前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

2つの依頼

夕刻。日が陰っていくのを感じた俺は、上体を上げて柏手を1回、訓練場中に響き渡るように鳴らした。

「では今日の研究はこれぐらいにしましょうか」

俺の一言で皆は片付けに入った。何も言わないでもヤルノが指揮して、効率良く片付けをしていく。ペッテリは訓練場の隅で新しい衣装案にペンを走らせていた。本当、これを見てると誰がエンケリ教のトップかわかんないな。そりゃエンケリ教に入信してすらいないのにエンケリ教の参謀(仮)なんて呼ばれるはずだわ。

……あっ。ペッテリと言えば、あのことを頼んどかないと。

頼み事を思い出した俺はペッテリの元へと向かい、話しかけた。

「……ペッテリ。少し頼みたいことがあるのですが」

「……?私に、ですか……?」

「はい。腕の良い家具職人を紹介して欲しいのです」

俺は側に控えるヴァイナモに目配せをした。ヴァイナモは直ぐに察してとある1枚の紙を取り出し、俺に手渡した。俺はそれを受け取って内容を確認し、ペッテリにその紙を見せた。

「こう言う感じの家具を作って欲しいのです」

「これは……クローゼットですか……?」

「冷蔵庫……私が今、作ろうとしている魔導具です。その中に魔法陣を設置する予定です」

ペッテリはしげしげと冷蔵庫の図案を眺めた。割と難易度は高いと思う。密閉しないといけないし。俺に家具作りの知識は皆無だから、専門家に協力してもらいたい。

「……そうですね……。アウッティ商会の家具部門は庶民向けの実用的な量産型と、貴族向けの見栄えの良いオーダーメイドを取り扱っていますが、どちらの方が良いでしょうか……?」

「庶民向けの実用的な量産型ですね」

「……そうですか……」

ペッテリは黙り込んで熟考しだした。そんなに迷うことなのか。 ……俺は軽い気持ちで言ったけど、もしかして難しいのか?

「……難しいのですか?」

「性能と量産を両立させるのが難しくて……引き受けてくれる方がいるかどうか……」

ペッテリは熟考の姿勢を崩さないままそう答えた。確かに高性能貴族向け低コスト庶民向けって、両立しにくいよな。しかも皇族の依頼だから、下手なものは出せない。誰もが嫌がりそうだ。最悪俺が前世の知識フル活用して、頑張って設計するしかないかもな。

ペッテリは考えがまとまったのか、悩ましげな表情で顔を上げた。

「……一人、適任だと思われる方がいますが……」

「本当ですか?その方に依頼は可能ですか?」

「アウッティ商会と懇意にしているとある工房の家具職人で、安価で高性能と言う画期的な家具を作るのですが……気まぐれでしか仕事をしない人で……。しかも身元や素性も本人の意向で伏せられています……。率直に言って、色々怪しい方です……」

ペッテリは言いにくそうにそう説明した。懇意にしている工房、ってことはアウッティ商会と直属ではないのかな?なら信用もしにくいだろう。……それでもペッテリが俺に紹介するほどの腕の持ち主か。

「なら一度工房長と交渉して、その方の身元の確認と依頼の申し出をお願いしてもらっても大丈夫ですか?私の名を出してしまうと強制力が発生してしまうので、出来るだけ私のことは伏せて」

「わかりました……。やってみます……」

ペッテリは自信なさげに頷いた。いつも俺の依頼を嬉々として引き受けてくれるのに、それだけOKがもらえる可能性が低いってことか。いざとなれば俺のポケットマネーの出番か。最近エンケリ教の慈善活動の支援とかがあって、貯金が徐々に減ってるからな。やりくりを考えないと。


* * *


エンケリ教の方々が実験の協力に来た次の日。俺はイキシアを連れて近衛騎士団医務室まで来ていた。

「殿下、お久しぶりッス!」

「お久しぶりです、アスモ。頼んでいた薬は出来てますか?」

「はいっ!腕によりをかけて調合した、自信作ッス!」

アスモは人懐っこい笑顔で元気よく返事をした。なんか懐かしいな。そう言や最近はオリヴァアスモ親衛隊長経由での依頼ばっかりしてて、全然会ってなかったな。今日も元気に薬師をしてるようだ、よかった。

「これッス!ペッテリさんに頼んであまり市場に出回らない希少な薬草を用意してもらいました!」

「わざわざありがとうございます」

「ヘヘッ。殿下には特別ッスよ!」

アスモは自慢げにガラスの小瓶に入った液状の薬を手渡して来た。俺はそれを受け取り、しげしげと眺めてみる。紫色のドロッとした薬が、ゆっくりと小瓶の中を揺れ動いた。なんか、その……毒々しいな。

「……見た目はあれッスけど、効き目は保証するッス!」

「貴方のことは信頼しているので、効き目の心配はしていませんよ。ちょっと物珍しかっただけです」

訝しげに薬を眺める俺を不安に思ったのか、アスモが遠慮気味に補足したが、別にアスモの仕事を疑ってる訳じゃない。見たことない薬に驚いてただけだ。そう答えるとアスモは目を見開いた後、「あざッス!」と嬉しそうに礼を言ってきた。……ん?礼を言うのは俺の方じゃないのか?

「いえ、礼を言うのはこっちの方ですよ。いつもありがとうございます」

「……本当、殿下のそう言う所、好きッス!」

「え?ええっと、ありがとうございます?」

アスモにいきなり告白(違う)されたので、俺は少し戸惑ってしまった。いや、好意的に思ってくれることは嬉しいけど、あまりに唐突だったから。てか後ろからの視線が凄いから、アスモどうにかして!

「……ほーう。アスモ。お前は俺と言う存在がいながら、殿下を口説くのか」

「えっ?違うぞオリヴァ!殿下に対してのは尊敬!俺がこの世で唯一愛している人はオリヴァだけ!」

「おっ、おう。そうか。俺もだぞ」

俺の護衛として来ていたオリヴァはアスモをジト目で見ていたが、アスモの言葉に満更でもなさそうに、ってかめちゃくちゃ嬉しそうに言葉を返した。……なんかいきなり惚気られたんだけど。他所でやってくんない?

ちなみに今日はヴァイナモは休みの日だからここにいない。……もしいたら、怒ってくれたかな?嫉妬してくれたかな?そうだったら……良いんだけど。

そんなしょうもないことを考えていると、イキシアがつんつんと俺の腕を突いて、じっと薬を見つめた。あっ。いつの間にか話が逸れてたな、失敬失敬。

「では、イキシア。これを飲んでみてください」

俺はイキシアに薬を渡した。イキシアはそれを躊躇なく飲み干した。おおう。流石元騎士と言うか、思い切りが良いな。俺ならちょっと躊躇ってしまうわ、こんな見た目の薬。

イキシアは喉に手を添えて口を開き、声を出そうとする。しかしまるで声帯がないかのように空気が抜けるだけで、声は発せられない。……効果なし?

「……どうですか?」

イキシアはしょぼんとして首を横に振った。

「えっ……。俺の薬、効果なしッスか?」

「そのようです」

「そんな……」

アスモはがっくしと肩を落とした。自信作なだけに落胆が大きいのだろう。オリヴァが慰めるようにアスモの背中を撫でた。

……アスモの薬でも駄目なんて。単に声を長い間出してなかったから一時的に出せなくなった、ってだけじゃないのかも。喉の病気かな……?何にせよ、一度専門の医師に診てもらった方が良さそうだな。

イキシアは物申したげにこちらを見てくるが、意思疎通の手段がない今、その意図を汲み取ることは出来なかった。
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