【ゴミ拾い】と呼ばれ勇者パーティーを追放された俺…だがこのスキル、実はSSSランクの【万物拾得】だったらしい。

うはっきゅう

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第四章・魔王城決戦編

第21話:地に墜ちた翼と、最強の泥人形(ゴーレム)

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 ―――落下。

 視界が明滅する。
 風切り音が鼓膜を引き裂くように鳴り響いている。
 重力が消失したかのような浮遊感と、内臓がせり上がるような不快感。

「……ッ、クソがぁ……!」

 俺、エディ・ウォーカーは、薄れゆく意識の中で、必死に右手を伸ばした。
 指先の先には、バラバラに砕け散ったスキフ(空飛ぶゴミ船)の破片と、同じように空へ放り出された仲間たちの姿が見える。

「フェン! セシリア! リカルド! メロディ!」

 叫ぶが、声は暴風にかき消される。
 上空を見上げれば、雲の切れ間から、あの金色の瞳が――魔王が、俺たちを見下ろしていた。
 追撃はない。
 いや、する必要すらないと思っているのだ。
 この高さから落ちれば、人間など潰れたトマトのようになるだけだ、と。

(……ふざけんな)

 俺の心臓が、ドクン、と跳ねた。
 俺は「ゴミ拾い」だ。
 一度捨てられた身だ。
 二度目がなんだ。三度目がなんだ。
 俺たちは、何度捨てられても、何度だって這い上がってきたんだよ!

「【風の支配権エア・コントロール】ッ!!」

 俺は、残った魔力を全開にして、風を掴んだ。
 だが、落下速度が速すぎる。完全に制動することはできない。
 なら、せめて仲間たちだけでも!

「集まれぇぇぇぇッ!!」

 俺は暴風を操り、散り散りになった仲間たちを無理やり一箇所に引き寄せた。
 フェンがメロディを抱きかかえ、リカルドがセシリアの腕を掴んでいるのが見える。
 全員、意識はあるか……!?

「フェン! 盾だ! 最大出力で展開しろ!」
「は、はいっ! 【白狼の城壁フェンリル・ウォール】・球体展開スフィア・モードォォォッ!!」

 フェンの叫びと共に、光の障壁が俺たち全員を包み込む球体となった。
 その直後。

 ズガァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!

 世界が、砕けるような衝撃。
 俺たちの意識は、そこで完全にブラックアウトした。

 ◇ ◇ ◇

「……ん……ぅ……」

 目覚めは、最悪だった。
 全身の骨が軋み、筋肉が断裂しているような激痛。
 口の中は砂と鉄の味がする。

「……生きてる、か……?」

 俺は、瓦礫の山――かつてスキフだったものの残骸を押しのけ、上半身を起こした。
 ズキリ、と脇腹が痛む。あばらが数本いってるな、これは。
 だが、次の瞬間、傷口が熱を持ち、痛みが急速に引いていくのを感じた。

『スキル【超再生ハイ・リジェネ】発動』
『全身打撲、骨折箇所……修復完了』

 砂漠の主、デザート・デバウラーから「拾った」スキルだ。
 便利すぎて涙が出るぜ。
 俺は立ち上がり、周囲を見回した。

 そこは、灰色の世界だった。
 空は見えない。遥か上空を分厚い雲と、切り立った崖が覆っている。
 地面はゴツゴツとした岩場と、乾いた土。
 植物一本生えていない、完全な荒野。

「ここは……『大渓谷』の底か」

 地図にあった、大陸の北を分断する巨大な裂け目。
 その深さは数千メートルとも言われる、地の底だ。
 魔王は、俺たちをここへ「廃棄」したのだ。

「みんな! どこだ! 返事をしろ!」

 俺は大声で叫んだ。
 声が、静寂な谷底に反響する。

「……こ……こっち、です……」

 微かな声。
 俺は、【聴覚強化ヒアリング・ブースト】(コウモリ系の魔物から拾ったゴミスキル)で音源を特定し、駆け出した。

 巨大な岩陰。
 そこに、ひしゃげた【白狼の城壁】の光の残滓があり、その下で仲間たちが折り重なるように倒れていた。

「フェン!」

 一番外側にいたフェンが、苦しげに目を開けた。
 その体はボロボロで、自慢の銀色の毛皮も土と血で汚れている。
 だが、彼女の腕の中には、無傷のメロディがしっかりと抱きしめられていた。

「エディ……さん……。メロディちゃんは……無事、ですか……?」
「ああ。お前が守りきったんだ。……よくやった」

 俺はすぐに【空間収納】からポーションを取り出し(こういう時のために、水の都で大量生産しておいた)、フェンに飲ませた。
 そして、その奥。

「……ッ、いってぇ……。背骨がイカれたかと思ったぜ……」

 リカルドが、顔をしかめながら身を起こした。
 彼の下には、気絶しているセシリアがいる。
 どうやら、落下寸前にリカルドがクッション代わりになったようだ。

「リカルド、お前……」
「よせよ、大将。……俺は『不死身の呪い』持ちだ。聖女サマが死んだら、誰が俺の呪いを解くんだよ」
 リカルドは照れ隠しのように軽口を叩くが、その背中からは大量の血が流れていた。
 こいつ、口では文句ばかりだが、いざという時は一番体を張りやがる。

 セシリアとメロディも目を覚まし、全員の無事を確認した。
 重傷者は多いが、死者はゼロ。
 魔王の直撃を受けて生き延びたのだ。奇跡と言っていい。

「……でも、ここはどこでしょう?」
 セシリアが、回復魔法をかけながら周囲を見渡す。
「魔力が……薄いです。それに、空気が澱んでいます」

「大渓谷の底だ」
 俺は答えた。
「地上までは数千メートル。俺の【風の支配権】でも、全員を運んで登るのはキツイ高さだ」

「じゃあ、私たちはここに閉じ込められたってことですか……?」
 メロディが不安げに震える。

「いや」
 俺は、懐から「呪われた羅針盤」を取り出した。
 落下で壊れたかと思ったが、そのひび割れたガラスの中で、針は力強く「ある方向」を指していた。

「この羅針盤が指してる。……この谷の奥に、何かがある」
 俺は、暗い霧が立ち込める谷の深部を睨んだ。
「おそらく、最後の『土の宝玉』……そして、『土の神殿』だ」

「こんな場所に、神殿が……?」
「行ってみればわかる。……どのみち、ここから這い上がるには、それなりの『準備』が必要だ」

 俺たちは、傷ついた体を互いに支え合いながら、羅針盤の指す方へと歩き出した。
 地の底。光の届かない場所。
 そこはまさに、世界から見放された「最果てのゴミ捨て場」だった。

 ◇ ◇ ◇

 数時間ほど歩いただろうか。
 風景が変わった。
 ただの岩場だった景色の中に、人工物……いや、「かつて人工物だったもの」が混じり始めたのだ。

 半分砂に埋もれた巨大な歯車。
 首の折れた石像。
 かつての栄華を偲ばせる、崩落した城壁の一部。

「これは……遺跡、でしょうか?」
 セシリアが、瓦礫の一つに触れる。
「いえ……年代がバラバラです。これは数千年前の古代様式、あっちは数百年前の建築様式……」

「……ゴミ捨て場だな」
 俺は呟いた。
 ここは、歴史の中で「不要」とされた文明の残骸が、地上から投げ捨てられ、堆積した場所なんだ。
 魔王だけじゃない。
 人間たちもまた、都合の悪いものをこの谷底に捨ててきたのだ。

「……おい、大将。なんか聞こえねえか?」
 リカルドが足を止めた。
 耳を澄ます。

 ズゥゥゥン……ズゥゥゥン……

 地響き。
 そして、何かが重い物を引きずるような音。

「来るぞ!」
 俺が叫ぶと同時に、霧の向こうから巨大な影が現れた。

「「「…………」」」

 全員が息を呑んだ。
 それは、巨人だった。
 だが、ただの巨人ではない。
 全身が、この谷底にある「瓦礫」と「泥」で構成された、ツギハギだらけの怪物。
 頭部には、崩れた城の塔。
 腕には、錆びた巨大な錨(いかり)。
 足は、無数の折れた剣や槍が絡み合ってできている。

『対象:廃棄集合体(スクラップ・ゴーレム)』
『ランク:推定S』
『構成素材:歴史の残骸、怨念を含んだ泥、土の魔力』

 Sランク。
 あのデザート・デバウラーや、風のグリフォンと同格か、それ以上だ。

 ――オォォォォォォ……――

 巨人が、悲鳴のような、慟哭のような声を上げた。
 その目が――瓦礫の隙間に埋め込まれた二つの「土色の宝石」が、俺たちを捉える。

「……あれだ」
 俺は確信した。
 あの巨人の目。あれこそが、俺たちが探していた最後のカギ。
 「土の宝玉」だ。

「まさか、宝玉自体が、ゴーレムの動力源になってるのか!?」
 フェンが盾を構える。

 ――カエレ……ココハ……ステラレタモノノ……ラクエン……――

 巨人の意思が、直接脳内に響いてきた。
 その声には、深い悲しみと、諦めが満ちていた。

 ――セイジャハ……キエロォォォッ!!――

 巨人が腕を振り上げた。
 その巨大な「錨」が、轟音と共に振り下ろされる!

「散れッ!」

 ズガアアアアアアンッ!!
 地面が陥没し、土煙が舞い上がる。
 直撃すれば、即死級の威力だ。

「硬い……! 私の魔法が通じません!」
 セシリアが光魔法を放つが、巨人の表面を覆う泥がそれを吸収してしまう。
「大将! 俺の呪いも効きが悪いぞ! こいつ、元から『呪われてる』みたいだ!」
 リカルドが舌打ちする。

 そうか。
 こいつは、この谷底に捨てられた無数の「無念」の集合体。
 すでに呪いに満ちているから、新しい呪いが上書きできないんだ。

「フェン、時間を稼げ! メロディ、歌で援護だ!」
「はいっ! 【白狼の城壁フェンリル・ウォール】!」
「と、届いて……! 【癒やしの雨ヒーリング・レイン】!」

 仲間たちが必死に応戦する中、俺は巨人を観察した。
 【万物拾得オールゲッター】の目が、巨人の構造を解析していく。

(……ただの暴走ゴーレムじゃねえ)
 俺は気づいた。
 こいつの核となっている「土の宝玉」。
 そこから伸びる魔力回路が、あまりにも「歪つ」だ。
 まるで、無理やり埋め込まれ、強制的に動かされているような……。

『解析:強制駆動術式(魔王刻印)』
『詳細:土の精霊王を核とし、廃棄物を纏わせて兵器化したもの。しかし制御不能となり、「失敗作」としてここに廃棄された』

(……やっぱり、お前もかよ)
 魔王め。
 精霊王すらも「素材」扱いして、思い通りにならなければ捨てる。
 やってることが、どこまでも胸糞悪いぜ。

「……聞こえるか、デカブツ」
 俺は、巨人の足元へ走った。
 巨人が俺に気づき、塔のような頭部を向ける。

 ――虫ケラガ……ツブセ……!――

「お前、泣いてんだろ」
 俺の言葉に、巨人の動きが一瞬止まった。

「『重い』って。『苦しい』って。『もう眠らせてくれ』って……体中のガラクタが悲鳴を上げてるぜ」

 ――ウ……オォ……――

「魔王に無理やり兵器にされて、挙げ句の果てに『失敗作』として捨てられた。……悔しいよな。悲しいよな」
 俺は、巨人の巨大な足――無数の折れた剣の集合体に、そっと手を触れた。

「俺も同じだ。ゴミ扱いされて、捨てられた」
 俺は、自分の中に眠る「ゴミ拾い」の誇りを燃え上がらせた。

「だから、俺がお前を『拾って』やる」
 俺は、上を見上げた。
 遥か頭上にある、巨人の目――「土の宝玉」を見据えて。

「その重荷、全部置いていけ! お前はもう、誰かの兵器じゃなくていいんだよ!」

 俺は叫んだ。

「――【万物拾得オールゲッター】ッ!!」
「対象:スクラップ・ゴーレム(土の精霊王)!」
「拾得対象:【魔王の呪縛カース・オブ・サタン】、【廃棄物の重量ヘヴィ・ウェイト】、【絶望デスペア】!!」

 俺の右手が、強烈な光を放ち、巨人を縛り付けている「概念」そのものを根こそぎ引き剥がす!

 ――グ……ガアアアアアアアアアアアアッッ!!――

 巨人が絶叫する。
 その体から、黒い靄のような「呪縛」が抜け出し、俺の手へと吸い込まれていく。
 同時に、巨人を構成していた瓦礫や泥が、ボロボロと崩れ落ち始めた。

「リカルド! 今だ! こいつの『核』を露出させる!」
「へいよ! 待ってました! 【強制剥離フォース・パージ】!!」

 リカルドが、俺が弱体化させた部分に正確に呪いを撃ち込む。
 巨人の胸部が砕け、中から眩い褐色の光が溢れ出した。

「フェン! セシリア! メロディ! 全員で『受け止めろ』!」
「はいっ!!」

 崩壊する巨人の体から、小さな人影がこぼれ落ちてくる。
 それは、泥人形なんかじゃない。
 褐色の肌を持つ、幼い少年の姿をした「土の精霊王」だった。

 フェンがジャンプして少年をキャッチし、セシリアが即座に回復魔法をかける。
 メロディの歌が、少年の荒んだ心を癒やしていく。

 ドォォォォォォン……!
 巨人の抜け殻だった瓦礫の山が、完全に崩れ去り、谷底に静寂が戻った。

「……ふぅ。大掃除、完了だ」
 俺は、瓦礫の山の上に立ち、息をついた。
 手の中には、巨人の動力源だった「土の宝玉」が握られている。
 呪いが解け、温かな大地の鼓動を取り戻した宝石。

「……ありがとう……人間……」
 フェンの腕の中で、精霊王の少年が、弱々しく目を開けた。
「ボクは……ずっと、重かった……暗かった……。キミが、助けてくれたの……?」
「ああ。ついでにな」
 俺は笑って、宝玉を見せた。
「こいつ(家賃)はもらったぞ。文句ねえよな?」
「……うん。ボクの力……キミになら、託せる……」

 少年は、安心したように微笑み、光の粒子となって宝玉に吸い込まれていった。
 これで、四つの宝玉が全て揃った。

「……さて」
 俺は、崩れた瓦礫の山を見下ろした。
 巨人を構成していた、膨大な量の「古代の遺物」と「泥」。
 普通なら、ただのゴミの山だ。
 だが、今の俺には、これが「魔王への最高の切り札」に見えていた。

「大将? 何ニヤついてんだ? 気持ち悪いぞ」
 リカルドが怪訝な顔をする。

「なぁ、リカルド。ここにある『泥』と『瓦礫』……全部でどれくらいの重さがあると思う?」
「はぁ? 数万トン……いや、もっとか? 山一つ分はあるだろ」

「そうだな。……もし、これを『自由自在に操れる』としたら、どうだ?」

 俺は、右手を地面に突き立てた。
 さっき、巨人から「拾った」ばかりの概念。
 【廃棄物の重量ヘヴィ・ウェイト】と、土の宝玉の力。
 そして、俺がこの旅で培ってきた【万物拾得オールゲッター】の真価。

「見せてやるよ。ゴミ拾いの『本気』をな」

 俺は、スキルを発動させた。

『対象:大渓谷の底にある全ての「廃棄物」』
『拾得・融合・再構築』
『スキル発動:【大地掌握テラ・ドミネーション】・巨神構築タイタン・ビルド

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 大地が、鳴動する。
 谷底に散らばっていた無数の瓦礫、泥、岩石が、一斉に浮き上がり、俺を中心に渦を巻き始めた。

「え……えええええっ!?」
「きゃあああっ!?」
「おいおいおいおい! マジかよ大将!?」

 仲間たちが悲鳴を上げる中、俺たちは浮き上がる瓦礫の塊に乗り込み、上昇を開始した。
 瓦礫は空中で結合し、形を変え、やがて一つの「巨大な姿」を形成していく。

 それは、魔王が捨てた「泥人形」なんかじゃない。
 全長数百メートル。
 ミスリルを含んだヘドロを血液とし、古代兵器の残骸を装甲とし、四つの宝玉を動力源とした、最強の「決戦機動要塞ゴーレム」だ!

「行くぞ、野郎ども!」

 俺は、瓦礫の頂上――要塞の「艦橋」に立ち、遥か頭上、雲の切れ間に見える「魔王城」を指差した。

「魔王が俺たちを『ゴミ』として捨てたこの場所から!
 俺たちが拾い集めた『最強のゴミ』に乗って!
 魔王城へ、カチコミだァァァッ!!」

「「「おうッ!!」」」

 俺たちの乗った巨大要塞「ゴミ拾い号スカベンジャー・アーク」(仮)は、重力を無視した爆発的な加速で、大渓谷の底から、天空へと飛び立った。

 待ってろよ、魔王。
 お前が捨てた「ゴミ」が、お前を玉座から引きずり下ろしに行くぜ!
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