前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

イキシアの声

「父上!頼みたいことがあります!」

「ああ、元気なのは良いことだが、まず落ち着け」

「私はいつも落ち着いていますよ」

イキシアに薬を飲ませた翌日、俺は父上に呼び出しをくらったので、ついでに頼みたいことを頼もうと意気込んで来た。そしたら父上に窘めるれた。何故だ。俺は至って通常運行だと言うのに。

「どの口がそれを言う。……まあ良い。アムレアン王国からの犯罪奴隷の様子はどうだ?」

「今日はそのことに関して、父上に頼みたいことがあるのです」

「ん?そうなのか?何か問題でもあるのか?」

父上はキョトンとして、俺の一歩後ろにいるイキシアを見た。イキシアはいきなり皇帝父上に見られて肩をピクッと揺らす。あれ?予想していた返事と違ったのかな?珍しいな。最近はずっと俺のこと監視してんのかってぐらい、俺の行動を先読みしてたのに。

「はい。彼、何故か声が出せなくなっているのです。アスモに喉に効く薬を作ってもらったのですが、効果がなかったので……一度、医師に診てもらった方が良いかと思いまして」

「おや?エルネスティは知らないのか?」

「えっ?何をですか?」

「アムレアン王国の犯罪奴隷は、身体の何かひとつの機能を奪われる決まりになっておる。何を奪うかを被害者やその関係者が決めることも出来るが、希望がなければ原則声が奪われることになっている。『口は災いの元』だからな」

俺はその言葉にヒュッと喉が鳴った。そんなこと、俺は知らない。他国の犯罪奴隷制度の実体なんて、知るはずがない。しかも商会長は何も言ってなかった。

「アムレアン王国では常識だからな。伝え忘れていたのだろう。だからこの者が声を出せないのは何もおかしなことではない。寧ろ普通だ」

「……そう、ですか」

俺はイキシアの方を見た。イキシアは申し訳なさそうに眉を下げている。多分、ずっとそのことを伝えようとしてくれていたのだろう。イキシアの声の話をしている時は、いつもその表情をしていたから。

「……イキシア、貴方は本名を書くことが出来ますか?読み方だけでも良いので」

イキシアは首を横に振る。アムレアン王国は帝国我が国と公用語は同じだが、名前は第二公用語であるアムレアン王国独自の言語を使うことが普通だからだろう。……でも俺とイキシアが第二公用語の発音記号を習えば音だけでもわかるから、そこから文字を推測することが出来るかも。

「なら発音記号を習いましょう。音さえわかればそこから人名録などを使って文字を当てはめることも可能ですし」

俺がそう提案すると、イキシアは再び首を横に振った。なんで駄目なんだ?もしかして、犯罪奴隷は本名を名乗れないとかあるのか?

「……どうやらその者はお前が付けた名前を気に入っているようだぞ」

俺が戸惑っていると、父上がイキシアの気持ちを読み取ってそう言った。俺は驚いて父上の方を振り返った後、再びイキシアを見た。イキシアは遠慮気味に微笑んで小さく頷いた。

「……貴方はイキシア。それで良いのですか?」

俺は念を押すように確認する。イキシアはもう一度、今度は力強く頷いた。……俺の命名を気に入ってくれてるのなら、嬉しいな。

「……うむ。イキシアよ、お主は今までアムレアン王国に忠誠を誓って来た。その真っ直ぐな意思を、今度はエルネスティに向けるように」

父上の言葉にイキシアは頷き、俺に向けて片膝をついて頭を下げ、両手を重ねて手の甲を額に付けた。まるで騎士が地面に剣を刺して忠義を誓っているような行動に、俺は瞠目する。その風格は、彼が生来の騎士であることを物語っており、一度の過ちでここまで堕ちてしまったことが不憫に思えた。だが俺は彼を憐れむ立場にはいない。彼がこうなった元凶が俺だからだ。

だからせめて、彼の誇りを奪わぬように。

「……改めまして、これからよろしくお願いしますね、イキシア」

イキシアは俺の言葉にを握る力を強くしたように見えた。


* * *


「……ところで、父上。何故私を呼び出したのですか?」

イキシアが体勢を戻したのを見計らって、俺は父上に要件を聞いた。てっきりイキシアの声の話かと思っていたけど、違うみたいだし。

父上は枢長に目配せをすると、枢長は1枚の紙を俺に手渡して来た。俺はそれを受け取り、内容を見てみる。

「これは……?今年の帝都学園の留学生と、アルバーニ公国との学術交流について、ですか」

「ああ。学術交流は定期的に行われる、アルバーニ公国の学者と帝国学院や帝都学園の教諭ないし生徒を1年ほど交換して、学術の共有をする交流のことだ」

「そんなものがあるのですね。ですがそれが一体私に何の関係が……」

「まあ、その名簿を見てみろ」

俺は父上の促されるままに紙の下方の名簿に目を移した。そしてそこに乗せられている名前に目を疑う。

「……えっ?シーウェルト王子、ベイエル王国の留学生として来るのですか……?ですが彼は私の2つ上だったはずですが……」

俺は今年14歳になるので、シーウェルト王子は16歳。帝国我が国だと学園を卒業して成人になっている年齢だ。

「留学生は基本的に年齢を問わないからな。それにベイエル王国だとシーウェルト王子の年齢ではまだ学生だったはずだ」

「そうなのですか……ちなみに、学年は?」

「お前と同じだ」

「面倒なことになりそうですね……」

俺は頭を抱えた。俺は建国記念式典で毒を盛られたことを一生忘れないからな!未だに特殊性癖空色執着が健在だったら、絶対またちょっかい出して来るでしょ?面倒事は御免なんだよ。俺は目立たず平穏に青春を謳歌したい。

「……と言うかベイエル国王はシーウェルト王子の失態を知っていますよね。なんでそれなのにわざわざ私と同学年の時に留学させるのですか。そもそも我が国に留学生として行かせようと思うなんて、随分と神経が図太いのですね」

「そう責めてやるな。シーウェルト王子は優秀ではあるからな。王立学園中に根回しをして志願者を排除し、自分と自分の息がかかった者で留学生枠を独占したのだ。不満を起こさせないほどの徹底的な手腕でな」

「才能の無駄遣いですね」

「執念深さが窺えるだろう。ベイエル国王は良くも悪くも平凡な人間だからな。どうしようもなかったらしい。我に丁重で低姿勢な言葉遣いで『息子の暴走を止められませんでした』と言う趣旨の謝罪文を送って来たほどだ」

父上の少し哀れんだ表情を見るに、不憫に思うほど謝罪が詰まった文が送られてきたんだろうと察せる。手のかかる息子を持つとその尻拭いで苦労するんだな。お疲れ様です。

「同じく手のかかる息子を持つ我としては、ベイエル国王の心労も十二分に推し量られてな。小言を言うことすら出来ず、つい留学を了承してしまった」

「……ちなみにその手のかかる息子とは?」

「今現在我の目の前にいる」

「酷いですよ。私は毒なんて盛りません」

俺は心外だとムスッとした。ちょっと好きなこと魔法陣研究に一直線なだけで、そこまで問題児じゃないだろ!

「安心せい、わかってる。我はベイエル国王ほど生温くはないからな。お前にあのような失態があれば、今頃お前の首は地面に転がって腐敗している」

父上はニヤリと笑ってそう言った。俺はその言葉に、安心出来るような出来ないような、複雑な心情になった。

死にたくはないが、誰かが自分の間違いを正してくれることは、幸せなことだから。
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