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11話 狂う日常

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「お、おはよう」
「う、うん」

目も合わせることができないままぎこちない挨拶を交わす。それからは会話が続かず、静寂が部屋を包み込む。

「お弁当……ここ置いとくからな」
「ありがとう……」

朝から作った弁当をテーブルの上に起き、俺は通学鞄を持つ。

「い、行ってきます」
「行ってらっしゃい……」



*    *     *


「あーあ」

その日も学校机に広げた問題集の上から机にもたれかかっていた。
 外からは嘲笑うあざわらうかのように俺を照りつける太陽。

黒板には7月14日の文字が。

「もう火曜日じゃねぇかよ」

リナに今後の話をしてから4日が経過したが、彼女とは気まずい状況が続いてしまった。そんな状況で勉強が捗る訳もなく、俺は色々と崖っぷちに立たされていた。

「そりゃぁ、テストも一芽との約束もギリギリになるよなぁ」

俺は頭をかきむしりながら考える。

「成、また今度はどうしたんだ?」

そんな様子を見たからか、一芽が話しかけてくる。

「色々とやばいんだよ」
「ふーん」

一芽は、俺を見ながらニタリと笑みを浮かべる。
 これはまた一芽に勘づかれたな。

「まぁ、悩むことは良いことだぜ。時間はまだ残ってるんだ、ギリギリまで考えるのべきだぞ」

一芽は少し強めに俺の背中を叩く。

「そんなの言われなくても分かってるさ」

朝のように、リナとはあれ以来ろくな会話をしていない。
 だから、リナがどうして涙を流したかも確かめられていない。
 俺の目にはあの時の顔がしっかりと焼き付けられていた。
 

*  *       *


「なぁ一芽、俺、どうすればいいんだ?」

昼休みに入り、俺は弁当を箸でつつきながら一芽に土曜日の夜のことを話した。
 どうせ黙っていても一芽には見抜かれていただろうし。

「まさか、リナちゃんがそんな反応をするとはな。成、1つ質問だ。お前はリナちゃんのことをどこまで理解しているんだ?」

一芽は少し考えた後に質問してくる。

「そ、それは、前世は冒険者してて、盗賊だったりとか……」

そこで俺の言葉は詰まってしまった。

「これで分かったか?お前の視野の狭さが」

一芽は牛乳のストローを喰わえながら俺に話す。
そこで俺は気付かされた。

俺、リナのこと何にも知らないんだ。

そう考えれば、俺はリナを独り立ちできるようにとしか考えてこなかった。

話もこの世界の説明ばかりで……リナのことについての話はあまり……

ここで俺は自分の犯した罪に後悔した。

一番大事なことはお互いを理解し合えることだった。それなのに、「リナが社会に出るため」という都合のいい理由で彼女の気持ちを後回しにしていてしまったことを。
 
もしかしたら、リナは社会に対する特別な思いなどがあったのかもしれない。けれど、俺はそんなところを吹っ飛ばしてしまった。
 結果、俺は彼女を泣かせてしまったんだ。

俺は彼女と距離を縮められたと勝手に勘違いしていた。
 この前に壁が出来たんじゃない。元々壁はあったんだ。

俺は歯を食いしばる。同時に自分に対する怒りやリナに対する申し訳なさが込み上げてきた。


プルルプルル


突然電話が鳴る。スマホの画面を見ると俺の家の固定電話からだった。

俺は慌てて電話をつなげる。
 実はリナにはもしものことがあればと俺の電話番号を教えていた。それに思い状況が続いてる中でわざわざ電話をかけてきたんだ。何かあったに違いない。


「もしもし、リナかっ!」

『成……助け……て』

冷や汗がにじみでてくる。

「おいっ!大丈夫かっリナ!!」

ツーツーツー

ここで電話が切れた。

俺はすぐに立ち上がる。周りの友達が俺に目を向けるがそんなの関係ない。今はリナの身に何か起きているんだっ!!

「悪い一芽、俺午後休むわ。勝手に休みの理由つけといてくれっ」
「了解っ。鞄とかは後で届けるから、そのまま行けよ」

スマホと財布だけをポケットに詰め込む。

「すまないっ一芽、今度なんかお礼するからなっ」「それは、楽しみにしとくぜっ」

俺は、教室を飛び出した。

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