33 / 47
本編
雪明かりと苦い珈琲
しおりを挟む
目が覚めると、窓の外は白一色だった。
カーテンの隙間から差し込む雪明かりが、部屋の中を青白く照らしている。
チカは、重い瞼を持ち上げた。
隣には、トキがいた。
あれから一睡もせず、朝方になってようやく力尽きたのだろう。ベッドの縁に座り込んだまま、上半身だけをチカの布団に預けて、浅い寝息を立てている。
その顔は、疲れ切っていたけれど、どこか安らかで。
(……バカ犬)
チカは、そっと手を伸ばし、トキの髪に触れようとした。
けれど。
指先が髪に触れる直前、脳裏に、あのフラッシュバックが走った。
『俺の手垢がついた、薄汚ぇ中古品だぜ?』
ソラの嘲笑。
そして、自分の肌に残る、あの粘つくような感触と、どうしようもない敗北感。
「……ッ」
チカは、弾かれたように手を引っ込めた。
見ていられない。
こんなに無防備で、綺麗な寝顔を、今の自分が見てはいけない気がした。
チカは、トキを起こさないように、蛇のように慎重にベッドから抜け出した。
体中が軋むように痛い。
鏡は見なかった。自分の顔を見る勇気なんて、どこにもなかったから。
逃げるようにリビングへ行くと、そこにはすでに先客がいた。
コーヒーの、深く香ばしい匂い。
「……早いな」
キッチンカウンターでコーヒーメーカーを操作していたユウトが、振り返りもせずに言った。
「……ああ」
チカは、パジャマの上からカーディガンを羽織り、ダイニングの椅子に力なく腰を下ろした。
「飲むか?」
ユウトが、マグカップを二つ並べる。
「……いや、いい」
チカは口元を覆った。
いつもなら好んで飲むブラックコーヒーの香りが、今は鼻につく。胃が拒絶して、液体を流し込んだら、昨夜の汚れた記憶ごとすべて戻してしまいそうだった。
ユウトは、「そうか」と短く答え、自分の分だけを持ってチカの対面に座った。
静寂。
啜る音だけが響く。
ユウトは、何も聞いてこない。それが有難くもあり、同時に、チカの胸を締め付けた。
「……なんで、一人で行ったんだ」
不意に、ユウトが口を開いた。
責める口調ではない。ただ、純粋な疑問と、微かな痛みが混じった声だった。
「……わかってたはずだろ。あいつが、まともな神経してないことくらい」
「……ああ」
チカは、テーブルの木目を指でなぞった。
「薄々は……気づいてた。あいつが、俺に何を求めてるか」
「……」
「でも……行かなきゃ、トキが終わると思った。……あいつの過去を、バラされるくらいなら」
チカは、昨夜ソラから突きつけられた写真のこと、そして、後から聞いたトキの本当の過去の話を、ぽつりぽつりと語った。
ユウトは、黙って聞いていたが、時折、何かを考え込むように目を細めた。
「……そうか。トキは、そう言ったか」
「え?」
「いや……あいつの話と、俺が知ってるあいつの性格に、少しズレがあるなと思ってな」
ユウトは、カップの縁を指でなぞった。
「あいつは、『不純な動機でアイドルになった』と自分を卑下するが……俺には、それだけじゃないように見える」
ユウトは、自嘲気味に笑った。
「焦りだよ」
「焦り?」
「夢を一度絶たれて、底辺を見て……そこから這い上がるためなら、どんな手を使ってでも、誰を出し抜いてでも、チャンスを掴み取りたい。……その必死さが、俺には痛いほどわかる」
ユウトの言葉は、重かった。彼もまた、天才と呼ばれながら、長い下積みを経験してきた人間だ。
「綺麗事じゃ、夢は掴めない。……トキがソラを置いてきたのも、あいつなりの『生存本能』だったんだろう。それを責める資格は、俺たちにはない」
だが、とユウトの声が低くなる。
「そのルサンチマンを、こんな卑劣なやり方で晴らそうとしたソラだけは……絶対に、許せないな」
普段は冷静なユウトの瞳に、静かな怒りの炎が揺らめいていた。
「……なあ、ユウト」
チカは、ずっと気になっていたことを口にした。
「トキは……マネージャーに、何を頼んでたんだ?」
駆けつけた時、トキは言っていた。『マネージャーさん、頼んでたこと、やってくれたのかな』と。
ユウトは、ふう、と息を吐いた。
「……裏取りだよ」
「え?」
「ソラが持ち出した写真。……トキは、それがネタに使われることを予測してたんだ。だから、お前が部屋を出て行った直後、マネージャーを叩き起こして、当時の関係者……つまり、あの写真に写っていた『組』の人間に連絡を取らせた」
チカは目を見開いた。
「そ、そんなこと……」
「事実確認と、もし写真が出回った場合の、事務所としての声明文の準備。……そして、ソラへの法的措置の警告」
ユウトは、チカを真っ直ぐに見つめた。
「お前が、一人で抱え込んで、馬鹿な自己犠牲に走っている間に……あいつは、リーダーとして、冷静に先を見据えて手を打っていたんだよ」
「……」
「それが、プロだ。……アイドルという『商品』になった以上、俺たちは自分の体一つですら、自分だけのものじゃない。スタッフ、ファン、関係者……多くの人間の生活を背負ってるんだ」
ユウトの言葉が、胸に突き刺さる。
「お前が傷つけば、悲しむのはお前だけじゃない。……トキも、俺たちも、ファンも、みんな傷つくんだぞ」
チカは、俯いて唇を噛んだ。
自分の愚かさが、身に沁みてわかった。
守ろうとして、逆に全員を危険に晒し、悲しませてしまった。
「……ごめん」
「謝るな。……誰も、お前を責めてない」
ユウトは、コーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「ただ……もう二度と、自分を安売りするな。お前は、イグナイトのセンターなんだからな」
その不器用な優しさに、チカの目頭が熱くなった。
その時。
ドタドタドタ! と、二階から騒がしい足音が聞こえてきた。
「あー!! 朝だー!! 腹減ったー!!」
「おらソウタ! 階段降りるの遅い!」
「ロク、寝ながら歩くな、落ちるぞ!」
コマチ、ソウタ、ロクの三人が、雪崩のようにリビングに入ってきた。
あからさまに、わざとらしいほどの大音量。
「おっ、チカさん! おはよっス!」
「おはようございます! 今日の朝ごはんなんですか!?」
「……おはよう。コーヒーの匂い」
誰も、昨日のことには触れない。チカの顔色も、首元のコンシーラーで隠しきれない痕も見ないフリをして、いつも通り、いや、いつも以上に明るく振る舞ってくれている。
(……こいつら)
その不自然な明るさが、今のチカには何よりの救いだった。
「……おはよう。うるさいぞ、朝から」
チカが掠れた声で返すと、三人は「へへっ」と嬉しそうに笑った。
ガチャリ、と玄関が開く音がした。
マネージャーだった。
ひどい隈を作っているが、その目は仕事人のそれだった。
「おはよう。……全員、揃ってるな」
マネージャーは、リビングを見渡すと、タブレットを取り出した。
「今日のスケジュールだが……変更がある。午後の『特番リハ』は、バラシだ」
「……ですよねー」
コマチが、鼻で笑った。
「どの面下げて練習すんのって話だし」
「向こうから、キャンセルの申し入れがあった。……ソラが『体調不良』だそうだ」
マネージャーの言葉に、全員が冷ややかな視線を交わす。
「で、チカ」
マネージャーが、心配そうにチカを見た。
「お前は、今日は休め。雑誌の撮影は、他のメンバーだけで回すから」
「……嫌です」
チカは、即答した。
「連れてってください。仕事、できます」
「でも、お前……」
「ここに一人でいたら……おかしくなりそうです」
チカは、震える手を膝の上で握りしめた。
静寂が怖い。
何もしていない時間が怖い。
ふとした瞬間に、あの部屋の匂いと、ソラの感触が蘇ってくる。それを振り払うには、忙殺されるしかなかった。
マネージャーは、しばらくチカを見ていたが、やがて「はぁ」と大きくため息をついた。
「……本当に、お前ってやつは。強情なんだから」
呆れたように言いながらも、その表情は承諾の色を示していた。
「わかった。ただし、無理だと思ったらすぐに言え。……倒れられたら、それこそ迷惑だ」
「……はい」
「よし。じゃあ、出るぞ。……トキ、まだ寝てんのか? 起こしてこい」
マネージャーの号令で、メンバーが動き出す。
チカもまた、立ち上がった。
その日。
チカの仕事ぶりは、鬼気迫るほど完璧だった。
カメラの前では、微塵も影を見せず、完璧な「アイドル」として笑い、ポーズを決める。
だが、カメラが止まると、チカは貝のように口を閉ざした。
そして何より。
トキと、目を合わせることができなかった。
「チカ、水飲む?」
「……自分で取る」
「あ、メイク直す?」
「……大丈夫だ」
甲斐甲斐しく世話を焼こうとするトキを、チカは無意識に避けてしまう。
避けたくて、避けているのではない。
ただ、トキの顔を見ると、昨夜の自分の「汚れ」を突きつけられるようで、どうしようもなく惨めになるのだ。
いつもなら、「つれないなぁ」と文句を言うはずのトキも、今日ばかりは、何も言わなかった。
寂しそうな、けれどすべてを受け入れるような目で、距離を取るチカを、ただ静かに見守っていた。
雪は、まだ降り止まない。
イグナイトと、そして二人の関係に降り積もった重い雪が溶けるには、まだ少し、時間が必要だった。
カーテンの隙間から差し込む雪明かりが、部屋の中を青白く照らしている。
チカは、重い瞼を持ち上げた。
隣には、トキがいた。
あれから一睡もせず、朝方になってようやく力尽きたのだろう。ベッドの縁に座り込んだまま、上半身だけをチカの布団に預けて、浅い寝息を立てている。
その顔は、疲れ切っていたけれど、どこか安らかで。
(……バカ犬)
チカは、そっと手を伸ばし、トキの髪に触れようとした。
けれど。
指先が髪に触れる直前、脳裏に、あのフラッシュバックが走った。
『俺の手垢がついた、薄汚ぇ中古品だぜ?』
ソラの嘲笑。
そして、自分の肌に残る、あの粘つくような感触と、どうしようもない敗北感。
「……ッ」
チカは、弾かれたように手を引っ込めた。
見ていられない。
こんなに無防備で、綺麗な寝顔を、今の自分が見てはいけない気がした。
チカは、トキを起こさないように、蛇のように慎重にベッドから抜け出した。
体中が軋むように痛い。
鏡は見なかった。自分の顔を見る勇気なんて、どこにもなかったから。
逃げるようにリビングへ行くと、そこにはすでに先客がいた。
コーヒーの、深く香ばしい匂い。
「……早いな」
キッチンカウンターでコーヒーメーカーを操作していたユウトが、振り返りもせずに言った。
「……ああ」
チカは、パジャマの上からカーディガンを羽織り、ダイニングの椅子に力なく腰を下ろした。
「飲むか?」
ユウトが、マグカップを二つ並べる。
「……いや、いい」
チカは口元を覆った。
いつもなら好んで飲むブラックコーヒーの香りが、今は鼻につく。胃が拒絶して、液体を流し込んだら、昨夜の汚れた記憶ごとすべて戻してしまいそうだった。
ユウトは、「そうか」と短く答え、自分の分だけを持ってチカの対面に座った。
静寂。
啜る音だけが響く。
ユウトは、何も聞いてこない。それが有難くもあり、同時に、チカの胸を締め付けた。
「……なんで、一人で行ったんだ」
不意に、ユウトが口を開いた。
責める口調ではない。ただ、純粋な疑問と、微かな痛みが混じった声だった。
「……わかってたはずだろ。あいつが、まともな神経してないことくらい」
「……ああ」
チカは、テーブルの木目を指でなぞった。
「薄々は……気づいてた。あいつが、俺に何を求めてるか」
「……」
「でも……行かなきゃ、トキが終わると思った。……あいつの過去を、バラされるくらいなら」
チカは、昨夜ソラから突きつけられた写真のこと、そして、後から聞いたトキの本当の過去の話を、ぽつりぽつりと語った。
ユウトは、黙って聞いていたが、時折、何かを考え込むように目を細めた。
「……そうか。トキは、そう言ったか」
「え?」
「いや……あいつの話と、俺が知ってるあいつの性格に、少しズレがあるなと思ってな」
ユウトは、カップの縁を指でなぞった。
「あいつは、『不純な動機でアイドルになった』と自分を卑下するが……俺には、それだけじゃないように見える」
ユウトは、自嘲気味に笑った。
「焦りだよ」
「焦り?」
「夢を一度絶たれて、底辺を見て……そこから這い上がるためなら、どんな手を使ってでも、誰を出し抜いてでも、チャンスを掴み取りたい。……その必死さが、俺には痛いほどわかる」
ユウトの言葉は、重かった。彼もまた、天才と呼ばれながら、長い下積みを経験してきた人間だ。
「綺麗事じゃ、夢は掴めない。……トキがソラを置いてきたのも、あいつなりの『生存本能』だったんだろう。それを責める資格は、俺たちにはない」
だが、とユウトの声が低くなる。
「そのルサンチマンを、こんな卑劣なやり方で晴らそうとしたソラだけは……絶対に、許せないな」
普段は冷静なユウトの瞳に、静かな怒りの炎が揺らめいていた。
「……なあ、ユウト」
チカは、ずっと気になっていたことを口にした。
「トキは……マネージャーに、何を頼んでたんだ?」
駆けつけた時、トキは言っていた。『マネージャーさん、頼んでたこと、やってくれたのかな』と。
ユウトは、ふう、と息を吐いた。
「……裏取りだよ」
「え?」
「ソラが持ち出した写真。……トキは、それがネタに使われることを予測してたんだ。だから、お前が部屋を出て行った直後、マネージャーを叩き起こして、当時の関係者……つまり、あの写真に写っていた『組』の人間に連絡を取らせた」
チカは目を見開いた。
「そ、そんなこと……」
「事実確認と、もし写真が出回った場合の、事務所としての声明文の準備。……そして、ソラへの法的措置の警告」
ユウトは、チカを真っ直ぐに見つめた。
「お前が、一人で抱え込んで、馬鹿な自己犠牲に走っている間に……あいつは、リーダーとして、冷静に先を見据えて手を打っていたんだよ」
「……」
「それが、プロだ。……アイドルという『商品』になった以上、俺たちは自分の体一つですら、自分だけのものじゃない。スタッフ、ファン、関係者……多くの人間の生活を背負ってるんだ」
ユウトの言葉が、胸に突き刺さる。
「お前が傷つけば、悲しむのはお前だけじゃない。……トキも、俺たちも、ファンも、みんな傷つくんだぞ」
チカは、俯いて唇を噛んだ。
自分の愚かさが、身に沁みてわかった。
守ろうとして、逆に全員を危険に晒し、悲しませてしまった。
「……ごめん」
「謝るな。……誰も、お前を責めてない」
ユウトは、コーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「ただ……もう二度と、自分を安売りするな。お前は、イグナイトのセンターなんだからな」
その不器用な優しさに、チカの目頭が熱くなった。
その時。
ドタドタドタ! と、二階から騒がしい足音が聞こえてきた。
「あー!! 朝だー!! 腹減ったー!!」
「おらソウタ! 階段降りるの遅い!」
「ロク、寝ながら歩くな、落ちるぞ!」
コマチ、ソウタ、ロクの三人が、雪崩のようにリビングに入ってきた。
あからさまに、わざとらしいほどの大音量。
「おっ、チカさん! おはよっス!」
「おはようございます! 今日の朝ごはんなんですか!?」
「……おはよう。コーヒーの匂い」
誰も、昨日のことには触れない。チカの顔色も、首元のコンシーラーで隠しきれない痕も見ないフリをして、いつも通り、いや、いつも以上に明るく振る舞ってくれている。
(……こいつら)
その不自然な明るさが、今のチカには何よりの救いだった。
「……おはよう。うるさいぞ、朝から」
チカが掠れた声で返すと、三人は「へへっ」と嬉しそうに笑った。
ガチャリ、と玄関が開く音がした。
マネージャーだった。
ひどい隈を作っているが、その目は仕事人のそれだった。
「おはよう。……全員、揃ってるな」
マネージャーは、リビングを見渡すと、タブレットを取り出した。
「今日のスケジュールだが……変更がある。午後の『特番リハ』は、バラシだ」
「……ですよねー」
コマチが、鼻で笑った。
「どの面下げて練習すんのって話だし」
「向こうから、キャンセルの申し入れがあった。……ソラが『体調不良』だそうだ」
マネージャーの言葉に、全員が冷ややかな視線を交わす。
「で、チカ」
マネージャーが、心配そうにチカを見た。
「お前は、今日は休め。雑誌の撮影は、他のメンバーだけで回すから」
「……嫌です」
チカは、即答した。
「連れてってください。仕事、できます」
「でも、お前……」
「ここに一人でいたら……おかしくなりそうです」
チカは、震える手を膝の上で握りしめた。
静寂が怖い。
何もしていない時間が怖い。
ふとした瞬間に、あの部屋の匂いと、ソラの感触が蘇ってくる。それを振り払うには、忙殺されるしかなかった。
マネージャーは、しばらくチカを見ていたが、やがて「はぁ」と大きくため息をついた。
「……本当に、お前ってやつは。強情なんだから」
呆れたように言いながらも、その表情は承諾の色を示していた。
「わかった。ただし、無理だと思ったらすぐに言え。……倒れられたら、それこそ迷惑だ」
「……はい」
「よし。じゃあ、出るぞ。……トキ、まだ寝てんのか? 起こしてこい」
マネージャーの号令で、メンバーが動き出す。
チカもまた、立ち上がった。
その日。
チカの仕事ぶりは、鬼気迫るほど完璧だった。
カメラの前では、微塵も影を見せず、完璧な「アイドル」として笑い、ポーズを決める。
だが、カメラが止まると、チカは貝のように口を閉ざした。
そして何より。
トキと、目を合わせることができなかった。
「チカ、水飲む?」
「……自分で取る」
「あ、メイク直す?」
「……大丈夫だ」
甲斐甲斐しく世話を焼こうとするトキを、チカは無意識に避けてしまう。
避けたくて、避けているのではない。
ただ、トキの顔を見ると、昨夜の自分の「汚れ」を突きつけられるようで、どうしようもなく惨めになるのだ。
いつもなら、「つれないなぁ」と文句を言うはずのトキも、今日ばかりは、何も言わなかった。
寂しそうな、けれどすべてを受け入れるような目で、距離を取るチカを、ただ静かに見守っていた。
雪は、まだ降り止まない。
イグナイトと、そして二人の関係に降り積もった重い雪が溶けるには、まだ少し、時間が必要だった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる