前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
146 / 221
学園生活をエンジョイする

幸福の時間 ※後半No Side※

色々面倒事があったが、何とか入学初日を終えた俺は馬車の停留所でテオドールと別れ、自分の馬車の元へと向かった。馬車の前ではヴァイナモが待っており、その姿を見るだけでも俺の荒んだ心が幾分か癒された。

「ヴァイナモ!」

「エルネスティ様、お疲れ様です。学園はいかがでしたか?」

「……色々話したいことがあるので、馬車の中でゆっくり話します」

俺が少しトーンを落として言うとヴァイナモはキョトンとした後、心配そうに眉を下げながら俺に手を差し伸べた。すっかり慣れてしまったその手つきに安心感を抱きながら、俺はその優しい手に自分の手を載せた。そして俺たちは馬車に乗り込む。

俺が座ると程なくして、馬車は出発した。俺は不規則な揺れを感じながら目を閉じ、1日の疲れを少し発散した。そして一頻り安堵感を堪能した俺は、ゆっくり目を開けてヴァイナモと向き合った。

「……随分とお疲れのようですね。一体何があったのですか?」

「……実は……」

俺は入学式後の一悶着について、簡潔に説明した。ヴァイナモは俺の話を親身になって聞いてくれる。やっぱり、ヴァイナモの側は心地良いな。何で学園で護衛騎士が禁止されてんだよ。ヴァイナモがいれば俺の精神衛生上でも安心出来るのに。

話を聞き終えたヴァイナモは怒りを滲ませながら剣の柄に手を添えた。

「……その者たち全員、俺が切り伏せてやりましょうか?」

「流石に他国のほどほどの身分の人間を切り伏せてしまっては私の立場がないので、心の中だけで完結させてください」

「……そうですね。心の中でなら何回でも切り伏せられますし、そうします」

冗談で言ったつもりが割と真面目に受け取られたみたいで、ヴァイナモは納得気に何度も頷いた。その様子がおかしくて、俺は思わずクスッと笑った。ヴァイナモらしいなあ。そう言う所が好きだなあ。

「……あの、お隣に座ってもよろしいでしょうか?」

「えっ?ええ、構いませんよ」

俺に一言断りを入れると、ヴァイナモは俺の隣に座り、そっと頭を撫でてくれた。俺は気持ち良くて思わず目を細めた。

「俺は学園に立ち入ることが出来ないので直接お護りすることは出来ませんが、こうして疲れを癒すことは出来ます。……いえ、疲れが本当に癒されるかどうかは別ですが」

付け足された言葉からヴァイナモの自己評価の低さが窺えて、ヴァイナモらしいなと思いつつ、少し複雑な心境になった。ヴァイナモはいつもこんなに俺の支えになってくれているのに、それが認められていないような気がしたのだ。

知って欲しい。どれだけ俺にとってヴァイナモが大切か。

それには、言葉だけじゃ足りない。

いつもの俺なら躊躇う所を、疲れて思考が鈍っていたのか、即行動に移せた。ヴァイナモの方へ顔を上げると、ヴァイナモはキョトンとして撫でる手を止めた。俺はそのままヴァイナモの首元へと抱きつき、グッと腰を上げて……。

ヴァイナモの頬に、キスをした。

ほんの一瞬しただけで恥ずかしくなった俺は、そそくさとヴァイナモから離れて、体勢を戻した。そしてヴァイナモの表情を恐る恐る覗き込んでみる。

ヴァイナモは暫く放心状態で、反射的に俺がキスした場所に手を当てて固まっていた。しかし徐々に状況を読み込んでいったらしく、みるみるうちに頬を紅潮させて行った。

「……えっ?その、エルネスティ様……?」

「……ヴァイナモが思っている以上に、私はヴァイナモが大切なのです。あまり卑下しないでください」

「あっ……うえっ?は、はい……」

手の甲まで真っ赤なヴァイナモはアワアワとしながらも何とか返事をした。かっ……可愛い……。ヴァイナモの、いつもはキリッとしている表情がこう言う瞬間に緩んでしまうのが、可愛くて仕方ない。口が裂けても言えないけど。男としてのプライドが傷つけられるからね。

はあ……癒される……。1日の疲れが吹っ飛んで行く……。やっぱりヴァイナモは俺の精神安定剤……。

俺は幸せを感じながら、コテンとヴァイナモの肩に頭を預けた。


* * *


とある令嬢は思わぬ幸運に大興奮していた。彼女は今年度の入学生であり、男同士のラブロマンス……所謂『BL』をこよなく愛する、所謂『腐女子』である。本人的には『女子』と呼ばれるのに抵抗があるらしく、『貴腐人』を自称しているが。

彼女は自作の作品を出版するほどBLを愛している。この国では同性結婚も認められており、BLに対する認識も寛大であるため、彼女の嗜好を周りが知っても敬遠されたり侮蔑されたりはしない。だから彼女も割とオープンにしている。彼女の真っ直ぐな愛は人に嫌悪感を抱かせることはなく、妄想を繰り広げる度に学友から「また始まった」と呆れられると同時に暖かい視線を向けられていることを、彼女は知らない。

そんな彼女が何故大興奮しているのか。それは学園に彼女の大好物であるカップリング……所謂『CP』がいたからだ。

それはずばり、シーウェルト王子×第四皇子である。

誰にも優しく穏やかだが、第四皇子にだけは少し強引なシーウェルト王子。そしていつも慈悲深い笑みを浮かべているが、シーウェルト王子にだけは絶対零度の眼差しを送る第四皇子。正に彼女の大好物である『溺愛強引攻め×ツンデレ受け』だ。

しかも2人とも顔が良い。眼福である。絡みを見る度に妄想と鼻血が止まらない。彼女は推しが尊くて今にも昇天しそうであった。

だがすぐに彼女は衝撃の事実を知った。

なんと第四皇子には彼氏がいるのだ。

彼女でも婚約者でもなく、彼氏が。

彼女は心の中で彼氏さんに土下座しながらも、その彼氏さんを当て馬ポジションに置いた。第四皇子はシーウェルト王子によって真実の愛を見つけ、彼氏さんに別れを告げる。初めは受け入れられなかった彼氏さんだが、第四皇子の幸せを願う気持ちから別れることを決心する……。

同情を誘う、下手したら攻めより人気が出てしまうポジである。しかしその妄想は彼氏さんの不幸を望んでいるようなものなので、流石に周りに話すのは憚られた。だから彼女はその妄想を心の中だけに留めた。

そんな罪悪感を抱いていたある日のこと。彼女が馬車の停留所の待合室の窓から外を眺めながら、今日考えた妄想をどう作品にしようかと思考を巡らせていると、窓の外に第四皇子の姿を発見した。第四皇子はいつも通りの慈悲に溢れた笑みを浮かべて、一際豪華な馬車に近づき……。

彼女は目を見開くこととなった。

第四皇子が、はち切れんばかりの笑顔を浮かべて馬車の前に立つ近衛騎士に話しかけたのだから。

近衛騎士は皇族を常に護衛する人だ。第四皇子と親しくなってもおかしくない。しかし、先程の第四皇子の表情は親愛ではなく、間違いなく……愛情。恋人へと向ける甘酸っぱい恋心。彼女は悟った。あの近衛騎士が、第四皇子の恋人であると。

2人が並ぶ姿はまるで1枚の絵画が如く、俗物的な言葉で表すなら『お似合い』であった。

そして彼女の中でとある葛藤が生まれた。第四皇子をあんな幸せそうな表情に出来る彼氏さんの不幸を、本当に望んで良いのだろうか、と。妄想だけなら人様にも迷惑はかけない。しかし例えそうであっても、心の内に2人の仲を引き裂くような妄想を秘めるだけでも大罪なような気が、彼女はしたのだ。

欲望に忠実でありたい。しかし懺悔しても許される気がしない。

彼女はその日、人生最大の、それでいて大陸一くだらない苦悩を抱えることとなった。




* * * * * * * * *




2022/03/16
誤字修正しました。
感想 179

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

外れ伯爵家の三女、領地で無双する

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
十三歳の少女アイリス・アルベールは、人生を決める「祝福の儀」で“ゴミスキル”と蔑まれる《アイテムボックス》を授かってしまう。戦えず、稼げず、価値もない――そう断じた家族は、彼女を役立たずとして家から追放する。さらに、優秀なスキルであれば貴族に売り渡すつもりだったという冷酷な真実まで明かされ、アイリスはすべてを失う。 だが絶望の中、彼女は気付く。この世界が、自分がかつてやり込んだVRMMORPG『メデア』そのものであることに。 そして思い出す―― 《アイテムボックス》には、ある“致命的なバグ”が存在することを。 市場で偶然を装いながらアイテムを出し入れし、タイミングをずらすことで発生する“複製バグ”。それは、あらゆる物資を無限に増やす禁断の裏技だった。 食料も、装備も、資金も――すべてが無限。 最底辺から一転、誰にも真似できないチートを手にしたアイリスは、冒険者として歩み始める。だがその力はやがて、経済を歪め、権力者の目に留まり、そして世界の“仕様そのもの”に干渉していくことになる。 これは―― ゴミと呼ばれた少女が、“世界の裏側”を掌握する物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。