前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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帝位継承権争い?興味ねえ!

Shall we dance?

後から聞いた話だが、ペッテリ曰くヤルノは『限定的ドM』だそうだ。ヤルノは普通の肉体的・精神的苦痛は常人と同じく嫌いだが、彫刻に関する肉体的・精神的苦痛には興奮するらしい。つまり暴力・罵倒には普通に傷つき不快に思うが、彫刻依頼で無理難題を押し付けられり、彫る過程で指を切ってしまったりするのは嫌な気がしないし、寧ろもっと頂戴ってなるそうだ。何その部分的な変人。世の中には色んな変人がいるんだなと思いました(小並感)

だから今回の無茶ぶりも立派な彫刻関係の精神的苦痛なのでヤルノ的にはドンと来いらしい。まあ変人でも仕事はピカイチらしいから俺は何も気にしないけど。

そして羨ましいことに、ヤルノは変人を人前では抑えられるそうだ。俺やペッテリみたいに好きなものを前にしたらどんな状況下であれ興奮で饒舌が止まらなくなる、なんてことは無いらしい。反動で一人やペッテリと二人きりの時にダムが決壊したように興奮するらしいけど。変人を隠せるって良いよね、世の中を上手に渡ることが出来るし。

という訳でヤルノが無事(?)変人であるということが発覚したのだけど、一言言わせて。なんか俺の周り変人が集まって来ていないか?類友とは言うけれど。波長が合うからウェルカムだけど。そう言やペッテリは皇帝陛下父上直々のご指名って言ってたな。確信犯だろ、絶対。許さないからなありがとうございます

一頻り本音を垂れ流した後、ヤルノは何事もなかったかのように泰然と話を仕事に戻したため、俺たちも何も言わなかった。このメンツのスルースキル能力の平均値馬鹿高いんじゃね?


* * *


ヤルノとのエンカウントした数日後。俺はダンスルームにいた。建国記念式典ではダンスの時間もあるため、パートナーのヴァイナモと練習しているのだ。ちなみに未成年の俺がもちろん女性パートだ。

「ん~So!Excellent!いいわ~Breathが合ってるわね!」

英語交じりのこの方はダンスの講師のパヌ先生だ。苗字は知らん。教えてくれなかった。皇帝陛下父上が俺に紹介してくださった方である。見目麗しいオネエではあるが、教え方は上手だ。なんで父上は俺に変人を紹介する?

てかなんか父上俺のこと気にかけすぎじゃね?今までどんだけおべっか使ってももガン無視たつたのに。放っておいたら研究しかしなさそうとか思われてんのかな。正解ですよCongratulations!おっといけないパヌ先生の口調が移ってしまった失敬失敬。

「ん~悪くはないけどまだちょっとMr.殿下がNervousねえ。Mr. Väinämö!きちんとLeadしてあげなさい!」

パヌ先生の言葉に俺の手を握るヴァイナモの手に力が入った。すると腰に添えられた腕がぐっと引き寄せられ、俺とヴァイナモは密着する。

……近いな。なんか小っ恥ずかしい。ダンスなんて第二皇妃母親以外と踊ったことなかったし。その時は俺が男性パートだったし。

俺は手持ち無沙汰な方の手をヴァイナモの胸に添えた。胸板が厚い。ヴァイナモ、体格良いな。知ってたけど。騎士だから当たり前だけど。羨ましい。鍛錬、すごく頑張ってるんだろうな。ずっと俺の護衛してるけど、ヴァイナモに休暇はないのかな?

「……ヴァイナモはちゃんと休暇をとっていますか?」

「休暇ですか?いえエル……殿下の専属護衛騎士に任命されてからはあまり」

「っ!?駄目じゃないですか!ちゃんと休んでください!」

「ですがそれが私の仕事ですし。それに、下手に一人でいるより殿下のお側に居らせていただく方が楽しいと存じます」

ヴァイナモは年相応のへにゃりとした笑みを浮かべた。だからその顔の破壊力よ!!俺じゃなきゃ勘違いしてるとこだぞ!?俺の護衛仕事してる方が楽しいとかどんな社畜精神だよ!主心配だよ!

「うっふふ。TalkingをEnjoyするのも良いけど、今はダンスのレッスン中よ。Concentrate!Stepが乱れているわ!」

パヌ先生の言葉に俺たちは会話を止めて、意味もなく背筋をピンと伸ばした。おっといけないお喋りはパヌ先生に失礼だな失敬失敬。集中しないとヴァイナモの足踏みそうだし。俺はダンスが上手ではないからな。特に女性パートは踊りなれていないし。

てかヴァイナモ上手いな。やっぱ貴族の子息として習っていたのかな?それとやっぱ体幹が良いのか。どっちにしてもダンス経験が乏しくて細身華奢な俺より上手いのは確かだ。俺は足踏まないようにステップ刻むので精一杯である。

「OK!一旦Restにしましょう!」

パヌ先生の呼びかけによって俺たちは休息に入った。火照った身体を冷ましながら、水分補給を行う。するとヴァイナモが真剣な表情で俺に話しかけ来た。

「……殿下。先程の話の続きですが」

「何でしょうか?」

「お……私は貴方のお側でお護り出来ることが何よりも幸せなのです。言わば貴方のお側にいること自体が私にとって人生の休暇の時間となり得るのです。どうか私から、その安息の時を奪わないでください」

俺は瞠目した。ヴァイナモがそこまで想っていたとは思いもしなかった。いつも俺の変人奇行に振り回されていて、疲れているだろうなとばかり思っていた。でもヴァイナモは違うと断言した。俺の傍が安息の地だと言ってくれた。

もしかすると俺にとっての魔法陣と同じなのかもしれない。労力を労力だと思わない。苦を苦だと認識しない。ずっと一緒にいたい。俺の中で魔法陣が全てなことと同じで、ヴァイナモの中では俺が全てなのだろうか。

……いや、それはないか。ヴァイナモはただ、これまで傀儡だった俺を不憫に思っていて、今の自由気ままな俺が嬉しいだけだ。別に他意はない。期待しても意味は無い。

待って俺は何を期待した?ヴァイナモにとって俺が全てであること?なんでそんなことを??

「……殿下?練習を再開するようですよ?」

悶々と一人で考えているといつの間にか時間がすぎていた。いけないいけない思考が変な方向に行ってる。しゃっきりしなくては。

俺たちは練習を再開した。でも俺はどこか上の空で。パヌ先生から何度も檄が飛んだ。駄目だ。ヴァイナモのこと考えてたら変に意識してきた……。

「……っあ!」

動揺していると誤ってヴァイナモの足を踏んでしまった。なんてこったこれまで頑張って注意して来たのに!

俺が顔を青くすると、グッと腰に回されたヴァイナモの腕に力が加わった。そしてふわりという浮遊感と共に、俺の足は地面から離れた。ヴァイナモが俺を持ち上げて回転したのだ。ヴァイナモはそっと俺を下ろし、何事もなかったかのようにダンスを続ける。

なんだよミスをスマートにカバーしやがって。イケメンかよ。イケメンだった。そうだコイツはイケメンなんだ。さっきのアレも、乙女なら絶対キュンキュンして恋に堕ちるだろ。初恋泥棒めこんちくしょう!

……だからこの胸の高鳴りに大した理由はない、はず。
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