前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

旅路の宿にて

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サルメライネン伯爵領までは馬車で1週間かかる。

その間ずっと馬車で生活する訳にはいかない。特に俺は皇族だから、然るべき場所で寝起きしないと命が危ない。よって夜は事前に手配した宿に泊まることになっている。

だけど、その、なんて言うか……。

「「「ようこそおいでくださいました、エルネスティ殿下」」」

スタッフ一同で寸分の狂いもなくお辞儀されて迎え入れられるのは、めちゃくちゃ居心地が悪い。

パッと見たところ貸切にはしていないようだ。他のお客さんは俺に見惚れているようで感嘆の溜息をつく。俺の天使力なんだそれは未だ健在だね!

でも従業員の『殿下』って聞いて、直ぐに目を見開いて顔を青くしている。やばい時期に泊まってしまったって考えてるんだろうね。ここは高級宿泊施設だから、泊まっているのは貴族とか上と繋がりがある人が多いだろうし。

てか事前にお客さんに説明しておこうよ?いくら帝位争いに参加していない人畜無害な研究者皇子とは言え、皇族と同じ屋根の下でいるだけで胃痛モノでしょ!

「お部屋までご案内致します。護衛騎士の皆様はこちらへ」

「……護衛騎士と私の部屋が離れているのですか?」

俺の部屋とは別方向へ護衛騎士を案内しようとする従業員に、俺はキョトンとした。いや、護衛なんだからから離れたところに泊めちゃ駄目だろ。いくら交代で護衛するとは言え。

「左様でございます」

「……うーん。それは少し困りますね。彼らは私の護衛なので、あまり離れた場所だともしもの時に対応出来ませんし」

「ですが殿下のお部屋はファーストルームでして、周りに他の部屋はございません」

毅然とした態度で説明する従業員に、俺は少し違和感を覚えた。皇族の意向に沿おうとする態度が見当たらないのだ。不敬だとか考えないのかな?俺は気にしてないし、元々彼がそう言う性格だと言えばそうなんだろうけど……。

「……私の部屋に一番近い部屋は?」

「すみません。元々ご予約が入っていたもので」

そこは普通、予約を変更してもらうところだろ。いやそんなことされたら庶民前世の感覚を持つ俺はいたたまれないから、しないでくれて有難いけど。なんか皇族に対する態度がイマイチなってないな。ここ本当に皇族が泊まるような高級宿泊施設なのか?

……まっ、今そんなこと考えても無駄か。

「……そうですか。なら仕方ありませんね」

「夜間の護衛を増やしましょうか?」

「いいえ。これ以上は騎士の皆さんの負担となりますので。その代わり、もしもの時はいち早く異変に気づき、瞬時に行動するようお願いします」

「かしこまりました」

ヴァイナモは恭しく頭を下げた。従業員は怪訝そうな表情を浮かべ、周りでこちらの様子を伺っていた他のお客さんは「いや『その代わり』の内容がおかしいから」と言った視線を送ってくる。確かになんか根性論みたいなところあるけど、実際はそうじゃないんだなこれが!

「ではヴァイナモ、オリヴァ、サムエルはこのまま私について来てください。他の方は部屋に荷物を置いて、準備が出来次第私の部屋に来てください。料理人さんは明日に備えてゆっくり休んでくださいね」

「「「かしこまりました」」」

「わかりましたあ!」

他の騎士がビシッと頭を下げる中、ほわほわとした笑みで敬礼するサムエルに、従業員含め周りの方々はギョッとした。俺はいつも通りで逆に安心するけど、初めて見た人にとっては俺が激怒しないかヒヤヒヤだろうな。

「では案内をよろしくお願いします」

「えっ……あっ、はい。こちらでございます」

今まで毅然としていた担当の従業員も流石にサムエルの行動には度肝を抜かされたようで、泳いだ目で俺とサムエルを交互に見る。俺が笑顔で『気にすんじゃねえ』って圧をかけると、従業員は釈然としないと言った表情で俺たちを案内した。


* * *


ファーストルームに案内された俺は従業員が出て行ったのを確認した後、部屋に防音魔法と扉に施錠魔法をかけた。その間ヴァイナモとオリヴァは部屋に異常がないか隈無くチェックし、念の為俺が探索魔法を使って異物がないか確認した。

「……流石にあからさまな罠は仕掛けられてませんか」

「そうみたいですね。これでも一応皇族ですから、証拠が残るようなことはしないでしょう。ですがいずれ何か仕掛けて来るでしょうね」

「あの態度は『何かあります!』って丸分かりでしたね~」

俺は豪華なソファに座り、肩の力を抜いた。相手が何を仕掛けて来るかわからないから、ちょっと緊張してたんだよね。

「何故あからさまな態度をとって、こちらが気づかないと思っているのでしょうか」

「あれじゃねえの?殿下は見た目警戒心薄くて鈍感そうに見えるから」

「確かに見た目穏やかで荒事を好まなさそうな箱入り息子に見えますね~」

「何ですか『見た目』って。実際穏やか皇子でしょうに。と言うよりオリヴァ、失礼すぎませんか?」

確かに初対面でめっちゃ舐められやすいよ?父上の強面を引き継ぎたかったって思うことも多々あるよ?でも単刀直入に言うのは失礼じゃない?特にオリヴァのそれはただの悪口じゃない??

俺がムスッと頬を膨らませると、オリヴァとヴァイナモはクククと笑った。何だよお前ら!俺is皇子!俺is your主!失礼だぞ!

「だが否定出来ないだろ?」

「魔法陣のことになれば人が変わりますし~。怒るとめちゃくちゃ怖いですし~」

「ただの穏やか皇子ではありませんね」

「……確かに否定はしませんが」

3人はうんうんと頷く。確かに見た目天使で中身変人の残念人間だって知ってるけどさ!普段図書館の小部屋にこもってる、箱入り息子を通り越して出不精皇子だけどさ!全くもってその通りだよ反論の余地もねえよこんちくしょう!

てかサムエル基準でも、俺は怒ったら怖いんだ?まあ無意識のうちに魔力で威圧したりとかしてるだろうから、俺自身が怖いんじゃないんだろうけど。

そんな話をしていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。

「殿下。護衛騎士一同、準備が終わりました故参上致しました」

「あっ、はい。ご苦労さまです。ヴァイナモ。扉を開けて。今は施錠魔法を使っていて、外からは開けられませんから」

「承知しました」

ヴァイナモは足音なく素早く扉まで移動すると、扉をゆっくり開けた。外で待機していた護衛騎士の面々は頭を下げて中に入って来る。

全員が中に入り、ヴァイナモが扉を閉めたことを確認してから、俺は徐にソファから立ち上がった。

「お疲れのところすみません。貴方たちの部屋が予想外に遠かったので、少しその件についてお話しておこうと思いまして」

「……そう言や殿下、さっき根性論みたいな命令を出していたよな。何か手立てがあるのか?」

「ええ。でないとあんな無茶振りは言いませんよ」

オリヴァの問に俺は微笑んで頷き、騎士の面々を見渡した。心做しかホッとしているようだ。まああんな命令出されちゃ、当惑するわな。

俺はヴァイナモの方に身体を向け、真っ直ぐ目を見て尋ねた。

「ヴァイナモ。貴方に魔法をかけても良いですか?」
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