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乗り越えるべき壁
強さとは何か ※No Side※【後編】
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エルネスティに身元が引き渡され、「イキシア」になってからの生活は、今までにないほどに穏やかであった。
イーヴァルに危害を加えられたはずのエルネスティは、驚くほどイキシアに優しかった。声の出ないイキシアを心配し、名前を授け、文字や魔方陣学の知識を教え、剣を握ることすらも許した。強さにしか興味の無かったアムレアンの人々とは違い、弱き者にも手を差し伸べ、武力以外の才能で人を評価するエルネスティを見て、イキシアは思い出した。
長兄に抱いていた尊敬とは、このような感情であった、と。
確かに長兄は武力においては平凡だった。しかし彼には温和な性格の中にも芯があった。長兄自身も大変な思いをしていたはずのに、イーヴァルに優しくしてくれた。そんな優しさが嬉しくて、イーヴァルは長兄を慕っていた。
そしてハーララ帝国で色んな人々と関わるようになる中で、イキシアは「強さとは決して武力のみで測れるものではない」というのを実感した。
ペッテリもヤルノも、武力的な強さはないが、衣装作りや彫刻といった他の強みを持っている。ライラは頼れる姉御肌だしクスターは計算のスピードが常軌を逸している。勿論エルネスティやヴァイナモは武力的な強さを持ち合わせているが、学問への造詣や他者への忠誠心の深さが彼らの強さの本質だと感じる。イキシアは帝国に来てからの短期間で、アムレアンでは想像もつかなかったような多種多様の「強さ」をこの目で見ることが出来た。
この経験からイキシアは、「優しい心」を持つことにも一種の「強さ」が必要であると考えるようになった。自分に余裕が無ければ、周りに気を配ることなど出来ない。それを言えば、長兄は家族の中で誰よりも強かった。そして、そんな長兄が本当に誇らしかった。
そんなイキシアは思う。
自分の強さとは一体何だろうか、と。
今まで武力一辺倒で突き進んできたイキシアにとって、自分の持てる強さとは剣と魔法しかなかった。ずっと脳筋としてやってきたから、周りを気遣うなどといった芸当も出来なかった。今までにやって来なかったから、やり方がわからないのである。自分は暴力という空虚なものしか持っていない。そんな自分の強さとは何だろうか。果たして強さを持っているのだろうか。イキシアは不安に思わずにはいられなかった。
イキシアのそんな悩みを聞いた時、彼女はあっけらかんとこう言った。
「そりゃ剣と魔法じゃないの?イキシアは空虚なものって言うけど、私は別にそうは思わないけどなぁ」
きょとんとした表情でそう言ったのは、イキシアの想い人であるマティルダであった。彼女は芯のある瞳を持った心優しい女性で、どこか長兄と似た雰囲気があった。活気に満ち溢れたその瞳を一目見た瞬間、イキシアは恋に落ちた。しかし自分は犯罪奴隷。彼女と結ばれることなど不可能だ。だからせめて友達として仲良くしたい、と猛アタックした所、今や気の置けない友達にまで進展したのである。
文字の練習の休憩時間に話し相手になってくれる彼女は、イキシアにとって何でも話せる貴重な存在である。イキシアの悩みにあっけらかんと答えたマティルダに、今度はイキシアがきょとんとした。
[マティルダさんは、腕っ節だけの俺のことを軽蔑しないの?]
「軽蔑?する訳ないよ!だってイキシアが強いのは、これまでの努力の証じゃん!尊敬はすれど、軽蔑なんて出来ないよ!」
[努力の、証?]
「そう!強くなりたい!って一心で訓練頑張ってきたんでしょ?そんな自分を誇りなよ!普通の人じゃそんなに頑張れないんだからさ!」
[でも暴力は人を傷つける]
「そうだね。イキシアの力は使い方を間違えたら人を傷つける危険なものだよ。でも使い方次第で、人を護ることだって出来る。ヴァイナモ様だって強いけど、誰かを傷つけることはないでしょ?」
マティルダのその言葉に、イキシアは何時ぞやに皇帝に言われた言葉を思い出す。
____お前の魔法は特にお前の感情に左右されやすい。それは咄嗟に最良の魔法を展開出来るという利点があるが、同時に暴走しやすいという弱点もある。誰かを慈しみながら使えば万人を救う魔法となるが、誰かを憎しみながら使えば万人を傷つける魔法となる。
誰かを救うために魔法を使う。誰かのために剣を振るう。それが、力の正しい使い方。
つまり自分の強さとは、剣と魔法と共にあるのだろうか。もしあるとして、自分は果たしてきちんとその強さを理解して、正しく使うことが出来るのだろうか。
イキシアにはわからなかった。一度間違えてしまった自分が正しいことを出来るか不安だった。
だが、そんな事今は関係ない。
「えっ!?イキシア、どうしてここに」
風魔法でエルネスティとヴァイナモに追いついたイキシアは、ヴァイナモと並走する。エルネスティは目を丸くしていたが、イキシアが手振りで「こっちだ」と示すと、ハッとなってヴァイナモの肩を叩いた。
「ヴァイ!アウクスティの元へ向かう道から少しズレてしまってるようです!イキシアについて行きましょう!」
エルネスティの言葉にヴァイナモはイキシアとアイコンタクトをとり、イキシアの後ろをついて行った。するとすぐに一直線に丸焦げになった場所に出る。
「……!この道は、イキシアが?」
エルネスティの問いにイキシアは頷く。
「凄いですね!こんな魔力が乱れまくっている場所でも魔法を発動出来るだなんて!ありがとうございます!お陰で助かりました!」
嬉しそうにイキシアにお礼を言うエルネスティに、イキシアは全てのピースが揃ったかのように胸の蟠りが晴れた。
自分の持つ力で誰かを助け、お礼を言われる。たったこれだけのことなのに、今まで胸にのしかかっていた悩みが一気に消え去っていった。
そうか、これが自分の「強さ」か。
やっと見つけた自分の強さ。今までに培ったこの腕っ節を、人を助けるために使う。それは一体どういうことなのかという実感を、やっと持てたのである。
……マティルダさんには感謝しないと。
イキシアはマティルダを思い浮かべて、誰にもわからないように拳を強く握りしめた。
今回、この作戦に参加するようイキシアに勧めたのはマティルダだった。強さに関して悩んでいるイキシアに、実践を通して自分の力を発揮することで自分で納得のいく答えが見つかるんじゃないか、と言って背中を押してくれたのだ。
イキシアにとってマティルダは、初恋の人であり、救世主であり、無くてはならない人であった。
……諦めたくないな、この気持ち。
イキシアは胸が張り裂けそうになった。最初は長兄に似てるからという理由で一目惚れしたイキシアだが、関わるうちにマティルダの内面までも好きになっていた。自分は犯罪奴隷であり結婚出来ないため、この気持ちは叶えることは出来ない。諦めるべき恋心であるのに、諦めたくないという気持ちばかりが膨れ上がってくる。
強くて優しくて美しい貴女。
どうすれば貴女を想うことが許されますか。
そっと心の中で呟いたその言葉は、どうしようもないやるせなさを纏わせてイキシアの心に沈殿した。
一難去ってまた一難。
イキシアの悩みは、まだまだ尽きそうにもなかった。
イーヴァルに危害を加えられたはずのエルネスティは、驚くほどイキシアに優しかった。声の出ないイキシアを心配し、名前を授け、文字や魔方陣学の知識を教え、剣を握ることすらも許した。強さにしか興味の無かったアムレアンの人々とは違い、弱き者にも手を差し伸べ、武力以外の才能で人を評価するエルネスティを見て、イキシアは思い出した。
長兄に抱いていた尊敬とは、このような感情であった、と。
確かに長兄は武力においては平凡だった。しかし彼には温和な性格の中にも芯があった。長兄自身も大変な思いをしていたはずのに、イーヴァルに優しくしてくれた。そんな優しさが嬉しくて、イーヴァルは長兄を慕っていた。
そしてハーララ帝国で色んな人々と関わるようになる中で、イキシアは「強さとは決して武力のみで測れるものではない」というのを実感した。
ペッテリもヤルノも、武力的な強さはないが、衣装作りや彫刻といった他の強みを持っている。ライラは頼れる姉御肌だしクスターは計算のスピードが常軌を逸している。勿論エルネスティやヴァイナモは武力的な強さを持ち合わせているが、学問への造詣や他者への忠誠心の深さが彼らの強さの本質だと感じる。イキシアは帝国に来てからの短期間で、アムレアンでは想像もつかなかったような多種多様の「強さ」をこの目で見ることが出来た。
この経験からイキシアは、「優しい心」を持つことにも一種の「強さ」が必要であると考えるようになった。自分に余裕が無ければ、周りに気を配ることなど出来ない。それを言えば、長兄は家族の中で誰よりも強かった。そして、そんな長兄が本当に誇らしかった。
そんなイキシアは思う。
自分の強さとは一体何だろうか、と。
今まで武力一辺倒で突き進んできたイキシアにとって、自分の持てる強さとは剣と魔法しかなかった。ずっと脳筋としてやってきたから、周りを気遣うなどといった芸当も出来なかった。今までにやって来なかったから、やり方がわからないのである。自分は暴力という空虚なものしか持っていない。そんな自分の強さとは何だろうか。果たして強さを持っているのだろうか。イキシアは不安に思わずにはいられなかった。
イキシアのそんな悩みを聞いた時、彼女はあっけらかんとこう言った。
「そりゃ剣と魔法じゃないの?イキシアは空虚なものって言うけど、私は別にそうは思わないけどなぁ」
きょとんとした表情でそう言ったのは、イキシアの想い人であるマティルダであった。彼女は芯のある瞳を持った心優しい女性で、どこか長兄と似た雰囲気があった。活気に満ち溢れたその瞳を一目見た瞬間、イキシアは恋に落ちた。しかし自分は犯罪奴隷。彼女と結ばれることなど不可能だ。だからせめて友達として仲良くしたい、と猛アタックした所、今や気の置けない友達にまで進展したのである。
文字の練習の休憩時間に話し相手になってくれる彼女は、イキシアにとって何でも話せる貴重な存在である。イキシアの悩みにあっけらかんと答えたマティルダに、今度はイキシアがきょとんとした。
[マティルダさんは、腕っ節だけの俺のことを軽蔑しないの?]
「軽蔑?する訳ないよ!だってイキシアが強いのは、これまでの努力の証じゃん!尊敬はすれど、軽蔑なんて出来ないよ!」
[努力の、証?]
「そう!強くなりたい!って一心で訓練頑張ってきたんでしょ?そんな自分を誇りなよ!普通の人じゃそんなに頑張れないんだからさ!」
[でも暴力は人を傷つける]
「そうだね。イキシアの力は使い方を間違えたら人を傷つける危険なものだよ。でも使い方次第で、人を護ることだって出来る。ヴァイナモ様だって強いけど、誰かを傷つけることはないでしょ?」
マティルダのその言葉に、イキシアは何時ぞやに皇帝に言われた言葉を思い出す。
____お前の魔法は特にお前の感情に左右されやすい。それは咄嗟に最良の魔法を展開出来るという利点があるが、同時に暴走しやすいという弱点もある。誰かを慈しみながら使えば万人を救う魔法となるが、誰かを憎しみながら使えば万人を傷つける魔法となる。
誰かを救うために魔法を使う。誰かのために剣を振るう。それが、力の正しい使い方。
つまり自分の強さとは、剣と魔法と共にあるのだろうか。もしあるとして、自分は果たしてきちんとその強さを理解して、正しく使うことが出来るのだろうか。
イキシアにはわからなかった。一度間違えてしまった自分が正しいことを出来るか不安だった。
だが、そんな事今は関係ない。
「えっ!?イキシア、どうしてここに」
風魔法でエルネスティとヴァイナモに追いついたイキシアは、ヴァイナモと並走する。エルネスティは目を丸くしていたが、イキシアが手振りで「こっちだ」と示すと、ハッとなってヴァイナモの肩を叩いた。
「ヴァイ!アウクスティの元へ向かう道から少しズレてしまってるようです!イキシアについて行きましょう!」
エルネスティの言葉にヴァイナモはイキシアとアイコンタクトをとり、イキシアの後ろをついて行った。するとすぐに一直線に丸焦げになった場所に出る。
「……!この道は、イキシアが?」
エルネスティの問いにイキシアは頷く。
「凄いですね!こんな魔力が乱れまくっている場所でも魔法を発動出来るだなんて!ありがとうございます!お陰で助かりました!」
嬉しそうにイキシアにお礼を言うエルネスティに、イキシアは全てのピースが揃ったかのように胸の蟠りが晴れた。
自分の持つ力で誰かを助け、お礼を言われる。たったこれだけのことなのに、今まで胸にのしかかっていた悩みが一気に消え去っていった。
そうか、これが自分の「強さ」か。
やっと見つけた自分の強さ。今までに培ったこの腕っ節を、人を助けるために使う。それは一体どういうことなのかという実感を、やっと持てたのである。
……マティルダさんには感謝しないと。
イキシアはマティルダを思い浮かべて、誰にもわからないように拳を強く握りしめた。
今回、この作戦に参加するようイキシアに勧めたのはマティルダだった。強さに関して悩んでいるイキシアに、実践を通して自分の力を発揮することで自分で納得のいく答えが見つかるんじゃないか、と言って背中を押してくれたのだ。
イキシアにとってマティルダは、初恋の人であり、救世主であり、無くてはならない人であった。
……諦めたくないな、この気持ち。
イキシアは胸が張り裂けそうになった。最初は長兄に似てるからという理由で一目惚れしたイキシアだが、関わるうちにマティルダの内面までも好きになっていた。自分は犯罪奴隷であり結婚出来ないため、この気持ちは叶えることは出来ない。諦めるべき恋心であるのに、諦めたくないという気持ちばかりが膨れ上がってくる。
強くて優しくて美しい貴女。
どうすれば貴女を想うことが許されますか。
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