前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

支援活動の計画

ヘルレヴィ旧男爵領へのゲリラ進行は何の問題もなく行われた。

そして現地ではヴァルヴィオ子爵は皇帝命令により、俺たち一行のために屋敷の離れを貸してくれた。普段は使っていないそうだけど、俺たちのために綺麗に清掃してくれていたようだ。帝国軍兵を含めると十分な広さとは言えないが、軍兵はその辺で雑魚寝するから気にすんなとカレルヴォ兄上第三皇子から言われたので、軍兵たちの日々の訓練の賜物に甘えることにした。これに関しては本当にどうしようもないからね。

そしてヴァルヴィオ子爵からヘルレヴィ旧男爵領において俺たちの本拠となる、ヘルレヴィ旧男爵邸の場所を地図を用いて教えてもらい、離れの大広間にてカレルヴォ兄上を含む帝国軍兵の代表たちとこれからの計画について再度確認した。どれだけ確認しておいても、損はないからね。念には念を入れるべきだよ。

俺たちが計画について一通り話し終えた頃、扉がノックされる音が部屋に静かに響いた。俺が入室を許可すると、扉からはユルヤナが入って来た。

「失礼します。この大変な事態の中申し訳ありませんが、ヴァルヴィオ子爵家の者として、折り入ってお願いしたいことがありまして……」

「お願いしたいことですか?とりあえず話を聞きましょう」

俺はカレルヴォ兄上に目配せし、会議を一旦中断してユルヤナの話を聞いた。ユルヤナは一度目を閉じて深呼吸をし、目を開けるとほぼ同時に口を開いた。

ユルヤナの話をまとめるとこうだ。

現在、魔窟からの魔力が増大しているとのことで、近隣に住む人々が次々とヴァルヴィオ子爵領の方へ避難して来ている。本来であればヘルレヴィ旧男爵領内で比較的安全な地域へと避難してもらうのが筋だ。しかし、ヴァルヴィオ子爵領は魔窟の比較的近くに位置している上に、ヘルレヴィ旧男爵領内の安全地帯はヴァルヴィオ子爵領から見て魔窟の反対側に位置しており、周辺の住民がそちらへ避難するのは困難である。そのため、行き場の無くなった住民達は安全な場所を求めてヴァルヴィオ子爵領へと流れ込んでいるという訳だ。

現在ヘルレヴィ旧男爵領の管理はヴァルヴィオ子爵家が行っているため、彼らを保護する義務は当然ヴァルヴィオ子爵家にある。しかし、今のヴァルヴィオ子爵家では避難所の設置や必要物資の配布、そして夜間の警護などに充てる人員が全く足りていないため、避難してきた人々を十分に保護しきれない。だから、もし俺たちの作戦において人手に余裕があるのであれば、ヴァルヴィオ子爵家の方に人手を回して欲しい、とのことだ。

ユルヤナはこれらのことを丁寧に説明した後、神妙な面持ちで深々と頭を下げた。俺はユルヤナに頭を上げるように促し、カレルヴォ兄上の方に目配せをした。カレルヴォ兄上は承知したと言わんばかりに頷き、一歩前に出た。

「安心して欲しい。我々は元より魔窟周辺の人々の避難誘導と、避難所での救援作業も任務の内に入っている。それはヴァルヴィオ子爵領へと逃れた民衆に対しても同じだ。むしろ、これからの救援活動において、一時的にヘルレヴィ旧男爵領の住民をヴァルヴィオ子爵領へと避難させる可能性もある。そちらの方の許可を、ヴァルヴィオ子爵にお願いしたい」

「その点におきましては、事前にヴァルヴィオ子爵より許可をもらっております。我々もタダで手助けしてもらおうとは考えておりません。我々の領地、是非とも民衆の命のためにご活用ください」

「感謝する。詳細は後ほどヴァルヴィオ子爵と直接話し合いたいので、その旨を子爵に伝えてくれ。時間はそちらの都合にあわせる」

「かしこまりました」

カレルヴォ兄上の言葉にユルヤナは一礼して部屋を去っていった。恐らくその足でヴァルヴィオ子爵の元へ向かっているのだろう。さっきのやり取りもそうだけど、ユルヤナって本当、大人顔負けに働くよな。ぐう有能。

それはそうとさっきの話題は会議の中でも挙がっており、民衆の避難についてヴァルヴィオ子爵と話し合う機会を設けるべきだという話が出てきたので、丁度良かった。やはり魔窟周辺は人々が生活するには何かしらの支障が出てしまっているようだ。この問題に関しては、いくつか対策案を立てておいて、現地に行って確認してからどのように動くか最終的に判断すべきかな。とりあえず帝国軍兵の一部はヴァルヴィオ子爵領に残さないと。

「では早速、ヴァルヴィオ子爵領に残る部隊を決めてしまいましょうか。目下問題が生じ始めているようなので、出来るだけすぐに対応に向かうべきでしょうし」

「なら帝国軍第十部隊を派遣するのが良いと思う」

「……その意義は?」

「第十部隊にはアンティア嬢を配置している。彼女は帝国軍に所属していないし、本来であればここにいるはずのない人物だ。出来るだけ作戦の本筋には関わらせない方が良いだろう」

「……アンティア嬢、ですか」

俺はカレルヴォ兄上の言葉に苦い表情を浮かべた。アンティア嬢男勝りな公爵令嬢はカレルヴォ兄上が父上皇帝と話をつけて、今回特別に帝国軍の一員として作戦に参加している。カレルヴォ兄上曰く人生経験をさせるためらしいが、俺は正直言って、今回アンティア嬢がこの作戦に参加することは快く思ってない。この作戦は多くの人々の命がかかった重大な任務だ。それを職業体験みたいな感じで使われると、人の命を何だと思ってるんだ、って感じてしまう。まあカレルヴォ兄上には兄上なりの何か考えがあるのだろうし、父上も了承したのなら、俺からは何も言わないけど。

まあそれはそれとして、アンティア嬢が第十部隊にいるのなら、確かに彼らにヴァルヴィオ子爵領の支援をしてもらうのが一番良いだろう。カレルヴォ兄上の言う通り、アンティア嬢には出来るだけ作戦に関わって欲しくないし。言ったら悪いけど、騎士かぶれの未熟な学生なんかに、国民の命を任せられないよ。もしこの作戦の中でアンティア嬢の身に何かあれば、帝国軍や皇帝に何かしらの責任が降りかかるだろうから、それも避けたいし。支援活動も国民の命を預ける重要な任務であることは勿論のことだけど、作戦に比べると危険もそこまでないし。丁度良いかな。

「……わかりました。ヴァルヴィオ子爵領の避難所には第十部隊を派遣することで話を進めて行きましょう」

「了解。すまんな、俺の我儘に付き合わせちまって」

「その『我儘』と言うのは……」

俺は次の言葉を言いかけて、口を噤んだ。カレルヴォ兄上は俺が何を考えているのかお見通しなようだ。それでもなおアンティア嬢を参加させるのであれば、まあ後はカレルヴォ兄上が責任を持ってアンティア嬢の面倒を見てもらうしかない。

俺はヴァルヴィオ子爵領へ出発した日の夜、野宿する場所にてアンティア嬢がこちらに話しかけて来たのを思い出した。帝国の未来をかけた重要な作戦に参加出来ることを光栄に思う云々の話をしていたと思うけど、俺はその話の半分も聞いてなかった。アンティア嬢は名誉だ義務だなどと言った話ばっかりで、俺たちとは何だか話がズレてるように思えた。なんか、やっぱりアンティア嬢も高貴な家柄の箱入り娘なんだなって感じ。帝国軍兵たちと話が合わなくて孤立してないか心配になるぐらい。

まあその辺はカレルヴォ兄上が責任持って何とかしてるか。俺が何か言うべき事柄じゃないよね。

「……次の話に移りましょうか」

俺はカレルヴォ兄上から逃げるように視線を逸らして話を進めた。そんな俺に対して、カレルヴォ兄上は何も言っては来なかった。
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