前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

伝えられないこと。信じること。

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「私が護衛している時、殿下は魘されていました。……そして頻りに許しを乞うていられましたから」

護衛騎士の言葉に俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。見ていた夢。それは、俺の前世の過ちそのものだったから。

……待って。俺は許しを乞うていたの?許されるはずもないのに。許されてはいけないのに。

いつから俺はそんなにも烏滸がましくなったんだ?

「……殿下?」

深い思考の奥底に沈み込みそうになったが、護衛騎士の呼びかけによって現実に引き戻された。俺はフルフルと首を振って気を紛らわせる。いけない。いけない。あれは夢だ。故人に口無し。彼女の真意はわからないんだから。

「……いえ、何でもありません。気にしないでください。大した夢ではありませんでしたから」

「……いや、それで誤魔化せませんよ」

ヴァイナモがギュッと俺の手を握る力を強めた。俺は嫌な胸の高鳴りを感じた。見透かされているような、こちらの領分に土足で踏み入られているような不快感を覚えて、思わず手を振りほどいてしまった。ハッとなってヴァイナモの顔を見上げると、驚いたような、傷ついたような表情をしていた。俺に後悔の念が押し寄せる。

「あっ……ヴァイ、ナモ。これ、は、その、すみま……」

「申し訳ございません。一介の騎士でありながら、必要以上に踏み入ってしまいました」

俺が言い訳をしようとすると、ヴァイナモはパッと手を戻して深々と頭を下げてしまった。『一介の騎士』と言う言葉が俺の胸を容赦なく抉る。縮まったと思ってた距離が、またしても開いてしまったと感じたのだ。

なんで俺はこんなにも自分勝手なんだろう。

ヴァイナモは俺の独占欲を受け入れてくれたのに。

俺はヴァイナモに何も伝えないだなんて。

「……少し頭を冷やして来ますので、俺はこれで失礼します」

「あっ、ヴァイナモ、待って……」

俺はヴァイナモの背に手を伸ばしたが、それは空を切るだけで何も掴めなかった。そのままヴァイナモは振り返らずに部屋を出て行く。それが見放されたように感じて、俺は自分のせいなのに悲しくて辛くて、思わず涙が零れた。

泣いたのはいつぶりだろうか。今世では物心ついた時から泣けるような状況になかった。次期皇帝になるのだと教え込まれて、泣くなんて甘えを許されなかった。……そうだ。俺は前世の記憶を取り戻したその日に一度泣いている。ヴァイナモが、俺のことを理解してくれたから。

それでも静かに涙を流すだけだった。こんなボロ泣きするのは本当にいつぶりだろう。俺の中の涙は決して枯れてはいなかったんだね。

「で、殿下!?大丈夫ですか!?大丈夫じゃないですよね!?待っててください!至急オリヴァ先輩とダーヴィドとサムエルを呼んで来ますね!」

護衛騎士たちが俺のガン泣きに当惑してその3人イツメンを探しに部屋を飛び出して行った。俺は彼らを引き止めることも出来ず、ただただ咽び泣くのであった。


* * *


護衛騎士たちの報告でダーヴィドとサムエルは飛んで来てくれた。オリヴァはヴァイナモの元にいるらしい。お手数お掛けして申し訳ございません……。

サムエルがバラード系の歌を歌う中、ダーヴィドは仁王立ちでグズグズと泣く俺の前に立った。なんでも騎士が呼びに来るまでにヴァイナモに会ったらしく、ヴァイナモの焦燥と憔悴っぷりを見たそうな。……マジか。ヴァイナモ、そんなに傷ついたのか。俺のせいで……。

「……で?何があったんですか?」

何故か少し威圧気味に問いただして来たので、俺は縮こまりながら先程の出来事を説明した。全て聞いた後、ダーヴィドは呆れたように溜息をついた。

「……まあ確かに不躾に聞いたヴァイナモも悪いですけど、殿下も夢の内容ぐらい教えても良かったんじゃないですか?」

ダーヴィドが正論をぶつけて来たので、俺はうぐっと言葉を詰まらせることしか出来なかった。そうなんだよ。夢の内容ぐらい直ぐに話せば済むんだよ。

……でも、今回見た夢は前世に関わることだから。説明するにはまず俺の前世の話をしなきゃいけなかったし、その上俺の前世で一番後悔していることも話さなきゃいけない。

怖いんだ。ヴァイナモに俺の前世を知られるのが。そしてそれを信じてくれなかったら。前世の俺に幻滅されたら。俺は本気で生きていけない。

「……殿下はもっとヴァイナモを信じてやってください。ヴァイナモは殿下を嫌ったりなんかしませんよ」

「……ですがもしものことがあれば私は」

「じゃあ殿下はヴァイナモがただの護衛騎士に戻っても良いんですか?」

「……っ!それは嫌です!」

俺はガバッと顔を上げて即答した。今更以前の……前世の記憶を取り戻す前の関係になんて戻りたくない。せっかくここまで仲良くなれたのに。せっかく自分の気持ちに自覚したのに。

ダーヴィドは力強く胸を叩いた。

「ならヴァイナモに夢の内容を伝えるか、話せない理由をきちんと説明してください。そうしないとヴァイナモはきっと、殿下に深入りしたことに後悔して距離を取りますよ」

俺は直ぐに頷けなかった。今の俺に、夢の内容を話せない理由を納得のいく形で伝えることは出来ない。だから必然的に、 前世の話をしなくちゃいけない。

信じてもらえるだろうか?幻滅されないだろうか?

……でも、もしヴァイナモが俺から離れてしまうのであれば。

何もかもが有耶無耶である今のような状態じゃなくて、全て話してはっきりした状態の方が良いに決まってる。

「……決心は固まったみたいですね。なら私たちはヴァイナモと殿下が2人きりになれるよう動きますよ」

「……ダーヴィドは聞かなくて良いのですか?私の見た夢の内容を」

「……気になりますが、立ち聞きするほど野暮ではないですよ」

ダーヴィドはにっかりと笑った。ダーヴィドの優しさに感無量の俺は、止まっていた涙がまたしても溢れ出して来る。そんな俺に2人は瞠目してアワアワとしだした。

「わわっ!殿下!これ以上泣かれては脱水症になりますよ!サムエル!水!水を一杯持って来て!」

「ええ~?いっぱい水を飲んだらお腹がたぷんたぷんになって、逆に体調が悪くなりますよ~?」

「なんで!?その程度でお腹はたぷんたぷんにならないよ!?」

「それはダーヴィド先輩基準だからですよ~。ダーヴィド先輩がいっぱいの水を飲めたとしても、殿下が飲めるとは限らないじゃないですかあ」

俺はいきなり始まった2人の言い合いにキョトンとなった。話が噛み合ってなくない?『一杯』と『いっぱい』で。2人とも、焦りすぎじゃね?そんなに俺が心配大切か?おかし嬉しすぎて涙が引っ込んじゃったよしょうがないなあありがとう

「サムエル。水をコップ一杯ください」

「……!そう言うことですかあ!すみません~。今準備しますね~」

サムエルは俺の乱入に首をこてんと傾げたが、直ぐに合点がいったようで、いそいそと水差しからコップに水を注ぎ出した。ダーヴィドも話の食い違いに気づいて恥ずかしそうに頬を掻いた。

「……すみません。その、気が動転して……」

「良いですよ。2人がどれだけ私が大切かわかりましたし」

俺が微笑むと照れくさそうに目を逸らした。ふふっ。いつもはニヤニヤされる側だけど、今はニヤニヤする側だぞ!




* * * * * * * * *




○お知らせ○
明日明後日と閑話を挟みます。閑話と言いつつ本編に深く関わる話ですので、是非ご覧ください。

2020/09/25
誤字修正しました。
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