【R18】Actually

うはっきゅう

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本編

侵食

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​ 少しの休憩も与えられなかった。
 賢者タイムの虚無感に浸る間もなく、ソラは次の行動に移った。
​「さて……と。準備運動はこれくらいでいいか」
 ソラは、サイドテーブルから、ルームサービスと一緒に運ばれていた赤ワインのボトルを手に取った。
 まだ半分ほど残っている。
 そして、もう一つ。引き出しから取り出したのは、ホテルのアメニティにあるボディローションだった。
​「……なに、する気だ……」
 チカが、本能的な危機感で身を縮める。
「決まってんだろ。……『本番』だよ」
 ソラは、チカの足首を掴み、強引に開脚させた。
「トキは、どうやってんだ? ……たっぷりと時間をかけて、優しく解してくれんのか?」
「……っ」
「俺はそんな面倒なことしねえよ。……こいつを使わせてもらう」
​ ソラは、ローションの封を切り、掌に大量に出した。
 そして、それを躊躇なく、チカの秘部に塗りたくった。
​「……ひっ、つめた……!」
「力抜けよ。……怪我したくないだろ?」
​ ソラの中指が、入口を割り、侵入してくる。
 ヌルリ、とした感触。
 異物感。
​「……ん、ぐ……っ!」
「……硬えな。……トキは、ここを大事にしてたみたいだなァ」
 ソラは、指を一本、また一本と増やしていく。
 乱暴な拡張。
 内壁を爪で引っ掻くように、広げていく。

 ​チカの中で、何かが弾けた。
「……いい加減にしろ!!!!」
 ドガッ!!
 チカは、拘束が緩んだ一瞬の隙を突いて、渾身の力で膝を蹴り上げた。
 それが、ソラの鳩尾に深く突き刺さる。
「ぐふっ……!?」
 不意を突かれたソラが、苦悶の声を漏らしてソファから転がり落ちた。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
 チカは、はだけたシャツをかき合わせ、ソファの背もたれにしがみついて立ち上がった。
 足が震えて、上手く立てない。
 だが、その瞳だけは、死んでいなかった。
「……っ、俺は……!」
 チカは、床に蹲るソラを睨みつけた。
「トキを守るためなら、なんだってするつもりだった……! でも……!」
 体中が、トキを求めて悲鳴を上げている。
 あの温かい手。不器用なキス。
 それを裏切ることだけは、死んでも出来ない。
「……俺の体も、心も……トキだけのものだ! てめえなんかに……指一本だって、くれてやるか!!」
 ​「……この、……ッ!」
 ソラが、形相を変えて立ち上がる。
 その目には、明確な暴力の色があった。
「調子に乗るなよ……! ただで済むと思ってんのか……!」
 ソラが、拳を振り上げた。
 チカは、反射的に身をすくめた。
(……殴られる)
 痛みに備えて、ぎゅっと目を閉じた。
ドォン!!!!!
 爆音が響いた。
 だが、痛みは来なかった。
 代わりに、部屋の空気が一変するほどの、凄まじい殺気が流れ込んできた。
「……そこまでだ、ソラ」
 地獄の底から響くような、低く、冷え切った声。
 チカが目を開けると。
 蹴破られたドアの残骸を踏みつけて、その男は立っていた。
 トキだ。
 だが、いつものトキではない。
 表情がない。
 瞳孔が開いたその目は、人間を見る目ではなかった。
 ただの「肉塊」を処理しようとする、冷徹な捕食者の目だ。
 「……チッ。……お邪魔虫かよ」
 ソラが、振り上げた拳を下ろし、舌打ちをする。
 トキは、ソラを一瞥もしなかった。
 真っ直ぐに、チカの元へと歩み寄る。
 そして、震えるチカの肩を抱き寄せ、乱れた服を自分のジャケットで覆い隠した。
「……遅くなって、ごめん」

 耳元で囁かれた声は、震えていた。
 それは怒りによるものか、それとも、最悪の事態を免れた安堵によるものか。チカには判断がつかなかった。
 ただ、その体温に触れた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、ガタガタと震えが止まらなくなった。

「……ハッ。もう遅ぇよ」
 ソラが、床に落ちていた写真を拾い上げ、ヒラヒラと見せつけるように振った。
 トキの過去を握る、決定的な証拠。

「こいつ、お前のこの写真見てさァ、俺のついた嘘もぜーんぶ信じ込んで、泣いて縋ってきたんだぜ? 『何でもするから、トキだけは助けてくれ』ってよォ」
 ソラは、下卑た笑いを浮かべながら、一歩、二歩と二人に近づく。
「健気だよなあ。お前のために、プライドの高いあの『姫』が、俺にお行儀よく舐めさせてさ。……嫌だ、やめろって泣きながら、それでもアンアン啼いてたよ」
「……ッ!」
 チカは、恥辱で顔を覆った。
 聞かせたくない。トキにだけは、その醜態を知られたくなかった。

「……もう、喋るな」
 地獄の底から響くような、低く、冷え切った声。
 トキが、初めて口を開いた。
 その目は、ソラを射抜いている。
「喋るな、ソラ」
 命令だった。
 絶対的な圧力。
 だが、トキはすぐに視線をチカに戻し、まるで壊れ物を扱うように、その乱れた髪を撫でた。
「……チカ。聞いて」
 トキは、静かに、噛み砕くように語りかけた。
「その写真。……俺が運び屋やってる写真なんかじゃない」
「……え?」
「これ……昔、ソラがおかしな連中に騙されて、運び屋やらされそうになったのを……俺が止めて、バイト代全部はたいて、頭下げに行った時の写真だ」
 チカは、呆然とトキを見上げた。
 涙で霞む視界の中で、トキの瞳は、ただ哀しげに揺れている。
「こいつ、昔からバカでさ。すぐ怪しい儲け話に引っかかって、俺に泣きついてくるんだ。……その時も、『助けてくれ』って俺の足に縋り付いてきた。……俺はただ、それを助けただけだ」

 チカの頭が、真っ白になった。
 じゃあ、何か。
 俺は、騙されたのか。
 トキを守るために、あの男の嘘を信じて、自分を売り渡そうとしたのか。
 無駄だった。
 あの屈辱も、あの行為も、すべては、この男の掌の上で踊らされていただけ……?

「……へ。ばーれちまったか」
「恩を仇で返すとはこのことだな、ソラ。……お前は、いつまで経っても間違える。また俺に尻を拭って欲しいのか?」
「あ? 寝ぼけたこと……」
「悪いけど。お前に構ってる暇なんかないんだよ。俺は忙しいし、子守りなら他、当たれ」
 トキの声は淡々としていたが、そこには明確な決別が含まれていた。
 侮辱されたソラの顔色が、蒼白になる。
「……クソが」
 ソラは、ギリ、と歯ぎしりをすると、歪んだ笑みを深めた。
 まだだ。まだ、こいつにダメージを与え足りない。

「……そうかい。お忙しいと来たか、そりゃ悪かったなァ」

 ソラは、大げさに肩をすくめると、ソファの横にあるベッドを指差した。
 そこには、先程までチカが組み敷かれていた痕跡が、生々しく残っている。
 乱れたシーツ。
 そして、中央に広がる、乾いていない「シミ」。

「でもよ、事実は消えねぇぞ? トキ」
 ソラは、勝ち誇ったように言った。
「それ、見ろよ。……こいつ、俺の手でイッたぜ」
「――――ッ!!!」
 チカの喉から、ヒュッ、と空気を吸い込む音が漏れた。
 心臓が、握り潰されたように痛む。
 やめてくれ。それだけは。
「嫌がってた割には、体は正直だったなァ。俺がちょっといじってやっただけで、ビクビク震えて、俺の手の中に吐き出したんだよ。気持ちよさそうだったぜ、背中を反らせてさ……」
 ソラの下品な笑い声が、部屋に響き渡る。
 チカは、ガタガタと震えながら、トキのジャケットを握りしめた。
 事実だ。
 生理的な反応だったとはいえ、ソラの手によって、絶頂を迎えてしまった。
 その事実は、潔癖なチカの尊厳を、粉々に打ち砕いていた。

「なぁ、トキ。お前、まだそいつのこと愛せんのか?」

 ソラが、挑発するようにトキを覗き込む。
「俺の手垢がついた、薄汚ぇ中古品だぜ? 俺で穢れて、俺の前で無様に果てたヤツだぜ? ……まだ、抱けるのかよ」
 チカは、息を止めて、トキの反応を待った。
 否定して欲しい。
 「そんなの関係ない」「それでも愛してる」と、即座に叫んで欲しかった。

 だが。

「……お前には、関係ないだろ」
 トキが吐き出したのは、冷たく、突き放すような一言だった。
「……っ」
 チカの目の前が、暗くなった。
 トキは、否定しなかった。
「関係ない」と言った。
 それは、ソラへの拒絶の言葉だったのかもしれない。けれど、極限状態にあるチカの耳には、それが「肯定」のようにも、あるいは「答える価値もない」という諦めのようにも聞こえた。

(……汚い、と。思ったのか)
 絶望が、チカの心を黒く塗りつぶしていく。
 トキは、チカから目を逸らし、ただ冷ややかにソラを見据えているだけだった。

 その時。
 バタバタという足音と共に、部屋に新たな人影が雪崩れ込んできた。

「チカ!! 無事か!?」
「トキさん!」

 ユウト、コマチ、ソウタ、ロク——駆けつけたメンバーたちだった。

「コマチ」
 トキが、感情のない声で呼ぶ。
「俺、全部録音してある。聞かれたくないとこがあるから、あとで編集して渡す。それでいい?」
「あ、ああ」
「……マネージャーさん、頼んでたこと、やってくれたのかな」
 ソウタが、痛ましいチカの姿に、思わず涙ぐみながら、頷いた。
「うん…!大丈夫、確認、取れたって!」

 今日も甘えようと訪ねたのに、いくら待っても帰ってこない。
 チカの部屋で待ちくたびれたトキが、一度自室に戻ろうとした時。
 ロクがトキの袖を掴んだ。「ちょっとやばいかも」と。

 ロクの部屋はチカの隣室だ。耳を澄ませば、「喋っているか」くらいは朧げに入ってくる。
 ロクがその会話を聞いたのは、偶然だった。
 内容こそわからないが、チカの張り詰めた声が耳に残った。
 そして、すぐ後に彼は宿舎を出て行った——。

 誰にも、何もいわず、数時間も留守にするなんてあり得ない。
 電話も繋がらない。それで、不審に思ったのだ。

 トキが「ソラだ」と察したのは、野生の勘、としか言いようがない。
 もしチカがソラからの呼び出しに応じたとするなら……
 それはおそらく、トキとソラの「つながり」にまつわる、脅しや嘘に違いないと思った。

 それで、トキはメンバーに事情を話した。
 先行してトキが駆けつけるあいだ、メンバーはマネージャーを叩き起こして、手筈を整えてもらっていたのだ。

 トキが、氷のような視線をソラに向ける。
「警察に行こうか? ……Bleach Heartのセンターさん」

「……クソッ……!」

 ソラは、完全に逃げ場を失い、壁にグラスを投げつけた。
 ガシャンッ!!
 赤い破片が散らばる中、トキはもうソラを見ようともしなかった。
 ただ、チカの肩を抱き、出口へと促す。

「……帰るぞ、チカ」

 その声は優しかったが、どこか遠かった。
 チカは、足元の覚束ないまま、トキに支えられて歩き出した。
 背後で、ソラの怒号と、何かが壊れる音が響いていたが、もう何も耳に入らなかった。
 ただ、トキのジャケットに残る微かな香水の匂いと、自分自身の体から漂う、ソラのローションとワインの匂いが混ざり合う不快感だけが、チカを苛んでいた。
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