前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

癖の強い奴らの対峙 ※No Side※ 【前半】

外では賑やかな文化祭の後夜祭が行われている最中、チェルソは上機嫌で自分の研究室まで戻ってきていた。常々会いたいと思っていた人と出会えた、しかも期待以上・・・・の人であったことに、喜びを隠せないでいたのだ。

研究室の扉を閉め、鼻歌を歌いながらデスクに乗せてある自分の育てた花々に近づき、愛おしそうに花に触れる。

だがある気配を感じ取り、その手を止めた。

「……動かないでくださいね~」

背後から聞こえる緊張が緩んでしまいそうな間延びした男の声。しかしここで肩の力を抜いてしまうと、殺されてしまう。そんな鋭い殺気が、チェルソの背後から放たれていた。チェルソは冷や汗をかきながらも、通常運転を心がけて背後の男へと問いかける。

「動くとどうなるんデスカ?」

「ん~脳天がぶっ飛びますね~」

平然と恐ろしいことを言う背後の男に、チェルソの脳内で警鐘が鳴り響いた。チェルソは降参のポーズをとり、出来るだけ情報を得ようと言葉を続けた。

「どちら様デスカ?」

「ん~貴方に言う必要はないんですけど~。まあ、帝国の人間、とだけ言っておきますね~」

「ワタシに何の様デスカ?」

「貴方に大逆罪の嫌疑がかけられているんですよね~。だから身柄を拘束して事情聴取をしようかと思いまして~」

「……もしかして、近衛騎士の方デスカ?」

大逆罪と身柄拘束という言葉にチェルソはピンときた。通常、帝国では警察的職務を帝国騎士が行う。しかし皇族に関する事件である時のみ、近衛騎士が動く場合がある。特に大逆罪などの重大事件はそうだ。相手は相当の切れ者であると感じていたチェルソは、騎士の中でも選りすぐりの優秀な者が配属される近衛騎士なのではないか、と考えたのだ。

「そうですよ~。よくわかりましたね~」

「……隠さないのデスネ」

「隠してても意味無いですし~」

「面と向かって話をしても良いデスカ?」

「良いですよ~どうせ顔は変えてますし~」

顔を変えるとはどういうことか。男の発言を疑問に思いつつもチェルソは振り返った。チェルソは自分の額に男の魔力が向けられていることに気づいた。脳天がぶっ飛ぶとはこういうことか、と納得しながらも男の顔を見据える。金髪碧眼の顔のいい男であった。しかし、どこか違和感を覚え、チェルソはまじまじと観察してみる。そしてある事に気づいた。

「……!魔法、デスカ」

「……本当、よくわかりますね~」

「これでも仕事柄、魔力には敏感ナノデ。アナタの顔の辺りの魔力の流れがおかしいことに気づきマシタ」

「凄いですね~。これでも魔法隠蔽しているつもりなんですけどね~」

魔法隠蔽の言葉に、チェルソはピクリと反応する。魔力操作の研究をする中で、魔法隠蔽も触れることが多い。魔力操作すら出来る人が限られているのに、魔力を操作して魔法を隠蔽することが出来る人など、ほぼいないと言って良いほどだ。チェルソの脳内に「化け物」という言葉が思い浮かんだ。

チェルソの心拍数はどんどん上がっていく中、男は話を続ける。

「さてさて~。雑談も程々にして、そろそろ本題に入っても良いですかあ?」

「……ワタシに拒否権はないことぐらい、わかってマスヨ」

「確かにそうですね~。では早速……貴方はエルネスティ殿下を殺す意思がありますかあ?」

「ありませんヨ。ワタシ、人の命に興味ないノデ」

「……帝都の花屋に魔力操作を施した花を売ったのは貴方ですかあ?」

「ええ、ワタシデス」

「サルメライネン伯爵領にて魔力操作の実験を行っていたのも貴方ですかあ?」

「ええ、そうデス」

質疑応答の中で、チェルソはどれだけ自分のしている事が目の前の男にバレているのか、と興味深くなってきた。元より自身もある事・・・について帝国で情報収集するために来た節もあるのだ。その目的が達成出来るかもしれない。冷静さを取り戻してきたチェルソはそう考えて、質問に答えていく。

「ではサルメライネン伯爵領にてエルネスティ殿下と出会ったこと、及びその後エルネスティ殿下が貴方が魔力操作を行った動植物や水に触れてしまったことは、全くの偶然でしたかあ?」

「ええ、出会った時に魅力的な方だと思いまシテ、是非ともワタシの花を渡したいとは思ってマシタガ、まさかワタシの実験場所に行ってしまうとは思ってもいませんデシタ」

「……貴方がエルネスティ殿下に花を渡そうとした、そしてシーウェルト王子と帝都の花屋に花を渡した動機はなんですかあ?」

確信をつく質問に、チェルソは少し考え込む。正直に動機を話した所で、相手が理解してくれるとは到底思えない。情報収集というついで・・・の理由を言えば良いかもしれないが、それだと何故エルネスティやシーウェルトを狙ったのか説明がつかない。相手は納得してくれないだろう。

だが嘘をでっち上げるのは危険だ。相手は相当な切れ者。どこで嘘がバレるかわかったものじゃない。嘘がバレたら最後、チェルソの頭はぶち抜かれてしまう。

理解されなくとも、正直に話すしかない。そう結論づけたチェルソは一度深呼吸をし、口を開いた。

「……それは、隠している本音や嘘を暴くためデスヨ」

「……本音と嘘、ですかあ」

「ええ、人間は誰しも本音を隠しマス。それを暴くのが、ワタシの娯楽なのデスヨ」

「……それで~?貴方は無事、お2人の本音を知ることが出来たんですかあ?」

「いえ、お2人がどんな思いを隠してたのかは知りませんヨ。興味ないデスシ」

チェルソの返答に男は表情には出さなかったものの、予想外だ、といった反応を見せた。チェルソは説明を加える。

「ワタシが親しくもない他人の本音を知った所で、何になるんデスカ。ワタシは本音を暴くのが好きなだけで、隠し事を知ることには興味アリマセン」

「……随分と酔狂な娯楽ですね~」

「隠し事は人を傷つけるだけで、何も生み出しマセン。デスから荒療治ではアリマスガ、ワタシが暴いて差し上げているんデスヨ。……誰かを傷つける前に」

チェルソはそう言いながら己の昔を顧みていた。上辺だけの友人たち。建前を話す父親。彼らを信じていた分、その事実を知った時のショックは大きかった。本音を言い合わない人間が気持ち悪く思えてきた。そしてこんな思いはもう二度としたくない、と切に思った。

だからチェルソは人の本音を無理矢理引き出す方法が魔法にないか研究し、魔力操作学に行き着いたのだ。他人の魔力に干渉して隠している本音を暴く。これで本音を隠す醜い人間と関わる必要がなくなる。本音を知りたいのではなく、本音を隠している状態が気持ち悪いから、チェルソは他人の本音を暴くのだ。

「……何やら感傷に浸ってるみたいですがあ、質問に戻らさせてもらいますよ~。貴方から聞きたいことはまだ沢山あるので~」

男の声にチェルソはハッとなった。この男の前で気を抜くのは命取りだ。チェルソは頭を切り替えて男と対峙する。

「……どうぞ。感傷に浸るのはワタシらしくないノデ」

「ではお言葉に甘えて……アルバーニ公国が貴方の魔力操作学の研究結果を秘匿にしているのは何故ですかあ?」

「……第一に悪用されるのを防ぐためデス。軍事的に悪用されてはたまったものじゃないノデ」

「……それは学術提携を結んでいる帝国に対してもですかあ?」

「……?どういうことデスカ?」

チェルソは男の言葉に首を傾げた。逆に男はチェルソのそんな反応に首を傾げている。両者の間に変な空気が流れた。

男は少し思案した後に口を開いた。

「……我が国は公国が魔力操作学に長けていることも知りません~。帝国では魔力操作学という分野はマイナーすぎてほぼ発展していません~。基礎すらもままならない状態です~。有益な学術研究は二国間で共有するって決まりではないですかあ。まさか貴方がそんなこと知らないはずないですよね~?」

「ええ、知ってマスヨ。ワタシタチ公国は数十年前には交換学術留学生に魔法操作学の基礎を教えてイマス。そして魔力操作学の研究結果を定期的に帝国に伝えているはずデスガ」

その言葉に男の雰囲気が変わったのをチェルソは感じ取った。今までどことなくふわふわしていたが、今や全身が痺れてしまいそうな程の威圧感。予想外の事実だったのだろう。確かに魔力操作学という危険な研究が国内でなされているのを把握出来ていないのは致命的だ。男の焦りも頷ける。

父上、貴方の勘はまだ鈍ってないようですよ。

チェルソは自分に情報収集を命じてきた父親のことを思い出し、心の中でため息をつくのであった。
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