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本編
向き合う覚悟
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肌寒くなってきた季節。
イグナイトは、あの『Actually』でカムバックを果たした。
結局、プロデューサーが「これなら絶対に勝てる」と踏んだのか、一度は前倒しになったはずのリリース日程も、万全を期すために本来のものに戻された。
その猶予期間が、彼らにとって何よりの幸運だった。
「はい、そこ! ユウトとロク、タメが甘い!」
「チカ! 高音、もっとエッジ効かせて! アンタの武器でしょ!」
初披露で「すごいじゃん!」「アンタたちだけで作ったの!?」と手放しで褒めてくれたはずのダンスと歌のトレーナーたちは、いざ本格的にGOサインが出た途端、文字通り「鬼」と化した。
「自分たちで『これが答えだ』って言ったんだろ? なら、世間様が文句のつけようもないモンに仕上げろ!」
彼らの遊び心のある、センスフルなカラーはそのままに、パフォーマンスはプロの容赦ない手で、ミリ単位でブラッシュアップされていく。
チカたちは、その期待に応えるように、食らいついていった。
そして、誰もが納得のいく、完璧な『Actually』が仕上がった。
奇しくも、「Bleach Heart」とカムバックの時期がズレたことで、チャート上で直接的にぶつかることはなかった。
一足先にリリースされた彼らの新曲は、やはり圧巻だった。
「Bleach Heartらしさ」がさらに研ぎ澄まされた、重く、攻撃的な名盤。
依然として絶対的エースであるソラを中心に、彼の野獣のような……ライオンや虎、豹を思わせる危険な魅力が、さらに引き立てられていた。
ソラが「足を引っ張る」とボヤいていた他のメンバーたちも、決して彼に劣らない基礎力と、ソラとは違うタイプの魅力を持っており、あなどれないグループだと誰もが感じた。
だが、今のイグナイトは、恐れなかった。
一から、いや、ゼロから自分たちの手で作り上げた新曲は、他の何にも代えがたい「最強の武器」だと信じられたからだ。
結果は、すぐに出た。
売上は、デビュー曲を遥かに凌ぐ勢いでうなぎ登りとなり、彼らはついに、週間チャートで「一位」を獲得した。
「やった……! やったぞ!!」
音楽番組のアンコールステージ。降り注ぐ紙吹雪の中、ソウタとロクが抱き合って泣きじゃくり、コマチが「泣くなよ!」と怒鳴りながら、自分の目元を乱暴に拭っている。
ユウトが、静かに、だが、深く頷き、隣のトキの肩を叩いた。
チカは、その光景を、少し離れた場所から、夢でも見るような心地で眺めていた。
達成感。
事務所の方針に逆らい、自分たちの「真実」を貫き通した。
ファンも、その「覚悟」に応え、彼らを一位へと押し上げてくれた。
『イグナイト、最高!』『Actually、神曲!』
SNSには、称賛の声が溢れていた。
今後のイグナイトは、楽曲制作にも積極的に関わっていく、という方針も発表され、ファンは熱狂的にそれを支持してくれた。
(……ああ)
チカは、込み上げてくる熱いものを、必死でこらえた。
デビュー前の、あのヒステリックだった自分。
トキへの嫉妬。
事務所に押し付けられた『Masquerade』への絶望。
これまで苦しんだことも、何もかも、この瞬間のためにあったのだと、水に流せるような気がした。
この、仲間たちと、ファンと分かち合う、どうしようもないほどの幸福感。
これを味わうために、俺は、アイドルになったのだと。
チカは、心の底から、そう再確認した。
カムバック活動が一段落し、年末の賞レースに向けた準備が始まるまでの、つかの間の静かな夜。
チカも、トキも、わかっていた。
『Actually』という嵐を、六人で乗り越えた今。
あの夜、ソラと対峙し、チカが「お前がダメになるだろ!」と叫んだ、あの夜から、ずっと「保留」にされてきた、あの問題を。
話すなら、今だ、と。
チカが、自室で次のデモ音源を聴き込んでいると、スマホが短く震えた。
LIMEだった。
相手は、トキ。
『今から、少しだけいい?』
『いつものスタジオで、待ってる』
(……来たか)
チカは、驚かなかった。
むしろ、自分も、今夜あたり、ケリをつけなければと思っていたところだ。
ソラが言っていた「夢を盗んだ」という、あの支離滅裂な言葉の真意。
そして、トキが、「いつか話す」と約束した、あの過去。
チカは、静かにヘッドホンを外し、『わかった』とだけ返信した。
コートを羽織り、マフラーを首に巻く。
冷たい夜気が、肌を刺す。
チカは、静かに寮のドアを開け、待ち合わせ場所へと向かった。
イグナイトは、あの『Actually』でカムバックを果たした。
結局、プロデューサーが「これなら絶対に勝てる」と踏んだのか、一度は前倒しになったはずのリリース日程も、万全を期すために本来のものに戻された。
その猶予期間が、彼らにとって何よりの幸運だった。
「はい、そこ! ユウトとロク、タメが甘い!」
「チカ! 高音、もっとエッジ効かせて! アンタの武器でしょ!」
初披露で「すごいじゃん!」「アンタたちだけで作ったの!?」と手放しで褒めてくれたはずのダンスと歌のトレーナーたちは、いざ本格的にGOサインが出た途端、文字通り「鬼」と化した。
「自分たちで『これが答えだ』って言ったんだろ? なら、世間様が文句のつけようもないモンに仕上げろ!」
彼らの遊び心のある、センスフルなカラーはそのままに、パフォーマンスはプロの容赦ない手で、ミリ単位でブラッシュアップされていく。
チカたちは、その期待に応えるように、食らいついていった。
そして、誰もが納得のいく、完璧な『Actually』が仕上がった。
奇しくも、「Bleach Heart」とカムバックの時期がズレたことで、チャート上で直接的にぶつかることはなかった。
一足先にリリースされた彼らの新曲は、やはり圧巻だった。
「Bleach Heartらしさ」がさらに研ぎ澄まされた、重く、攻撃的な名盤。
依然として絶対的エースであるソラを中心に、彼の野獣のような……ライオンや虎、豹を思わせる危険な魅力が、さらに引き立てられていた。
ソラが「足を引っ張る」とボヤいていた他のメンバーたちも、決して彼に劣らない基礎力と、ソラとは違うタイプの魅力を持っており、あなどれないグループだと誰もが感じた。
だが、今のイグナイトは、恐れなかった。
一から、いや、ゼロから自分たちの手で作り上げた新曲は、他の何にも代えがたい「最強の武器」だと信じられたからだ。
結果は、すぐに出た。
売上は、デビュー曲を遥かに凌ぐ勢いでうなぎ登りとなり、彼らはついに、週間チャートで「一位」を獲得した。
「やった……! やったぞ!!」
音楽番組のアンコールステージ。降り注ぐ紙吹雪の中、ソウタとロクが抱き合って泣きじゃくり、コマチが「泣くなよ!」と怒鳴りながら、自分の目元を乱暴に拭っている。
ユウトが、静かに、だが、深く頷き、隣のトキの肩を叩いた。
チカは、その光景を、少し離れた場所から、夢でも見るような心地で眺めていた。
達成感。
事務所の方針に逆らい、自分たちの「真実」を貫き通した。
ファンも、その「覚悟」に応え、彼らを一位へと押し上げてくれた。
『イグナイト、最高!』『Actually、神曲!』
SNSには、称賛の声が溢れていた。
今後のイグナイトは、楽曲制作にも積極的に関わっていく、という方針も発表され、ファンは熱狂的にそれを支持してくれた。
(……ああ)
チカは、込み上げてくる熱いものを、必死でこらえた。
デビュー前の、あのヒステリックだった自分。
トキへの嫉妬。
事務所に押し付けられた『Masquerade』への絶望。
これまで苦しんだことも、何もかも、この瞬間のためにあったのだと、水に流せるような気がした。
この、仲間たちと、ファンと分かち合う、どうしようもないほどの幸福感。
これを味わうために、俺は、アイドルになったのだと。
チカは、心の底から、そう再確認した。
カムバック活動が一段落し、年末の賞レースに向けた準備が始まるまでの、つかの間の静かな夜。
チカも、トキも、わかっていた。
『Actually』という嵐を、六人で乗り越えた今。
あの夜、ソラと対峙し、チカが「お前がダメになるだろ!」と叫んだ、あの夜から、ずっと「保留」にされてきた、あの問題を。
話すなら、今だ、と。
チカが、自室で次のデモ音源を聴き込んでいると、スマホが短く震えた。
LIMEだった。
相手は、トキ。
『今から、少しだけいい?』
『いつものスタジオで、待ってる』
(……来たか)
チカは、驚かなかった。
むしろ、自分も、今夜あたり、ケリをつけなければと思っていたところだ。
ソラが言っていた「夢を盗んだ」という、あの支離滅裂な言葉の真意。
そして、トキが、「いつか話す」と約束した、あの過去。
チカは、静かにヘッドホンを外し、『わかった』とだけ返信した。
コートを羽織り、マフラーを首に巻く。
冷たい夜気が、肌を刺す。
チカは、静かに寮のドアを開け、待ち合わせ場所へと向かった。
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