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人間関係が広がるお年頃

合同訓練当日

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そんなこんなでわちゃわちゃしていると、あっと言う間にアムレアン王国騎士団との合同訓練当日になった。俺はペッテリがデザインした白の詰襟の服に青いマント、そして黒の軍艦帽を被っている。完全に軍服風の装いだ。どっかにこんな軍服ありそう。海軍とか。

まあペッテリのことだから、どこの国の軍服にも似ないようにデザインしてくれてるだろうけど。俺が他国の軍服そっくりな服着てたら国際問題だからね。ペッテリは普段ああ・・だけど、ちゃんと職人としての仕事はしてくれる。

でも俺って顔がこう天使だから軍服とか似合わないと思ってたけど、意外と似合ってるな。流石ペッテリ。俺のコーディネートに狂いがない。

さて、合同訓練は帝国軍訓練場で行われるのだが、俺は少し早めに来て観客席に座った。ここは3年に1度開催される闘技会の予選会場にもなるから、闘技場みたいな造りになっている。

俺が準備された指定席に座ると、至る所から視線が集中した。好奇心、畏怖、嫉妬、嫌悪。あらゆる感情が一気に向けられて、俺は思わず眉を顰めた。

好奇心と畏怖は帝国軍の軍人たちのかな。俺の噂は多分帝国軍にまで広まっているだろうし。軍に所属しない皇族が軍服風の衣装で見学に来るなんて、珍しいだろうし。まあ彼らの視線は別に良いんだ。悪意のあるものじゃないからね。

問題は嫉妬と嫌悪。おそらくこれは王国騎士団の騎士たちのだ。多分、俺のこと『皇帝父上に気に入られて調子乗ってる皇子』って思ってるんだろうな。皇帝父上権力に笠を着てヴァイナモを無理矢理侍らせているとか考えてそう。不愉快だな。ちゃんとヴァイナモの意思を尊重して、それで俺の護衛をしてもらってるのに。

誰にどう思われようが気にしないが、流石にこれだけ露骨だと気が滅入る。これでも俺は皇族ぞ?皇子ぞ?他国の騎士団だから手が出せないとでも思ってるのか?ホント、お貴族の皆様がどんだけ品良く値踏みしてるのかわかるわ。不躾すぎて不快。

するとヴァイナモがスッと俺の前に出て、凄い眼光で周囲を睨みつけた。俺を見てた人々は肩をビクッと揺らして、潮が引くようにそそくさと目を逸らした。

……凄い。ひと睨みでやかましい視線を蹴散らしたぞ。いや確かに精悍な顔立ちのイケメンだから、怒った顔は怖いだろうけど。他国に警戒されるほどの実力の持ち主だし。

ちょっと怖いけど、不覚にもキュンときた。ヴァイナモがぐうかっこいい。世の中のご令嬢が騎士様にきゃあきゃあ言う理由が何となくわかった。こりゃ騒ぎたくもなるわ。

ボーッとヴァイナモを見つめていると、ヴァイナモが屈んで心配げに俺の顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?殿下」

「……はい。大丈夫です。ありがとうございます、ヴァイナモ」

俺が微笑みかけると、ヴァイナモも安心したようにふわりと笑った。良かった今は人前だからかいつものへにゃりとした笑顔じゃないし、エルネスティ様呼びじゃない。この状況であの笑顔で名前呼ばれてたら俺が死んでた。心臓爆死してた。

……なんか鼓動は凄いけど。


* * *


合同訓練が始まった。この訓練は1ヶ月に渡って行われ、初めの2週間は訓練場での訓練、残りは帝都から離れた場所にある模擬訓練場での実践訓練を行う。俺はそのうちの初日だけの見学で良いとのこと。まあ皇族が帝都から出るんだったら大掛かりな護衛が必要だからね。てかはっきり言って俺がここにいる必要すら皆無だし。全てはヴァイナモを一目見たいと言うアムレアン王国側の強い要望だ。

それに一週間も魔法陣の研究を取り上げられたら禁断症状出るし。多分。父上もわかってたから、初日だけって条件を押し通したんだろう。さっすが父上!

今は帝国軍と王国騎士団がペアを組んで剣の打ち合いをしている。中には槍の人もいるけど。

それにしても、流石少数精鋭って呼ばれるだけあって、王国騎士団の動きは俊敏だな。帝国軍も悪くはないけど。まあ帝国軍は言わば数の暴力だからね。統率が取れてれば少し個が粗くても問題ない訳だ。

それでも帝国軍の中に優れた人間がいない訳ではない。その代表的なのが、カレルヴォ兄上第三皇子である。

マジでカレルヴォ兄上かっこいい。相手の小細工とか全部跳ね除けて真っ正面から剣を叩き込むんだもん。それでいて単調な攻撃だけじゃなくて、フェイントとかも織り交ぜて相手を錯乱させている。絶対的な強さだ。王国騎士たちも畏怖している。

「カレルヴォ兄上、かっこいいですね」

「……流石です。俺も色々と学ばせていただこうと思います」

ヴァイナモは目を輝かせてカレルヴォ兄上を見ていた。ヴァイナモでも、カレルヴォ兄上から学ぶことは多いみたいだ。まあ騎士と軍人じゃ、教わることも違うだろうし、新鮮なんだろうな。

そんな話をしていると、こちらに近づく影がひとつ。振り向くとそこにユスティーナ義姉上カレルヴォ兄上の婚約者がいた。

「エルネスティ。ご機嫌よう」

「ユスティーナ義姉上。お久しぶりです。義姉上も見学ですか?」

「ええ。カレルヴォの勇姿を見る絶好の機会ですもの。逃す訳にはいきませんわ」

「いつもは見れないのですか?」

「あの人恥ずかしがって、私が見学に来ることを拒むのよ。何も減るものはないのに」

ユスティーナ義姉上は日傘を片手に差しながら、もう片方の手で口を覆ってクスクスと笑う。ユスティーナ義姉上は今日もお上品だ。

「今日はよろしいのですか?」

「ええ。『エルネスティの手網を握っておいてくれ』って頼まれたの」

「えっ!?」

ユスティーナ義姉上はサラリと言ったが、聞き捨てならないぞ!手網を握るって!俺が何かやらかす前提じゃん!

俺はカレルヴォ兄上の方を睨みつけた。カレルヴォ兄上は休憩中らしく、汗を拭っていた。俺の視線に気づいたのかこちらを見て、溜息をついた。なんか「仕方ない奴らだな」って副声音が聞こえた気がする。何だよカレルヴォ兄上も俺のこと信用出来ないの心配なのかよ!

「ふふっ。まあそう怒らないであげて。陛下からエルネスティがお呼ばれされた理由を伺って、凄く心配してたのよ」

「……そう言う訳でしたら、まあ……」

ユスティーナ義姉上の言葉に、俺は口ごもってしまった。カレルヴォ兄上は純粋に、兄としてを守ろうとしてくれたんだろうな。全く、父上もカレルヴォ兄上も過保護すぎるんじゃない?……その優しさが、嬉しいんだけどね。

俺はちょっと恥ずかしいなと思いつつ、ユスティーナ義姉上のシルクの手袋をくいっと少し引っ張った。カレルヴォ兄上の方に視線を戻していたユスティーナ義姉上は再び俺に視線を戻す。

「……カレルヴォ兄上に、お気遣いありがとうございます、と伝えておいてください」

俺は照れくさくて思わず顔を背けた。なんか家族に対して素直にお礼を言うのって、むず痒いと言うか、恥ずかしいと言うか。でも、ちゃんと感謝の言葉は伝えたいし。

バギッ。

俺がもじもじとしていると、ユスティーナ義姉上の方から何かが壊れた音がした。驚いて顔を戻すと、ユスティーナ義姉上の日傘の持ち手が粉砕していた。……ユスティーナ義姉上、また萌えを感じたの??
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