前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

声が無くとも出来る事 ※No Side※

「……殿下、大丈夫かな」

エルネスティとヴァイナモが走り去る後ろ姿を眺めながら、ダーヴィド恋バナ大好き騎士はポツリ呟いた。それを聞いたサムエル歌しか勝たんは、緊張を解すようにダーヴィドの肩を揉んだ。

「きっと大丈夫ですよ~信じて待ちましょ~」

「……それは、わかってるんだけどね」

ダーヴィドはサムエルの緩い雰囲気に肩の力が抜いた。自分一人が気負っていても何も変わらない。エルネスティを見送った今、ダーヴィドが出来ることは作戦の成功を祈ることのみである。そう気持ちを切り替えることにしたのだ。

しかし、作戦は計画通りに行かないのが定石である。

「……!大変です!ヴァイナモ様の向かう方向が少しずつズレてきてしまっています!」

ロヴィーサ盲目シスター令嬢の声が、嫌にその場に響いた。緩んでいたその場に一気に緊張が走る。

オリヴァは硬い表情でロヴィーサに問いかけた。

「ロヴィーサ嬢、どういうことか説明してくれるか?」

「はい。おそらく魔窟内の障害物を避けたりモンスターを倒したりしている中でヴァイナモ様の方向感覚が少しずつ狂ってしまっているようでして、アウクスティ殿下がいる方向から少しずつ右にズレてきてしまってます」

「……成程、確かに魔窟内は整備されてい。方角を示すような目印もないのだろう。そんな中を他に気を取られながら進めば方向感覚も狂うか」

「大変じゃないですか!早く知らせに行きませんと!」

ダーヴィドは顔面蒼白で訴える。だがオリヴァは難しい表情で首を横に振った。

「だが中はモンスターの宝庫だ。手練のヴァイナモですらこれなら、下手に誰かが伝えに行ってもそいつも迷子になってしまうのがオチだ」

「ですがこのままでは2人はアウクスティ殿下の元までたどり着けずに大量のモンスター相手にジリ貧の攻防になってしまいますよ!?」

「わかってる。だから俺も今必死に考えてんだ」

カレルヴォは少し焦りを含ませた声でそう言うと、努めて落ち着いた素振りで熟考を始めた。大切な異母弟エルネスティの命がかかっているのである。カレルヴォも冷静ではいられない。そんな心情を汲み取ったダーヴィドは、言葉を詰まらせて俯いた。

その場に重苦しい空気が流れたその時、1人の「騎士」が徐に動いた。

「……?どうされましたか、イキシア様」

これまで傍で静かに傍観していたイキシア奴隷騎士がロヴィーサの前で片膝をつき、ロヴィーサと目線を合わせた。何かロヴィーサに伝えたいことがあるのだろうが、声の出せない彼は口で伝えることが出来ない。しかし紙に何かを書く訳でもなく、ただただ何かを訴えるようにただロヴィーサの目を見つめるだけである。イキシアの突然の行動に近くにいたダーヴィドは困惑した様子で「君、どうしたんだ?」とイキシアの肩を掴んだ。

しかし、ロヴィーサにはイキシアの言わんとすることが「見えた」ようだ。ダーヴィドに「大丈夫ですよ」と言って手を離してもらい、イキシアと向き合った。

「……わかりました。私は貴方を信じます」

ロヴィーサはそう力強く頷くと、カレルヴォの方に顔を向けた。

「カレルヴォ殿下。この件に関してイキシアに全て任せていただけませんか?詳細につきましては時間もありませんので後から説明させていただきます」

「……ロヴィーサ嬢はそれが最善と感じたのか?」

「はい。これが一番手っ取り早いかと」

「……わかった。貴女の真実を見通す力を信じよう」

「ありがとうございます」

ロヴィーサは軽く頭を下げた後、イキシアに視線を戻し、右手を差し出した。

「場所をお伝えするには私の見えている視界を共有するのが手っ取り早いです。私の手を掴んで目を瞑ってください。少々気分が悪くなると思いますが我慢してくださいね」

イキシアは頷いてロヴィーサの手を取り、目を閉じる。するとロヴィーサも目を閉じて何かに集中するように深く息を吐いた。

イキシアは一瞬ビクッと身体を揺らしたがすぐに気を取り直し、空いている左腕を横に伸ばして標準を合わせるように左右に動かした。そして狙いを定めるようにある一点を指さし、何かを言うように声の出ない口を動かす。

するとイキシアの指さす方向へ一直線に炎の壁が現れた。炎はすぐに燃え尽きたが、焼け跡は瞬く間に魔窟の奥へと繋がる一本の道となった。

イキシアがロヴィーサの手を離すとロヴィーサは力が抜けたように身体をふらつかせた。近くにいたダーヴィドが慌ててロヴィーサの身体を支えると、ロヴィーサはぐったりとした様子でダーヴィドに身体を預ける。イキシアも一瞬顔を青くして口元に手を当てるも、自身に鞭打つように一発セルフビンタをかました。そしてすぐに懐から魔法陣を取り出すと結界を張り、腰の剣を抜き取った。その場で数回素振りをした後、またしても何か言うように口を動かしたと思えば、疾風の如きスピードで迷いなく魔窟へと入って行った。

「あっ!おい!」

「…….大丈夫です、ダーヴィド様……。彼には殿下とヴァイナモ様の……位置も共有したので……きっと彼らを……元の道へと導いてくれます」

「ロヴィーサ嬢。お疲れの所申し訳ないが、説明を頼む」

「はい。……私がイキシア様に魔力を流し込むことで……私の真実透視魔法で見える世界を共有し……イキシア様に……アウクスティ殿下までの……道がわかるように火魔法で……障害物を焼き払って道を……作ってもらいました。その時にエルネスティ殿下……の位置も共有しましたので……元の道に戻るよう……彼らに伝えに行ってもらいました。……おそらく彼が……自身に風魔法をかけたのは……移動速度を……上げるためかと……」

カレルヴォの問いかけにロヴィーサは息も途切れ途切れに弱々しい声で答えた。常時魔力を酷使しているロヴィーサにとって、他人に魔力を流し込むことは自分の身を危うくする行為である。しかも余程相性が良くない限り、他人に魔力を流し込もうとすると相手から無意識下に抵抗を受けるため、普通に魔法を使うよりも格段に労力を要する。端的に言えば、体力の限界であった。

そんなロヴィーサの事情をよく知っているサムエルは、ロヴィーサを庇うようにカレルヴォの前に出た。

「カレルヴォ殿下あ、申し訳ないんですがあ~ロヴィーサ嬢の体力が限界なので~基地の方で休ませたいんですけど~」

「……そうだな。ロヴィーサ嬢、よくやった。後のことは我々に任せて、ゆっくり休んでくれ」

「お心遣い……ありがとうございます……」

ロヴィーサは一言礼を言うと、糸が切れたように脱力して動かなくなった。ダーヴィドは優しくお姫様抱っこで抱き上げる。

「ロヴィーサ嬢の護衛は本来彼の仕事ですが、今は私がその任を引き継ぎます」

「ああ、頼む。ロヴィーサ嬢の身に何も起こらないよう、片時も離れず護衛しろ」

「はっ」

ダーヴィドはビシッと姿勢を正し溌剌と返事をすると、ロヴィーサに負担にならない程度で足早にその場を去った。その後ろ姿を見つめながら、カレルヴォはぽつりと呟く。

「……本当に、良い仲間を見つけたな、エルネスティ」

安堵を滲ませるその声は、誰の耳に届くことなく消えていく。それと一緒に、周囲を全て敵と見なして威嚇し続けていた頃を知っている身として、今まで心の隅で抱いていた異母弟エルネスティを心配する気持ちも、綺麗さっぱり消え去っていたのだった。
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