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本編
油断と甘い窒息
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あれから、数ヶ月が過ぎた。「イグナイト」は、怒涛の日々を駆け抜けていた。
デビューショーケースは、チカの喉の完全復活と共に、熱狂のうちに幕を閉じた。デビュー曲の売上も、爆発的とはいかないまでも、新人としては上々の滑り出しだ。
音楽番組、バラエティ、雑誌の取材、ネットコンテンツの撮影……。目が回るようなスケジュールを六人で乗りこなし、初めての活動期を終えた頃には、彼らは有難いことに「期待の新星」という肩書きを、なんとか手に入れていた。
高揚感と、やりきったという充足感。
何より、グループの空気が格段に良くなった。
「チカさーん、次の雑誌の対談、俺とトキさんとチカさんの三人なんスけど、何話します?」
楽屋でソウタが屈託なく話しかけてくる。
以前なら、事細かに指示していた場面だ。
チカは、スマホから目を上げず、軽く息を吐いた。
「リーダーに聞けよ」
「えー! またトキさんに丸投げっスか?」
「当たり前だろ。俺はもう隠居したんだ」
「ちょっとチカ! 丸投げやめてよ、俺だって考えることいっぱいあんだから!」
隣で台本をチェックしていたトキが、わざとらしく抗議の声を上げる。
「うるさいな。お前が決めろ、『リーダー』なんだろ?」
チカがそう言って笑うと、トキも「もー!」と言いながら、結局は嬉しそうに笑った。
コマチやソウタは面白そうにひそひそと、
「あの嫌味な言葉、聞きました? 奥さん」
「きっとリーダーの座を奪われた当てつけよ、怖いわねぇ……」
「……おい、そこの。噂好きのご近所さんムーブやめろ、シメるぞ」
そう言いつつも、チカには柔らかい空気が宿っている。
あの大喧嘩……というか、一方的な告白と和解の後、チカはメンバー全員に、これまでの態度を謝罪した。
年下メンバーたちは、驚くほど大人だった。
「ま、そんなこったろーと、思いましたけどね~」
コマチは相変わらずの生意気な口ぶりだったが、その目にはからかいの色はない。
一呼吸置いたあと、「喉、治ってよかったスね」と、それだけ言った。
ユウトは「言っただろ」とだけ笑い、ロクとソウタは「チカさんが優しくなって嬉しい!」とじゃれついてきて、鬱陶しかったが……悪くは、なかった。
肩の荷が、すっと降りた。
最年長だから、最古参だから、完璧でいなければ。リーダーとして引っ張らなければ。
その強迫観念が、トキという存在のおかげで、良い意味で壊されたのだ。
一方で、年下メンバーたちはユウトに、こんな話をする。
「チカさんってさぁ、もうずっと俺たちの教育係だったじゃん? でも、正直、そういうのマジで向いてなかったよな」
「ストイックな人だから……」
「なんつーの? 優秀だけど教えるのに向かない人っているじゃん? そんな感じ」
「でも、トキさん来てくれて、まじ良かったッス」
本人たちがいないと思って、言いたい放題だな。
ユウトはただ苦笑して、
「ひどいな。チカなりに頑張ってただろ? そんなに嫌だったのか?」
と応じる。
三人はブンブンと(録画してファンに流してやりたいほどの可愛さで)首を振った。
「んなワケないじゃないスか」
「本気でグループのこと考えてやってる人、嫌うほど、俺ら性格悪くないっスよ」
「チカさんが、俺たちのために、チカさんらしくいられないのは、よくないってことですよ」
ロクの言葉に、ユウトはそっと片眉をあげた。
(……うーん。なかなかどうして。ガキだガキだと思って来たけど、子供の成長は早いなぁ……)
ほんの小さい頃から練習を共にしてきた仲なので、気分はもう親御のそれだ。
そう歳も離れていないのだが、ユウトはしみじみと、年下メンバーの成長を感じていた。
すべてが、順調だった。
あの夜の、あのキスさえなければ。
(……いや、あれはもう、忘れよう)
チカは、自分にそう言い聞かせていた。
(デビュー前の、極限状態。精神が不安定だったんだ。トキも、自分も)
そう解釈することにした。
だから、泊まりがけの地方ロケで、ホテルの部屋割りが「トキ・チカ」の二人部屋だと告げられた時も、チカはまったくのノーガードだった。
「うわー、ベッド二つか。広いな!」
トキが、いつものワンコスマイルでベッドに飛び込む。
「……はしゃぐなよ、子供か」
チカは呆れつつ、自分の荷物をクローゼWットに収める。
潔癖症としては、外の空気に触れた服をベッドに持ち込むなどあり得ない。
「チカは相変わらず綺麗好きだなあ」
「お前が雑なだけだ。……先にシャワー借りるぞ」
「はーい」
シャワーを浴び、きっちりとパジャマに着替え、スキンケアも完璧にこなす。
チカがベッドに入ると、トキもすでにシャワーを終え、ラフなTシャツとスウェットで出てきた。
「じゃ、おやすみ。チカ」
「……ああ、おやすみ」
パチン、とトキがサイドランプを消す。
(……なんだ、普通じゃないか)
何も起きない。当たり前だ。
チカは、勝手に身構えていた自分を内心で笑い、すぐに深い眠りに落ちた。
……どれくらい、時間が経っただろうか。
ふと、息苦しさを感じて、チカは意識を浮上させた。
(……なんだ……?)
暗闇の中、何かが自分の顔を覆っている。
そして、唇に、柔らかく、生温かい感触。
「…………ん」
それが、トキの唇だと気づいた瞬間、チカの全身の血が凍りついた。
寝込みを襲われている。
再び。
「―――っ!?」
チカは、カッと目を見開き、目の前の男を突き飛ばそうとした。
だが、トキはそれを予期していたかように、チカの両手首を掴むと、そのままベッドのシーツに縫い付けた。
「んん―――っ! 離せ……!」
声にならない抵抗が、唇の隙間から漏れる。
暗闇に慣れた目が、間近にあるトキの顔を捉えた。
目は、開いている。
いつもの爽やかな光など微塵もない、暗く、熱を帯びた瞳が、じっとチカを見つめていた。
(こいつ……正気か!?)
恐怖と怒りで体が強張る。
だが、トキはチカの抵抗をものともせず、さらに深く唇を押し付けてきた。
一度目の荒々しいキスとは違う。
まるで、味を確かめるように、執拗に。
上唇を吸われ、下唇を食(は)まれ、角度を変えて、何度も。
「ふ……っ、ん……やめ……っ」
チカが顔を背けようとすると、顎を強く掴まれて固定される。
そして、わずかに開いた唇の隙間から、熱い舌が侵入してきた。
(―――!?)
潔癖症のチカにとって、それは耐え難い侵犯だった。
必死で舌を押し返そうとするが、トキのそれは、まるでチカの口腔内を隅々まで探るように、執拗に絡みついてくる。
息が、できない。
酸素が奪われ、頭が白くなっていく。
掴まれた手首が痛い。唇が、熱で溶けそうだ。
「は……っ、ぁ……!」
一瞬、唇が離れた隙に、チカが必死で空気を吸い込む。
だが、それも束の間。
今度は、耳元に熱い息がかかった。
「……チカ……」
名前を呼ばれ、ゾクリと背筋が震える。
そして、キスは唇だけでなく、耳朶、首筋へと落ちていった。
「ひ……っ! やめろ、汚い……っ!」
チカが掠れた声で叫ぶと、トキの動きがピタリと止まった。
そして、再び、唇が力強く塞がれた。
今度は、まるで罰を与えるような、荒々しいキスだった。
抵抗すればするほど、力は強まる。
チカの抵抗は、酸欠と恐怖で、次第に弱まっていく。
意識が、遠のく。
(……だめだ、気を……)
朦朧とするチカの唇を、トキは貪るように吸い続けた。
気を失いかけ、覚醒し、また息を塞がれて意識が飛びそうになる。
それが、どれだけ続いたか。
夜が明けるかと思うほど、長い、長い時間だった。
ふいに、チカの体を抑えつけていた重みが消えた。
「はぁっ……! はぁ……っ、げほっ……!」
チカは、咳き込みながら、必死で酸素を取り込む。
唇はヒリヒリと痛み、感覚がない。
暗闇の中、ベッドの脇に立ち尽くすトキのシルエットが見えた。
「……ご、めん……」
まただ。
また、その言葉だ。
チカは、怒りで震える体で、ベッドから起き上がった。
「ふざけるな……っ! 何度やれば気が済むんだ! お前、頭おかしいのか!?」
「……」
「俺は……っ、俺は、お前のそういう対象じゃない! わかってるのか!?」
「……」
「謝って済むと思うなよ! この……っ」
チカが、ありったけの罵倒を浴びせようとした、その時。
「……うるさいな」
静かだが、芯のある声が、チカの言葉を遮った。
「……は?」
「あんたが、そんなにキーキー言うからだろ」
トキは、暗闇の中で、静かにそう言い放った。
「…………は?」
理解が追いつかない。
「俺は、謝らない。……やっぱり、謝らない」
それだけを呟くと、トキは部屋のカードキーを抜き取り、乱暴にドアを開けて出ていった。
バタン、と無情な音が響く。
チカは、一人、暗い部屋に残された。
エアコンの音だけが、やけに大きく響く。
自分の唇に触れる。
まだ、トキの熱が残っている。
(……は? なんで……俺が、キレられてるんだ……?)
怒り、恐怖、混乱、そして……。
あの執拗なキスを思い出して、顔がカッと熱くなる。
チカは、真っ赤になった顔で、言葉を失ったまま、夜明け前の暗闇に立ち尽くすしかなかった。
デビューショーケースは、チカの喉の完全復活と共に、熱狂のうちに幕を閉じた。デビュー曲の売上も、爆発的とはいかないまでも、新人としては上々の滑り出しだ。
音楽番組、バラエティ、雑誌の取材、ネットコンテンツの撮影……。目が回るようなスケジュールを六人で乗りこなし、初めての活動期を終えた頃には、彼らは有難いことに「期待の新星」という肩書きを、なんとか手に入れていた。
高揚感と、やりきったという充足感。
何より、グループの空気が格段に良くなった。
「チカさーん、次の雑誌の対談、俺とトキさんとチカさんの三人なんスけど、何話します?」
楽屋でソウタが屈託なく話しかけてくる。
以前なら、事細かに指示していた場面だ。
チカは、スマホから目を上げず、軽く息を吐いた。
「リーダーに聞けよ」
「えー! またトキさんに丸投げっスか?」
「当たり前だろ。俺はもう隠居したんだ」
「ちょっとチカ! 丸投げやめてよ、俺だって考えることいっぱいあんだから!」
隣で台本をチェックしていたトキが、わざとらしく抗議の声を上げる。
「うるさいな。お前が決めろ、『リーダー』なんだろ?」
チカがそう言って笑うと、トキも「もー!」と言いながら、結局は嬉しそうに笑った。
コマチやソウタは面白そうにひそひそと、
「あの嫌味な言葉、聞きました? 奥さん」
「きっとリーダーの座を奪われた当てつけよ、怖いわねぇ……」
「……おい、そこの。噂好きのご近所さんムーブやめろ、シメるぞ」
そう言いつつも、チカには柔らかい空気が宿っている。
あの大喧嘩……というか、一方的な告白と和解の後、チカはメンバー全員に、これまでの態度を謝罪した。
年下メンバーたちは、驚くほど大人だった。
「ま、そんなこったろーと、思いましたけどね~」
コマチは相変わらずの生意気な口ぶりだったが、その目にはからかいの色はない。
一呼吸置いたあと、「喉、治ってよかったスね」と、それだけ言った。
ユウトは「言っただろ」とだけ笑い、ロクとソウタは「チカさんが優しくなって嬉しい!」とじゃれついてきて、鬱陶しかったが……悪くは、なかった。
肩の荷が、すっと降りた。
最年長だから、最古参だから、完璧でいなければ。リーダーとして引っ張らなければ。
その強迫観念が、トキという存在のおかげで、良い意味で壊されたのだ。
一方で、年下メンバーたちはユウトに、こんな話をする。
「チカさんってさぁ、もうずっと俺たちの教育係だったじゃん? でも、正直、そういうのマジで向いてなかったよな」
「ストイックな人だから……」
「なんつーの? 優秀だけど教えるのに向かない人っているじゃん? そんな感じ」
「でも、トキさん来てくれて、まじ良かったッス」
本人たちがいないと思って、言いたい放題だな。
ユウトはただ苦笑して、
「ひどいな。チカなりに頑張ってただろ? そんなに嫌だったのか?」
と応じる。
三人はブンブンと(録画してファンに流してやりたいほどの可愛さで)首を振った。
「んなワケないじゃないスか」
「本気でグループのこと考えてやってる人、嫌うほど、俺ら性格悪くないっスよ」
「チカさんが、俺たちのために、チカさんらしくいられないのは、よくないってことですよ」
ロクの言葉に、ユウトはそっと片眉をあげた。
(……うーん。なかなかどうして。ガキだガキだと思って来たけど、子供の成長は早いなぁ……)
ほんの小さい頃から練習を共にしてきた仲なので、気分はもう親御のそれだ。
そう歳も離れていないのだが、ユウトはしみじみと、年下メンバーの成長を感じていた。
すべてが、順調だった。
あの夜の、あのキスさえなければ。
(……いや、あれはもう、忘れよう)
チカは、自分にそう言い聞かせていた。
(デビュー前の、極限状態。精神が不安定だったんだ。トキも、自分も)
そう解釈することにした。
だから、泊まりがけの地方ロケで、ホテルの部屋割りが「トキ・チカ」の二人部屋だと告げられた時も、チカはまったくのノーガードだった。
「うわー、ベッド二つか。広いな!」
トキが、いつものワンコスマイルでベッドに飛び込む。
「……はしゃぐなよ、子供か」
チカは呆れつつ、自分の荷物をクローゼWットに収める。
潔癖症としては、外の空気に触れた服をベッドに持ち込むなどあり得ない。
「チカは相変わらず綺麗好きだなあ」
「お前が雑なだけだ。……先にシャワー借りるぞ」
「はーい」
シャワーを浴び、きっちりとパジャマに着替え、スキンケアも完璧にこなす。
チカがベッドに入ると、トキもすでにシャワーを終え、ラフなTシャツとスウェットで出てきた。
「じゃ、おやすみ。チカ」
「……ああ、おやすみ」
パチン、とトキがサイドランプを消す。
(……なんだ、普通じゃないか)
何も起きない。当たり前だ。
チカは、勝手に身構えていた自分を内心で笑い、すぐに深い眠りに落ちた。
……どれくらい、時間が経っただろうか。
ふと、息苦しさを感じて、チカは意識を浮上させた。
(……なんだ……?)
暗闇の中、何かが自分の顔を覆っている。
そして、唇に、柔らかく、生温かい感触。
「…………ん」
それが、トキの唇だと気づいた瞬間、チカの全身の血が凍りついた。
寝込みを襲われている。
再び。
「―――っ!?」
チカは、カッと目を見開き、目の前の男を突き飛ばそうとした。
だが、トキはそれを予期していたかように、チカの両手首を掴むと、そのままベッドのシーツに縫い付けた。
「んん―――っ! 離せ……!」
声にならない抵抗が、唇の隙間から漏れる。
暗闇に慣れた目が、間近にあるトキの顔を捉えた。
目は、開いている。
いつもの爽やかな光など微塵もない、暗く、熱を帯びた瞳が、じっとチカを見つめていた。
(こいつ……正気か!?)
恐怖と怒りで体が強張る。
だが、トキはチカの抵抗をものともせず、さらに深く唇を押し付けてきた。
一度目の荒々しいキスとは違う。
まるで、味を確かめるように、執拗に。
上唇を吸われ、下唇を食(は)まれ、角度を変えて、何度も。
「ふ……っ、ん……やめ……っ」
チカが顔を背けようとすると、顎を強く掴まれて固定される。
そして、わずかに開いた唇の隙間から、熱い舌が侵入してきた。
(―――!?)
潔癖症のチカにとって、それは耐え難い侵犯だった。
必死で舌を押し返そうとするが、トキのそれは、まるでチカの口腔内を隅々まで探るように、執拗に絡みついてくる。
息が、できない。
酸素が奪われ、頭が白くなっていく。
掴まれた手首が痛い。唇が、熱で溶けそうだ。
「は……っ、ぁ……!」
一瞬、唇が離れた隙に、チカが必死で空気を吸い込む。
だが、それも束の間。
今度は、耳元に熱い息がかかった。
「……チカ……」
名前を呼ばれ、ゾクリと背筋が震える。
そして、キスは唇だけでなく、耳朶、首筋へと落ちていった。
「ひ……っ! やめろ、汚い……っ!」
チカが掠れた声で叫ぶと、トキの動きがピタリと止まった。
そして、再び、唇が力強く塞がれた。
今度は、まるで罰を与えるような、荒々しいキスだった。
抵抗すればするほど、力は強まる。
チカの抵抗は、酸欠と恐怖で、次第に弱まっていく。
意識が、遠のく。
(……だめだ、気を……)
朦朧とするチカの唇を、トキは貪るように吸い続けた。
気を失いかけ、覚醒し、また息を塞がれて意識が飛びそうになる。
それが、どれだけ続いたか。
夜が明けるかと思うほど、長い、長い時間だった。
ふいに、チカの体を抑えつけていた重みが消えた。
「はぁっ……! はぁ……っ、げほっ……!」
チカは、咳き込みながら、必死で酸素を取り込む。
唇はヒリヒリと痛み、感覚がない。
暗闇の中、ベッドの脇に立ち尽くすトキのシルエットが見えた。
「……ご、めん……」
まただ。
また、その言葉だ。
チカは、怒りで震える体で、ベッドから起き上がった。
「ふざけるな……っ! 何度やれば気が済むんだ! お前、頭おかしいのか!?」
「……」
「俺は……っ、俺は、お前のそういう対象じゃない! わかってるのか!?」
「……」
「謝って済むと思うなよ! この……っ」
チカが、ありったけの罵倒を浴びせようとした、その時。
「……うるさいな」
静かだが、芯のある声が、チカの言葉を遮った。
「……は?」
「あんたが、そんなにキーキー言うからだろ」
トキは、暗闇の中で、静かにそう言い放った。
「…………は?」
理解が追いつかない。
「俺は、謝らない。……やっぱり、謝らない」
それだけを呟くと、トキは部屋のカードキーを抜き取り、乱暴にドアを開けて出ていった。
バタン、と無情な音が響く。
チカは、一人、暗い部屋に残された。
エアコンの音だけが、やけに大きく響く。
自分の唇に触れる。
まだ、トキの熱が残っている。
(……は? なんで……俺が、キレられてるんだ……?)
怒り、恐怖、混乱、そして……。
あの執拗なキスを思い出して、顔がカッと熱くなる。
チカは、真っ赤になった顔で、言葉を失ったまま、夜明け前の暗闇に立ち尽くすしかなかった。
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