6 / 32
第1章:アンドロイドの少女
アンドロイドの少女と祭りの日
しおりを挟む
祭り当日の午前中。
立派な山車が街を練り歩く。
ロボットたちが引く、カラクリ人形が乗った三台の山車。
お囃子は録音された物が流れる。
ロボットには演奏する能力が無いから。
保管庫を出てから神社の前でスタンバイ。ビルの並ぶ大通りを真っ直ぐ進む。その後、引き返す形で神社の前まで行くルート。
僕が来た時にはすでに戻る所だった。
見物客は僕以外いないはずだ。
ニンゲンが僕一人だけしかいないから。
華やかなように見えるけど、どこか寂しい。
だから、見に行こうとは今まで思わなかった。
でも今年は違った。
自分でも気付かない内に、何かに引き寄せられていたのかもしれない。
何故なら……。
「!」
「…………」
あの子がじっと山車を見ている。
大通りから神社へ戻る山車に合わせてゆっくりと歩き始める。
会いたかったあの子。
アンドロイドのあの子。
美しい赤い髪は遠くからでも分かった。
「…………」
熱心に見入る彼女に掛ける言葉が見つからない。
どうやって声を掛けたら良い?
僕は拒否された身。
自分から声を掛ける勇気が出ない。
「…………」
ドンドン、ヒョーロロロ。
リズムを刻む太鼓に笛の音色が重なる。
静かな街に響く祭囃子。
そして、たった二人の見物客。
二人の距離は縮まらない。
縮められない。
遠くから見ているだけ。
優しい風が吹く。
彼女の赤い髪が揺れた。
ああ、まるで本物のニンゲンのようだ。
僕の胸は高鳴った。
触れたい。
そう思った。
「…………」
「…………」
無言で山車を見つめる彼女。
無言で彼女を見つめる僕。
周りはロボットしかいない。
祭囃子だけが聞こえる。
二人だけが、街に取り残されたように、無言で立っている。
僕の前を彼女が通り過ぎる。
彼女の視線は山車に向けられたままだった。
神社の前で三台の山車が横並びに止まる。
何メートルあるのか。間近で見ると、ただただその大きさ、迫力に圧倒される。
ふと、音楽が止む。
カラクリ人形が動き出す。
曲調が変わって、再び祭囃子が賑やかに鳴り響き始める。
女の人形に鬼の面が被さり、鬼に変身する。
武士のカラクリが矢を射ると、鬼は元の女性に戻り倒れた。
伝染病を患ったとある女が、村から見捨てられ鬼になった。
鬼女は村を怨み暴れるものの、最後には村の勇気ある若者に退治されるという物語。
矢を射る武士はその女の息子。
成長した息子に女は気付かない。
倒された時に、息子は正体を明かし、息子の腕の中で女はようやく人間として死ぬのだ。
アンドロイドの彼女が見ていたのは、この親子の物語を表現した山車だった。
「ケンタロー、だったわね」
突然、彼女がこちらに向く。
「ふふ。驚いた顔して。私の後を付けてきたんでしょ?」
「…………」
「ずっと気付いていたわ」
この前と違って、彼女は穏やかな雰囲気を纏っていた。
「僕は……」
話そうとした所で彼女が僕の言葉を遮った。
「ごめんなさい。アナタも私と同じような思いをさせてしまったと反省してるわ」
「え?」
「ニンゲンだもの。私よりも感情が豊かで、私よりもずっと繊細な心があるのよね。なのに、私の気持ちばかりで、感情的にアナタを拒絶してしまった」
「いや、良いんだ。僕の方こそごめん。君の事、何も知らないのに、ずけずけと君の領域に土足で踏み込んだから」
「お墓の事?」
「う、うん」
「そうね。なら、今度お墓参りに付き合ってもらおうかしら」
「行って、良いの?」
「ええ」
「そういえば、君の名前は?」
「エリー」
「エリー、か。良い名前だね」
素直に思った事が口に出てしまう。
変な事は言ってないよな。
「ありがとう」
エリーの言葉にホッとする自分がいた。
「じゃあ、約束の日は……」
立派な山車が街を練り歩く。
ロボットたちが引く、カラクリ人形が乗った三台の山車。
お囃子は録音された物が流れる。
ロボットには演奏する能力が無いから。
保管庫を出てから神社の前でスタンバイ。ビルの並ぶ大通りを真っ直ぐ進む。その後、引き返す形で神社の前まで行くルート。
僕が来た時にはすでに戻る所だった。
見物客は僕以外いないはずだ。
ニンゲンが僕一人だけしかいないから。
華やかなように見えるけど、どこか寂しい。
だから、見に行こうとは今まで思わなかった。
でも今年は違った。
自分でも気付かない内に、何かに引き寄せられていたのかもしれない。
何故なら……。
「!」
「…………」
あの子がじっと山車を見ている。
大通りから神社へ戻る山車に合わせてゆっくりと歩き始める。
会いたかったあの子。
アンドロイドのあの子。
美しい赤い髪は遠くからでも分かった。
「…………」
熱心に見入る彼女に掛ける言葉が見つからない。
どうやって声を掛けたら良い?
僕は拒否された身。
自分から声を掛ける勇気が出ない。
「…………」
ドンドン、ヒョーロロロ。
リズムを刻む太鼓に笛の音色が重なる。
静かな街に響く祭囃子。
そして、たった二人の見物客。
二人の距離は縮まらない。
縮められない。
遠くから見ているだけ。
優しい風が吹く。
彼女の赤い髪が揺れた。
ああ、まるで本物のニンゲンのようだ。
僕の胸は高鳴った。
触れたい。
そう思った。
「…………」
「…………」
無言で山車を見つめる彼女。
無言で彼女を見つめる僕。
周りはロボットしかいない。
祭囃子だけが聞こえる。
二人だけが、街に取り残されたように、無言で立っている。
僕の前を彼女が通り過ぎる。
彼女の視線は山車に向けられたままだった。
神社の前で三台の山車が横並びに止まる。
何メートルあるのか。間近で見ると、ただただその大きさ、迫力に圧倒される。
ふと、音楽が止む。
カラクリ人形が動き出す。
曲調が変わって、再び祭囃子が賑やかに鳴り響き始める。
女の人形に鬼の面が被さり、鬼に変身する。
武士のカラクリが矢を射ると、鬼は元の女性に戻り倒れた。
伝染病を患ったとある女が、村から見捨てられ鬼になった。
鬼女は村を怨み暴れるものの、最後には村の勇気ある若者に退治されるという物語。
矢を射る武士はその女の息子。
成長した息子に女は気付かない。
倒された時に、息子は正体を明かし、息子の腕の中で女はようやく人間として死ぬのだ。
アンドロイドの彼女が見ていたのは、この親子の物語を表現した山車だった。
「ケンタロー、だったわね」
突然、彼女がこちらに向く。
「ふふ。驚いた顔して。私の後を付けてきたんでしょ?」
「…………」
「ずっと気付いていたわ」
この前と違って、彼女は穏やかな雰囲気を纏っていた。
「僕は……」
話そうとした所で彼女が僕の言葉を遮った。
「ごめんなさい。アナタも私と同じような思いをさせてしまったと反省してるわ」
「え?」
「ニンゲンだもの。私よりも感情が豊かで、私よりもずっと繊細な心があるのよね。なのに、私の気持ちばかりで、感情的にアナタを拒絶してしまった」
「いや、良いんだ。僕の方こそごめん。君の事、何も知らないのに、ずけずけと君の領域に土足で踏み込んだから」
「お墓の事?」
「う、うん」
「そうね。なら、今度お墓参りに付き合ってもらおうかしら」
「行って、良いの?」
「ええ」
「そういえば、君の名前は?」
「エリー」
「エリー、か。良い名前だね」
素直に思った事が口に出てしまう。
変な事は言ってないよな。
「ありがとう」
エリーの言葉にホッとする自分がいた。
「じゃあ、約束の日は……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる