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本編
決戦の火蓋
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一二月二八日。
年末の凍てつく空気を切り裂くように、湾岸エリアにある巨大アリーナは、熱狂の坩堝と化していた。
国内最大級の音楽特番『ミュージック・ガラ・スペシャル』。
収容人数三万人を超える巨大な会場には、無数のペンライトが星の海のように広がり、地鳴りのような歓声が天井を揺らしている。
その舞台裏。
迷路のように入り組んだバックヤードの一角にある、「イグナイト」の楽屋は、静まり返っていた。
だが、それは以前のような「お通夜」状態の沈黙ではない。
嵐の前の、研ぎ澄まされた静寂だ。
「……メイク、完了です」
メイクアップアーティストが、仕上げのパウダーを乗せて離れる。
鏡の中にいるチカは、完璧だった。
純白に銀の刺繍が施された衣装。首元には、あの忌々しい痕を隠すための、チョーカーのようなレースがあしらわれている。
それは皮肉にも、今日のテーマ『囚われの姫』に相応しい、儚くも高貴な装いとなっていた。
「……チカさん」
背後から、ソウタが声をかけた。
彼もまた、戦闘服である衣装に身を包んでいる。
「水、飲みますか?」
「ああ。……ありがとう」
受け取ったボトルの水面が、微かに揺れている。
チカの手が震えているのだ。
本番まで、あと三十分。
ソラとの「合わせ」は、結局一度も行われないまま、この時を迎えてしまった。
ぶっつけ本番。しかも相手は、あの悪意の塊のような男。
ステージ上で何をされるか、わかったものではない。
「チカ」
横から、温かい手が伸びてきて、震えるチカの手を包み込んだ。
トキだ。
仕事中に見せる、リーダーとしての凛々しい顔つき。だが、その瞳だけは、チカを案じて揺れている。
「……大丈夫?」
小声での問いかけに、チカは大きく息を吸い込み、頷いた。
「……ああ。やってやる」
強がりではない。
昨夜、この男と交わした約束が、チカの背骨を支えてくれている。
『汚くない』
『何度でも言う。愛してる』
その言葉がお守りだった。
ガチャリ、とドアが開く。
「イグナイトの皆さん、スタンバイお願いします!」
スタッフの声が響く。
円陣を組む時間などない。
彼らは無言で視線を交わし合い、戦場へと続く長い廊下へと歩き出した。
ステージ袖へと続く薄暗い通路。
前方から、ギラギラとしたオーラを放つ集団が現れた。
『Bleach Heart』だ。
黒と金を基調とした、攻撃的で豪華絢爛な衣装。
その先頭を歩くのは、絶対的センター、ソラ。
彼らは、イグナイトの姿を認めると、ニヤリと口角を上げた。
すれ違いざま。
ソラが、わざとらしく足を止め、チカの目の前に立った。
「……よォ」
低く、這うような声。
チカの肩が、反射的に強張る。
ソラの視線が、チカの首元のレースにねっとりと絡みつく。
「上手く隠したな。……俺の『印』」
小声で囁かれたその言葉に、チカの血の気が引く。
周りのスタッフには聞こえないボリューム。だが、隣にいたトキには、はっきりと聞こえていた。
「……退け」
トキが、チカを背に庇い、ソラを睨みつける。
殺気。
だが、ソラはどこ吹く風で、愉快そうに喉を鳴らした。
「怖い怖い。……せいぜい楽しもうぜ、トキ。お前の大事な姫が、ステージの上でどんな顔して鳴くか……特等席で見とけよ」
ソラは、それだけ言い残すと、手下を引き連れるようにして去っていった。
残されたのは、不快な香水の残り香と、焼け付くような屈辱感。
「……クソッ」
トキが拳を握りしめる。
だが、チカは、トキのジャケットの裾を掴み、首を横に振った。
「……行くぞ。本番だ」
ここで取り乱せば、相手の思う壺だ。
チカは、震える足に力を込め、光の溢れるステージ袖へと踏み出した。
第一ラウンド:『Ignite』 vs 『Bleach Heart』
「さあ、今夜限りのスペシャルマッチ! 今年、音楽シーンを最も騒がせた二組の登場です!!」
MCの絶叫と共に、ステージの巨大モニターに『VS』の文字が踊る。
地響きのような大歓声。
先行は、『Bleach Heart』だ。
爆音と共に、火柱が上がる。
彼らのパフォーマンスは、まさに「暴力」だった。
圧倒的な音圧。重厚なビート。
そして、ソラを中心とした、一糸乱れぬアグレッシブなダンス。
観客を煽り、ねじ伏せ、強制的に熱狂させる。
「俺様を見ろ」というソラの傲慢なまでのカリスマ性が、アリーナ全体を支配していく。
悔しいが、圧巻のステージだった。
エンターテイメントとしての完成度が、桁外れに高い。
「……すげえな」
袖でモニターを見ていたコマチが、舌打ち混じりに呟く。
「あいつら、性格は最悪だけど……実力は本物だわ」
「……ああ」
トキが頷く。
この圧倒的なエネルギー。
正攻法でぶつかれば、イグナイトの繊細な世界観など、あっという間に飲み込まれてしまうだろう。
だが。
「……関係ない」
ユウトが、静かに口を開く。
「俺たちは、『俺たち』を見せるだけだ」
そして自分に、仲間たちに、言い聞かせるように、強く言葉を響かせた。
「それでこれまでもやってきたし、これからもやっていく。そうだろ?」
トキの唇に苦笑が浮かぶ。
リーダーとして、自分が言わなければならない言葉だった。
……でも、これでいい。
(リーダーなんて、本当は必要ないんだ)
圧倒的な指導者も、王も、「イグナイト」には必要ない。
ここには、誰かに『心酔』して、自分を放棄するような人間はひとりもいない。
暗転。
静寂。
そして、洗練された都会的なイントロが流れ出す。
『Actually』。
彼らが、自分たちの手で、魂を削って作り上げた曲。
ピンスポットが、ステージ中央のチカを照らす。
その瞬間、会場の空気が変わった。
Bleach Heartが「熱狂」なら、イグナイトは「魅了」。
ソラが「支配」なら、チカは「誘惑」。
チカの透明感のあるハイトーンボイスが、アリーナの空気を浄化するように響き渡る。
六人のダンスは、激しさよりも、指先までの美しさとシンクロ率を極めていた。
無理に客を煽らない。
ただ、自分たちが楽しむ姿を見せることで、自然と観客を巻き込んでいく。
サビ。
チカとトキが背中合わせになり、視線を交わす。
(……大丈夫)
トキの目が、そう語っていた。
(俺がいる)
チカは、一度だけ強く頷き、その喉を開放した。
突き抜けるようなフェイク。
会場中が、息を呑んでその美しさに聴き惚れる。
曲が終わった瞬間、割れんばかりの拍手が降り注いだ。
それは、Bleach Heartへの熱狂的な歓声とは違う、心からの称賛の音だった。
「……よし!」
暗転したステージで、六人は小さくガッツポーズを交わした。
互角だ。
いや、会場の空気感だけで言えば、こちらの「色」に染め変えた。
だが、本当の戦いは、ここからだった。
「続いては、今夜限りのシャッフルユニット対決!」
モニターに、組み合わせが表示されるたび、悲鳴のような歓声が上がる。
一番手は、ソウタ&ヒカル。
テーマは『Cutie & Pop』。
ステージに現れたのは、お菓子のようなポップな衣装に身を包んだ「凸凹コンビ」だ。
「いっくよー! でっかいの!」
「おうよ! ちっこいの!」
マイクを通した可愛らしい掛け合いとは裏腹に、二人の目はバチバチに燃えている。
ヒカルがあざといウインクを決めれば、ソウタは持ち前の愛嬌とダイナミックな動きで対抗する。
最後は、ソウタがヒカルを軽々とお姫様抱っこしてフィニッシュ。
「……離せ電柱!」「笑えよチビ!」と口パクで罵り合いながらも、カメラに向かって完璧なアイドルスマイルを決める二人。
その「ビジネス・キュート」なプロ根性に、会場は黄色い歓声に包まれた。
二番手、コマチ&ジウ。
テーマは『Sexy & Cool』。
赤い照明の中、スタンドマイクを使った艶めかしいパフォーマンス。
ジウのクールで淡泊な視線と、コマチのねっとりと絡みつくような視線が交錯する。
背中合わせになり、互いの体をなぞるような振付。
「……調子乗んなよ、ソース顔」
「……もっと腰振れよ、お新香」
至近距離での罵倒すら、マイクには入らない甘い囁きに見える。
水と油の反発力が、逆に危険な色気を生み出し、観客を魅了していく。
三番手、ロク&ラン。
ピアノ一本のバラード。
ランの正確無比なボーカルに、ロクの情緒的で揺らぎのある声が絡む。
計算され尽くした旋律を、ロクが自由気ままに崩し、ランがそれを必死に修正しようと追いかける。そのスリリングな攻防が、切ないラブソングにドラマティックな抑揚を与えていた。
四番手、ユウト&ケースケ。
音のない静寂の中、二人のダンサーだけがスポットライトを浴びる。
ケースケの暴力的なまでのパワームーブ。
それを、ユウトが柳のように受け流し、美しく昇華させる。
互いの領域を侵さない、しかし互いを引き立て合う、職人同士の高度なセッション。
終わった瞬間、二人は目も合わせずに拳をコツンと合わせ、無言で去っていった。その渋すぎる背中に、会場からは溜息が漏れた。
そして、最後。
トキ&ハル。
彼らのテーマは『Light & Shadow』。
トキの持つ陽性のリーダーシップと、ハルの持つ退廃的な陰のカリスマ。
ハルは終始、トキを挑発するように踊り、トキはそれを大きな包容力で受け止める振りをしながら、時折鋭い視線で牽制する。
互いに一歩も引かない。「サロメ」を思い起こさせる、悪の誘い、正しさと理性。
パフォーマンスを終えたトキは、ハルに冷たい一瞥をくれると、足早に袖へと戻ってきた。
その目は、もう次の戦い……最愛の人が立つ、地獄の釜の底を見据えていた。
年末の凍てつく空気を切り裂くように、湾岸エリアにある巨大アリーナは、熱狂の坩堝と化していた。
国内最大級の音楽特番『ミュージック・ガラ・スペシャル』。
収容人数三万人を超える巨大な会場には、無数のペンライトが星の海のように広がり、地鳴りのような歓声が天井を揺らしている。
その舞台裏。
迷路のように入り組んだバックヤードの一角にある、「イグナイト」の楽屋は、静まり返っていた。
だが、それは以前のような「お通夜」状態の沈黙ではない。
嵐の前の、研ぎ澄まされた静寂だ。
「……メイク、完了です」
メイクアップアーティストが、仕上げのパウダーを乗せて離れる。
鏡の中にいるチカは、完璧だった。
純白に銀の刺繍が施された衣装。首元には、あの忌々しい痕を隠すための、チョーカーのようなレースがあしらわれている。
それは皮肉にも、今日のテーマ『囚われの姫』に相応しい、儚くも高貴な装いとなっていた。
「……チカさん」
背後から、ソウタが声をかけた。
彼もまた、戦闘服である衣装に身を包んでいる。
「水、飲みますか?」
「ああ。……ありがとう」
受け取ったボトルの水面が、微かに揺れている。
チカの手が震えているのだ。
本番まで、あと三十分。
ソラとの「合わせ」は、結局一度も行われないまま、この時を迎えてしまった。
ぶっつけ本番。しかも相手は、あの悪意の塊のような男。
ステージ上で何をされるか、わかったものではない。
「チカ」
横から、温かい手が伸びてきて、震えるチカの手を包み込んだ。
トキだ。
仕事中に見せる、リーダーとしての凛々しい顔つき。だが、その瞳だけは、チカを案じて揺れている。
「……大丈夫?」
小声での問いかけに、チカは大きく息を吸い込み、頷いた。
「……ああ。やってやる」
強がりではない。
昨夜、この男と交わした約束が、チカの背骨を支えてくれている。
『汚くない』
『何度でも言う。愛してる』
その言葉がお守りだった。
ガチャリ、とドアが開く。
「イグナイトの皆さん、スタンバイお願いします!」
スタッフの声が響く。
円陣を組む時間などない。
彼らは無言で視線を交わし合い、戦場へと続く長い廊下へと歩き出した。
ステージ袖へと続く薄暗い通路。
前方から、ギラギラとしたオーラを放つ集団が現れた。
『Bleach Heart』だ。
黒と金を基調とした、攻撃的で豪華絢爛な衣装。
その先頭を歩くのは、絶対的センター、ソラ。
彼らは、イグナイトの姿を認めると、ニヤリと口角を上げた。
すれ違いざま。
ソラが、わざとらしく足を止め、チカの目の前に立った。
「……よォ」
低く、這うような声。
チカの肩が、反射的に強張る。
ソラの視線が、チカの首元のレースにねっとりと絡みつく。
「上手く隠したな。……俺の『印』」
小声で囁かれたその言葉に、チカの血の気が引く。
周りのスタッフには聞こえないボリューム。だが、隣にいたトキには、はっきりと聞こえていた。
「……退け」
トキが、チカを背に庇い、ソラを睨みつける。
殺気。
だが、ソラはどこ吹く風で、愉快そうに喉を鳴らした。
「怖い怖い。……せいぜい楽しもうぜ、トキ。お前の大事な姫が、ステージの上でどんな顔して鳴くか……特等席で見とけよ」
ソラは、それだけ言い残すと、手下を引き連れるようにして去っていった。
残されたのは、不快な香水の残り香と、焼け付くような屈辱感。
「……クソッ」
トキが拳を握りしめる。
だが、チカは、トキのジャケットの裾を掴み、首を横に振った。
「……行くぞ。本番だ」
ここで取り乱せば、相手の思う壺だ。
チカは、震える足に力を込め、光の溢れるステージ袖へと踏み出した。
第一ラウンド:『Ignite』 vs 『Bleach Heart』
「さあ、今夜限りのスペシャルマッチ! 今年、音楽シーンを最も騒がせた二組の登場です!!」
MCの絶叫と共に、ステージの巨大モニターに『VS』の文字が踊る。
地響きのような大歓声。
先行は、『Bleach Heart』だ。
爆音と共に、火柱が上がる。
彼らのパフォーマンスは、まさに「暴力」だった。
圧倒的な音圧。重厚なビート。
そして、ソラを中心とした、一糸乱れぬアグレッシブなダンス。
観客を煽り、ねじ伏せ、強制的に熱狂させる。
「俺様を見ろ」というソラの傲慢なまでのカリスマ性が、アリーナ全体を支配していく。
悔しいが、圧巻のステージだった。
エンターテイメントとしての完成度が、桁外れに高い。
「……すげえな」
袖でモニターを見ていたコマチが、舌打ち混じりに呟く。
「あいつら、性格は最悪だけど……実力は本物だわ」
「……ああ」
トキが頷く。
この圧倒的なエネルギー。
正攻法でぶつかれば、イグナイトの繊細な世界観など、あっという間に飲み込まれてしまうだろう。
だが。
「……関係ない」
ユウトが、静かに口を開く。
「俺たちは、『俺たち』を見せるだけだ」
そして自分に、仲間たちに、言い聞かせるように、強く言葉を響かせた。
「それでこれまでもやってきたし、これからもやっていく。そうだろ?」
トキの唇に苦笑が浮かぶ。
リーダーとして、自分が言わなければならない言葉だった。
……でも、これでいい。
(リーダーなんて、本当は必要ないんだ)
圧倒的な指導者も、王も、「イグナイト」には必要ない。
ここには、誰かに『心酔』して、自分を放棄するような人間はひとりもいない。
暗転。
静寂。
そして、洗練された都会的なイントロが流れ出す。
『Actually』。
彼らが、自分たちの手で、魂を削って作り上げた曲。
ピンスポットが、ステージ中央のチカを照らす。
その瞬間、会場の空気が変わった。
Bleach Heartが「熱狂」なら、イグナイトは「魅了」。
ソラが「支配」なら、チカは「誘惑」。
チカの透明感のあるハイトーンボイスが、アリーナの空気を浄化するように響き渡る。
六人のダンスは、激しさよりも、指先までの美しさとシンクロ率を極めていた。
無理に客を煽らない。
ただ、自分たちが楽しむ姿を見せることで、自然と観客を巻き込んでいく。
サビ。
チカとトキが背中合わせになり、視線を交わす。
(……大丈夫)
トキの目が、そう語っていた。
(俺がいる)
チカは、一度だけ強く頷き、その喉を開放した。
突き抜けるようなフェイク。
会場中が、息を呑んでその美しさに聴き惚れる。
曲が終わった瞬間、割れんばかりの拍手が降り注いだ。
それは、Bleach Heartへの熱狂的な歓声とは違う、心からの称賛の音だった。
「……よし!」
暗転したステージで、六人は小さくガッツポーズを交わした。
互角だ。
いや、会場の空気感だけで言えば、こちらの「色」に染め変えた。
だが、本当の戦いは、ここからだった。
「続いては、今夜限りのシャッフルユニット対決!」
モニターに、組み合わせが表示されるたび、悲鳴のような歓声が上がる。
一番手は、ソウタ&ヒカル。
テーマは『Cutie & Pop』。
ステージに現れたのは、お菓子のようなポップな衣装に身を包んだ「凸凹コンビ」だ。
「いっくよー! でっかいの!」
「おうよ! ちっこいの!」
マイクを通した可愛らしい掛け合いとは裏腹に、二人の目はバチバチに燃えている。
ヒカルがあざといウインクを決めれば、ソウタは持ち前の愛嬌とダイナミックな動きで対抗する。
最後は、ソウタがヒカルを軽々とお姫様抱っこしてフィニッシュ。
「……離せ電柱!」「笑えよチビ!」と口パクで罵り合いながらも、カメラに向かって完璧なアイドルスマイルを決める二人。
その「ビジネス・キュート」なプロ根性に、会場は黄色い歓声に包まれた。
二番手、コマチ&ジウ。
テーマは『Sexy & Cool』。
赤い照明の中、スタンドマイクを使った艶めかしいパフォーマンス。
ジウのクールで淡泊な視線と、コマチのねっとりと絡みつくような視線が交錯する。
背中合わせになり、互いの体をなぞるような振付。
「……調子乗んなよ、ソース顔」
「……もっと腰振れよ、お新香」
至近距離での罵倒すら、マイクには入らない甘い囁きに見える。
水と油の反発力が、逆に危険な色気を生み出し、観客を魅了していく。
三番手、ロク&ラン。
ピアノ一本のバラード。
ランの正確無比なボーカルに、ロクの情緒的で揺らぎのある声が絡む。
計算され尽くした旋律を、ロクが自由気ままに崩し、ランがそれを必死に修正しようと追いかける。そのスリリングな攻防が、切ないラブソングにドラマティックな抑揚を与えていた。
四番手、ユウト&ケースケ。
音のない静寂の中、二人のダンサーだけがスポットライトを浴びる。
ケースケの暴力的なまでのパワームーブ。
それを、ユウトが柳のように受け流し、美しく昇華させる。
互いの領域を侵さない、しかし互いを引き立て合う、職人同士の高度なセッション。
終わった瞬間、二人は目も合わせずに拳をコツンと合わせ、無言で去っていった。その渋すぎる背中に、会場からは溜息が漏れた。
そして、最後。
トキ&ハル。
彼らのテーマは『Light & Shadow』。
トキの持つ陽性のリーダーシップと、ハルの持つ退廃的な陰のカリスマ。
ハルは終始、トキを挑発するように踊り、トキはそれを大きな包容力で受け止める振りをしながら、時折鋭い視線で牽制する。
互いに一歩も引かない。「サロメ」を思い起こさせる、悪の誘い、正しさと理性。
パフォーマンスを終えたトキは、ハルに冷たい一瞥をくれると、足早に袖へと戻ってきた。
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