前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

癖の強い奴らの対峙 ※No Side※ 【後半】

「……それは真ですかあ?」

その場に緊張が走る中、男は若干語気を強めてきいてきた。チェルソは慎重に言葉を選ぶ。

「……貴方が伝えられていないってだけではアリマセンカ?」

「僕が知らないことは皇帝陛下も知りませんよ~」

その言葉にチェルソはギョッとした後、やはり父親が懸念していた通りになっていた、と思案し始める。

チェルソのもうひとつの目的である情報収集は、魔力操作学についてであったのだ。

魔力操作学は一歩間違えると悪用される危険があるため、 門外不出と言っても良い。しかし学術提携を結んでいる帝国は例外として、魔力操作学の基礎を帝国に伝え、帝国での魔力操作学の地盤が固まり次第、共同研究をする話が持ち上がっていた。

だから数十年前、学術交換留学生として来ていた帝国の研究者の卵に魔力操作学について教え、帝国で研究を始めてもらうことになった。その者は当時の先代皇帝の覚えも良いため、知識を渡すのに信頼に値すると考えたのだ。もちろんその時、当時の先代皇帝にもその話は通してある。

しかし待てど暮らせど帝国から共同研究の話が来ない。情報提供の手紙を送れど、しばし待ての一言のみ。流石におかしいと感じたチェルソの父親は、チェルソに帝国での魔力操作学についての情報収集を命じていたのだ。

魔力操作学研究者として帝国に来てみたらおかしなことに、皆口をそろえてそのような学問は帝国で全く発展していないと言うのだ。危険故にごく一部の人間のみが知っているのか、とも考えたが、目の前の男曰く皇帝も知らないとのこと。どこかで情報が遮断されていたのは明らかだ。

まさか……彼女・・が?

思い悩むチェルソの様子を男は穴が開くほど凝視した後、深刻な空気に切り替えて質問を続けた。

「……魔力操作学研究の情報はどちらに送っているのですかあ?」

「……数十年前に公国へ交換留学生として来た女性に送ってイマス。その女性はもう研究者ではないのデスガ、他の研究者とも繋がりがあり、皇帝にもパイプがあると言うノデ、今も彼女に送ってイマス」

「その人は何者なんですかあ?」

「……ワタシは手紙を書いていないので名前はわかりマセンガ、その女性がどのような地位を帝国で持っているかは知ってマスヨ」

「……その役職はあ?」

チェルソは昔、自分の魔力操作学の恩師が言っていたことを思い出す。彼はその女性も教えており、随分と可愛がっていた。しかし彼女は今の地位を手に入れ、研究者を辞めざるを得なくなってしまった。恩師は残念がっていたが、その道は他でもない彼女自身が決めたことなのだから、自分に何か言う権利などない、と言っていた。彼の口ぶりからその女性がとても優秀であったことが伺えるので、自分も研究者として会ってみたかった、とチェルソも常々思っていた。

そんなことを考えながらチェルソは徐に口を開いた。

「……皇族に輿入れすることが決まり、研究者を続けられなくなった彼女は確か今は……第二皇妃だったはずデスヨ」

チェルソがそう発言した、その時。

どこからともなく発せられた強大な魔力がその場を充満したのを、2人は感じ取った。

「っ!?!?」

「なんですかあっ!?」

流石手練と言うべきか、男はすぐさま警戒態勢をとった。しかし何か行動を起こす間もなく、屋外から巨大な爆発音が聞こえてきた。その余波は2人がいる場所までやってくる。

「うわっ!?」

「……くっ!」

凄まじい爆風が研究者の扉や窓を開け破り、一瞬にして膨大な魔力が研究室に入り込む。吐き気がしたチェルソはその場に膝をつき、男も苦虫を噛み潰したような表情で、倒れこまないように足腰に力を込めた。

「なんなんですかあ!?」

「……カレはとんでもない薮蛇だったのデスネ……」

らしくもなく男が半ギレで叫ぶ中、チェルソは先程会った皇子を思い起こす。この魔力は間違いなく、先程チェルソが花を渡した帝国皇子アウクスティだ。何か大きな秘め事をしているとは思っていたが、まさかここまでの魔力を隠し持っていたとは。

この爆風だと校舎が半壊してもおかしくない。それどころか人命も危ないところだ。自分が渡した花が原因でこのような大災害が起こったと知られたら最後、極刑に処させることは避けられないだろう。

エルネスティやシーウェルトに花を渡した件とは訳が違う。最悪、死刑になるだろう。

そう思うと何故か張り詰めていた全身の力が一気に抜けた。恐ろしいことのはずなのに、心のどこかで安堵している自分がいた。

そうか。自分は死にたかったのか。本音を隠す、気持ち悪い人間たちのいるこの世から、早く抜け出したかったのか。

だから自分はこんな危なっかしい性格にねじ曲がってしまったのか。

全てが腑に落ちたチェルソは乾いた笑みを浮かべる。チェルソの呟きを聞き取った地獄耳な男は、キッとチェルソを睨みつける。

「これ、貴方の仕業ですかあ!?」

「……そうデスネ。ワタシが撒いた種デス」

「なら即刻貴方の身柄を拘束します~!弁明は檻の中でしてください~!」

魔力の爆風が収まりかけた頃を見計らい、男はチェルソに手を伸ばす。だが全てを諦めたチェルソは、年貢の納め時か、と呟き、なすがままに拘束されるのであった。
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