティコアの精神に叩き込んだ。
ただし、「暴走」させるんじゃない。
「恐怖」で狂わせるんだ。
Gyaaaa……!?
マンティコアが、情けない悲鳴を上げて縮こまる。
俺が放つ、SSSランク相当の「格」のプレッシャー。
それに加えて、リカルドの「呪い」と、フェンの「鉄壁」を見せつけられ、魔獣の戦意は完全にポッキリと折れていた。
「セシリア、トドメだ! 派手なやつを頼む!」
「はいっ! ……天上の裁き!!」
ズガァァァァァァァァンッ!!
雲が割れ、極太の光の柱がマンティコアを貫いた。
断末魔を上げる暇もなく、Aランク魔獣は光の粒子となって消滅した。
戦闘時間、わずか30秒。
静寂。
圧倒的な静寂が、谷を包み込んだ。
他の受験者たちは、口をパクパクさせて腰を抜かしている。
そして、ガリウスは――
「ば、馬鹿な……ありえん……! 強化個体を、無傷で……しかも秒殺だと……!?」
顔面蒼白で、ガタガタと震えていた。
俺は、消滅したマンティコアのドロップアイテム(最高級の毛皮と魔石)を当然のように空間収納に放り込み、ガリウスの方へ歩み寄った。
「おい、試験官殿」
「ひっ……!」
俺は、さっき引き抜いた「紫色の杭」を、チャリ……と彼の足元に投げ捨てた。
「落とし物だぞ。……大事な『商売道具』なんだろ?」
「き、貴様……それをどこで……!」
ガリウスの顔が引きつる。
これが公になれば、騎士団の面汚しどころか、大罪だ。
「今回のところは、黙っておいてやるよ。……ただし」
俺は、凍りつくような笑みを浮かべ、ガリウスの耳元で囁いた。
「合格だよな? ……まさか、今のを見て『不合格』なんて言わねえよな?」
「あ……あぁ……ご、合格……合格だぁぁぁッ!!」
ガリウスの絶叫が、谷にこだました。
◇ ◇ ◇
こうして。
俺たち「銀の翼(仮)」は、前代未聞の最短記録と、試験官の心胆を寒からしめるパフォーマンスで、見事にAランク昇格を果たした。
だが、これは宣戦布告だ。
俺たちを陥れようとした教会。そして、その犬であるガリウス。
俺たちの力を見せつけ、恐怖を植え付けてやった。
「さあ、次は王都だ」
帰り道、馬車に揺られながら(リカルドはまた酔っているが)、俺は王都の方角を見据えた。
Aランクになった俺たちには、王都への入域許可と、魔王討伐隊への参加資格が与えられる。
そこには、俺たちを捨てた元凶たちが待っているはずだ。
「待ってろよ、レオン。そして教会の腐った連中」
俺の手には、新しい力が握られている。
Aランクへの昇格と共に、【万物拾得】のレベルが上がり、新たな機能が解放されていたのだ。
『機能解放:概念拾得』
『詳細:形のない「事象」「権利」「地位」を拾得可能になります』
(……ハッ。とんでもねえチートになりやがったな)
これを使えば、奴らの「地位」や「名誉」すらも、ゴミとして拾ってしまえるかもしれない。
俺の復讐劇は、ここからさらに加速する。
目指すは王都。
そして、魔王の首。
全部まとめて、俺がいただいてやる。
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まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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